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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第3回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第3回

リアクション


(・それぞれの心境2)


「一つ確認しておきたいことがある」
 榊 孝明(さかき・たかあき)はレイヴンに搭乗する前に、風間に尋ねた。
「BMIを利用して、相手のカメラにソートグラフィーで一時的に画像を映すことは可能だろうか?」
「不可能ではありません。高シンクロ率下では、これにより機体のを誤認させることが出来ます。その機体からは、残像として映るでしょう」
 シンクロ率を上げなければならないらしいが、どの程度かまではパイロットではない風間には分からないらしい。
「ジャミングが出来れば容易でしょうが、ブルースロートと違ってあまりレイヴンは向いていませんからね。まあ、情報撹乱が出来ればあるいは可能かもしれませんが」
 聞き終えると風間に一礼し、自分の搭乗するレイヴンの機体へと向かった。
「どうしてあんなこと聞いたのさ?」
 益田 椿(ますだ・つばき)が不思議に思ったようだ。
「もし『暴君』が現れたときに、ヴェロニカの姿を奴のカメラに写すためだ」
 同じBMI搭載機でもあの同調率は異常だ。おそらくは、何らかの操作によってパートナーとの境界を、人格を矯正することで埋めようとしていたのだろう。あのベトナムの08号の人格が豹変していたのは、おそらくそのせいだ。
 ならば、情報の格差を起こせば同調率は下がらざるをえない。あの驚異的な先読みを封じることが出来るかもしれないのである。
 とはいえ、そのためにヴェロニカの思い出を利用するような形になるため、心苦しいものがある。
 もっともあの「暴君」が現れなければ、今そういう心配をする必要もないのだが。

「あとは最終調整だけです、姫」
 天司 御空(あまつかさ・みそら)白滝 奏音(しらたき・かのん)はクラウディアが整備していたレイヴンTYPE―C【ホークウィンド】の元へ足を運んだ。
「この様な俗物に姫の身を任せること自体私は反対ですが、これも職務とあらばやむを得ません。全力をもって助力致しましょう」
 奏音の身を案じているようだ。
 おそらく、前に御空が無茶をしたこともあり、彼女が同じ目に遭わないようにとのことだろう。
「ありがとうございます。御空、コックピットで最終調整を」
「了解」
 コックピットに乗り込む際、すれ違い様にクラウディアと目が合った。
「……ああ、お前のことは別段どうでもいい。精々命懸けで姫を護ることだ」
「言われなくても、そのつもりだよ」
 そして彼らは最終調整に入った。

「機体の調整はこんな所ですね……BMIのチェックも問題ないですか? 今までのアナタのデータを元に、出来るだけ最適化はしてみたつもりですが……」
「ええ。十分です」
 シフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)四瑞 霊亀(しずい・れいき)から整備状況を確認した。
「……やはりリミッターは解除されてますか」
 あの風間のことだ。自分達最初期のレイヴンテストパイロットは、もう制限を設ける必要がないと判断していても不思議ではない。最近は、シンクロ率の限界域とされた50%が上限に設定されていたほどだ。
「シフ、私も力を貸します。悔いのないよう、全力でいきなさいな」
 魔鎧形態となり、シフは彼女を身に付けた。
『メンタル面では安定していると思いますが、セルフモニタリングでの自己管理は忘れずにしなさいね。能力の範囲にもよりますが、ヒプノシスでの攻撃も有効かもしれません。向こうも対処しにくいでしょうし』
 まだそれが通用するかは分からない。仮にそれが通用するならば、相手にとって脅威となり得る。
 まだ秘めている可能性を見出すための答えを、シフは自分なりに見つけた。
 この戦いが正念場だ。

「よくわかんないけどリミッターが解除されてるわ。きっと私の実力ね」
 葛葉 杏(くずのは・あん)もまた、リミッターが外れていることを知った。
「杏さんはさすがですぅ」
 橘 早苗(たちばな・さなえ)が言う。暴走の危険があるにも関わらず、解除されたということは、それを制御出来ると見込まれているからだろう。杏は前向きに捉えていた。
「早苗、今回は実戦よ。最悪シンクロ率も上げられるだけ上げるわ」
 ウクライナ、そしてシミュレーターで相手の強さは体感している。場合によっては暴走の危険性が高くなる50%を超えることも必要になってくるだろう。
「あなたはいつも通り私を100%信じなさい。私も早苗とレイヴンを信じるわ」

