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薄闇の温泉合宿(第2回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(第2回/全3回)

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 それからミルミは、見回りをした後で鈴子に連絡を入れると言って、医務室を先に後にした。
 軽く合宿所の中を見回った後で、ミルミは女子部屋に入って携帯電話を手にする。
 すぐには電話をかけず……画面を見たまま、ミルミは何度かため息をつく。
「帰りたい、かぁ……」
 ミルミもヴァイシャリーに帰りたいと最初から思っていた。
 いつものベッドで眠りたい。大好きなぬいぐるみを抱っこしながら、眠りたい。
 鈴子にも会いたいし、大好物の料理も食べたいし、洋服やアクセサリーを見て回ったりもしたい。
 ライナが帰りたがっていることを理由に、一緒に戻ればいい。そんな風に考えてしまうけれど……。
「これも、わがまま、なんだろうなあー。我慢しなきゃいけないんだよね」
 大きくため息をついたその時。
「我慢しなくていいのよ」
 雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が、ミルミに近づいてきた。
「自分に嘘をついて心の底に溜め込むのは毒よ毒、お肌の大敵だわ」
「そうだよね。うーん」
 窓際で外を見ながら悩みだすミルミに、リナリエッタはそっと寄り添った。
「我慢すれば我侭は直る? って言ってたわよねぇ。我慢なんてしなくてもいいし、第一我侭でもいいのよ」
 リナリエッタがニヤリと笑みを浮かべ、ミルミは不思議そうな顔でリナリエッタを見る。
「こう見えても私、今まで我慢したこともないし、我侭したって反省したこと無いわぁ」
「ミルミとおんなじだねー」
 軽く頷いた後、リナリエッタは言葉を続ける。
「ただね、心に決めていることがあるの。人に迷惑をかけたら、その分誰かに迷惑をかけられても我慢しようって」
「うーん……我慢かぁ」
 ミルミは考えながら言葉を出していく。
「ミルミは勝手なこと言うけど、他人に勝手なこと言われると頭にくるんだよ。迷惑かけられても我慢っていういのは、頭にきても我慢するってことでしょ? その代わり、ミルミが勝手なこと言っても、相手も許してくれるかもしれないってこと。だから、勝手なこと言わないで我慢すれば、相手が勝手なこと言ってても、怒ってやめてもらうことが出来るってことかなって思うの。どっちにしろ、どこかで『我慢』しなきゃなんないんだよね」
「自分を押さえつけるんじゃなくて、手の事を考えるの。我侭言った分人の我侭も受け入れる。どうしても迷惑かけちゃうんだったら、あとでその人のために何かできないか行動する」
 リナリエッタの我侭の形を、ミルミは真面目な顔で聞きながら、考え込んでいく。
「でも、我侭受け入れるのはミルミにとって『我慢』なんだもん……」
 真剣に悩みだすミルミに、リナリエッタはいつものように笑みを浮かべながらこう話していく。
「私は……鈴子さん達がミルミちゃんを百合の代表に選んだのは、我慢させるためだけじゃないと思うわぁ」
「……」
「ミルミちゃん達が色々な人と出合って、お互い頑張ろう! って気持ちを育てて欲しいと思ってるんじゃない? ……ミルミちゃん……ライナちゃん、悲しんでいるの見ていて辛かったでしょ?」
 こくりとミルミは頷いた。
「どうにかしてあげたいって、助けてあげたいって思った。違う?」
「違わ、ないよ」
「ほら、自然にそういう風に思えた。その気持ちは我侭じゃない。色々な人と出会って、付き合っているうちに、そうやって関係って出来ていくものなのよぉ」
 相手の気持ちを考えられるようになる。
 そのまえにとりあえずは、相手の気持ちを考えようという意識を持たせることが必要だと、リナリエッタは思った。
「よし! まずは落ち込んでいるライナちゃんに何をするぅ?」
「んーと……」
 ミルミは腕を組んで考えて、考えて考えて……。
「ぬいぐるみになる! ミルミの我侭につき合わせたらダメだと思うから。あと、あれこれしてあげても、ライナちゃんがそんな気分になれないと思うから。ミルミ、ライナちゃんの側にいるよ。お母さんとか、鈴子ちゃんの代わりにはなれないけどね」
 ミルミはそう言って微笑んだ。そしてリナリエッタに「ありがと、ね」と言う。
 リナリエッタは首を縦に振り、普段どおりにやにや笑みを浮かべながら、ミルミを見送った。

