校長室
話をしましょう
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「ベルガモットティ美味しかったよ、ご馳走様。あ、面談だからって固くならなくていいんだからね?」 「喜んでいただけて嬉しいです」 静香の言葉に、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は尊敬のまなざしで答えた。 固くなるなんてとんでもなかった。今日のティーパーティと面談は、敬愛する校長と直々に、じっくり話ができる機会なのだ。 (校長に、あたしのことをもっと知ってもらいたいな……) 愛らしくていつも可愛い恰好をしていて、周囲に人が集まってくるような校長先生に、ネージュは憧れていた。フリフリ服が好きだったし、将来はパラミタいちの人気者になりたいと思っていたのもある。 「それじゃあ、早速質問に入るね。ネージュさんの将来の夢はある?」 「ゆくゆくは家のグループ企業のひとつを任されると思いますが、それまではヴァイシャリーにいたいと考えています」 「確かご実家は、IT企業『フロゥテクノロジー』だったね。何年先か分からないけど、貴重な学生生活を楽しんでいってね」 外見はまだ小学生のように見えるネージュだが、実は将来をまだまだ先だから、と言い切ってしまえる年齢ではない。進路が決まっていることに、静香は校長として安心した。 「次は、困ってること、今あるかな?」 「学生寮の部屋や、男の子パートナーについてですね」 「男の子パートナー……」 「パートナーが増えてくると、さすがにお嬢様がゆったりと過ごせる一人部屋でもかなり手狭になってきます。男の子を女装させて通学させている場合には、校内でのお手洗いや更衣室などの問題もあります」 「あー、えーと、それは……百合園は男子禁制だよ?」 上ずった声で言って、静香は目をちょっと彷徨わせた。彼が男子なのは公然の秘密みたいなところがあるが、一応、教師ですら女性で占められている百合園はそういうことになっている。 面と向かって言われてしまうとどんな反応をしていいのか、困る。 「男の子なら、別々に暮らしたり別の地元の学校に通うとかあると思うよ、うん。……で、ええっと、部屋が手狭っていうことに関してだけど」 強引に、静香は話題を変えた。 「確かにパラミタで複数人と契約する地球人が増えているよね。だから、もっと大勢で暮らせるような寮を、今までとは別に用意してあるよ。ルームシェア物件っていうのかな。共有スペースの他に個室が幾つかあるタイプの部屋だね。ネージュさんが希望するなら、すぐにでも移れるよ」 「ありがとうございます。パートナーと相談してみます」 「……次ね。ネージュさんと仲が良い人はいる?」 「ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)さん、神代 明日香(かみしろ・あすか)さん、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)さん、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は百合園に来た当初から結構一緒になることが多かった気がします。 如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)さん、レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)さん、秋月 葵(あきづき・あおい)さん、葦原 めい(あしわら・めい)さんはあちこちで一緒になり、かけがえのない親友となりました」 「沢山のお友達がいるんだね。じゃあ最後に、今の趣味は?」 「最近はお料理、特にスパイスやハーブを中心としたものに凝っています。百合園寮に程近いヴァイシャリーの街の一角でちょっとした飲食ができる談話室を開設していたりします。 ヴァデス大地の新入生歓迎オリエンテーリングで、本格的な手作りカレーをルゥからやってみたら、これが大好評だったことがうれしくて、改良につぐ改良を重ねていたら、いつの間にかカレー屋さんをやっていました」 「カレーかぁ。日本式のカレーも食べられたら嬉しいな。ここは地球の日本の学校だから、日本でも大人気のカレーを食べて、懐かしく思い出す人もいるんじゃないかな? 今度僕も食べに行くね」 「日本ですと、ビーフ、ポーク、チキンが定番ですね」 「野菜カレーや魚介のカレーもいいね〜。そうそう、鯖カレーっていうのがあってね」 この後二人の会話は、面談ではなく、カレー談義になってしまった。