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静香サーキュレーション(第1回/全3回)

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静香サーキュレーション(第1回/全3回)
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【×2―3・悦楽】

 食堂の柱時計が二時二十二分を刻んだ頃。
 大久保泰子と化した泰輔は、フランツと共に食事をしていた。
「にしても、ここのランチは想像以上にいけるなぁ」
「うん。授業が押したせいでお腹がすいていたのを差し引いても、やっぱりおいしいね」
 AランチとBランチで仲良く楽しそうに笑いあっていたふたりだったが、どうにも妙な違和感がまとわりついて笑みにほころびを生んでいた。
「せやけどさ。確かに長いことやってたんもあるけど、なんていうかこう……同じ講義を何度もやったような気がするんやよな」
「僕としても、授業中にひっかかる音が、いつも同じように間違えている印象があったんですよね」
 いざ言葉にしてみれば双方共に戸惑いが増し、そこからは言葉を失ってしまった。
「それは、ひどいよね!」
 と、そのとき後ろの席から大きな叫びが飛んできておもわず飛び上がりそうになった。
 自分達に言っているのではないとわかったが、何気なく振り返るとライナ・クラッキルがスプーン片手になんだか怒っていた。
 彼女は前回のループで会った淳二とは今回出会えなかったらしく、しかもその記憶をほとんど忘れてヴァーナー・ヴォガネットや、ミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)、そして牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)達と食事の最中で。
「そうおもうですよね? こくごのせんせー、ほんとにしつこくって。おかげでランチがこんなにおそくなっちゃったです」
 ヴァーナーとなにやら熱く語り合っているようだったが、
「あ、きたきた。ふふ〜♪ 今日のランチはオムライスにしたです。百合園のハタをたててくれたです♪」
「私のハンバーグもきたぁ! いっただきまーす!」
 ヴァーナーもライナも食事が運ばれてくるとそっちに集中し始めたので、あっさり話は終了し。
「そういえば、なんだか百合園がさわがしいみたいですけど。なにかおもしろいことでもあるんですか?」
 別の話題を相席中のアルコリアに話を振ってみた。
「さあ? でも私にとっては、みるみちゃんと一緒にいられることが、おもしろいしたのしいしうれしいことですね」
「あ、え、ほんと? あ、ありがとう」
「んー、かわいーなぁ、みーるみちゃーんっ、むぎゅー」
 照れたようにはにかむミルミに、アルコリアは頬ずりして抱きついていく。
 ふたりの様子にヴァーナーはわずかに羨ましげになっていたが、そのヴァーナー自身もライナと肩を寄せ合って仲睦まじくしていた。
「そういえば、ミルミおねえちゃんもライナちゃんも、白百合団のおしごとなれてきたですか〜?」
「え、あ、ミルミは、その。なんとかがんばってるよ」
「そっかぁ。えらいなぁ、みるみちゃん」
 答えてアルコリアにほっぺたをぷにぷにされるミルミと、
「私も、ばっちりだよ! けっこうさまになってきたかんじ」
「そうなんですね。えらいです、ライナちゃん」
 答えてヴァーナーにほっぺたに軽くチューを受けるライナ。
 その後もずっと、
「はーい、みるみちゃん。かぼちゃタルトあーんっ」
「んむ、んむ。わぁ、おいしい……じゃあ、おかえしにミルミのプリン、どーぞ」
「さむくなってきたけど、アイスもおいしいのです♪」
「こっちのエクレアも甘くておいしいよ」
 ミルミはアルコリアの膝の上でなでなですりすりを受け続け、
 ライナはヴァーナーとハグしたり頬チューしたりを繰り返していた。
 そうして食事が終わり、三時のおやつ時も終了し、泰輔達や他の生徒達も食堂を後にして人がまばらになりはじめた頃。
「寒いけど、外に夕日を見に行こ?」
「え? でも……」
 アルコリアはヴァーナーとライナに会釈し、自分のカバンを右手に、左手にミルミの手を握り半ば強引に連れ出していった。
「あ、あの。夕日なら、べつに外じゃなくても」
「いいからいいから!」
 笑顔で廊下を疾走するその表情は、ただただ遊んで愛でてをしたいだけのようだったが。
 しかし、実際のところは、違った。
(べつにこの状況がなんであっても。ループが崩れようと、閉じた円環の中に閉じ込められようと、ミルミちゃんと一緒にいられれば、それで)
 ヴァーナーからの問いかけにはすっとぼけていたが、実はアルコリアはループに気がついていたのだった。
 しかしミルミのほうは全く気づいておらず。前回とほぼ同じように目をくるくるさせて戸惑いながらついてきている。
 自分の誕生石と同じ綺麗な瞳を見つめていると、わずかだけ胸が痛むのを感じながら、校舎裏にある竹林の中を突っ切り、西日がちょうど正面にくる小高い丘へとふたりは辿り着いた。
 辺りに人気はない。景色のよいスポットではあるのだが、やや風が強くふくためさすがに肌寒くなるからだった。もっともアルコリアはぬかりなく用意しておいたストールを、ミルミにかけてあげていたが。
「わぁ、キレイだね」
「でしょう? さ、座って座って」
 紅色に輝く楕円の光がふりそぞく中、肩を寄せ合うふたり。
 わけがわからなかったミルミも、この絶景を前に気にしない姿勢になったようだった。
「眠くなったら寝ていいよ? 起きるまで本読んであげるからね」
 アルコリアはカバンの中にある、数冊の童話の本をさぐりつつ。
(この本は前のループで読んだしこっちかな……ああ、そうそう。念のため動きがあった場合にそなえて、パートナーも呼べるようにメールを打っておかないと)
 早打ちでメールを送信させた後、アルコリアは語りはじめた。
 それは、王様と偽者の王様の話だった。
 王様は偽者の王様に罪を着せられて、捕まりそうになってしまう。
 なんとか逃げ出した王様は、偽者を追って各地を奔走し、冒険を繰り広げていく。そんな話だった。
 先が気になる内容だったせいか、ミルミは眠ることはなく、熱心にお話を聞いて時折興奮しながら先をせかしていた。
(ミルミちゃんが、私の傍で笑っていてくれる。鈴の音のようなその声が私の耳を撫でてくれる。それなら、100年でも 1000年でも 永久に繰り返すのも悪くないかもしれませんね……)

 切なくも嬉しい時間を過ごすアルコリアを、彼女のパートナーのシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)は林の中から遠目に見て、
「またアルは……懲りないな。これでミルミの警護は何回目だ?」
「さーあねっ? 三回目くらいじゃなかった?」
「……? 数えるほどしかしてないな、まぁいい」
 周囲への警戒を強めていた。
 だが警戒網にひっかかるような人物どころか、犬の子一匹近づく様子はなかった。
「きゃはっ、ふふふ殺人事件でも起きないかなー?」
「んん? ラズン、不謹慎であろう。なんだ突然」
「そーなったら、殺人犯を殺人するのに きゃははっ」
「……なんなんだ。わけがわからない」
 わずかに暇をもてあまし気味のふたりだったが、
「ん?」「お?」
 そのとき、聞こえるか聞こえないか程度だったがガラスの割れる音がした。
 ふたりが校舎へと目を向けてみれば、校長室の窓が破砕され、アウタナの戦輪が校庭に落ちるのが辛うじて目に入ってきた。
「なんだ、なにかあったのであろうか……?」
「きゃふふ。どうせなら、誰かラズンを傷つけに来てくれればいいのに」
 シーマはラスターエスクードを握りしめ、
 ラズンは自虐的なことを呟いていた。