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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)
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「数名は予想していたが、これほど大勢でやって来るとはな。よいのか? 既に貴様らも、ジャタの森がどうなっているのか知っていように、我の所へ来る余裕なぞあるのか?」
 10組の契約者を前にして、アーデルハイトが微笑む。
「何言ってんのさ。あたしたちを誰だと思ってんの? 生徒の顔も忘れたなんて言わせないからね」
 パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)を控えさせ、茅野 菫(ちの・すみれ)が続けて口にする。
「婆さん、今回のことだってさ、いつもみたいに「こんなこともあろうかと」って何か用意してんじゃないの?
 なんか、いつもの婆さんらしくないじゃん。何がどうなってんのよ。どうすれば、元に戻るのよ」
 ここに来る前、菫は同じ学校の生徒と協力して、アーデルハイトが残した手がかりを求めに大図書館へ行った。それは、アーデルハイトがいつもこういう時には「こんなこともあろうかと」と秘策を用意していたからなのだが、今回に限っては何も見つけることが出来なかった。
 手がかりがない以上、何が起きているのかは分からない。だったら自分の目で確かめないと……そんな思いで菫は、ここまで辿り着いたのであった。
(相変わらずなんだから、もう……私と菫だけだったら、ここに来れたかどうか分からなかったわ)
 目的を同じくする契約者の集団を見つけた時、合流しようと提案したのはパビェーダだった。もしそのまま菫と二人だけで向かったとしたら、こうしてアーデルハイトと言葉を交わせているかどうかは、先程の戦いを思えば怪しいところであった。
「貴様の目は節穴かの? ほれ、ちゃんと用意しておったではないか。こいつがそうじゃよ。
 ……それにのう、元に戻るも何も、これが我の元の姿なのじゃ」
 ポンポン、とクリフォトを軽く叩いて、アーデルハイトが告げる。クリフォトの出現は“こんなこと”ではなく、“こんなこともあろうかと”と用意したものだと主張する。
「アーデルハイト様、応えてください! 遠野歌菜です!」
 言葉の途切れた菫に代わるように、歌菜が進み出、想いを乗せた言葉を放つ。
「私は貴女に導いて貰い、そして皆と一緒に、色んな困難を乗り越えてきました。
 そんな貴女がイルミンスールを消し去るなんて、そんなの……絶対におかしいです!
 お願いします、戻って来て下さい……! 皆、まだ貴女に教えて貰いたい事、山程あるんです!」
 振るった槍のように鋭い言葉を、しかしアーデルハイトは平然とした顔で受け止め、逆に一撃を放ち返す。
「……貴様らに教えてやるものなど、もう何もありはせんよ。
 導くに値せぬ者は、それらが作りし物は、その一端を担った我が等しく、消し去ることにしたのだ。
 関わった者が責任を取るのは、おかしいことではなかろう?」
 菫、歌菜と言葉を退けられ、契約者たちは未だ、目の前の人物がアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)なのか、それとも別人物なのか、確信を掴めずにいた。口調が違うことから違和感は感じるものの、正体を捉えることが出来ない。そんな彼らの苦悩を汲み取ってか、悠々と佇むアーデルハイトの前に、今度は藤林 エリス(ふじばやし・えりす)が進み出る。豹変したアーデルハイトに一言言ってやらなきゃ気が済まない、そうしてここまでやって来たエリスの、説得が展開される。
「帝国側に付いた裏切り者が出たとか散々大騒ぎした挙句、ミイラ取りがミイラになって結局自分が裏切り者になるとか……ほんと、無様ね」
 しかし、最初の言葉を放つエリスは、説得というよりは喧嘩を売りに来たようにしか見えなかった。背後に控えるアスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)も同様の意見を思う。
(まぁ、演説好きなエリスちゃんが一度しゃべりだしたら止まらないのは知ってるから、今更止める気もないけど。
 お説教好きな先生にお説教で対抗って、なんていうか……エリスちゃん、ツンデレもここまで来ると、命張ってるなぁ)
 もちろん、エリスにそうなのか? と尋ねれば、「べ、別にそんなんじゃないわよ!」と返ってくるだろう。ともかく、アスカがいざという時にエリスを連れて帰れるように準備する中、エリスの演説は続く。
「導くだとか、存在するだとか、とにかくそれに値せぬ者って誰のことなのかしらね?
 ただ混沌と破壊だけが望みなら、値しようがしまいが別に関係無いでしょ。全部まとめて壊しちゃえばいいじゃない。敢えて選別しようとするからには、そこに何らかの意図があるってことよね。
 混沌と破壊なんてのは手段でしかないわ。大事なのはその先にどんな世界を望むのか、ってことよ」
 エリスの演説を、アーデルハイトはというと、一見真面目に聞いているように見えた。もちろんアーデルハイトのことだから、真面目に聞いているフリをして眠っているのかもしれないが。
「そういえば、超ババ様って魔法少女だったのよね。
 あたしもずっと、魔法少女に憧れてたわ。困ってる人を助けて、夢と希望を振りまくんだって。
 ……でも、いざなってみると、魔法少女の理想と現実のギャップを実感するわね。もっとみんなが同じように幸せになれる世界に出来るはずなのに、今の世界は何でこんなに欲にまみれて醜いんだろうって思うわ。
 こんな世界は根底から覆して、理想の世界を実現したいって衝動に駆られる気持ちも分かるわよ。そのためにあたしは共産主義者になったし、あんたは帝国主義者にでもなったんでしょ。
 ただ、何に取り憑かれたんだか知らないけど、暴力革命はいずれ自分に跳ね返ってくるから後で高い代償払うことになるわよ。まさか、それが分からないあんたじゃないわよね。
 ……これも、魔法少女の宿命なのかしらね。純粋で多感な少女故に、傷ついて悩んで、なんだかんだ難しいこと考えて。……でも結局、女にとって一番大切なものって、最も身近にいるものだったりするのよね。
 後で取り返しのつかないことになって、一番大切なもの無くさない様に気を付けた方がいいわよ」
 演説を終えたエリスが、踵を返してアーデルハイトから立ち去る。
「どんな世界を望む……か。誰でも望めるわけではないというに」
 本人としては聞かせるつもりで呟いたわけではないが、意識を集中していれば、あるいは機器を使用していれば、その言葉は耳に出来、記録出来るものであった。
「お久しぶりです、“お師匠様”。……お忘れですか、弟子の風森“霞”ですよ」
 そして望が“ある考え”の元に計画された内容を実行に移し、背後でノートがHCで会話の内容を山海経に伝える。
「……ふん、我の帰りを出迎えぬ弟子など、忘れて当然じゃ。今頃何をしに来た?」
「あぁ、その節は誠に申し訳ございません。こちらとしても色々と準備がありましたもので……。
 ですが、準備は無駄ではなかったと今、改めて思い至りました」
 カナンに渡った者たちの働きかけで成立した『世界樹研究機関』を通じて、ザナドゥで過去に何が起きたかを知っていた望は、確信めいた思いを胸に言葉を紡ぐ。
「私は風森“望”と申します。……覚えていないのではなく、知らないのではないですか、大魔王様?」
「…………」
 大魔王様、と呼ばれたアーデルハイトは、黙して語らない。それが何よりの回答ではありませんか、とは口にせず、望が言葉を続ける。
「アーデルハイト様に取り憑くことが出来て、クリフォトを操れるとしたら、自ずと限られてきますもの。
 “関係者”の裏付けもありますしね」
 望に目配せを受け、強盗 ヘル(ごうとう・へる)と共にこの場を訪れたザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が進み出る。ザカコもまた、“関係者”であるイナンナの元に赴き、ザナドゥで過去に何が起きたかを本人の口から耳にしていた。
「お久しぶりです、大ババ様。……それとも、初めましてというべきでしょうか、大魔王様。
 イナンナ様から5000年前の話を聞いた限りでは、大魔王様、貴方がアーデルハイト様を操っているとしか考えられません」
 ザカコの推測を含んだ問いに、アーデルハイトは無言を貫く――。


