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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/第3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/第3回)

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第3章 魔塔【8】


 突然、照明が落ちた。
 ルミーナ一筋の風祭 隼人(かざまつり・はやと)はそうなるや、ガルーダのガードをいち早く行った。
 パートナーのアイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)も傍に寄り、何かの罠ではないかと警戒する。
「……言っておくが、おまえを心配してんじゃねぇ! ルミーナさんを心配してんだから勘違いすんじゃねぇぞ!」
「言われなくてもわかっている。せいぜいしっかりオレを守るんだな、小僧」
「む……むかつく!」
「しーっ! 静かにして!」
 隼人を黙らせ、アイナは暗闇に集中する。
 彼が抜け道を秘密にしたように、パルメーラも塔に仕掛けた裏切り者用のトラップを秘密にしてるかもしれない。
「……でも、罠の類いじゃなさそうね。あ、待って、ホログラムビジョンがまた光りはじめた」
 無数の画面が列をなし組み合わさり、一枚の大きな画面を構成した。
 その前に奈落の軍勢最後のひとり、緋山 政敏(ひやま・まさとし)が立つ。
「覚えているか、ガルーダ……。あの『ガルダ記念日』を」
「む……?」
「最終回のおふざけ増長! あれを見て涙した自分が居る、もっとやっとけば良かった、と!」
 画面にルミーナの姿が映し出された。
 無論、ただの写真ではない、美しく白い柔肌を晒したオールヌードピンナップだ。
 二つの宝玉を目の当たりにした隼人はブシュッと舌を噛んで、怒りのままにガクガクと小刻みに震えはじめた。
「て、て、てめー! どういうことだ、コラァ! 俺のルミーナさんに何をしやがったァ!!」
「落ち着けよ、ただのソートグラフィだ。しかし、これがネットに出回ったらどうなるかな……?」
「な、なにィ!?」
「俺がスイッチを入れれば、世界中に孤独な男の魂を救う夢が送信されてしまう寸法だ。そう、俺は今、神となりシリアスの理に反逆する……。どういうことかわかるか、風祭。たとえ彼女の身体は救えても、心は救えないということだ!」
「こ、この野郎……、俺もzipで欲しいぐらいなのに……っ!
「くだらん……」
 別段気にする様子もないガルーダに、政敏は不敵な笑みを見せる。
「まぁ、おまえはそれでいいかもしれないが……、果たして他の連中もどうでもいいと済ませることができるかな?」
「どういう意味だ?」
「こういうことさ……、これをバラまかれたくなかったら、おまえ達の手でガルーダを取り押さえろ!」
 制圧部隊に衝撃が走る。
 ひと通り走ったあと、全員冷静になった。ガルーダを敵に回すリスクを考えれば答えは言うまでもない。
 そもそも、こんな写真が流出しても力強く生きてるアイドルや女子アナはたくさんいるじゃないか。
「あれ……、これに乗ってくれないと、俺の計画に歪みが……」
 イヤな汗を流す政敏を見つつ、それにしても……、と隼人は思った。
「……緋山は敵なのか? 殺気は感じられないが……いや、悪意はそれを補って余るほど感じてるけどもっ!」
「落ち着いて、隼人くん。ここは私に任せてください」
「任せろって……、ルミーナさんの写真を流出させない方法があるのか?」
「謀は密なるをもってよしとす、ですよ。まぁ見ていてください」
 軍師【ホウ統 士元(ほうとう・しげん)】はこっそり小鞄の小人を放つ。
 ほどなくして、忍び寄った小人が飛びかかると、政敏はぎゃっと叫んだ。
 すかさず隼人は魔銃モービッド・エンジェルVHの早撃ち、スイッチをコンソールパネルごとバラバラにした。
「し、しまった……!」
「逃がさないぜ、緋山。おまえは俺を怒らせた。辱められたルミーナさんの無念、この俺が晴らす……っ!」
 ゴーストナイトを盾に逃げようとするが、怒れる隼人は最大火力の銃撃で盾ごと政敏を吹き飛ばしてしまった。
 だがここで、隼人は奇妙なものを目撃する。宙を舞った政敏がニヤリと笑ったのだ。
 皆の前でガルーダの心根を暴き、トリシューラを確保するのが目的だったが……まぁ後者は上手くいきそうだな。
 逆に吹き飛ばされたことを利用して、宙吊りの神槍の上に飛びついた。
 隼人が銃口を向けたその時……カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)の放った光術が視界を奪った。
「……助かったぜ、カチュア」
「お礼なら今すぐでなくて結構よ、さぁ早くそれを外して逃げましょう」
 トリシューラを固定する鎖を断ち、二人はバーストダッシュで下の階層に向かう。
 外に行けばまだゴーストライダーがいる、奈落の軍勢である自分を守るはず、そうなれば逃げ切れるはず……!
 しかし、この状況でガルーダが動かないはずがない。
「どいつもこいつも不甲斐ない……、やはり頼れるのは自分だけと言うことか……!」
「待て、ガルーダ。ひとりよりふたり、ここは我も協力する」
 青心蒼空拳の使い手風森 巽(かぜもり・たつみ)はポッカリ空いた空洞に構えをとった。
「……勝手にしろ、オレはオレの思うままにやる。付いてこれなければ置いていくぞ」
「心配無用。何度貴公と拳を交えたと思っているんだ、貴公と息を合わせるぐらい雑作もない……!」
 そして二人は飛翔した。深紅の六翼を広げるガルーダに並び、巽はツァンダースカイウィングで空を飛ぶ。
「チェンジ! 爆炎ハンド!」
 ……この一瞬に全てを燃やせ! アイツの炎に負けない位!
 掌を真っ赤に灼熱させる巽に目を細め、ガルーダも掌に紫色の火炎をまとった。
「ほう……」
「さぁ行こうぜ、ガルーダ! 業火っ! 奈落双掌!!」
 滑空の速度で尾を引く炎、その姿は彗星、赤と紫の流れる二つの星に、異変を察知した政敏は振り返った。
 刹那、二つの『業火奈落掌』が両胸に突き刺さる。
 渦巻く衝撃に飲み込まれ、彼は弾丸と化して下層に叩き付けられた。
 と同時に塔内に放送が流れる。
『こちら追撃隊の茅野瀬衿栖です。補給拠点は押えました。増援の心配もありません。繰り返します、こちら……』
 繰り返される制圧報告によって、この勝利の塔攻防戦の幕が閉じることとなる。
 寺院の制圧、主要メンバーの敗北を悟った奈落の軍勢は士気が下がり、撤退が始まった。
 最下層に落ちた政敏はカチュアに回収されたらしく、下に降りた時には消えていた。しかし、落ちていたUSBメモリーは回収に成功、トリシューラも吹き抜けの途中に刺さっていたのを回収することができた。
 そして、暗号化された状態で環菜の才能を回収すると、中枢では装置の破壊がはじまった。
「よーし。じゃ、あとはもう装置が使えないように壊すだけだよね」
「ああ、しっかり頼む」
「はーい、とりあえずハンマーでドスドスして回ればいい感じに壊れるよねぇ〜」
 ヘキサハンマーを担いで揚々とティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)は走っていった。
 楽しそうなパートナーの背中を見送ると、さてと巽は振り返り、ガルーダにトリシューラを渡した。
「約束は約束だ。神槍トリシューラ、これで間違いないな」
「……もうすこしもったいぶるかと思ったが、いやに素直だな」
「例え、貴公がこの先敵対するにせよ、裏切るにせよ、交わした約束は必ず護る、それだけだ」
 まだなにか言いたそうだったが、何も言わずガルーダは槍を受けとった。
「おいおい、疑り深い奴だな。おまえこそもうすこし素直になれよ」
 先ほど魔鎧として隼人と一緒に戦った風祭 天斗(かざまつり・てんと)が言った。
「落ち着いたところで一個聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「……言ってみろ」
「『ナラカエクスプレスは古王国時代の女王が夭折した恋人に会うため建造した』……現世に伝わる伝説だ」
 そして、核心に触れる。
古城にあったのはその女王の肖像画じゃないのか? そして……おまえはその恋人なんじゃないか?
「……古い話だ」
 一言肯定し、ガルーダはこちらに背中を見せ話しはじめた。

