イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第2回/全3回)

リアクション公開中!

イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第2回/全3回)

リアクション

 
「!!」
 それを見た明日香が、エリザベートを連れてミーミルたちの方へと駆け出す。壁のようにそびえ立つ根を砕いて、アメイアがその後を追いかける。
 今この瞬間、アメイアはエリザベートを取り返すべく、それを妨害する者たちへ実力行使を始めたのだった。
「いいな、お母さんの手を掴んだら、すぐに逃げるんだ。決して振り返るな、行け!」
 ミーミルをエリザベートの下へ向かうように声をあげ、アルツールが魔法の詠唱を開始する。前方にはシグルズとエヴァ、使い魔たちが主の命令に従って行動する。
 吐かれる炎に少々身を焦がしつつ、速度を落とさず突き抜けたアメイアの二撃で、紙ドラゴンが破裂する。再び、電撃による爆発が辺りに生じ、その中を大剣を振りかざしたシグルズと、刀を持った武者人形が攻撃を繰り出す。
「小粋な手を――」
 それらを蹴りの一撃で吹き飛ばしたアメイアに、シグルズに隠れていたエヴァの光術が炸裂する。
「小粋な手も、使いよう、ですよ?」
 発せられた閃光に、アメイアの動きが一瞬、止まる。ほんの一瞬ではあったが、その一瞬が戦況を決定付けた。
「お母さん!!」
 羽を目いっぱい広げ、飛んできたミーミルの手が、明日香に連れられるどころか抱えられたエリザベートの手を掴み、明日香ごと引き上げる。もう片方の手には、ノルンを抱えた格好のエイムが引っ張られる格好で付いて来ていた。力には自信のあるミーミルにしか出来ない芸当であろう。
 そのままミーミルは、エリザベートの言葉を受けたのか、I5の奥、門があるはずの方角へ向かう。確かにエリザベートがいれば、門を突き抜けて最短で中央に戻れるだろう。
「行かせるか――」
 一歩を踏み出そうとした所で、先程穴を開けられたイルミンスールの根が、逆襲とばかりにアメイアを掴み上げ、そのまま地面に叩き付ける。根と共に地面に埋まったアメイアは、そこから出てこようとしなかった――。
 
●イルミンスール地下:中心部
 
 門を超えて、ちょうどイルミンスールの幹が見える真ん中に辿り着いたミーミルがふわり、と舞い降り、エリザベートと明日香、エイムとノルンを降ろす。
「明日香さーん!」
 すぐにノルンが明日香の腰の辺りに飛び込み、顔を埋める。
「お母さん……」
「『子』に心配をかけさせるなんて、私は『親』としてダメダメですねぇ」
「ううん、私もお母さんに心配をかけさせちゃいました。だから……一緒に謝りましょう!」
「……ふふ、そうですねぇ」
 向かい合ったエリザベートとミーミルが、同時にごめんなさい、と謝る。
「ノルンさん、ニーズヘッグのこと、伝えた方がいいと思いますの」
「……そ、そうですね。明日香さんとエリザベートさんは知らないかと思いますので――」
 涙を拭いたノルンが、『コーラルネットワーク』から退いたニーズヘッグが今度は地上に現れ、イルミンスールに迫っていることを説明する。
「しつこいですねぇ。こうなったら相手してやるしかないですぅ。……でも、一つだけあなたたちに言っておきたいことがあるですぅ」
 真剣な表情になったエリザベートの言葉を、周りにいた者たちが聞き入る。
「あの時……イルミンスールが動いた時、イルミンスールが確かに『戦え』と言ったですぅ。今までイルミンスールがしゃべったことなんてなかったですぅ。……私は、ちょっと怖いですぅ。言われるままに戦ったらどうなるか分からない、そのことが怖いですぅ」
 そこには、倒したドラゴンの上に乗って威張っている校長ではなく、等身大の幼い子供がいた。
「だから、あなたたちにお願いするですぅ。……もし戦っている途中で私がおかしくなったら、全力で止めて欲しいですぅ。これはあなたたちだからお願いするですぅ」
 エリザベートの懇願とも言うべき言葉に、そこにいた者たちが確かに頷く。
「……行くですぅ。今はニーズヘッグをどうにかしなくちゃいけませぇん」
 テレポートの準備をしながら呟くエリザベートに、ミーミルが問いかける。
「どうするんですか?」
「手段は頭の中に浮かんでいるんですぅ。どうしてそう出来るのか根拠は全然ないのに、不思議な話ですぅ。……イルミンスール、あなたは何がしたいのですかぁ?」
 エリザベートの問いに、答える声はなかった。
 そして、一行の姿はテレポートにより、その場から忽然と消え去る――。
 
