イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

リアクション公開中!

第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

リアクション

 
 
 コンロンの空ではさらに厄介な遭遇が起こっていた……調査班と同じに、しかし独自の調査にコンロンを訪れていた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)。現在、空京大学の学生であるのだが。
「エリュシオンの軍が、こんなところにまで?」
 相手は、六騎。こちらは空飛ぶ箒に乗ってそれに向かい合う。箒で逃げられる状況ではない。
「コンロンの空で、流れ魔物でもない、人間に出会おうとは。何者か」
 先頭の一騎が問いかけてくる。
 めいめいに強力な武器を携えている。殺気の漲っている者もいる。
 ここで争いになるのは避けたい。相手は龍騎士だ。数も多い。何とか上手く切り抜けねばと思う宇都宮の前に、彼女の英霊である湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)が出た。ランスロットは龍騎士を前にたじろぐことなく、「箒上から失礼であるが」と断り、騎士の礼法に則って一礼をした。
 これには、同じ騎士たる彼らも、警戒を解いてはいないが礼を返した。
「我が名はランスロット。ベンウィックのバン王の子にして、かつてブリテンの王アーサー・ペンドラゴンに仕えし騎士。
 シャンバラよりこのコンロンへ来たりて学術を修めんと旅する一行の護衛を仕っている。
 いずれ名のある騎士と見受けるが何処の方か?」
「シャンバラより……だと。どこの勢力か」
 龍騎士は疑いを強めた目で見てくる。
「ワ、ワタシたちは、こういう者です」
 パートナーのセリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)は慌てて、自らと宇都宮らの学生証を見せた。
「むう……空京大学か。学術を修めんがためは、まあ、信じてもよいか」
 龍騎士は再度、宇都宮らを見、学生の女三人にランスロットがその護衛なのだろうと信じると、若干警戒心を解いた様子で、任務中なのか六騎の内三騎は隊長格に促されると飛び去って行った。
「それで、貴殿らどこへ何をしに行く?」
「き、北の果ての方へ……」セリエはおそるおそる応えつつも、「ご好意に甘えることができるなら、ワタシたちの身分に怪しいところはないと書付を頂けませんか?」
「もし差し支えなければ」と、ランスロットがなお毅然として言う。「これより北方の地勢・情勢についてお聞かせ願いたい」
「情勢は今暫し安定しないだろう。貴殿らの身分に怪しいところがないのはわかったが、シャンバラの者に今、コンロンで動かれるのはあまり感心しないな。
 この情勢の不安定につけこんで、シャンバラは教導団を動かしてくる可能性もある。貴殿ら、同じシャンバラの者であるなら教導団の動向について知らぬか。教えれば悪いようにはせぬが。
 ともかく、悪いことは言わんので帰るがよい」
 まずいな……宇都宮が思ったとき、周囲の温度が急激に低下しはじめた。
「これは?」
「何だ……」
 龍騎士らもいぶかしむ事態のようだ。
「ふふふぅ。いた、いた。帝国の龍騎士ね」
「きゃはは!」
 闇の中に骨と赤の翼。それが開かれると、美しい女の姿が現れた。もう一つ、笑い声が、静かな闇に不気味にこだまする。
「ふふふふ……最初の獲物ね」
 龍騎士らは無言で剣を抜いた。
 隊長格が攻撃を命じようとしたとき、後ろの一人が突如血を吐いて落下した。
 女と同じように暗闇から現れた青白い翼が龍騎士を締め上げ、骨の翼が首もとを突き刺していた。そちらに注意を奪われていたもう一人を、翼の女が急速度で近づき、一瞬に葬った。
「貴様、不意打ちとは」
 不意打ちとは言え、帝国の龍騎士をこうも容易く仕留めるとは。隊長格の男も動揺は隠せない。それを見てとったように女は、「何だ。つまらない……神の位の龍騎士ではないようね」と見下すように言う。
 切りかかってくる龍騎士の剣を交わし、騎士は女の翼に絡めとられたかのように見えた一瞬で数箇所に切り傷を負って龍もろとも落下していった。
「ひ弱いね。シーマ、ナコト・オールドワン、あれに止めを」
 二つの翼は旋回し、落下していく騎士に止めを刺しに下方へ飛んでいった。
 女は宇都宮たちの方を向く。
 ランスロットが剣を構え、宇都宮らを庇っている格好だ。セリエは「ワタシたちは、ワタシたちは龍騎士ではありません!」と慌て戦闘を回避しようとするが、宇都宮は気付いていた。この女は……!  牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)。何故コンロンへ?
「ほう? 貴女は……」
「きゃはは。知っているわ。教導団・元憲兵科、宇都宮祥子、ね?」女の翼の下に、笑い声だけだった少女が、小柄なボンデージ姿で具現化した。魔鎧ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)
「何しに? 私は百合園の友達が一国潰そうとしているって話だから、ちょっとそちらの方へね。面白そうでしょう、たくさん人も死にそうだし。
 ロクデナシの為に鐘は鳴る、戦女神の歌が聞こえる……ふふ」
 二つの翼が駆け戻ってくる。
「マイロード。この下に面白そうなものがありますわ。
 さきの騎士様は屍にしてさしあげましたけど、地上にはさまよう屍がうようよと……」
「アンデッドか。それはいいね。人狩りの前に、死人狩りというのも。ふふ」
 おぞましい翼の女たちは、地上の方へと飛び去っていった。