* * *


「モモ! 新型機、新車の匂いがするネ! 僕達のコームラントはボロボロだけど」
「コームラントの次世代機はないんだ……」
 イーグリット・ネクストとブルースロートを遠目に、コンクリート モモ(こんくりーと・もも)は憎々しげに下唇を噛んでいた。
 もっとも、イーグリット・ネクストはコームラント並みの火力も備えているため、ある意味ではコームラントの次世代機という側面もある。
 第一世代機が近接戦と砲撃支援による連携に重点が置かれていたとするなら、第二世代機は攻撃と防御支援による連携に重点が置かれているものだ。
「自機に改造費突込み過ぎちゃって、今更他の機体に移れないんだね……」
 ハロー ギルティ(はろー・ぎるてぃ)が同情するような視線を送ってくる。
「そうじゃないわよ! じ、実戦に何が起こるか分からない試作機に搭乗するなんて、正気の沙汰じゃないわ……」
 彼女が搭乗するのは、乗り慣れた自分の機体だ。
「機体も仲間も信頼出来る相手だから命を預けられる……ち、違うかしら?」
 性能の差こそあれ、やはり自分の相棒を乗り換える気には、まだなれなかった。

「第一世代機の限界があるから、いつかは置いていくしかなくなるかもしれない。でも……本当にそれでいいのかな」
 端守 秋穂(はなもり・あいお)は愛機、【セレナイト】へと視線を送った。
 開発中の第二世代機が近々導入されるかもしれないとは聞いていたが、覚醒のときから一緒である「仲間」を性能面のみで見捨てて乗り換えていいのだろうかと自問し、限界を知りながらも乗り換えることはしなかった。
「秋穂ちゃんは、優しすぎるんだよー……」
 思い悩む秋穂に聞こえない声で、ユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)が声を漏らした。この悩んでいる状態は、あまり芳しくはない。
「迷ってるみてぇだな」
「ベルイマン科長……」
 そんな彼の姿を見かねてか、ハンガー内を見回っていた整備科長のベルイマンが歩み寄ってきた。
「ずっと一緒だった相棒を見捨てるって思ってんなら、そいつは間違いだ。お前達の戦闘データは全部、その認証カードキーの中に記録されている。例え機体は変わろうとも、相棒の記憶は引き継がれてくもんだ」
 学院イコンはパイロットを認証後、各パラメーターが自動調整されるようになっている。今年度からはカードキーの中にそのパイロットのデータが完全に記録されるようになっているため、機体間でのデータの引継ぎも容易になった。
「じゃあ、これからも仲間として一緒に戦えるんですね」
 ベルイマン科長がにっ、と笑う。
「機体を乗り換えたら、最初は振り回されるかもしんねぇ。けど、すぐに新しい機体に適応して、お前達に合うように調整されるはずだ。こいつらは賢いからな」
 今回の戦いで決心がついたら、次世代機搭乗の申請を行うようにとのことだった。

「真理、あとは最終調整だけです」
 整備を終えた南蛮胴具足 秋津洲(なんばんどうぐそく・あきつしま)は、高島 真理(たかしま・まり)に告げた。
 彼女たちもまた、第一世代機で戦場に出る。
「第二世代機の整備を手伝うことは出来ませんでしたが、確かに性能は現行イコンを凌駕していました」
 その分、パイロットの技量が問われる機体になっている。これまで以上に戦いの幅は広がるが、最低限イーグリットを乗りこなせなければ扱い切れない。そんな印象を彼女は受けた。
「いずれはボク達も乗れるようになりたいよね。だけど、今はこの機体の力を最大限に引き出し、自分達に出来ることをしないと」
 機体の最終調整をするために、コックピットへと向かう。
「真理様、こちらを」
 敷島 桜(しきしま・さくら)がノートPCを真理に手渡す。彼女の本体だ。それをコックピットでシステムと繋ぐ。
 データ収集や、情報処理、管制系統の補助を少しでも務められればと思ってのことらしい。
 そして彼女達は最終調整を始めた。

