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リアクション
イコン工場の資材搬入口は34階から38階にある。オレ達が知らない資材搬入用の通路がどこかに隠されてるんじゃないのか?
と、いう国頭 武尊(くにがみ・たける)の予測は、意外な形で外れた。
塔の周りをぐるっと回った時、見てしまったのだ。
地上で運ばれた資材を上に投げ渡すパラ実イコンと、搬入口で受け止るイコンを。
さらに、辮髪をヘリコプターのように回転させながら飛んで資材を運ぶパラ実イコンもあった。
「気づかなかったとは……!」
「オイ、今資材受け損なったぜ」
両手両膝をついて脱力する武尊の横で、猫井 又吉(ねこい・またきち)が降ってくる資材の塊を指差す。イコンに使われるだけあり、巨大だ。
轟音と砂埃を大量に巻き上げて、資材はぺしゃんこになった。
「散らばってる残骸はこれもあったんですねぇ」
シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)も呆れを隠し切れない。
精神的ダメージを引きずったまま、よろりと立ち上がる武尊。
「と、とにかくあれだ。あの辮髪を奪って上に行くぞ」
辮髪イコンをぶん取るのは簡単だった。
「交代だー」
と、言えば良かったのだ。
パワードヘルムとパワードマスクでがっちり顔を隠していた武尊だったが、イコンに乗っていたパラ実生は疑いもせずに交代した。
モヒカン、リーゼントの例にもれず辮髪も操縦はボタン一つだ。
適当に押せば適当に動いた。
そして適当に搬入口に到着。
降りた三人は、武尊と又吉は光学迷彩を使い、シーリルは高く積まれている資材の隙間に素早く身を滑り込ませた。
工場にはパラ実生が乗り込んだらしいが、ここはまだ静かでヤクザが見張りについている。
資材の迷路を慎重に進んだシーリルは、やがて資材を工場に運んでいる専用エレベーターを見つけた。
ヤクザの目をかいくぐり、エレベーターに乗り込むと40階のボタンを押す。行き先ボタンはそこしかなかった。
ドアが閉まる時、侵入者に気づいたヤクザの慌てる顔が見えた。
工場に着いてわかったのは、設備が無事だということだった。
だが、武尊達はヤクザ達を追い出せるなら工場がどうなってもかまわなかった。
シーリルがヤクザやチーマーが集まっている設備へファイアストームを放つ。
前触れのない爆発はひとたまりもない。ヤクザもチーマーも為す術なく吹き飛ばされる。
その爆発は近くの設備を巻き込み、次々と誘爆していく。
又吉は天井を見上げて自動消火設備の有無を確かめようとしたが、5階分は高すぎた。おまけに爆発の煙で何も見えない。
ともかく、と壁際にそろっている電機系統を見つけては放電実験で狂わせていった。
「っと、こいつもいらねぇな」
途中、見つけた消火器も窓から放り投げる。
シーリルと又吉はできるかぎり混乱を長引かせることが担当だ。
武尊は消火行動に出ようとするチーマーへスプレーショットを浴びせた。
「誰かいるぞ!」
「そこか!?」
気づいたヤクザが武尊へ発砲する。
素早く設備の陰に頭を引っ込めた。
光学迷彩で周囲に溶け込んではいるが、熟練の契約者同様、戦闘に長けたヤクザは敵意を感知するのが上手いようだ。
勢いの収まらない火の手に、ついにチーマーはイコンでの脱出に出た。工場がなくなっても、イコンだけは確保しようというのか。
モヒカンやリーゼントが工場から逃げ出していく。ふだんなら完成したらそのまま外に飛び降りるのだが、今はそこは戦場になっているのでエレベーターへ殺到した。
しかし、それらのイコンは工場設備や電機系統が壊されつつある時に起動してせいか、コントロールを失っていた。
暴走したイコンは、資材搬入口をメチャクチャにし、壁や床を穴だらけにして落下する。
その先に、アルコリアと大和田、アルツールとミゲルらのいるフロアがあり、彼らを巻き込んで塔の外へ飛び出そうとした。
