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リアクション
第五章 鬼の祠1
鬼鎧(きがい)。
かつて戦乱の世であったころ、鬼城家が千機を持って天下を統一したと言われている。
その功績を認められ天子から力を賜った鬼城家は、将軍として世を治めた。
だが、今ではその威光にも陰りが見えている。
マホロバが外からの勢力に脅かされるように、内部にも瑞穂藩の増長という火種を抱えていた。
「鬼鎧をもって、太平の世を安定させることが鬼城将軍家の使命」
貞継はこと鬼鎧に限っては、先祖に倣って葦原の助力に頼らざるを得なかった。
鬼鎧の捜索と復活――
このための特別の探索隊がつくられた。
「鬼鎧ってどんなのかな? 今話題のイコンと同じようなものなのかな?」
「そうねぇ、私たちはマホロバ人じゃないから、見当が付かないわあ」
鬼鎧の捜索隊の中には乙女たちもいる。
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)やセシリア・ライト(せしりあ・らいと)は、あれこれ考えた。
「ハイナちゃんは何か聞いてる? 房姫様から」
フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)の問いに、ハイナは珍しく歯切れが悪い。
「わっちも、詳しい事は……ただ、房姫からは鬼の祠の場所きいたでありんす。これが地図でやんす」
ハイナの手には葦原家に伝わるという古文書の写しがある。
「それ、ボクにも見せてくださいよ!ふむ、今までの祠とはまた違う場所みたいですね……おっと」
卍 悠也(まんじ・ゆうや)は覗き込み、ハイナの大きな胸が近いことに気づいてちょっとどぎまぎした。
「ごめん、将軍様。ボクはキミの趣味とは違うようだ」
「兄様〜? 何を独り言ってるの?」
卍 神楽(まんじ・かぐら)は悠也の背中をぽんぽん叩く。
「兄様、ということは、どんな危険が潜んでるか分からないってことだわ。そして同じように、きっと瑞穂藩も鬼鎧についてわかってないよ」
「そ、それもそうだな。先にボクたちが手に入れて、調べよう。もしイコンのようなものだったら、それこそマホロバの切り札になりますからね」
悠也はマホロバと将軍の未来を心配している。
貞継を親しく思っている。
一国の将として以上にだ。
「そうですぅ。瑞穂藩にとって鬼鎧は魅力的な武器のはずですぅ。いそぎましょうー」
メイベルは口調はのんびりだがかなり急いでる。
「鬼の祠には守人がいるときいてやす。彼らがきっと鬼鎧について何か知ってるでやんす」
ハイナはこう言ったが、実は不安だった。
皆の手前、あまりいうことではないが、パートナーの房姫と離れるとなぜか落ち着かない。
ひどいときは動くのさえ苦しくなる。
これはしばしば、地球人とパートナー契約者の間で起こることらしかった。
とりあえず先を急いでいると、その後を黒妖 魔夜(こくよう・まや)がぴとぴとと付いていっていた。
「マヤはついていくよ。その後ろにいる人……だあれ」
彼女は振り返った。黒い人影がある。
魔夜はふふっと笑い、何事も無かったかのように悠也たちの後を付いていく。
卍卍卍
そのころ、別の道をたどっていた者たちがいた。
侍の
草刈 子幸(くさかり・さねたか)とその連れ
草薙 莫邪(くさなぎ・ばくや)、
鉄草 朱曉(くろくさ・あかつき)である。
彼らはハイナに頼まれ、扶桑の観察にいく途中だった。
「扶桑の桜は誠に美しいときくのう。楽しみじゃ」
すっかり花見気分の朱曉に、莫邪が水をさす。
「調べのものなんてつまんねえぜ。なんでもっと、戦いの匂いのあるところに行こうとしないんだ?」
「二人とも何を言っている。これは立派なお勤めであるぞ。なんと言ってもマホロバの真髄に関わることなのだからな」
子幸がこれが取り越し苦労であったら良いのにと思う。
「現将軍家の統治する力はもともとは天子様のもの。もし天子様の御身になにかあれば、将軍家はもちろん、マホロバがひっくり返ることだってありうる」
三人は途中、団子屋で休憩した。
腹の空いた朱曉はここぞとばかりにぱくついている。
会計の段になって子幸が青くなっていると、団子屋の女将が言った。
「旦那方、これからお扶桑さんをご覧になるんですって?」
「そのつもりだが」
どうも地元の住人はお扶桑さんと呼んでいるらしい。
「そりゃあ、残念だわ。今、瑞穂藩によって道が封鎖されてるからね。何でももうじき、お扶桑さんは噴花するんですってよ」
「何だと!?」
天子は桜の世界樹扶桑の化身と言われている。
その扶桑が噴花するという。
「何かが起きようとしているのか……瑞穂藩はそれを知っている?」
子幸は例えようのない不安を感じた。