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リアクション
・地下防衛
(完全に感情を制御し、一糸乱れぬ統率が取れた一騎当千の兵によって構成される戦闘集団。
……あぁ、実に理想的だ。素晴らしいとも思う。恐らくは、欲しいと思わない国は探してもそうそうないだろう)
だが、今目の前にいるオーダー13によって制御されたエキスパート部隊は、それとは違う。
「さすがにヒプノシスは通用しないか」
強化型Pキャンセラーが起動されるまでの間、エキスパート部隊の相手を彼女やサイオドロップの面々が引き受けている。
歴戦の防御術による立ち回りと、氷術の氷を使っての足止めが主だ。直接狙えないのは、フォースフィールドを展開されているからである。
相手は三人一組で連携している。一人が防御、あとの二人が前衛と後衛での攻撃だ。全員が短刀と拳銃を所持している。それぞれ役割を固定しているわけではなく、こちらの対応に合わせて臨機応変に三者で交代していくために、行動が読みにくい。
(こいつは厄介だ。だが、やはり気に食わん)
確かに、精密機械の如く完璧な連携だ。しかし、そこには一切人間らしさというものは存在しない。
オーダー13下の強化人間達は「人」という「個」を殺し、「群」の一部として動く歯車に過ぎない。戦い方を観察すれば、それがよく分かる。密かにビデオカメラを回し、サイオドロップとエキスパートの戦い方を記録しながら、両者の動きを比較する。
サイオドロップの方は、役割を固定し「個」の強みを生かした戦い方をしている。ミラージュで分身と投影してから実践的錯覚でどれが本物か分かりにくくした上で攻撃する……と思わせて、そこに注意が向いた瞬間に別の人が「その幻影ごと」カタクリズムで敵を吹き飛ばす。一歩間違えれば味方を傷つけかねないものの、互いに信頼関係が成り立っているからこそ、リスクを恐れずに行えるものだ。
オーダー13下の強化人間に、「信頼関係」というものはない。彼らは戦闘において最適な戦い方を効率よく、機械的に行うだけだ。そのために「味方の犠牲が必要」と判断したら、真っ先に切り捨てるだろう。
人の「可能性」の鍵は感情にある、それがリデルの持論だ。負けたくない、勝ちたい、誰かを守りたい、誰かを倒したい。思うことは人それぞれだが、意思がなくては「可能性」は発揮出来ない。
機械では「限界」を超えられない。「限界」を超えようという意思がなければ、「成長」はしない。だからこそ、「自らの意思を持たない戦闘人形」には、絶対に反対だ。
(……人助けも今回限りだろうな)
口元を緩める。元々、自分は善人ではない。こういう柄でもないことをすることはもうないだろう。
「もうそろそろ着く頃か……」
* * *
「ここか」
昌毅とマイア、那由他の三人は電気室の前まで辿り着いた。
「にしても、えげつなさ過ぎるぜ。みんな能面みたいな顔してやがった」
同行しているパートナーのマイアに視線を送る。
契約者となっているためなのか、オーダー13下でも自我を保っていられているようである。本調子とはいかないようではあるが。
強化型Pキャンセラーは彼女に持たせてある。万が一のとき――彼女がオーダー13の命令に抗えなくなるか、暴走しそうになったときのためだ。
「誰も来てないよな?」
「大丈夫だ。ここに来るまでにトラップも仕掛けてあるのだよ」
那由他が通路の奥を見つめ、確認した。トラッパーで用意したとはいえ、エキスパートの前では気休め程度にしかならないだろう。だが、起動までの時間稼ぎにはなるはずだ。
「入るぞ」
代表から渡されたリモコンのスイッチを押す。壁の一部がスライドし、通路が現れた。
「あと少しだ、行くぞ」
入った直後に、もう一度スイッチを押して壁を塞ぐ。これでエキスパートに見つかることはないはずだ。
通路の先にあった電気室は、とても部屋と呼べるような場所ではなかった。狭い空間の中に一つ、箱型の装置が置かれているだけである。その箱からケーブルのようなものが天井に向かって延びていた。
「コイツか……」
見たところ、特に壊れている様子はない。
そこにある全ての電源をオンにし、地下にある全ての固定式Pキャンセラーを発動する。
「これで本当に発動したのか?」
「ここからでは確認のしようがないのだよ」
正常に作動しているか、確かめる必要がある。
「二人とも、ここで待ってろ。様子を見てくる」
マイアと那由他を残し、地下通路へと引き返していく。通路を歩いていくと、倒れている強化人間を発見した。
「どうやら起動させたようだな」
声を掛けてきたのは、リデルだ。無傷とはいかないまでも、軽症では済んでいるようだ。
「ああ、ちゃんと効いてるようでよかったぜ」
強化型Pキャンセラーの影響で精神ネットワークにも障害をきたしたのか、完全に停止している。意思を持たない以上、司令塔からの命令が届かなければ動くことが出来ない、ということだろう。
これで地下の安全は確保された。
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