逃がしてたまるか、と駆けつけたイーオンにセルウィー、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)がダイブしたイコンに飛び移る。
「大和田! もう諦めてパラミタから手を引け!」
「坊ちゃんが諦めないかぎり、あっしが引くことはありやせん」
不安定なイコンを足場に、ラルクが鳳凰の拳で大和田を殴り飛ばそうとするが、彼はそれをかわして足元を狙ってくる。
態勢を崩しながらも寸手のところで避けるラルク。
そうするうちに地面は間近に迫っていた。
にも関わらず、ラルクが攻撃を再開しようとした時、脇から伸びてきたイコンの手がひょいと大和田を掴み上げてしまう。
そのイコンには、竜造にレン、綾香が乗っていた。
イーオンが魔法で追い討ちをかけるがあまり効いた様子はない。
綾香あたりが軽減しているのだろう。
このまま地面に叩きつけられてはさすがに死んでしまうので、イーオンやラルクは塔の窓を破ってフロア内に飛び込んだ。
その頃、地上では。
ザミエリア・グリンウォーター(ざみえりあ・ぐりんうぉーたー)がヤクザ達と追いかけっこをしていた。
ロビン・グッドフェロー(ろびん・ぐっどふぇろー)はその様子を時々確認しながら、ベンツの下に潜り込み、何やら仕掛けているゾリア・グリンウォーター(ぞりあ・ぐりんうぉーたー)が出てくるのを待つ。
「終わったにょろ〜」
聞こえた声にゾリアを引っ張り出すロビン。
ゾリアはザミエリアにヤクザを引き付けてもらい、その間に彼らのベンツを始めとする高級車に爆弾を仕掛けていたのだ。
ヤクザがいなければザミエリアに危ないことをしてもらわなくても良かったのだが、どうやら大和田に何か用を言いつけられたらしく、何人かが塔から出てきたところに出くわしてしまったのだ。
「わたくしの出番ですわね。クク……」
ザミエリアは楽しそうに笑い、パワードアーマーをフル装備でヤクザをおちょくった。
フロアを更地同然にされたり工場を破壊されたりで気が立っていたヤクザは、目の前の獲物でウサ晴らしをしようとでも思ったのだろう。
しかしザミエリアは軽身功でひらりひらりと舞うようにヤクザの手をすり抜ける。
ゾリアとロビンが次の車へ移動しようと身を低くして踏み出した時、偶然にもザミエリアと鬼ごっこ中のヤクザに見つかってしまった。
「てめぇらそこで何してやがる!」
ヤクザが銃を向けたため、ロビンはゾリアを襟首を引いて車を盾にした。
直後、銃弾はゾリアが頭を出していたところを通り抜ける。
「あ……危なかったにょろ……」
「さて、見つかっちまったし。ザミエリアも疲れてきただろうし。引き上げるか、お嬢」
「そうですね。爆発させましょう」
ゾリアの返事に、ロビンが素早く退路を決める。
と、その先で大きく手を振って合図をしてくる者がいた。
ヤクザは気づいていない。
その時、どこからか岩が飛んできてヤクザとザミエリアの間に落ちた。
岩が飛んできた方向からその主を探すと、パラ実イコンが投擲後の姿勢でそこにいた。
よくわからないが味方のようだと判断したゾリアとロビンは、ザミエリアを呼び寄せてさっさとここから離れることにする。
「俺達が食い止める!」
「車はじきに爆発するにょろ〜」
銃を片手にすれ違うテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)に注意を促すゾリア。
イコンで岩を投げたのはトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)とミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)だ。
二人の操るイコンは塔から飛び降りてきたイコンと対峙した。
もっとも、そのイコンは何やら様子がおかしかったのだが。
そしてゾリアを追うザミエリアをヤクザの凶刃から守る魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)の槍。
そのまま子敬とテノーリオは背中を預けあってヤクザを相手取った。
