イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

リアクション公開中!

第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

リアクション

 
 
 
そして終章の前に……
 
 コンロンの物語は、いよいよ終わりを迎えることになる。戦後については、この後述べられることになるが……
 幾つかの場面のその後を、見ておかねばなるまい。
 
 
 ヒクーロのあの戦闘の後……
 ヲガナの飛空艇は、丘陵に乗り上げ、大破しつつも山に衝突する直前に停止した。
 下の駐屯地から見守っていた者たちも、駆け付ける。勿論、いちばんに駆け寄ったのは、飛空艇の横に付けて飛んでいた鬼院尋人(きいん・ひろと)だ。
「黒崎……!」
 黒崎天音(くろさき・あまね)は、無事だ。多くの者が負傷し倒れている者もいるが、土御門雲雀ら救護班が、すぐに駆け付ける。
「鬼院。……おや、ナガンも一緒かい?」
 尋人の後ろで、おどけた仕草をしているナガン。尋人は、俺を見てくれよ、黒崎……と言いたげな瞳だが、天音はそれをわかっているように、すぐに瞳を見返してくれる。
 埃の中から、ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)も出てくる。
「く、……予想外に大変なことになったな。もう少し早く、発つべきだった。さて、次はどちらへ行くやら、……ゴホ、ゴホ」
 ヲガナも、姿を現す。
「げっほげほ。えらいことになった。おおう、俺の部下たちを……すまぬ、教導団よ。
 げほげほ、俺の、飛空艇、げほげほ……」
「色々ありがとうヲガナ様。また会いたいな……相性も悪くなかったし?」
 嘯いて、ヲガナの頬に口づける天音。
「お、おおう……?」ヲガナは困惑した。「何を言う……相性悪くなかった? おおう……??」
 ブルーズはまた苦虫を噛み潰す表情。尋人は、ポカンと見ていたが、微笑んでくれる天音に真面目な表情で、
「タシガンへ、戻ろう……黒崎」
「うん。そうだね。(実際にはもうちょっとこの場を手伝ってからだけど。)
 でも、また訪れたい場所だね。早川は、まだヒクーロにいるかな。
 ……空の滝を見たかい、鬼院? なかなか、素敵なところだよ。ヒクーロは。ヲガナ様もいるし、ね」
「な、なんじゃ……」
「黒崎。ああ……ありがとう。本当に、見つけられてよかったよ……」
 
