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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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 章冒頭で、千代が訪れていた夜盗の館。入口の前に、三体の飛龍が羽を休めている。通りを行く者は、恐れて近付かぬよう歩くか回り道をしに引き返してしまう。
 館の首領の部屋では……
「何。教導団の者が接触してきただと。シャンバラからわざわざ使者を遣わしたということか?」
「使者だっけ……秘書とか言ってたような。
 それはそうと、奴らミカヅキジマに兵を集めているようですぜ。秘書もそこから来たらしく」
「秘書……。ミカヅキジマ! 何と。教導団め、すでにそこまで来ていたか。
 ミカヅキジマには、ラスタルテが向かっているのだ。注意を促さんと。
 それで教導団の秘書とやらは何と言ってきた?」
「はぁ、確か平和交渉をと。コンロンで争いを広げないよう、一旦矛を収め、専守し情勢を見るようにとか……」
「教導団め。あきれる。その間に兵を送り込み侵略を始めようというのか」
「旧軍閥の残党も虫の息です。悪あがきに、兵力を集めているようですが……一気に潰してしまいましょうぜ!」
「まあ待て。あやつら、コンロンの旧帝を隠しているからな。これを始末すれば、二度と挙兵もできまい。上手く暗殺できるといいのだが、まぁ、時間の問題であろう。ノスヂガの手にかかればな。
 その間に、軍備を整え、残党を駆逐する準備を整えておくがよい。この方面の指揮は私が執る」
「へへ……勿論ですとも。タズグラフ様」
「集まっている兵はどの程度か」
「ここ都は大したことないようですが、どうやら廃都群の方に些か」
「廃都群の方は潰してしまって構わない。合流される前にこちらから兵を出せ」
「はっ!」
 そこへ、来客があった。
「誰だ! 通せ」
 来客は、館の上階の奥の一室へと連れられた。手練れらしい夜盗ら数人とその首領の他に、テーブルで首領と向かい合っている龍騎士。更に隅の椅子に待機している二人を見た。
「あ、あなた方は」
「ほう」龍騎士が来客を向く。「郊外の酒場で会った旅人か。わざわざ夜盗の巣窟に迷い込んだのでなければ、貴様ら……正体を明かせ」
 隅にいた二人は、無言で立ち上がった。
「そ、それがしどもは……」
 手練れの夜盗が部屋の扉を閉め、来客を左右から挟む形で睨みつける。フードを取ると旅人は長身の綺麗な顔立ちの女で、夜盗らはニヤリといやらしく笑みを浮かべた。しかし女の隣にいるもう一人は……ぱくぱく。ぱくぱく。さっきから饅頭を食べ続けている。
 無論、道明寺とイルマの二人である。

「首領」
「何だ。また来客か?」
 ノックし、下っ端の盗賊が入ってくる。
「亡霊どもが街に流れ込んできています」
「またか、いつものことだろ! そんな客は願い下げたいところだな。追い払え」
「それが今度はかなりの数でぞろぞろと、しかも獰猛に襲いかかってきやがります。
 どうも、ボーローキョーの方で何か起こっているらしく、あちらの対岸からぞくぞくとやってきやがるのです!」
「何、厄介なこった……あの」首領は、龍騎士の方を見る。「というわけらしいんですが、……タズグラフ様。何とかなりませんでしょうかねぇ?」
「フン……」厄介な、か、まったくだ。と龍騎士は思った。一方で、亡霊どもに使い道はないかとも。(夜盗同様、教導団にぶつけるのに格好の捨て駒になるではないか。)
「いいだろう。私が見てこよう。気になることもある」
「感謝しますぜ! 旧軍閥残党や教導連中やらは任せてくだせぃ!
 しかし飛龍はいいなぁ。対岸までひとっ飛びですものね」
「貴様らも頑張り次第だ。シクニカの地下の連中は飛龍を与えられたのだ」
「へへ。私も帝国の末席に加えて頂けるよう、尽くしますぜ」
「フム。焦らず、確実に手柄を立てよ」
 
 
 この夜盗の館の中に、教導団の者なら見知った顔があった。
「ここでの暮らしも思ったほど悪くなさそうだな? いっそのこと、このまま本当に夜盗に転職しちまおうか?」
 夜盗団に、夜盗として潜入したジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)。である。これまでこの手の潜入を幾度と成功させてきたベテランだ。
 一緒に潜入しているフィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)に思いっきりにらみつけられ、
「いや、冗談だよ、冗談」
「まったくもう、ジーベックにも困ったものですわね。
 ジェイコブが本当に夜盗にでもなってしまったら、いったいどうする気なんでしょう?」
 フィリシアは、本気でそう心配した。
「おい、新入り! 亡霊どもを追い払ってこんか!」
「おう」
「その後は、廃都群へ向かう軍に、おまえも加われ」
「廃都群に?」
「ああ。旧軍閥の残党が、あっち方面でも兵を集めておる。それを潰しにいくぞ!」