○     ○     ○


 トワイライトベルトの薄暗い森の中では、今日も伝説の果実探しが行われていた。
 発見は出来ているのだが収穫には少し早そうだった。
 今日はもう少し奥に進んで、成熟している果実を発見できたら、採取して帰る予定だった。
「とうとう追い詰めたって感じだよね。スイーツ愛好会の勝利は目前だよ」
 籠を背負って、軍手を手に、鳥丘 ヨル(とりおか・よる)が元気な声を上げる。
「他にも沢山果物とか生ってるけど、今日は伝説の果実に集中するよ。でもふと思ったんだけど」
 ヨルはきょろきょろと辺りを見回しながら、こう続けていく。
「そんなに美味しいものだったら……ほら、ドラゴンがお宝守るみたいに、何かいたりするのかな? 見つけたら慎重に近づいた方がいいかも?」
「俺に任せておけ〜。い、いやドラゴンはちと無理だが、食虫植物くらいは生えててもおかしくない雰囲気だよなー」
 ヨルに誘われ、スイーツ愛好会の会員にもなっているブラヌ・ラスダーも、注意深く周囲を見回す。
「さすがにドラゴンはいないと思うが、しんぱいは尤もだな」
 先頭を歩くカティ・レイ(かてぃ・れい)がちらりと振り返る。
「まあ、前方はあたしがどうにかする」
「頼りにしてるぜー。か弱い俺達を守ってくれよー」
 そう声を上げたのは、少女達の真ん中を歩くゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)だ。
「誰がか弱いって? ……ったく」
 苦笑しながら、カティは槍を手に森の奥へと進んでいく。
「そういえばゼスタせんせー、今日誕生日だよね。おめでとー!」
「おー、ありがと。プレゼントはもう少しキミが大人になってからもらうなー」
 外見12歳のヨルには、ゼスタは変?なものをねだったりしてこなかった。
「パートナーの優子に言ってもらったほうがもっと嬉しいと思うけど、優子は知ってるの?」
「知ってるはずだけど、連絡ねーなー。多分、全く気にしてないと思うぜ。契約したばっかりの頃、こっちから贈り物をしたことがあるんだけど、素っ気無い礼の言葉だけで、感想もなければ、何も贈り返してこなかったしなー」
「そっかー。お祝いとかも興味ないかな。で、その時は何をプレゼントしたの?」
「下着」
「……そういうの喜ばないと思うよ」
 そうか〜? と、ゼスタはにやにや笑っていた。

「危険な動植物が出る可能性もあるのか。繭、きちんと私についてきてくれ」
 ルイン・スパーダ(るいん・すぱーだ)も、パートナーで、戦う力のない稲場 繭(いなば・まゆ)を守るべく、前を歩いていた。
「私は大丈夫ですよ。ルインも気をつけて」
「ああ、どうにも歩き難い場所だからな。繭が転んだりしないよう、十分注意して進むぞ」
 意気込みながら、ルインは木々を掻き分けるように進んでいく。
「私は今日始めての参加なのですが、どんな形の果実なんですか?」
 繭はちょっと緊張しながらゼスタに尋ねる。
「イチジクのような形だな。大きさは繭チャンの手のひらにすっぽり入るくらい。果肉の色は一種類じゃないって話だ」
「そうですか。結構大きいんですね」
 繭は果実を想像しながら、自分の両手で形を作ってみる。
「どんな味でしょう〜。今からとっても楽しみですぅ」
 食材調達を担当していたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)はわくわく胸を躍らせていた。
「この間も、色々な山菜や果実、キノコを採取しましたけれど、まだあるのですね。食べられるものも、食べられないものも、色々な種類の生物であふれています……」
 シャーロット・スターリング(しゃーろっと・すたーりんぐ)は興味深そうに周囲を眺めては、スケッチしたり、ノートにメモをとったりしていく。
「味にもよるけど、ここで採れるほかの果実も併せて、何か作れたらいいよね! パイにしてもよさそうだし、ゼリーにして食べるのも良さそうだね〜」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)は数々のお菓子を思い浮かべる。
「賛成賛成ー。全て俺が味見してやるぜ」
 甘いものが大好きなゼスタはそれら全てを推奨する。
「そんなに沢山収穫できませんでしょうから、あれもこれもというわけにはいかないでしょうが」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は、皆を見守りながら微笑みを浮かべる。
「イチジクに似た果実のようですが、味わいも似ているのでしょうか。とりあえずは食べてみて、どんなお菓子が合っているか判断しませんと」
「食べてみて、本当にただのイチジクの味だったらどうしよう」
 フィリッパの言葉に、セシリアがそう続けた。
「イチジクが伝説の果実だったってことですかぁ〜。ふふっ、それならそれで、美味しく頂ますぅ」
「イチジクでも、色々なデザートが作れますよね」
「だよね! 伝説のスイーツを作るまでっ」
 メイベルと繭、セシリアが笑いあった。
「余所見をしてたら、危険だ。繭、私がリードする。きちんとついてきてくれ!」
 和やかな少女達の下に、ルインの厳しい声が響く。その直後。
「……っとぉ?!」
 ズテェェーーン
 大きな音を立てて、ルインが斜面を滑り落ちて、木に激突した。
「おお!? 大丈夫か」
 すぐに、近くを歩いていたカティが走りより、木に抱きつくように倒れているルインを支え起こす。
「ううううっ」
「ルイン……余所見してるから、です。足元みて歩かないと……。でも、私が心配かけたからですね。ごめんなさい」
「うぐ……っ」
 魔法で癒してくれる繭の優しい言葉に、ルインはうめき声を上げて首を左右に振る。
「大したことないようだし、行くよ。今回は見なかったことにしておこう」
 カティは軽く笑いながら言い、また先頭を歩き出した。