 
「むう。ひどい有り様だな」
 【鋼鉄の獅子】の指揮官レーゼマンは、相変わらず龍騎士を鞭打っている紅月をよそ目に、指示を出しつつ、辺りを見渡している。
「む……あの少女は?」
 レーゼマンは戦いの後、一人の少女を見つける。茶色の髪に金色の瞳を持ち小柄で服はボロボロ……かなり傷ついているようだ。しかし、彼女の目にはまだ生きたいという意志が感じられた。戦火に巻かれた付近の民か? しかし、集落なども見当たらないし……
「……一緒に、来るか?」
 レーゼマンは、彼女を引き取り養子とすることにした。ここから、レーゼマン・グリーンフィールの新たな物語が始まることになる。
 更に……
「むううっ?! あの、獅子の仮面……あれは!」
 戦場を去っていく、獅子仮面とその一行。
 その後、本校に戻ったレーゼマンは、あの男と再会することになる。
「……待たせたな」
 ルース、月島、ルカルカ、ウォーレン、ナナ、橘カオルら【鋼鉄の獅子】の面々を前に――
レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)、本日付けを持って教導団及び鋼鉄の獅子へ帰還する!」
 その傍らに、「待たせましたね」と笑顔のシルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)ルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)イヴェイン・ウリエンス(いべいん・うりえんす)らパートナーたちも健在である。
 レオンハルトは、皆に言葉をかけ、とくに隊長代理を務めたルースを彼らしく労った。
 ルースは、レオンハルトの帰還を祝う皆を一時離れ、煙草を一服。
「フゥ」これで、オレの隊長代理は終了です……長かったようで短かったですね。まぁ今回で全部終わりです。本当に疲れました……ヒクーロの一件では最悪獅子が責任おうような事態になったら。全部オレが罪をかぶろうと、そうすれば迷惑はかからない……皆はそんな事望んでないんでしょうけど。責任はオレにありますしね、レオンならもっとうまくやったでしょうし……ま、最悪の事態そうしようと思っていましたが、さいわい、咎もないとのことですし、いやあ本当によかった。
「おや……レーゼ? どうしました」
「ルース。お疲れ様である」
「はあ……まあ、お互い本当に。とくにレーゼはよく生きていましたよ。(その顔も見れなくなったらさみしいですから!)」
「フッ」
 二人は、戦場を生きる男同士の視線を交わした。レーゼマンは、それだけ言うと去っていく。その後ろに、小さな女の子がちょこちょこと付いていく。「へ……レ、レーゼ。まさか、ついに幼女趣味に……?」
「ルースさん」
「ナナ」
 満面の笑みで、ルースのもとを訪れる、ナナ。ルースも笑みを返す。
「ルースさん。ナナから大事なお話が、あります」
「えっ。……い、一体……?!」
 ルースはどきまぎしたが。
 ナナのお話。
 実は、これは実際のところ、コンロンの今後にも関わる程の重要な話だった。
「なっ、何だって、そ、そんな……!」
 ナナは……ミロクシャを脱出する帝の側にずっと付き添ってきた、そのときに、こんな話をしていたのだった。
 ナナは思った。帝は、この後も、地位の為に、帝国に狙われ、コンロン再興の為、危険に身を晒し担ぎ上げられ……更には、教導団に保護されたとしても、コンロン進出へ関わることは必須でしょう。
「帝様……ナナたちと一緒に暮らしませんか?」
「エッ?」
 つまり、『ナナの養子』にするのです。
 帝様が、自らの意思でコンロン再興を望むのでしたら、ナナたちもそれを後押ししますし、旧軍閥のみなさまも力になってくれるかと。ですが、帝様がもう戦は、危険は嫌だと思うのでしたら、帝国にも、たとえ教導団だとしても、ナナたちが手を出させはしないのです――
「ナナには、最愛にして婚約者たるルースさんや、母と慕ってくださる隆光やレイちゃんもいます。
 一人でないからこそ、ここまで自身の意思で来れたのです。帝様も……ナナに甘えたり我侭を言ったりして下さってよいのです。
 もう、さみしい思いはさせません」
「ナナ……」
 帝は、勿論、コンロン再興において、コンロンの主柱となるべく担ぎ上げようとされる。それに最も相応しいのは帝を置いて他はない。だが、帝の考えも、尊重されることになる。帝は、ナナの言葉に心を打たれていた。帝は更に、ナナに………… さて、どうなる。どうなった。
 ナナから最愛の人ルースへの打ち明け話とは……。
 
