リアクション
「いかん、迷った……」 建物を破壊してしまったがために、周囲がいきなり元の美術館に戻ったアキラ・セイルーンたちであったが、現在位置がまったく分からない。 とりあえずでたらめに進んで行くうちに、なんだか世界がモノクロームになっていった。気のせいか、自分たちの身体もペラペラになった気がする。 視界がデザインチックになり、様々な意匠の物たちがクルクルと空間を踊り回っていた。 「こりゃまたスタイリッシュな」 「まさしく『アート』って感じヨネ」 もう、何が起こったって驚かないぞと、アキラ・セイルーンとアリス・ドロワーズは進んで行った。 ふいに、額縁のような物にぶちあたる。 『聖者の行進』と書かれたパネルがあるような気がした。 本当に二次元になってしまったのなら、そんなことは知覚すらできないはずであるが、なぜか分かる。きっと、これはイメージの中に取り込まれている状態なのだろう。 「ええと、確かこの絵はモモ殿の絵だったよな。バレンタインのチョコレートを渡す画面だったとかなんとか。勇気をもってチョコを渡すドキドキの絵だそうだけど、そんなことをしなくてもモモ殿は無敵な感じがする」 くしゃくしゃになったパンフレットを取り出して、アキラ・セイルーンが言った。 とはいえ、パンフレットだった真っ黒で、本来なら何が書いてあるのか分からない。ましてや、人の表情など、まったく分からなかった。 「うん、モモ殿、影絵でよかったねっ!」 「そんなこと言ってるトー、そこの壁から突き破って出てくるワヨ?」 不穏当なことを言うアキラ・セイルーンに、アリス・ドロワーズが突っ込んだ。 ★ ★ ★ 「ふっ、まったく、美術館なんて来るもんじゃないわね。まったく、成金共の巣窟だわ。だいたい、ここにある絵って、財力に物を言わせて描かせた物ばかりなんでしょ。きっと、みんなおかかえ絵師に決まってるわ」 ふてぶてしい表情で、コンクリート モモ(こんくりーと・もも)が今までの展示室を睨みつけながら歩いて行った。 もちろん、中などちゃんと見もしないので、はっきり言って彼女の偏見である。 「ふふふ、その財力のない者が何を言いますカネ」 後ろをついてくるハロー ギルティ(はろー・ぎるてぃ)が、皮肉たっぷりのチェシャスマイルを浮かべて言った。 「しょせん、金で描かせた物なんて、たいしたことないわよ。真の絵描きなら、無償で……」 変わることなく悪態をついていたコンクリート・モモの足がピタリと止まった。 チラリとのぞいた展示室に、何かピッと感じる絵があったからだ。 「これって……私?」 『聖者の行進』と銘打たれた絵の前に行って、コンクリート・モモがつぶやいた。 はっきりと描かれてはいないが、だからこそ、そうだと分かる。 影絵ふうのその絵は、彼女がコリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)にチョコレートを渡しに行ったときの物だ。間違いない。 「どうして、これがここに……」 突然真っ赤になって顔から湯気をたちのぼらせながらコンクリート・モモが言った。いつもの彼女からは、まるで別人のようだ。 「モモ、シルエットの絵でほんとによかったデース。顔描かれてたら、すんごい形相してたのばれちゃうネ〜」 ハロー・ギルティが皮肉っぽく言う。 「知ってますカー。毎年二月にチョコレートアレルギーでアトピーの症状を悪化させる患者が増えるってシッテマスカー?」 聞かれてもいないことまで、ハロー・ギルティが説明する。 「うるさい……黙れバカ猫……」 コンクリート・モモが一喝した。 「今度は天御柱学院のイコンを魔改造でもして褒めてもらおうかしら……」 その後たっぷり一時間もその絵を見つめ続けた後、コンクリート・モモはぽつりとつぶやいた。 |
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