リアクション
* * * 美羽達が答えを迫られる前。 天貴 彩羽(あまむち・あやは)はプラントの制御室で、プラントのデータ分析を行っていた。 常駐といかないまでもアクセス権所持者ということもあり、彼女は頻繁に訪れている。そうすることで、R&Dの下準備を整え、ユビキタスによって天御柱学院のコンピューターとの接続を行い、プラントとの連動を図る。 元々彼女がここにいるのは学院の意向によるものだが、念のため施設を使えるように根回しもしてある。 (彩華、そっちはどう?) 精神感応で、天貴 彩華(あまむち・あやか)と連絡を取る。 (異常なしですぅ) 仮にも学院の機密情報を扱う身。例えプラントに常駐しているPASDの面々や西シャンバラ政府関係者であっても、警戒は怠らない。 二人はイコンとしての【ナイチンゲール】の前へと歩みを進めた。 「ナイチンゲール、いる?」 『はい、お呼びでしょうか?』 彩羽の呼び掛けに応じ、ナイチンゲールは姿を現した。 イコンの真の力を引き出すための鍵、それを彼女は知っているはずだ。先日の要塞制圧戦の結果を考えれば、仮に敵が総戦力で海京へと攻め込んできた場合、ほとんど勝ち目はないだろう。 学院の生徒が犠牲にならないためにも、イコンに残された謎を解明したい。 「アムリアナ女王、知ってる?」 『はい。直接こちらを訪れたことはございませんが、存じ上げております』 彩羽の予想は、女王に関連した言葉が【ナイチンゲール】起動のキーワードだというものだ。 女王復活でプラントも稼動したのならば、その可能性は十分にあるというのが、彼女の考えだ。 しかし、いくつかそれらしい言葉を用いるも起動には至らない。 「ナイチンゲールも食べますぅ?」 彩華が物質化・非物質化でドーナツを取り出し、かじっている。 片手でそれをナイチンゲールに向けたまま、言葉を続けた。 「ナイチンゲールは〜、ずっとここにいたんですかぁ?」 機械であるはずのナイチンゲールには、時折感情のようなものが見え隠れしている。ならば、何気ない問いかけで彼女の心に触れるものがあるかもしれない。 『ここのマザーシステムですので。この姿は、あくまでも内部の方と円滑に情報・命令のやり取りをするための映像に過ぎません。そのため、有機物を食する必要はないのです』 相変わらず表情に変化はない。 「あなたは何を思っているのかしら。何を守りたいのかしらね」 『私に自らの意思というものはございません。ですが……』 ナイチンゲールの視線は、どこか遠くへと向けられていた。 『マスターは私や聖像達を守ろうとしていました。私は、私達がマスターの意思に反する使われ方をしないように、使用者を見定めるようにプログラムされております』 視線を彩羽に合わせてきた。 『レベル3アクセス権の許可条件は、私を再起動させることでした。このアクセス権をどうお使いになるかによって、上位権限への移行か権限取り消しかが決定します』 「つまり、これまでの私のアクセス履歴が、それの判断材料になってるってこと?」 『はい。現時点で、天貴様はレベル5への移行見込みとなっております。しかし』 「しかし?」 『「力」を求め過ぎている、と判断致しました』 それの何が問題なのだろうか。 『マスターは仰っていました。力に対して力で立ち向かったところで、何の解決にもならないと。天貴様は誰かのために力を欲しているように見受けられます。しかし、ここに存在する力を、マスターの意思に反する形で使う危険性がまだ残っております』 守るためではなく、壊すため。 明確な倒すべき敵を持つ彩羽が、力を手に入れ「復讐」の道具とすることを危惧しているのだろうか。 無表情な瞳からは、言葉以上のものは見えてこない。 けれども、目の前にいる女性の姿は単なる機械だとは思えなかった。 「たしかに、私は力が欲しいと思ってる。だけど、例えアクセス権が認められなくなってそれを使う機会が失われたとしても……私は知っておきたい。あなたのことを、もっと」 |
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