 
 ヒクーロからは、【鋼鉄の獅子】同様、共に教導団のメインの部隊として戦った【ノイエ・シュテルン】のクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)も仲間のもとへ帰還する。その途中……
「変化は時として加速します。中には、すぐに変化に付いて行く事の出来ない者もいるでしょう。だが、その者たちを置き去りにしたまま前進を続けていては、いずれ、教導団は組織として立ち行かなくなります」
 隣のロンデハイネ中佐に、彼はそう述べる。
「中佐、あなたは、そういった者たちの気持ちをよくお分かりのはず、時に変化の速度を緩め、落伍者を拾い上げる役割を果たされてはいかがでしょうか? つまり、先頭に立って皆を引っ張るのではなく、最後尾を守りつつ、行き過ぎた変化に待ったをかける、という役割を」
 第四師団の古参として前線で戦い続けてきたロンデハイネは、教導団の組織は変化し、戦いのありようも変わり続けている、とクレーメックとの話の中で言った。そこには、ロンデハイネはこの後、戦線を退くという言外の意も垣間見られた。教導団の移り変わりの事実を認めた上で、それでもなお、あなたには大事な役割が残されているのではないでしょうか? との意見を、クレーメックは述べたのである。
 この後は、国軍としての本格的な活動が待っている。
 第四師団の将官の多くは、コンロンに残ることとなった。
 クレーメックら【ノイエ・シュテルン】も【鋼鉄の獅子】も、若い将兵らは、本校の任務へと戻っていく。
 本校に戻った士官や候補生らは 、団長・金 鋭峰(じん・るいふぉん)に帰還の挨拶をした。
 土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)は……
「自分がもっと強ければ、経験があれば、死なずに済んだ方も多かったのではと……今回の出兵で思い知らされましたです。秘術科としてお役に立てるよう、しばらくの間、魔術の本場イルミンスールへ研修に行きたいのであります。有事の際には即座に帰還いたしますので!」
 コンロン戦線がひと段落ついた後、団長に魔術研修を申し出たのであった。
「ウム……それもよいだろう」
 団長は雲雀の申し出に頷いた。
「はっ、はい!」雲雀は敬礼した後、
「あ、もう一つお聞きしたいのですが!
 教導団が国軍になって……団長の事は何とお呼びすればいいのかと、その」
「フム……」
 団長は、思案するような表情の後、
「団長でいいと思うが……」
「はい! 団長!」
「それとも、フ……名で呼びかけてみるかな?」
「はい! はっ……エエエ??!」
 
 
 生徒の中には、戻らなかった者もある……それに、戻ったが、変わり果てた姿で戻った者も、いた。
「ザウザリアス候補生、か……その目は、どうした?」
「……はっ」
 戦いの後、ミカヅキジマの戦いで捕虜となっていたザウザリアス・ラジャマハール(ざうざりあす・らじゃまはーる)はその身をシクニカの地下に囚われていたと言い、シクニカに向かっていた獅子の部隊に連れられ帰還を果たした。しかし……
 ザウザリアス候補生の両目は、無残に潰されていた。無論、その光は失われた……凄惨な拷問であったのだろう。
 ザウザリアスが処分に問われることはなかったが、この体で、教導団を続けていくことはできるのか、今後の希望はあるか、問われた。しかし彼女は、もとより戦闘員ではなく参謀を目指す者であるので、頭脳さえあれば光を失おうが問題ない、と、教導団に残る意思を述べた。
 今後は、光を失した彼女の代わりに、パートナーのボア・フォルケンハイン(ぼあ・ふぉるけんはいん)が目の役割を務めるという。
 コンロン出兵に参加した者の中にはザウザリアスを疑う者もいたが、憶測の域を出るものではなかった。
 