おーい、とゾリアの声が剣戟と発砲音の隙間に聞こえ、子敬の光術で目晦ましをして彼らとは反対方向に駆け出した時、背後で大きな爆発が起こった。
爆風に飛ばされたテノーリオと子敬を、トマスのイコンが急いで駆けつけて受け止める。
対峙していたイコンは、戦うまでもなく動かなかったのだ。
「あいつら、これでくたばったとは思えねぇよな。塔の中にもまだわんさかいるんだろうし……何だか背筋が寒くなる」
「学生の喧嘩に出張るにしても、規模が大きいですしね」
テノーリオは想像もできないような陰謀がヤクザの背後に控えているのではないか、と危惧していた。
子敬の表情からは何を考えているのかはわからない。
トマスが対峙した動かないイコンとは、レンが乗っていたイコンのことだ。
そのレンは、すぐ傍に良雄が倒れているのを見つけると、イコンから飛び降りて駆け寄った。
何があったのか足跡だらけの良雄にイライラと舌打ちすると、
「こんなところで寝てる場合か!」
と、蹴飛ばした。
ギャッと叫んで飛び起きた良雄は、レンの姿に顔を真っ青にしてあたふたと後ずさりする。
良雄の記憶は曖昧になってしまっているが、塔に突撃したはいいが途中で転んでしまい、気づかなかった周りは彼を踏みつけて雪崩れ込んでいったのである。
怯えている良雄をレンが殴りつけようとした時、
「もういいでしょう」
と、止める声があった。
綾香ではない。
ファトラ・シャクティモーネ(ふぁとら・しゃくてぃもーね)だった。
「どちらも充分傷ついたわ。そろそろ終わりにしたら? ……良雄、この杯でレンと酒を酌み交わすのよ。トップ同士が兄弟分となれば、この抗争は終わるわ」
「冗談じゃないっス!」
「冗談じゃねぇ!」
良雄とレンから同時に拒否の言葉が叫ばれたが、そこにある感情はまるで違った。
良雄は怯えているし、レンは怒っている。
「クソッ、結局俺はあいつの足元にも及ばねぇのか!」
ここにはいない誰かに激しい怒りをぶつけるレン。
叩きつけられた金属バットでへこんだ地面に、良雄はか細い悲鳴をあげ、神速に勝るとも劣らない速さで逃げ出していった。
あっという間に見えなくなった背に、レンはますます不機嫌になったのだった。
卍卍卍
携帯を見つめる
ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)の表情は、分厚いレンズのメガネでよくわからないが、少なくともご機嫌ではないようだった。
ブルタは大和田組を指定暴力団に組み入れるよう、前回連絡を取った弁護士達に掛け合ったのだが、彼らの努力は報われなかったのだ。
何故かもみ消されてしまうのだとか。
ふうん、と感情のない声をもらし、ブルタは携帯を閉じた。
もともといたヤクザを除き、種モミの塔からはレンのチーマーや大和田組は姿を消した。
「やっとありつけたよぉ! 良かった良かった!」
月谷 要(つきたに・かなめ)は『麺屋渋井』で念願のラーメンを味わっていた。
次に来る時はもっと穏やかに訪れたいものである。
また、48階は新たな四十八星華劇場予定地として確保されることになったが、親となるはずの首領・鬼鳳帝新装店がなくなったので、予定は未定である。
種モミ女学院を設立するにも、まず塔内の後片付けから始めなければならないようで、パラ実生達は途方に暮れていたとか。
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担当マスターより
▼担当マスター
冷泉みのり
▼マスターコメント
いつもお世話になっております。
急な用事のため数日執筆を離れてしまってましたが、それにしても遅れすぎました。
ご迷惑をおかけいたしました。
初めましての方もそうでない方も、ご参加くださりありがとうございました。
『運命の赤い糸』にご参加くださっている方は、またそちらでお会いいたしましょう。
少し早いですが、今年一年ありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。
良いお年をお迎えくださいませ。