●イルミンスール地下:I5
 
「……死んだ、のかの?」
「……普通に考えればね。イルミンスール、助けるにしたってちょっと手荒いんじゃない?」
「……! O4から複数の反応が来る。これは……」
 ファタと菫が顔を見合わせてアメイアの生死について話している所へ、レンのHCが反応を示す。やがて、O4から複数の機影がやって来たかと思うと、それらの何機かは門の方へ向かっていき、その内の1機がI5にいた生徒たちの前で止まる。
『アメイアは今どこにいる!?』
 HCを介して、中に乗っていると思しき正悟からの通信が届く。
「アメイアはイルミンスールの攻撃と言っていいのだろうな、それによって沈黙した。生死は不明だ」
『……そうか。彼女とは話をしておきたかったのだが――
 通信を遮って、校長室からの通信が入る。それは今までのアーデルハイトからのものではなく、テレポートで校長室に帰還を果たしたエリザベートからであった。
 
「今すぐ真ん中から、イルミンスールに戻るですぅ!
 これからイルミンスールは、浮上しまぁす!!」

 
 浮上、という言葉に一斉に動揺が走るが、アルマインを確保した以上、ここに留まる理由もない。アメイアのことが心配ではあるが、イルミンスールでもなければ相手が出来ない以上、やはりここに留まる理由がない。
「怪我人の確保を急ぎましょう! 本当に浮上することになった場合、ここにいては生き埋めになってしまいます!」
 綾乃の発言で、その場にいた生徒たちが散開する。ここでの戦闘で戦闘不能に陥ったコウとアルツールをソアとケイ、ローザマリアと結和たちが手分けして運び、空間の中央へと急ぐ。
「ねぇ、まだアルマインって残ってるかな?」
「まさか菫、乗るつもりじゃないでしょうね?」
「ま、ここまで来たら、記念に乗っておくのも一興じゃの」
「行くにしろ退くにしろ、早く決めるんだな。時間はそう残されていない」
「ほっ、よかった、投げられることはなさそうですね」
「……投げられたかったのですか?」
 一方で菫とファタ、レンは、残りのアルマインを探しにO3へと駆け出す。
「恵……大丈夫ですか?」
 グライスに癒しの魔法を施されつつ、声をかけてきたエーファに恵が頷く。結局護衛をし切れなかったことになるが、そう命令を下した者も生死が知れない以上、どうすることも出来ない。そんなモヤモヤとした気持ちを抱えつつ、一行は中央へと引き上げていく。
 
●イルミンスール地下:O3
 
「いや〜まったく酷い目に遭ったね。まあ、あれだけ騒ぎになっていたからこそ、すり抜けてここまで来られたのだろうけど」
 ワンテンポ遅れて、O3に六鶯 鼎(ろくおう・かなめ)が到着する。彼がI5に到着した時、既にアメイアと生徒たちの戦闘が始まっており、そこで生じた粉塵爆発の影響で、そこまで乗ってきた飛空艇が壊れてしまったため、到着に手間取ってしまったのであった。
「ところで、アルマインと『R−9』ってなんか語呂似てるよね。さてとアルマインはっと……うん? この蜂みたいなのと蝶みたいなのがそうなのかな?」
 見つけた機影へ、鼎が足を進める。適当な1機に乗り込み、中にある一対の水晶に触れ、起動までは済ませたものの、その動きはそれまでそこを飛び立った物と比べると、格段に遅い。
「あー、これもイコン同様、一人だと推力出ないのかな。マズイなぁ、これだと帰りあそこ通る時狙われちゃうなぁ。なんか抜け道とかないかな――」
 その時、空間に轟音が響く。
「うわっ? な、何?」
 慌ててそちらの方に視界を向けると、何かが水晶に映し出される。それが生物の頭部であると気づいた時には、激しい衝撃に襲われ意識を失った――。
 