(……やはり、今のアーデルハイト様はご本人の意志とは違う、別の意志によって操られているのでしょう。
 そして、アーデルハイト様を操っている意志が、ザナドゥで大魔王とされている方、と推測出来ます)
 望とアーデルハイトのやり取りを聞いていた沢渡 真言(さわたり・まこと)が、これまでに直接アーデルハイトに会った者たちからの情報と、今こうして直接アーデルハイトに会って感じた様子を統合し、『アーデルハイト様のクリフォト出現後の行動は、アーデルハイト様ご自身の意志とは違う、何か別の意志によって為されたものであろう』という推測を得る。
(けれども、不明な点はまだある。アーデルハイト様が何故、イルミンスールを出て行ったのか。その時も別の意志によって動かされたのか、あるいはご自身の意志なのか。
 アーデルハイト様はその時、何を思っていらっしゃったのか)
 ――アーデルハイト様ご自身が、“大魔王”の介入を許したのだとしたら――。
(……いえ、結論を出すにはまだ早い。まだ、アーデルハイト様がザナドゥに与したのが、ご自身の意志であるという確証がない。
 そうでない限り、私は諦めない。絶対に……!)
 だからこうして、どれほどか分からない可能性を信じて、真言はマーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)沢渡 隆寛(さわたり・りゅうかん)、他にクリフォトへ向かおうとした者たちと共に、ここへやって来た。付いて来ようとしたティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)には、なんだかんだと理由をつけてイナテミスで待ってもらうことにしてもらった。
(……必ず帰ります、だから、それまで待っていて下さい)
 代わりとばかりにティティナから受け取ったカオティックリングを、真言が大事そうに触れる。
「マーリン殿、何か感じられますかな?」
「……いや、今は感じねぇ。けど、何もしてこねぇとも思えねぇ。
 散々、奴らに味方する奴らの存在が報告されてんだ、ここにいねぇはずがねぇ」
 真言が、これからの行動を決めようとしている背後で、マーリンと隆寛はアーデルハイトの動向はもちろんのこと、ザナドゥに与する契約者の存在を感知せんとする。一番警戒しなければいけない存在として、また、いざという時には“同胞を手にかける”ことも覚悟に決めて、二人は緊張を保ちながら警戒を続ける。
(あっ……そういえば、のぞみは?)
 はたと、真言は同行していたはずの三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)の姿が見当たらないことに気付く。そういえば、ここに向かうにしては妙に大荷物だったことを思い返した所で、しかし真言の思考は打ち切られる。

「……興が醒めたわ。もうよい、貴様らに付き合うのもこれまでだ」

 余裕の表情を消して、アーデルハイトが自身の魔力を増大させ、本気で契約者を消し去ろうとしていた――。