「どうやら危険な生物はいないみたいだね」
 目的の場所までたどり着き、カティは軽く息をついた。
 野生動物の姿は時折見かけたのだが、素早く契約者達の存在に気づき、動物達は遠くへ逃げていった。襲い掛かってくる生物はいない。
「こっちはまだ早いが、奥の方の果実は採っていいだろ」
 イチジクのような実をつけている木がいくつか存在した。
 その中で、東シャンバラ側に近い場所に生っている果実はそろそろ食べごろのように見えた。
「それじゃ、2個もらうね!」
 ヨルは危険がないと知ると、早速近づいて果実を2つもぎ取った。
 それからじっとその実を見てくるくる回してみて、首をかしげたりして。
 一人、こくりと頷いた。
「いただきまーっす」
 そして、皆が止める間もなく、果実にかぶりついた。
「こら、毒が含まれている可能性もあるだろ……?」
 カティは少しあきれながら見守る。
 ヨルはもぐもぐと食べて味を確かめて、ふむふむと頷く。
「甘酸っぱい〜。イチジクとはちょっと違うかな。イチゴとパイナップルとメロンと桃を足して4で割ったような味」
「どんな味だそれは。ま、食べてみればわかるか」
 言って、カティも2個果実を採取した。
「危険も毒もないようですね〜。よかったですぅ」
 ほっとしながら、メイベルも果樹に近づく。
「生で食べたい気もしますが〜。それだとあっという間に無くなってしまいますから……」
 そして1つ採りながら考える。
「私の分を皆で少しずつ味見して、セシリアに何か作ってもらいましょうか〜」
「うん、頑張って美味しいお菓子作るよ! ありがとメイベルー♪」
 セシリアは、自分の分、それからメイベルが採った分も受け取った。
「私もいただいておきましょう」
 フィリッパもひとつ採って、シャーロットに目を向ける。
「私もいいでしょうか……」
 シャーロットも木に近づいて、手を伸ばして果実を掴んで、もぎ取った。
「重いです。ぎっしり中身が詰まってるんですね」
 ちょっとのことに感動を覚え、シャーロットは経験したことをノートに記していく。
 ……皆の言葉や、表情についても一緒に。日記のようにまとめていくのだった。
「それじゃー。もどろーかー。これでどんな菓子が出来るのか楽しみだな!」
 そう言うブラヌも採った途端、食べていた。
 自分の分は平らげたが、菓子を分けてもらう気満々だった。
「もう1個は調理の人に最高に美味しくしてもらうんだ。それで、種はもらって土に撒いてみるつもり。合宿所近くで育ったら、いつでも食べれるしね」
 ヨルの陣地ってプレートをつけて置くんだと、ヨルは嬉しそうに笑った。
 それじゃ、俺も種もらって、隣に植えるぜーとブラヌも笑顔で言うのだった。