「ルーレンさん、どうしてこっちに来ちゃったんですか? あと、降ろしてください」
「嫌だよー、フィリップは僕の嫁なんだもん。僕にこうされてるのがお似合いなんだってば!」
「ぼ、僕は男です! ……それに、ルーレンさんだって女の子じゃないですか、だから――」
 フィリップがそれを口にした瞬間、フィリップを抱くルーレンが力を込める。
「いたたたたたた!!」
「フィリップ、余計なこと言うと僕でも怒っちゃうよ〜?」
「わ、分かりました、もう言いませんから力緩めてくださいっ」
 フィリップの言う通りに力を緩めたルーレンが、でも結局お姫様抱っこは止めないまま、O3への道を行く。
「……ねぇモップス、どういうことなの?」
「あ〜……今は気にしない方がいいんだな。後で説明くらいはしてあげるんだな」
 後を追うリンネの疑問に、モップスが何かを察したらしく呟いて答える。
「改めて聞きますけど、どうしてこっちに来ちゃったんですか? 素直に戻ればよかったんじゃないですか」
「えっとね、今思い出したんだけど、ババア様がどっかのアジトで拾ってきた鎧みたいなのがあるんだって。まぁそれは皆に言ってないんだけど、でもそれ、僕どっかで見たことあるような気がするんだよね。だからさ、確認しとこうと思って」
「鎧、ですか? アルマインのことじゃなくて?」
「それとは違うね。うーん、もしかしたらおんなじかも? よく分かんないや」
「適当なんだな」
「う〜ん、ザンスカールの偉い人って感じしないなぁ」
 そんなこんなを話しつつ、彼らがO3に辿り着いた時、何かの生物の咆哮が響き渡る。何事かと見上げた一行の前には、十数メートルはあろうかといった巨大生物、昆虫のような生物が立ちふさがっていた。
「お、大きいんだな。ここに住んでた生物なんだな?」
「ど、どうしようモップス!?」
「ぼ、ボクに聞かれても困るんだな」
 慌てふためくリンネとモップスに対して、ルーレンは流石王族の血を引く者か、平静を保っているように見えた。……尤も、フィリップはといえば、眼鏡を通して生物の姿が見えた瞬間、気を失っていたが。
「僕の予想通りなら、ここで……」
 そう呟くルーレンの前で、それは起きた。
 それまで沈黙を保っていた鎧が、キン、と光を放ったかと思うと弾け、巨大生物に取り付き始める。角を残した頭の部分には兜が、身体の部分には鎧の上半身の部分が取り付き、何やらバリバリ、やらガリガリ、やら不快な音が響き渡る。
「あうぅ……モップス、気持ち悪いよぅ」
「見ない方がいいんだな」
 モップスのぶよぶよとしたお腹に顔を埋めるリンネ、そしてしばらくその行為が続いた後に出来上がったのは、四肢を備えたどこか古めかしい雰囲気を漂わせる機動兵器だった。
「やっぱり! 僕の記憶力も大したものだね♪」
 自画自賛の言葉を呟いて、ルーレンが背後のリンネとモップスに告げる。
「さ、行こっ」
「……行くって、どこにだな?」
「決まってるじゃないか、アレに乗るんだよ。きっと強いよ、アレ」
「……本気なんだな?」
 誕生した機動兵器を見上げて、モップスが呆然と呟いた――。