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第四師団 コンロン出兵篇(序回)

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第四師団 コンロン出兵篇(序回)

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「危なかったわね」
 ナインは、攻めかかってきた相手の足と翼を撃ち抜いた。
 どうやら、敵指揮官の一人らしい。鎧姿のまま、湖賊の男らに縛り上げられる。
「うふ。これはちょっとした手柄かも」
 ナインは情報収集源として、起こるであろう戦闘でめぼしい敵を捕獲することに狙いを定めていた。
 無論、情報は共有されるが、これを捕えたのは勿論ナインの功績である。
 教導団旗艦でも、マーゼンらが捕虜の尋問にかかっていたが、主に帽子猫が率いていた虎の獣人戦士らで、曖昧な返答しか得られなかった。
「湖賊艦で、敵指揮官の一人と思われる女を龍雷連隊のソルジャーが囚えた、か」
 中型艦では、月島が尋問を行うつもりでいたが、はぐれていた旗艦との位置も掴め、まずはとにかく旗艦に合流することにした。
 遭遇戦に散らばっていた各艦が集まってくる。
 一隻、湖賊の小型艦は集うことができなかった。雲海に沈められたのである。他は損傷の大きなものもあるが、致命傷はない。
「うーん。……何も喋ってくれないわね。
 (色仕掛けの練習もしたけど、この相手は女だし、ちょっと私にはその趣味はないし、ね)」
 ナインは尋問に少々手こずっていたが、その手の専門家である男マーゼンが来た。
「では自分等にお任せ頂けますかな」
「ええ。お好きに」
 マーゼンは敵指揮官を見るなり、一言、
「アム」
 アム・ブランド(あむ・ぶらんど)は頷くと、冑を脱がされた女指揮官の首筋に口を付け……
「わ、ちょっぴりHなシーンね」ナインはちょっと興味ありげに見つめ、同じく尋問の場に来ていた月島は乙女モードに戻って顔を赤らめた。
「……」マーゼンは無言で見つめる。
 すでに、アムの牙が突き立ち、吸精幻夜が始まっていた。アムはそれが済むと、すっと立ち上がり、唇の血を拭うとマーゼンの後ろに下がった。
「さあ。君たちの拠点の位置を教えて頂こうか」
 マーゼンはここでニヤリ、と笑った。相手はぼんやりした表情で口を開いたのである。
 


 
 セオボルトによると、敵艦に乗り込むと向かったらしい樹月刀真とミューレリアが行方不明になっており心配されたのだが、他に一人、こちらは船員リストから削除されていた者。その場にいた湖賊の船員や傭兵らによると、敵が艦に乗り込んで来るや、白旗を振りながら離脱したのだという。「何て道化だ……」
「ヒィーハァ!!」
 ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)はその頃、撤退した雲賊と一緒に、彼らの雲海の拠点に逃れていた。
 雲海に浮かぶ小さな砦である。
「マケテクヤシクナイノカー」「カネモウケノハナシガー」
 ナガンはそうまくしたてながら、肩をわなわなとさせる雲賊の将らの前を行ったり来たりする。
「なんなのだ貴様は! 降伏したのなら、ちっとは捕虜らしく大人しくしとらんか!
 どうやって縄を抜けてきた!」
「捕虜? 聞いてないねヒィーハァ? ギャハハハハハッ。
 仲間になってやろうってんだ」
 ナガンは解けた縄をプラプラとさせて、片手にファイルを取り出した。
「ホラ」
「何だ?」
 いい加減な字で、教導団の今後の進軍予定情報と書かれてある。ナガンが傭兵として聞き出したものだ。
「ほう。内容は確かのようだ。クィクモへ。その後、何、ほう」
「いい土産ダロ? こんなのもあるゼ」
 『教導団女子生徒プロファイル』……
 雲賊らはニヤリとした。
「教導。アイツらはコンロン全土を支配する予定だよ。
 捕虜はとらず蛮族は全員処刑。それがヤツラのやり方だゼェ?」
「むうう……」
「仕返ししたくないのかァ?」
 そのとき、砦に警報が鳴り響く。
 すぐに雲賊の下っ端が戸を叩き、入ってくる。
「教導だ……んあ」
 下っ端は倒れた。
 その後ろから、ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)が現れ、ウィンクしてみせるや銃をぶっ放した。
 ァァァァ!! 剣や銃を抜く間もなく、次々、倒れていく雲賊の将ら。
「ヒィーハァ!」ガシャァァン。窓硝子が割れる。
「お。一匹逃げたか」
 ともあれ司令部制圧。砦は大混乱だ。
 教導団の艦隊が砦の正面に近付いてきた。
 教導団は勿論、捕虜とした敵指揮官から聞きだした拠点を早速奪取に動いたのであった。
 ジェイコブは小型飛空艇で少数を率い先回りすると、島に乗り込んだ。
 マーゼンは部下のニンジャ本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)をジェイコブに付け、飛鳥は隠密で内部を調べた上、標的である賊将の居場所を特定。
 出入り口の見張りをブラインドナイブスで闇討ちにすると、ピッキングで扉をこじ開けジェイコブ率いるコマンド部隊を引き入れたのであった。ジェイコブは飛鳥に導かれ、シャープシューターで命中を上げ、アサルトカービンでフルオート射撃を行いつつ前進、将らの集うこの部屋に一直線に駆け込んだ。
 電撃的な制圧であった。
 雲賊らはばらばらと、小型艇に乗って雲海に散っていったが、半数近くは捕虜とすることができた。
 フィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)は、ジェイコブと共に捕虜とした雲賊の前に立ち、彼らの投降を受け入れた。また、タシガン領空の空賊から戦利品として奪い取った宝物が見つかった。彼らの身柄はタシガンの官憲に引き渡すかどうかは審議される。宝物についてはタシガン貴族に返却することで、今回の賊討伐の通行料となるであろうか。
 
 教導団はここを雲海の拠点として制圧することに成功した。
 また、空路組ではダリルがこの一部始終を録画し、夏侯淵が編集(彼曰く「この俺が動画ファイルの操作をするようになるとはな。最初は筆と硯を所望したし横文字も読めなんだのに」)、資料としてルカルカが管理した。こうして、陸路空路とも『第四師団 コンロン出兵篇』の保存版DVDができていく。
 こちらもようやく、コンロンである……。
 

 
 しかし、幾つかのこの先の展開を揺すぶる要素もまた、コンロンへ流れつつある。
「ヒィーハァ!
 危なかったゼ。ウィンクとかしてあのオッサン、躊躇いなくこのナガンを撃とうとしやがった!」
 ナガンは箒で脱出し、コンロンのとある軍閥へ逃れる、という雲賊の小型艇に乗せてもらった。女子プロファイルも、無事だ。
「騒がしいねえ」
 薔薇の香りがして、ナガンは艇内の片隅に目をやる。
「何だ? 縛られているヤツ」
「君は、僕の知的好奇心を満足させてくれる存在だろうか」
「ヒィーハァ……?」
「ふふ」と微笑する、優雅に返答して見せた彼は……そう。「ブルーズ? そろそろ、コンロン着かな」黒崎天音である。
 
 そして刀真らとミューレリアもまた、気流に流され、コンロンの何処かへたどり着いた。
「……ここは?」
「巨大な滝……河がに空域へ流れ出す、空の滝だぜ。
 シャンバラにもあったが、比較にならない程大きな、空の滝……」
 その周辺に、明かりが輝いている。都市だろうか。