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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/第3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/第3回)

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第5章 化身【2】


 ほろびの森、駅から東北東20km地点。
 北北東の戦いとほぼ同時刻、人間ラーメンの渋井 誠治(しぶい・せいじ)はアガスティアとの戦闘に突入した。
 飛空艇に搭乗しての高速戦闘、敵の攻撃範囲を見極めつつ、射程外から銃撃を行う。
「前回の失敗の汚名挽回……違った汚名返上、線路は守ってみせる! 夢を叶えるまで倒れてられるか!」
「カレーラーメンの夢だっけ……、私もなんだか久しぶりに作ったラーメンを食べたくなってきたわ……」
 並走して高速戦中のヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)はポツリと呟いた。
「ああ、そうだな……、この戦いが終わったら……ってちょっと待て、それじゃ死亡フラグじゃないか!」
「大丈夫、問題ないわ。未だかつてラーメンを死亡フラグにした人はいないと思うから
「じゃあ、オレ達が人類史上初……ってその話はあとだ。アガスティアの弱点はなにか見つかったのか?」
 ヒルデガルトは首を振る。
「ぐるりと回ってきたけど、変わった箇所はどこにも……。ただ、一応こっちの銃撃は効いてるわ、なにせ木だから」
 たしかに直撃した箇所はおもしろいように吹っ飛んでいくがどうにも手応えはない。
 理由は明白、破壊しても破壊しても浸食の速度が落ちる気配がないからである。
「焼け石に水……ならこうするしかないか。環境破壊してすまない、あとで植林に来てやるから勘弁な!」
 おもむろに森に爆炎波を放ち火を放つ。
 取り込まれるぐらいなら燃やしておくの精神、しかしその精神の持ち主はなにも彼だけではなかった。
「すこし攻撃範囲に難はあるようだが、蒼空学園にも機転の利く人間がいるのだよ」
 黒薔薇の魔導師リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)は上空から様子を見ていた。
 籠手型HCに、先ほど凶司から送られてきたアガスティアの浸食データと防衛ラインに目を通す。
「リリが計算する手間が省けたのだ。すぐに作戦を始めるのだ、ユリ」
「わ、わかりました……、ここはワタシが時間を稼ぎます」
 フライングポニー:ポニさんに乗ったユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)は歌いはじめた。
 勿論、ただの歌ではない。悲しみと恐れを引き起こす歌姫の魔歌だ。
 音楽が植物に与える影響がよく知られてるとおり、世界樹と言えど例外なく歌の魔力に飲み込まれた。
 その隙にリリは森の間を疾走し、樹々に火を意味するルーン文字『ケン』を刻む。
「幸い風もないのだ。遠慮無くやれるのだよ……熱情の花弁もて焼き尽くせ、紅蓮の薔薇っ!」
 呪文に文字が反応し、森は一斉に炎に包まれた。
 進行方向の森を焼かれたアガスティアは動きに乱れが生じる、こうなってしまった森を食らうことはできない。
 となると方向転換するしかないのだが、なまじ大きくなりすぎてしまったためそれもままならない。
「せ、世界樹が混乱してる……、す、すげぇな、あんた! 二郎系のラーメンぐらいすごいぜ!
「細工は流々仕上げを御覧じろ、なのだよ」
 褒めまくる誠治に、リリはふふんと得意げに笑う。
 とその時、ドカーンという砲撃音とともに爆発が起こった。
「な……、なんだ、大砲か? あんなものまで用意して、おいおい……アレもリリさんの作戦か?」
「……リリは知らないのだ」
 ガタンゴトンガタンゴトンと線路を軋ませる音が辺りに響いた。
 暗い森を前照灯の光が貫き、冥界装甲急行ナラカエクスプレス・ターボタイプT、堂々の登場である。
 屋根の上に見えるのは、ひとりよがりのジャスティス青葉 旭(あおば・あきら)
「よーし、初弾命中だ。よくやったぞ、にゃん子。続けて第二射用意」
 指示を出すと屋根に取り付けられた砲身がぐるんと回る。
 砲手を務める山猫型ゆる族の山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)は言われるままに照準を絞り発射した。
 命中。アガスティアの方向転換先の森を微塵に吹き飛ばす。
「うーん、怒ってパルメーラが出てこなけりゃいいんだけどにゃあ……」
「何を恐れることがあるんだ。さしたる理由もなく現世を滅ぼそうとするヤツに正義が負けることなどない」
「理由はある気がするけど……」
 にゃん子はわたげうさぎの島で発見されたタシガンの無い地図を思い出す。
「無い世界がオリジナルで有る世界がコピーなのだとしら。もし二つの世界がナラカで繋がっていたとしたら……」
「偽物の世界が許せないとでも?」
「そうなると、黒幕はウゲン……ってことになるけど、そそのかされてる理由がはっきりしないのよね」
「まぁ、いずれ明らかになる。今はただターボタイプTの道を切り開くのが重要だ!」
 アガスティアの目と鼻の先まで来ると、二人は列車から飛び降りて線路塞ぐ根や枝の排除にとりかかった。
 オレは木こりさ、イイ男〜♪と鼻歌まじりに、旭は樹木をクレセントアックスで切り倒していく。
 どうもこの男、形からはいるタイプのようだ。
 それとその歌は後半に行くに連れ、女装趣味の嫌疑がかけられることになるので、気をつけたほうよい。
「さあ、道は開けた。オレ達の正義を知らしめるため、行け、ターボタイプTっ!」
 運転席に座る夢見がちな怪盗志望ゲー・オルコット(げー・おるこっと)は親指をおっ立て感謝をあらわす。
「……あんたの想い、しかと受けとったぜ!」
 とにかくもう学校や家には帰りたくなさそうな表情でレバーを最速に倒す。
「ぬ〜すんだ列車では〜しりだす、行き先も〜わか〜らぬまま〜♪」
 迫り来る巨大植物、乗り捨てられた装甲列車……とくれば特攻フラグ。
「なら回収するのはこのオレだ!」
 凄まじい速度で迫る巨大な樹々の塊を前にゲーはニヤリと笑う。
 そして、ターボタイプTはアガスティアに激突した。
 たくさんの弾薬を搭載していたせいだろう、列車は大爆発を起こして原型をとどめることなく吹き飛んだ。
 飛び火した炎は次第に広がりやがて世界樹全体を飲み込むだろう。
「ゲー……」
 遠くはなれた物見台に、彼のパートナーのドロシー・レッドフード(どろしー・れっどふーど)の姿があった。
私たちはあなたの事を忘れません。何故ならば、あなたは私たちの心の中で生きているからです……!
 割とどうでもよさそうな顔でモノローグをいれるドロシー。
 そんな彼女を星になったゲーは草葉の陰から……いやそのままの意味なのだが、隣りの木から見ていた。
 爆風にあおられて吹き飛ばされてきたらしく、枝に引っかかったまま身動きもとれずにいる。
 なんだか自由になれた気がしたゲー・オルコット19の夜だった。