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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)
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●イルミンスールの森:世界樹クリフォト

 禍々しい雰囲気を漂わせる世界樹クリフォト。
 今その樹には、一組の男女が向かい合い、何やら言葉を交わし合っていた。

「……そうでしたか。大魔王様自らご高説賜り、感謝の言葉もございません」
「構わぬ。貴様は我が身体を取り戻すまでの間、傍に置いておく価値がある、故に話したまでのことよ」

 不敵に微笑む女性、アーデルハイトの言葉を受けた男性――本人はアーサーと名乗っていた――が恭しく一礼した所で、彼の背後に翼を持った女性が舞い降り、頭を垂れながら報告する。
「アーサー様、メニエス様をお連れしました」
 それだけを口にした女性が羽を広げ飛び立ち、振り返ったアーサーの視界にメニエス・レイン(めにえす・れいん)ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)の姿が映る。
「やっと表に出てきたと思ったら、流石、抜け目ないわね。“クロウリー卿”?」
「最も合理的な手段を取ったまでだ。……大魔王様、彼女が先程話に挙げた、我等が同志でございます」
 わざとらしく言ってのけたメニエスにそう返して、アーサーがアーデルハイトへ来客の正体を口にする。アーサーが何を話していたのかを気にしつつも、メニエスは確認しておきたいことをアーデルハイトに尋ねる。
「聞きたいことがあって来たわ。貴方は一体“何”かしら? 見た感じ、アーデルハイトではない別の何かが乗り移って操っているように思うけど」
「いかにも。我はザナドゥの大魔王ルシファー。“妻”であるこいつの身体を借り、こうして地上に顕現している」
 ルシファーと名乗ったアーデルハイトの口から、経緯が語られる。5000年前、ザナドゥ顕現を間近にしてアーデルハイトとイナンナによってクリフォトに封じられたこと、埋伏の時を経て、ザナドゥに単身乗り込んだアーデルハイトをクリフォトに取り込み、その身体を通じて一時の復活を果たしたこと。
「ふぅん……幼女の姿して、やり手だったってことね。
 で、あんたはいつまでそうしていられるわけ? まさかずっと借りっぱなしってわけにもいかないんじゃない?」
 メニエスの問いに、アーデルハイトが忌々しげに呟く。
「そうであろうな。こいつめ、素直に我を受け入れたかに見えて、真意を明らかにせぬ。何かを企んでいるであろうが、全貌が掴めぬ。
 昔から食えぬ女だった。地上に住みながら、性根は魔族より魔族らしい」
 その口ぶりから、目の前の存在が“元に戻る”可能性が少なからずゼロでないことを悟ったメニエスが、言葉を重ねる。
「イルミンスールや各学校の連中が、必ず貴方を元に戻そうと躍起になってくるわ。
 あたしはそれを阻止したいわけ。貴方が元に戻れば、困るのはEMUとシャンバラだから」
「ふん、一度やられた程度では懲りもせぬ、か。いっそ見せしめに殺してしまった方が、後々楽であろうか」
「お言葉ですが、それでは火に油を注ぐ結果になるかと。
 大魔王様の封印に携わったもう一人の人物をクリフォトに捧げれば、大魔王様は完全に復活なされる。既に手は打たれている以上、我々としては極力、契約者共の介入を避ける方向に動くべきかと。先のイルミンスールの森への侵攻、そして此度のジャタの森への侵攻で、彼らも混乱しているはず。このまま事態を掴ませずにいれば、自ずと我々の勝利となるでしょう」
 アーサーの横槍に、話を折られたメニエスが険しい視線を向けたところで、背後に控えていたミストラルがある一点を振り向き、告げる。
「メニエス様、連中がやって来ました。……かなりの数です」
「やっぱりね。……どうするのあんた、まさかわざわざ正体を見せるなんて真似はしないでしょ?」
「無論だ。……大魔王様、どうか我々を匿っていただけませんでしょうか。
 微力ではありますが、護衛の者をお付けいたしますので。……お前たち、頼んだぞ」
 言ったアーサーの背後に、先程飛び立った羽を持つ女性と、魔道書を手にした幼子が出現する。
「よかろう。貴様らの働き、期待しているぞ」
 言ったアーデルハイトの、かざした手の先でクリフォトの幹が歪み、人が通れそうな穴を形成する。アーサーとメニエス、ミストラルがその穴を通ると穴は塞がれ、元の姿を取り戻す。

