校長室
聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)
リアクション公開中!
第十七曲 〜Decision〜 (ファースト・コントラクター。頼みがある) (なんだ?) PASD所属の術者ノインは、コリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)の力を必要としていた。 (貴様のパートナー一万分ほどの力を貸して欲しい) (承知した。お主のその能力も合わせれば、多少の攻撃ではこの街はびくともしまい) それを受け、ノインはコリマのパートナー達の力を自らの魔力へと変換した。 魔導力連動システム。彼女にのみ与えられたその力を使い、結界を展開する。 (一時的だが……これだけあれば十分だ) 彼女の姿は十六歳くらいにまで成長した。全盛期の力には及ばないが、結界の外からの攻撃は防げるだろう。 コリマとともに二重の結界が施されている。 問題は、大質量の――イコンや輸送機、あるいは人間を阻むことが出来ないことだ。 (地上は任せたぞ、契約者) (・北地区) 海京の窓口であり、飛行場、港が存在する北地区は、敵が降下するには絶好のポイントだった。 クローン強化人間部隊が、輸送機から飛び降りてきた。 「ある程度は予想通りですね」 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)がその様子を見て呟く。 幸いにも、この飛行場周辺にはシャンバラ教導団が駐在している。天沼矛までのルートにバリケードを張って対応しているが、ここでどれだけ戦力を削れるかが、地上での戦況に関わってくる。 (地上にもイコンはいる……か) クェイルの姿を小次郎の目が捉えた。 火力は十分だろう。 そして、今度は敵に対して思考をめぐらせる。PASDからの情報によれば、敵はクローンの強化人間。感情もなく、自爆することを躊躇わない、道具として作られた兵士達。 ならば、感情を持った人間のように、予想外の行動をとる可能性は低い。 敵部隊が着地する。 「撃て!」 直後、攻撃部隊によって集中砲火を浴びせる。 「……フォースフィールドですか」 確かに敵には被弾したが、相手はフォースフィールドを展開し、爆風による二次的なダメージを軽減している。 「敵部隊、散ります!」 リース・バーロット(りーす・ばーろっと)がその動きを確認し、迎撃に当たる。 黒い装甲服を纏った者達に対し、雷術を撃ち込む。 (自爆の原理が電気信号だと言うのなら、それを解読出来れば……) しかし、脳内から発せられる信号をどうすればいいのか、小次郎はその答えをすぐには出せなかった。 リーズが博識と雷術によって、それを予測するが、それで自爆を誘うのは難しい。可能なのは、電撃を浴びせることによって、敵の装甲服の迷彩効果をなくすことくらいだ。 小次郎達は防衛線まで後退し、そこから攻撃隊のフォローに入る。 電気信号を解読出来なくとも、即死させることが出来れば爆発による二次被害は防げる。 各個撃破しなくてはいけないために手間はかかるが、現時点ではやむをえないことだった。 敵の強化人間達は、複数のチームを一つの単位として攻め込もうとしているようだ。 比島 真紀(ひしま・まき)とサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)は、最初の攻撃を突破してきた敵部隊との交戦に入る。 (さすがに、超能力使いは上であります) 彼女達は海京に駐在している間、天御柱学院の超能力科から超能力の使い方を学んでいた。 とはいえ、知識として知っているのと、実際に戦うのではわけが違う。 まずは雷術を使用し、迷彩の解除を図る。目の前にいる者達以外に、姿を消している者もいるからだ。 さすがにサイコキネシスの応用技術である高速移動を真似るのは難しい。それでも、この北地区にある貨物コンテナや、クレーンなどの障害物を利用して上手く立ち回ろうとする。 「一発で、仕留める」 サイモンが即天去私を繰り出し、敵の頭を粉砕する。 即死させなければ、自爆して被害を被るのはこちらだ。 真紀もまた、同様に一撃で敵を倒していく。数は決して少なくはない。 「――――!」 殺気看破によって、目に見えない敵の気配を察知する。その方角に向かって雷術を放ち、即サイコキネシスを自分の足下に使用し、敵へと飛び込む。 レビテートでわずかに浮いていることもあり、走るよりも速く敵に迫れる。 それらを繰り返し敵に使用し、二人はクローン強化人間達を倒していった。 第一波が半分ほど倒された頃、続く部隊が上空から投入されてきた。 「増援ですか!」 グロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)、レイラ・リンジー(れいら・りんじー)、アンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)らがその対応に当たる。 敵は空中から超能力を行使して下降してくる。 最初は着地のときにサイコキネシスを使っていたようだが、今度は違う。 (学習はするようですね) 仕組みは分からないが、第一波が降下直後に集中砲火を浴びたことにより、敵は攻め方を変えたようだ。 ならば、と空中にいる敵に向かってグロリア、レイラは轟雷閃を放つ。その後方からアンジェリカが雷術で対応する。 出来る限り広範囲に攻撃を加える。敵の数は、目に見えているよりも多いからだ。当然、殺気看破による判断も欠かせない。 (そこです!) 後の先で敵の攻撃を誘い、ナイフを構えて向かって来たところを軽身功によって回避してカウンターを食らわせる。 『こちら北地区。敵強化人間部隊と交戦中』 情報本部へと連絡を行う。 海京の四つのエリアではそれぞれ戦闘が起こっている。他のエリアに関しては避難誘導も行われながらだ。 人の形をした黒い塊が街中に出現したとは聞いているが、このエリアにはその姿はない。 (彼らも黒いですが) 装甲服を着た強化人間達を見る。 他の状況を考えると、ここで足止めを出来るかが重要だと判断できる。 (まだ来そうですね) とはいえ、消耗するわけにはいかない。 この飛行場とその周辺を把握しているのが救いだ。上手く敵を誘い込み、削いでいこうとする。 (こっちです!) 彼女達三人が敵を誘導する。 敵を見据え、爆炎破を放った。 いや、正確には違う。敵の背後にあったクレーンだ。いくら敵が超能力に優れていたとしても、すぐには対応出来ないだろう。 それでも倒しそこなった敵は、頭部への一撃をもって仕留める。 そうして、敵強化人間の拡散を抑えていった。