校長室
冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)
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幕間劇 旅の恥はかきすて(3) 「そこで巫女さんでござるよ!」 普通はそこで巫女さんはこないのだが、坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)の常識だとそうなるらしい。 「巫女さんこそ地域振興の要、最優先事項でござる。さあさ、試作したナラカ☆巫女☆エクスプレスグッズを持って来たでござるよ。すぐにマーケットに展開するでござる。場所がないなら、土産を買って場所を作るでござる」 「そこまで市場に顔が利くほうではないので私にはちょっと……」 「なんと。では路上販売から始めるでござる。あともうひとつ、新時代を到来させるために都市の雰囲気も変えるべきなのでござるよ。インド風は止めて和風な神社風で巫女さんテイスト満載にするべきなのでござる。ニコニコ労働センターも巫女巫女神社にネーミングチェンジすれば完璧でござるな。神社があればお金沢山の日本経済取り込めるから、インフラなナラカエクスプレスも流行って潤って……、設備も全駅最新鋭にできるのは必至なのでござるよ!」 そう言うと、山中 鹿之助(やまなか・しかのすけ)に合図。 なにやら複雑な表情をして運ばされた大量の巫女服を広げた。 「では、巫女巫女プロジェクトに向けて、トリニティ殿が率先して巫女となるでござる」 「はぁ。ですが……」 と言いかけた時、甲斐英虎は巫女服を地面に落とした。何故か彼も巫女服を持参していた。 「そっちのが気に入らないなら俺の持ってきたのもあるけどー……?」 すると今度は兎野ミミが巫女巫女プロジェクトに賛同を示す。 「巫女装束もアリだと思うッス。新年にはそれで車内販売でお守りやお神籤を売る企画を……、絶対人気出るッス!」 ここに巫女巫女ABCD包囲網が完成。 アブディールの歴史に刻まれる……かもしれない歴史的偉業の第一歩である。 ◇◇◇ 数分後。 巫女装束に身を包んだトリニティが、一同の前でくるりと一回転してみせた。 「私のようなものが着たところでそう経済効果はないと思いますが如何でしょう……?」 控えめに言うトリニティだったが、むしろよく似合っていた。 まるで人形のように整った顔立ちと彼女の持つ不思議な空気は、巫女装束の神々しさに自然と馴染んでいる。一際目立つ水色の髪も彼女の神秘性を高めていて、実に命のときめきエキゾチック。エキゾチックジャパン。 「く、くはぁ……!」 あてられた鹿次郎の目に光が宿る。 「拙者のお嫁さんになってくれでござるー!」 するりと自らの服を脱ぎ捨てて、ふんどし一枚になった彼はトリニティにダイブ! ……しかかったところを背後から岡田 以蔵(おかだ・いぞう)にざんばらりと斬り捨てられた。 「阿呆が! 待ちや! トリニティの姉ちゃんを嫁にするんはわしの役目に決まっちょろうが!」 こっちも大分間違ってる。 「大体おんしはやることが早いんじゃ。姉ちゃんに着せておしまいじゃなかろうが。もっと広く展開するぜよ」 「……と言うと?」 半裸で血まみれになりながらも興味を示す鹿次郎。 「ちょうど今、宮殿のほうに女子連中も戦いに行っとるがよ。戦って汗をかいたら着替えたくなるんが乙女じゃが、着替えを用意しとる奴はほとんどいないはずじゃ。そうなると、着替えはこの大量の巫女装束以外ないっちゅう……」 「い……、以蔵殿。い、維新でござる!」 「そうじゃ、ナラカ維新じゃ! 龍馬ぁ! 武市先生! 見たかよ、ナラカの夜明けぜよ!」 そんなわけでここにいるメンバーにも着替えを迫る。 「まずはその人形も巫女装束にちぇんじじゃ」 『エッ!? アタシモ?』 迫れたのは、橘カナ……じゃなくて、右手の福ちゃん。 「待たれよ以蔵殿、人形だけでは足りんでござる。金髪ツインテール巫女は王道、ギャルゲやエロゲ的に!」 「えっ!? あたしも?」 鹿次郎はカナに迫り、二人をめくるめく巫女の世界へとご招待申し上げた。 「思った通り超似合……、これは拙者の嫁でござる!」 調子に乗った彼は、パートナーの姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)にも着替えを要求する。 「雪さんも! 何を隠そう雪さんは幼少の頃近所の神社にいた巫女のおねーさんにそっくりなのでござる!」 ◇◇◇ その返事として、雪のブライトスタッフで鹿次郎は脳天をかち割られた。 「わたくしは開発したお弁当の売り込みで忙しいのですわ。ほら、鹿之助殿。開発したお弁当の数々をこちらに」 「……う、うむ」 鹿次郎一派唯一の良識人である彼はまたしても複雑な表情を見せた。 そもそもここには環菜殿を助けに参ったのではなかったのか……。 倶利伽羅の槍を磨きに磨いて戦に備えていたと言うに、結局、巫女装束と弁当の荷物持ちと言うのは心が辛い。 「くっ、この七難八苦は度が過ぎておる気がするのだが……」 「何をブツブツ言っていますの?」 雪はマーケットの出店に行くと交渉を始めた。 「ナラカ『公式』駅弁を置かせてくださらないかしら。カロリーゼロのスペシャル弁当ですわ。これさえあれば、ナラカダイエットツアーを展開出来ますし、それだけで観光地としてでだけではなくダイエットの聖地となりえますわ!」 勝手に公式を名乗ってる……。 ナラカの弁当産業を牛耳る勢いで熱弁を振るうと幾つかの店は協力してくれた。 「そこまで熱くならなくとも……、何もここで腰をすえて商売するわけじゃないだろう?」 呆れて鹿之助が言うと、雪は頭を振った。 「わかってませんわね。環菜さんをお助けする話しであった時点で、これは経済戦争シナリオで有ったと気付くべきだったのです。ナラカを経済で席巻せよ……、こう天の声が申しているのですわよ?」 「ええっ!?」 そんなシナリオだっけ……と困惑したのち、やっぱりそんなシナリオじゃないと気付く。 だがしかし……良識人なのでなるべくポジティブに物事を受け止めてみる 「力での戦いに横から経済での戦いをしかけるは確かに蒼学生としては、一つの正しい姿であろうが……」 頑張ってみたが、商魂逞しい雪を見ていると、ちょっと頑張れなくなった。 鹿之助はガックリと肩を落とす。敗北。なんだかナラカに着てから敗北し続けてる気がする。 荷物の中から日本酒を取り出すと、おもむろに瓶ごとあおった。 「もう酒でもかっくらって寝るか!」