「……アーデルハイトの事、EMUには流したの? この事が漏れれば、ミスティルテインは堕ちるんじゃなくて?」
 クリフォトの中――そこは確かにクリフォトの中であるにもかかわらず、外の様子が確認できるようになっていた――で、メニエスがアーサーに尋ねる。
「その件についてはエーアステライトに任せている。先に行われた欧州魔法議会選挙で決着をつけるつもりだったが、ホーリーアスティン騎士団は10議席をミスティルテイン騎士団から奪い取ったに過ぎなかった。あの腰抜け当主が、死に際で踏み留まったと見える」
 アーサーの言葉によれば、6月に行われた第3回欧州魔法議会選挙の結果、ミスティルテイン騎士団は議席を40に減らし、一方でホーリーアスティン騎士団は議席を22に増やした。さらに、中小魔術結社を代表する議員の殆どが、ホーリーアスティン騎士団支持に回っており、両者の議席数の差は相当縮まっていた。
 だが、依然としてミスティルテイン騎士団が議会の過半数を握っているのは事実である。ミスティルテイン騎士団当主、ノルベルト・ワルプルギスを始めとする結社員が、騎士団を首の皮一枚残して生き残らせたのである。
「残る薄皮一枚断てば、ミスティルテインはホーリーアスティンのものになる。そうなれば、我が物顔でふんぞり返るワルプルギスの小娘を校長の座から蹴落とせる。そして空いた席には、メニエス、貴様が座れ」
 EMU内で第一位の団体からイルミンスール魔法学校の校長――その際当然ながら、契約者であることが前提――が選出されること、実力者の内で適任なのはメニエスであること――エーアステライトは契約者でなく、アーサーは言わずもがな――を聞いた本人は、自分が校長の椅子に座る姿を想像して一時の愉悦に浸るのであった。


 同じ頃、無謀を承知の上で、世界樹クリフォトにいるアーデルハイトに接触を図ろうとする者たちがいた。
 刻一刻と悪くなる状況を打破するため、あるいはそうせずにいられなかった者たちが、力を合わせ、目的を果たそうとしていた。

「ただで通してくれるとは思ってなかったけど、これはこれで、魔族を相手にするより大変ね!」
 搭乗する自機、トールマックに向かってくる無数の枝へ、須藤 雷華(すとう・らいか)がギターを鳴らして発動させた衝撃波をぶつける。破裂するように砕け散った枝葉が、しかしすぐに再生してトールマックを搦めとらんとする。
(第一目標は、俺たちが囮になることで接触可能となった他の者達に託すか。今は第二目標を、対象をクリフォトに変更した上で実現させること、そして第三目標と第四目標を実現可能な状態を保つこと。……変わらず、すべきことが多いな)
 雷華の背後で、北久慈 啓(きたくじ・けい)が周囲の状況を分析し、自分たちと目的を同じくする14組の者がクリフォトに近付けているかを確認する。しかしこの時点で既に、4組の者がレーダー上では消え去っていた。
(……厳しいな。各自身を守るため、奮戦していると思いたいが――)
 敵性接近を知らせる警告を受け取り、啓がトールマックへの直撃を避ける機動を取る。一本二本、三本までは機体後方を掠めていったが、四本目の軌道は機体下半身を直撃するコースであった。警告を発し、衝撃に備えた啓の耳に届いたのは、機体の損傷音ではなく、メトゥス・テルティウス(めとぅす・てるてぃうす)の成果を告げる声であった。
『枝は撃ち落としましたから、大丈夫ですよ!』
 飛行ユニットを装着し、随伴歩兵として共に戦闘に参加していたメトゥスが、まじかるなマスケット銃でスナイピングしつつ、振り向けられる攻撃をブースターを噴かして回避していく。
「これでもくらいなさい!」
 銃を杖に見立て、メトゥスが先端から炎の嵐を枝に見舞うが、しなやかに動き回る枝は炎を振り払い、表面が僅か焦げる程度に影響を抑える。生命力のある樹は燃えにくい――反対に、枯れ木は燃えやすい――ことも相俟って、炎を浴びせるだけでは大した効果を得られないようであった。
「炎は効果が薄い……となれば、撃ち続けるのみです!」
 銃を構え、背後を取られないよう距離を保ちながら、メトゥスが視認した枝葉から次々と撃ち落としていく。雷華と啓の乗るトールマック、そしてメトゥスが派手に暴れて注意をひきつけている間に、他の者たちはクリフォトの先端部へ到達することが出来た。ここからアーデルハイトに接触するには、中心部へ向かっていく必要がある。
(アーデルハイト様はいつも、いつでも、私達イルミンスールの生徒を導いてくれた。
 それがあんな、破壊と混沌だなんて……私の知ってるアーデルハイト様は、そんなこと望んでなかった!)
 別の防御機能、あるいは魔族の存在を事前に感知すべく神経を尖らせながら、遠野 歌菜(とおの・かな)が心で叫ぶ。前回の戦いで生徒たちの支援に向かったニーズヘッグを含む、その場にいた生徒たちに浴びせたという言葉を、歌菜が全力で否定する。
(あれは、絶対にアーデルハイト様の本心じゃない。何かに操られているに違いない!)
 アーデルハイトを操っているものの正体を突き止める、そう息巻く歌菜へ、月崎 羽純(つきざき・はすみ)が落ち着かせるように声をかける。
「歌菜、ここはもう敵の懐の中だ。何が起きてもおかしくない。
 言うまでもないと思うが、注意して行くぞ」
 そう言う羽純は、歌菜の目的、アーデルハイトの説得を無謀と思っていた。しかし、当の歌菜がそれを強く望んでいたし、歌菜と同じように考える生徒たちの存在もあった。
(俺は、歌菜と共に行き、歌菜を守るだけだ)
 覚悟を固めた羽純の言葉に、歌菜が確かに頷いて、そして二人は中心部へと向かっていった。