* * *


「ダークウィスパー全機、整備完了」
 クローディア・アッシュワース(くろーでぃあ・あっしゅわーす)が所属するダークウィスパーの基本的な整備が終わったことを確認した。
 ここからはパイロットを交えての最終調整となる。
「レプンカムイのデータはカードキーの中に入ってるから、イーグリット・ネクストでも使えるみたいだね」
 天王寺 沙耶(てんのうじ・さや)はコックピットの中の計器類を確かめた。
「もちろん、データ取りのためにセンサーやレコーダーは今回も増設してもらったよ。特に、第二世代機はまだ試作段階だから、実戦での運用データ次第で改善の余地がある部分も出てくるだろうから」
 そこへ、ある調査結果を携えシャーリー・アーミテージ(しゃーりー・あーみてーじ)がやってきた。
「沙耶、F.R.A.G.に関連して、聖カテリーナアカデミーとシスター・エルザについて再調査してきました」
 クルキアータのパイロットを養成していることから、場合によってはアカデミーも参戦するかもしれない。そのため、念入りに調べていたようである。
「九年前のアカデミー設立時の写真を見つけましたが、このときからシスター・エルザの見た目は全く変わっていません。この時点で校長に就任したとありました。当時イタリア国内以外では大々的に報道されていなかったため、彼女が特別注目されることはなかったようです」
 その後、欧州魔法連合が力をつけるまではヨーロッパで最も影響力のあった契約者養成校だったという。
「EMU誕生後、ロシアや教会の影響が強い南ヨーロッパ諸国との間で緊張状態になりましたが、その際に中立を貫き、緊張を緩和するのに一役を買ったとも言われています。しかし……」
 不確かではあるが、気になる情報を見つけていたらしく、一呼吸おいてそれを伝える。
「彼女は決して平和主義者というわけではなさそうです。当時のロシアやEMUの代表が会談を開く中で、『気に食わないんなら潰し合ってはっきりさせればいいんじゃないかしら。もっとも、そうなったときに一番得をするのはどこだと思う?』と発言したとのことです。自身のアカデミーもイタリア国内にある以上、衝突したらタダでは済まないかもしれないというのに。しかし、これでかえって冷静になり、衝突が起こった場合はアジア圏の一人勝ちになるということに気付いたようです。黒い噂こそありませんが、内心何を考えているか一切分からない人物ということで一部の有力者や彼女と顔を合わせた者は、エルザ校長のことを恐れている節があります」
 ある意味、枢機卿以上に厄介かつ危険な人物かもしれない。ただ「その方が面白い」という理由だけで枢機卿に協力した可能性だってある。
「直接顔を合わせる機会はないかもしれませんが……F.R.A.G.ともども警戒しておいた方がいいかと思います」

「結局、戦うことになっちゃうのか……」
 高峯 秋(たかみね・しゅう)はぽつりと呟いた。地球を守るため、という思いは彼らも同じだ。
 決して分かり合えないわけではないだろう。だが、少なくとも今は戦い、生き残らなければならない。
「エル、これを」
 エルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)に虹のタリスマンを手渡す。お守りだ。
「ありがとう、アキ君」
 そして、レイヴンTYPEーCとなった相棒【ジャック】を見つめる。
「行こう、ジャック」

「……やるしかないっていうのか」
 狭霧 和眞(さぎり・かずま)も、心中複雑だった。
 もしかしたら分かり合えるかもしれない。彼もまた、そう考えていたうちの一人だ。
 出来ることなら、戦闘力だけを奪って今は退いてもらいたい。手加減して勝てる相手ではないと分かってはいるが。
「……ゴメン、トニトルス。オレが不甲斐ないばっかりに」
 そのためには、自分の相棒【トニトルス】では決定力が足りない。だから、今回は第二世代機で出撃する。
「シミュレーターで動かしたときと、システムは同じです。あとは、実機との差がどれだけあるのか……」
 ルーチェ・オブライエン(るーちぇ・おぶらいえん)が顔を向けてくる。一度シミュレーターで操縦を体験したときは、その出力の高さに驚かされたものだ。
 実機でどれだけその性能を引き出せるかは分からない。だが、今は自分に出来る限りのことをやるしかない。

「……厳しい戦いになるだろうな」
 イングリッド・ランフォード(いんぐりっど・らんふぉーど)は声を漏らした。
「こちらは第一世代機のコームラント、あちらは最新鋭機クルキアータ。性能格差はすごいですねぇ」
 キャロライン・ランフォード(きゃろらいん・らんふぉーど)と共に、自機を見上げた。第一世代機であるコームラント、【アトロポス】
「性能は奴らが上、隊長機ともなれば技量も上だろう。それに、共同作戦のときの隊長……奴とも遭遇する可能性はある。
 だが、負けはしない。グエナとの戦いで学んだこと、磨いた力、その全てをもってぶつかる」
「まぁ、負けてあげる気もないですしぃ。それにぃ、そもそもキャロ達は負けられない……でしょぉ?」
 この状況下で第一世代機で出ることを選択したのも、その理由からだ。
「私は奴の墓前に誓ったんだ……遺志を受け継ぐと。仲間のために戦う。パラミタのためでもなく、学院のためでもなく、部隊の仲間のために、私はこの力を振るうんだ」
 グエナ・ダールトン。
 あの男は、性能の劣る機体で覚醒状態にある学院の一小隊と互角以上に渡り合っていた。だからこそ、彼女は自覚している。性能の差はパイロットとしての腕で十分埋められるものであると。
「そうですよねぇ。負けたらグエナさんに顔向け出来ませんよぉ」
 だが、戦う相手であるF.R.A.G.第一部隊の部隊長もまた、グエナの遺志を継ぐ者だ。イングリッドはまだそれを知らない。
 強く頷き、コックピットへと乗り込む。
「さぁ、行くぞアトロポス。奴らの運命の糸を断ち切る女神は、私達だ……!」