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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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 共に、これまでの任務で多くの前線を戦い抜いてきた部隊と言える、【鋼鉄の獅子】と【龍雷連隊】。教導団の中でも、戦闘部隊としての印象が強く実績もある。
 今回の会議においても、それぞれの部隊長、ルース少尉と松平少尉はクィクモからヒクーロにかけての魔物討伐やヒクーロを味方に付けることでの戦力増強において同意見を述べることとなった。
 【鋼鉄の獅子】は教導団初期からの戦功者も多く、【新星】に並んで統率が取れ安定しつつある部隊と言えた。現在、士官となっている者も多い。一方の【龍雷連隊】は、とくに初期に戦いにおいては傭兵ならず者の類を独断で引き込むなど、教導団にあってはある種異端的な部隊でもあった。甲賀やナイン、草薙軍曹等、古くから隊を支えてきた者たち自身も、教導団にあっては無頼やはぐれ者の印象を持った者が多く(初期の【騎狼部隊】もやや近いものがあった)、中には坂下など実際にパラ実に去った者もあった。一時は甲賀の旧友であり軍の統率の取れた【黒豹小隊】の援助も受けており、軍としての規律に影響を与えたかもしれない(黒豹小隊はその後、軍隊としての気質に富む点で似通う新星寄りになっている)。最近では、隊の雰囲気も一新され、他校から幅広く隊員を募る、明るく健全な気風の部隊となっているようだ(?)。退役士官であった松平も、再び教導団の少尉としての復帰を正式に認められた。(尚、「連隊」の命名者は松平自身であり、現時点では兵数としてはあくまで「連隊を目指す部隊」である。)
「甲賀」
 会議を終え、自室に戻った松平。呼ぶと、隅の影から、影のごとく現れる甲賀 三郎(こうが・さぶろう)。龍雷連隊の、「忍者軍師」と呼ばれる古参の男である。松平は彼に何事かを話しかけている。
「何と。……影に生きてきた我に、龍雷の兵を率いよと?」
 甲賀は暫し考え込んだ。(むう。しかし、隊長のことだ……考えがあるのであろうし、我のことを信頼しているのだろう。)
「甲賀、貴様に、残る私の全兵の指揮権を与える。ミカヅキジマへ向かってくれ」
 甲賀と松平とはただ見つめ合った。
「隊長。……」「甲賀……ウム」
 トントン。そこへ、軍服のコドモが入ってくる。甲賀は再び、部屋の隅の影に姿を消した。
「隊長! バッタ捕まえましたぁ。コンロンにもいるんですねーバッタって、可愛いなぁああ!」小学生の女の子にしか見えないその子の手から、バッタが跳躍して松平の頭に乗っかる。
「う、うわぁ」
「ああっ隊長ごめんなさい!」
「ウム。真白。よく来た。(真白は前回クレセントベースを掃除していたが、ボートで抜け出してきたらしい。)
 早速、貴様にも任務を与える。こっちへ来い」
「Yes! 松平少尉!」
 真白 雪白(ましろ・ゆきしろ)は、バッタを頭に乗せた松平に続いて部屋を出た。
 施設の外では、【鋼鉄の獅子】の隊が整列していた。
「レーゼマン少尉」
「む。松平少尉か。これは、これは。(バッタ……だと?)フッ」
 眼鏡をかけた、きつめの眼の男。【鋼鉄の獅子】指揮官の一人、レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)。ヒクーロへ向かう準備の最中である。
「そちらの方は、もう部隊の編成はお済なのかな? 随分、小さなお子様を連れているが、軍服を着せて、どうしようと?」
「ウム。私の隊からは、これを行かせる。真白雪白隊員だ」
「な、……ひ、一人か?」
「ウム。龍雷連隊ではまだ、経験的に部隊を率いれる者もおらんのでな。ヒクーロの任務では、部隊が違うと言えレーゼマン貴様が上官ということになるから、よろしく頼む」
「む、むむ。まあ……規律はしっかりと、守ってもらうぞ?」
 レーゼマンは言いつつ眼鏡を正した。
「Yes! レーゼマン少尉! よろしくお願いいたします。っであります!」
 真白はしっかり敬礼した。
「む……(か、可愛い。これまた反則的な人材を登用したものだな。……)」
 そこへ、
「レーゼマン少尉! ボクもこちらへ配属になったであります! どうぞよろしくであります!」
「む、むう?!」
 やってきたのは、ロングの髪をリボンに結んだ女性の軍人。孔 牙澪(こう・やりん)だ。大きなゆるいパンダもついてきている。教導団のグッズにもなっているゆる族のほわん ぽわん(ほわん・ぽわん)だ。首元の蝶ネクタイが愛らしい。
「おおっ。教導団公認キャラの孔中尉! でありますかっ。それに公認グッズのほわんぽわん! 可愛いっ」真白がほわんぽわんに飛びついて言う。
「ウム。では、孔中尉が上官か。真白をよろしく」
「えっ。ボクはその、中尉と言っても孔中尉でありまして、あの……」
「む、むむう。(ややこしいなあ……)」レーゼマンはまたずり落ちそうになった眼鏡をかけ直す。「ええい、とにかく。そろそろ部隊を出発させねばならん。整列して頂けるか。孔中尉もだ。いや、ええ、どうか孔中尉もであります……」
「あっ。ボクは、商人に扮してヒクーロに紛れ込むつもりでありますっ」
「な、何と?」
 孔中尉はそう中尉らしからぬことを言い、真白も、
「ワタシも、人身売買される少女のふりをして、街に潜り込むつもりだよ」
「な、……貴官らそもそも部隊で動く気がないのか!」
 レーゼマンは怒鳴りそうになりつつも、三度、眼鏡を戻し、
「しかしヒクーロまでは二五〇キロ程もあるのだ。ともあれ私の部隊に続くがよい。着替えるなら早く、着替えてくるのだ!」
 何とか冷静に言い放った。
 真白と孔中尉は敬礼して、着替えに去っていった。
「へへ、面白くなってきたぜ」
「何がだ?」
 レーゼマンの傍で、その様子を見つつにやにやとしていたのはクルツ・マイヤー(くるつ・まいやー)。レーゼマンの軍学校時代の旧友だが、強化人間として教導団へ送られてきた。レーゼマンとは色々と因縁のある男である。
「ふん、チャラ男が。今回の任務、手を抜くんじゃないぞ」
「へーへー、ったく。けどかわい子ちゃんと出会えるチャンスかもな?」
「何。貴様あのような子どもに手をつけようというんじゃあるまいな。許さぬぞ? それとも孔中尉か。上官に手を出すような真似もするなよ。何れにせよ私の責任が問われかねん事態は招くな。ひいては獅子の名誉にもかかっている故な。クルツおまえも正式に、鋼鉄の獅子に加入することになったのだから」
「へっ、そう言えばレーゼマンはロリコンだという噂が獅子の間で……さっきの子どもとのやり取りもなんかたじたじしてあやしかったような」
「くっ。言うな! 噂であろうが。子どもの相手は、苦手なだけだ」
「ほう……」
「ふん」
 