 
「ほう。トマス君、少尉に昇進かぁ」
「はい!」
 本校の棟を歩いているのは、【龍雷連隊】の新人……から出世した、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)に、源 鉄心(みなもと・てっしん)。鉄心は、コンロンで契約し連れ帰ったイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)に、本校を案内して回っているところなのだ(やっと正式に契約してもらった?イコナ「ノーモア・お留守番!! ノーモア・お留守番!!」)。新しい任を受け、校長室を出てきたトマスもそれに付き合って一緒に歩いている。
「初々しい少尉だね。でも、あの隊長さんを抜かさないようにしないと?」
「は、はい気を付けます(?)……!」
 出兵当初に新兵として従軍したトマスら以外にも、とくに戦争も終盤に近付く頃、新しい兵器やイコン等と共に、多くの新しい人材も、参加した。彼らの躍進は、これからのものになるだろう。先輩たちも一層奮起せねば。
「あ、えっと。鉄心さんは……」
「俺はとりあえず、騎兵科の助教に収まったのだけどね。まあ、この先どうなるか……」 
「あっ。この先は……」
「ん?」
 トマスは、廊下の先を指した。
「騎凛教官の部屋。だった……」
「ふむ。思い出すね。コンロン出兵に参加するとき、一人一人、教官に挨拶に行って……」
「僕の前が鉄心さんで、あの部屋の前で、すれ違いましたよね」
「長い出兵だったな」
「はい。……騎凛教官も、もうあの部屋にはいないのですね」
「まあ、めでたいことだから、よかったじゃないか?」
「はい。……でも、どうなのでしょうね。教官は」
「……」
 ……、騎凛セイカは……コンロン帝との、結婚話が持ち上がっていた。
 コンロン帝・11歳。騎凛セイカ・16歳(見た目)。
 そこには、シャンバラ側の政略的な意図も、当然?見え隠れしていたわけだが……
「な、何だって。そんな無茶苦茶な……!」
「ええ、はい」
 騎凛は、親友に相談するように、メイド隊長であり大切な朝霧 垂に打ち明けていた。
「認めないぞ。俺は……」
 シャンバラの貴族でもない軍人のセイカと結婚して政略的意味があるのか? わからないが、ともかく……!「俺じゃないならせめて、久多のような存在ならともかく、……」朝霧は珍しく、騎凛の前で、本気で自らのもどかしい思いを露わにするが……
「し、垂……?」
「あ、ああ。ごめん、セイカ、だけど……」
「ええ、ええ。だって……シャンバラ政府が私のことを、公式NPCであり、元・十二星華(?)のピチピチの剣の花嫁で、16歳の若い娘だっていうふうに売り込んで……」
「あ、……あのなぁ」
 朝霧は怒りを設定に向けた。「自称設定っていうんだ、それは!」
 垂的に許せません!
「わ、私もさすがにそう思います。11歳の男の子が相手なんてね、それだったら久多さんの方が? ふふ」
 騎凛は冗談めかしていうが……朝霧は、気付いてくれてないのか、セイカ――と思う。俺は……本当に!
「垂?」
 朝霧はともあれ一旦冷静になり、
「コンロン帝と結婚するより良い案があるぜ……養子にするんだ、形式的にな」
「は、はぁ。用紙?」
「そうすれば混乱している今の現状に対し、公にシャンバラが立て直しに協力する事が出来るし、コンロンが落ち着きコンロン帝も立派に成長した際に独立して歩いていくことも出来る……それに好きになった相手と結婚する事も出来るしな。コンロンの帝だって、本当に好きな相手はセイカじゃなくいるんだろう?
 どうだ? 良い案だと思わないか?」
「はぁ……えーっと。用紙……」
 
 
「養子になる……ボクが、ナナの?」
「はい」
 ミロクシャを落ち延びる、馬車の中。
 帝のことを思った、ナナからのわりと思い切った提案であった。もし、これ以上、つらい戦に、政治に、巻き込まれるのが嫌なら……一人の、男の子(男の娘?)として。ナナたちと、一緒に暮らしませんか?
「それがナナからの、提案です」
「ボク……ボク……ナナのことが……ナナ!!」
 帝は、暗がりの馬車の中、ナナに抱きついた。「あっ。帝様(また下着が……あっ)」
「そ、そうです。さみしければ、我侭を言ったり甘えて下さっても、って、ああ……あっ」
「そうじゃ!!」「そうなのじゃ!!」
 突如、馬車の隅っこに俯いて動かないまま控えていた、爺と婆が立ち上がった。
「?! えっ、え……??」
 ナナは驚く。帝はナナにしがみついたままだ。
「この子は……コンロンの帝位に収まっていてはいかぬ……」「コンロンの帝位なぞに収まっているわけには、いかんのじゃあ!!」
「え、ええ? では、帝様……? このお方は、一体……?」
「コンロン山の、上……」「天、天……」
「え、ああ、ちょっと……?」
 爺と婆はそのままへたっとへたり込んで眠ってしまった。ゴトゴトゴト……暗闇の中を、馬車の走る音。周囲を警護する騎狼の足音も聴こえている。帝も、ナナにしがみついたまま、眠ってしまったようだった。
 
 
「用紙…………」
「ん……でだ、セイカ」
 朝霧は、『約束の指輪』を取り出し、騎凛に差し出す。
「変と思われるかもしれないけど、やっぱり俺はセイカの事が好きだ。愛してる」
「垂?!!」
「一番身近な場所で、おまえの事を支えて行きたい……結婚してくれ」