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第3章 個別面談

「そうですわね。例えば白百合会の奴隷もとい小間使いとして存分に弄って下さるとか」
 艶めかしい仕草で指を振り、
「もしくは出来るだけ重たい責任を背負わせて胃に穴が開く位責めて欲しいですわね」
 唇の端を舐め、
「雄と言う名のケダモノの生贄にしてしまっても結構ですわね。魔獣や恐竜の類の嫁にしてしまっても問題ありませんわ」
 八重歯をちらりと覗かせて。
「これでも彼女の心配をしているのですわよ」
 彼女ティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)はまるで拷問の相談でもしているかのようなことを口にした。勿論最後の心配というのは真っ赤な嘘。
「あら、そろそろ時間ですわね。もっと色々とお願いしたかったわ。──ふふっこの事は秘密になさってくださいな」
 愉快そうな声を残して、彼女はその部屋を出た。
 側の廊下で時計を確認して待つこと一分、パートナーの姿を見つけると、ティアは笑顔を引込めた。疑われないためである。
「?? ティア、何でそんなとこに?」
 清良川 エリス(きよらかわ・えりす)はティアの姿を見つけると、疑問を顔に浮かべた。
「あたし、エリスが緊張していると思ったんですわ。見送りだけさせていただこうと思って」
「……ティアらしくあらしまへんなぁ。ちゃんと面談してくるさかい、安心して」
(ちびっと疑ったやけど、心配しはることおへんどしたわ)
 エリスは手を振ると、部屋の前に立つと、扉をノックした。
「どうぞ」
「失礼します」
 生徒会が用意した面談室には、生徒会の来賓室の一つが当てられていた。
 豪華な織物を張ったソファを勧められて、エリスは、あぁ自分も一歩踏み出したんだなぁと、何となく感慨のようなものを感じていた。
(ティアもたまにはええこと言わはります)
 この面談を決めたのは、パートナーであるティアに強固に薦められたからだった。
 確かに、契約者になってパラミタへ来たものの、特別目立った能力も活躍もないそんな自分。
 今したいことは幾つかあるけれど真剣に考えたことはなく、将来のことは猶更考えたことがなく……。でも、このまま漠然年を重ねるのは良くない気がして。
 それで、ティアに言われてそろそろ真剣に考える時期だと、そう思ったのだ。
「清良川エリスさんね。白百合会会長伊藤春佳です。気負わずに、お茶会の延長の談話と考えて答えてくださいね」
 春佳は手元の資料を見つつ、予定していた質問をした。
「清良川さんの将来の夢は? 進学や就職を希望されていますか? それとも永久就職を考えていますか?」
 ──が。しょっぱなから、エリスは言葉に淀みが出てしまう。
「えぇと、多分親が決めた相手の所に永久就職やと思うて……」
「地球に帰られるの?」
「その相手が地球に居るのかパラミタに居るのかは判れへんし、決まってるかどないかも……」
 だから、パラミタに留まるのか、地球に帰るのかも分からない。
「そうですか。まだ分からないことが沢山あるのでしたら、ご両親に、まずお相手が予定されているかから伺っては如何でしょう? 結婚は一生相手と添い遂げる覚悟で、といいますと古風ですが、大事なことですから。もしその最終的にご両親のご意思に沿う道を選ぶとしても、先々の予定を知っておくのは、将来設計に大事なことだと思いますよ」
「は、はい」
 エリスはこくんと頷く。何だか質問の一つ目なのにハードルが高いような気がする。
「では、二つ目ですね。今の暮らしで何か困っていること、気になっていることはありますか?」
 これなら答えられる。
「パートナー(特にティア)の性格と、パートナー(特にティア)の持ち込むトラブルです」
 男性に肌を見られたりしたのを思い出す度に、エリスは死にそうな気分に襲われる。
「それは……」
 春佳はひどく同情するような顔をした。さっきの訪問を思い出したのだ。
 あのパートナーでは大変苦労することだろう。それが引っ込み思案な彼女の後押しかも知れなくても。
「パートナーとは良く話し合われることが大事でしょうね。縁あって結ばれた二人でも、時が経つにつれて空気のようにそこにいいて当たり前になってしまい、甘えてしまって、関係を悪くしてしまうということもありますものね。……もし二人で解決できないと感じたなら、生徒会室に相談に来てくださいね。役員や生徒が誰かしらいて、話を聞いてくれると思いますから」
「はい」
「それでは親しみを感じている人はいますか? 相談できそうな人、でもいいですよ」
「特に誰が特別に、ということはあらしまへんなぁ。校長先生には憧れてますけど……可愛らしくて家庭的で」
「では、最後の質問を。清良川さんの趣味はありますか?」
「お料理どす。考えて工夫をして美味しいものが出来た時は嬉しいし、美味しそうに食べて喜んでいる姿を見ると嬉しいんどす。あとは、着物の着付けやコーディネイトも大好きどす」
「お料理ですか。例えば得意なお料理は」
「い、活け作りとかも大丈夫どすっ」
「家庭的なんですね。例えば、戦争に赴いて戦果をあげたり、白百合団で活躍する学友をどう思いますか?」
「活躍したはる人は眩しくもあり羨ましくもおます。ただ、人には向き不向きがあります。同じにしたいとは思いまへん。出来れば人の助けや支えになる事で、将来やけでなく、今この時、在学中も出来る事を探したいどすなぁ」
「でしたら、こちらから幾つか提案をしてみましょうか、例えば、着付けの教室を開く。例えば、……光条兵器。包丁型だということですが、古代遺産をそんな風に使うのは気が引けるかもしれませんが、これで小料理屋を開くとか」
 冗談とも本気ともつかない口調で、春佳は言った。
「全ての道具は使う人の意思次第なのだと、それで変わっていけるのだと、示せるかもしれませんね。中には不謹慎だっていう人もいるかもしれませんが」
「は、はぁ」
「派手なことばかりが活躍ではありません。もし迷ったら、生徒会の手伝いをしたり、白百合団に入ったり、女官やメイドの道もあります。挫折や迷いのない青春の方が珍しいのです、何でも一度試しては如何でしょうか」
 こくこくとエリスは頷いた。
 このうちどれが、或いは全く別の道が自分に合っているのかは分からないが──分からないならそれだけ沢山の選択肢があるような、そんな気になっていた。