 更に、クィクモの空の港にも、【鋼鉄の獅子】の部隊が、そしてその半分以下の数だが【龍雷連隊】の一分隊程度の隊の姿が見える。
「私が討伐隊の指揮を担当する月島だ。我々は、運輸拠点となるこのクィクモ近郊の脅威を排除する」
 抑揚を抑えた声で、しかししっかりと告げる女性士官は、月島 悠(つきしま・ゆう)少尉。軍人然とした立ち振る舞いからは、年相応の女の子らしさを感じさせない。
「敵についてはすでに聞いているだろう。空の滝からは魔物が溢れている……ヒクーロ方面にはレーゼマンが向かうが、私の隊はクィクモ周辺に流れてきているこれを退治する。
 雲賊相手に事を構える気はないが、もし邪魔をするようなら……排除する」
 隊員らは緊張の面持ちで月島少尉の話に耳を傾けている。
「ヒクーロとは、今度友好的な関係を構築することを考えている。接触があっても決して手を出さぬよう。以上だ。各自、指定の小型飛空艇に……
 それから、【龍雷連隊】から協力者がある。レイヴ・リンクス。よろしく」
「は、はい……!」
 それまで、隊員らと同じく話を拝聴していた。月島の隣に少し強張った様子で控えているのは、レイヴ・リンクス(れいう゛・りんくす)。中性的な顔立ちの、子どもっぽさを残す龍雷連隊の若き新人だ。身分は士官候補生であるが、DEVGRUで訓練を受けた経験があり分隊を任された。
「レイヴ分隊は、魔物の巣への潜入。危険な任務であるが、私の隊からマクシミリアンと翼が援護に出るので、心してかかるよう。任務を完遂させてここへ戻ろう。雲賊が出た場合、対応は、私に任せて」
「どうぞよろしく!」月島を挟んで向こうから、「ガトリングの花嫁」と呼ばれる麻上 翼(まがみ・つばさ)が元気に挨拶する。
「ええ。こちらこそ。任務を遂行し、隊員皆を無事帰還させます」
「うむ」

 戦部参謀長よりアンジェラ・クリューガー(あんじぇら・くりゅーがー)をして、小島の大まかな位置や魔物生息域を記した図が渡される。
 クレア司令官からはエイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)が激励の言葉を送った。「賊の類は引っ捕まえたら、連行してくれとのことだ。うちのボス、けっこう容赦しないからな。タフそうなやつを選んで捕まえた方がいいかも」と言って笑みをこぼした。
 
 こうして、クィクモで行動を開始する隊、ミカヅキジマへ向かう隊がそれぞれ編成されたのである。