 昔、ひとりの男が死んだ。
 男には愛する女がいた、女もまた男を愛していたと思う。
 女は男に会うため、不思議な列車で冥界にまでやってきた。
 男を蘇生させることはできなかったが二人は満足だった。死してなお会えることに感謝した。
 やがて年月経ち、女は冥界に来なくなった。
 何かあったのだろうか、男は不安になった。
 さらに年月が流れると、不安は悲しみに変わり、そして怒りに変わった。
 これほどに自分は愛していると言うのに何故、会いに来ないのだろうか。
 男は自ら会いに行くことを決めた……。

「そして、この塔が作られた……、上手くはいかなかったがな……」

 さらに年月が流れると男はこう思うようになった。
 今、彼女はどこにいるのだろう……。
 随分と年月が流れた、もしかしたら彼女は死んで冥界にいるのだろうか。それとも転生して現世に戻ったのだろうか。
 男は無力だった。無力な自分を呪った。呪えば呪うほど力が欲しくなった。
 力があれば、数万数億の手足となる兵を使って、ナラカ中を捜すことができる。
 力があれば、生死の理を打ち砕いて現世にも兵を送り込むことができる。
 力があれば、きっと彼女を見つけ出すことができる。
 そのためにはすべてを支配しなくてはならない。絶大な暴力こそが絶大な権力を生む。
 この世のすべてから彼女を捜し出すには、この世のすべてを支配下におかなくてはならない。
 男のするべきことは決まった。

「何をするにも力がいる。それはどの世界でも同じ絶対の理、それは貴様らの世界でも同じこと。誰かを助けるのにも、何かを手に入れるのにも、愛する者と巡り会うのにも、力だ。力なくしてはなにもなせん。だからオレはそれを求めた。誰もオレを否定することはできん。何故なら、何かを願う者は必ずオレと同じことをするからだ」
 トリシューラを振りかざすと轟音とともに塔全体が鳴動した。 
オレは奈落の軍勢に代わり……、すべてを手中におさめる!