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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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リアクション

「なぜ、人は『信じる』のかしら?」
 コリマ・ユカギールに、シスター・エルザは問いかけた。
(信仰というのは、自然への畏れから生じたものだろう)
「さすが、古代のシャーマンらしい答えね。けれど、あたしが言いたいのは信仰に限ったことではないのよ」
(ほう。では、人はなぜ何かを信じ、誰かのために行動したり、あるいは本気になれるのか、といった人類一般に対する問いか)
「そう。あたしは、人が信じているのは、人やものではないと考えてるわ。万物の奥底に秘められた可能性。それこそ、人が最も信じているものではないのかしら」
 カップの中の紅茶を、ゆっくりとすする。
「こんな考え方があるわ。観測者によって物事が確定するっていうものと、初めから全ての物事は確定していて、あたし達は自分の意思で考えているようで、それさえもあらかじめ決められているっていう考え方。正直、あたしはどっちでもないと思うわ」
(では、どう考えている? 超自然的な存在――神が存在し、きまぐれに賽を振るっているとでも?)
「神がきまぐれ、って考えてるのは認めるわ。けれど、あたしはそんなものがいるとは思わない。教会の人間が言うことではないと思うけれど」
 一息つき、言葉を続ける。
「我思う、ゆえに我あり。人間だけが神を持つ。それは、あたし達が意思を持っているから。あたし達から見える世界は有限だけど、内側に広がる世界は無限。その意思が、初めから決められたものだったり、『観測』なんて概念で外から変えられるようなものであると、あたしは認めない。たとえ世界が決まった形をしていたのだとしても、人の意思が、可能性を信じる意思の力が、それを変えていく」
(私と同じ、外側の人間にしてはらしくない考え方だ)
「こちら側にいるからこそ、人の意思というものを『信じたい』のよ。神はどこまでも平等に人間を見つめている。人の内に広がる無限の地平線――可能性という名の世界の果てから」


第二楽章「福音」


 ――今度こそ、皆で。
 今までは、自分が常にヴェロニカを勇気づけてきていた。
 この「最終決戦」で、ヴェロニカから励ましの言葉をもらったのは、この世界が初めてだ。
 だから、確信出来る。
 ここが、自分の終着点なのだと――。

* * *


『それが、君達の意志なんだね。よく分かったよ』
 ノヴァの声が響いてくる。
『「回帰の剣」――起動』
 【ジズ】がそれを振るった。
 二つの決して視認することの出来ない「絶対」が衝突し、周囲に激流が巻き起こる。
「これが、世界を巻き戻していた力……」
 それは、全てを、光さえも飲み込む――ブラックホールだ。
 厳密に言えば、違うものだろう。だが、二機の中心に渦巻くそれが加速を始める。この速さが光を超えたとき、それを中心として周囲の時間が逆行するのだろう。そして、この施設が誕生した時点まで――一万年前で停止する。
 これを止め、かき消すことが出来ればそれは起こらない。そのためには、二つの力の均衡を崩し、その上で、そこにあるエネルギーを吹き飛ばすほどの力をぶつけることが必要となる。
 矛盾。
 互いが相反しながら同等の性質を持っているが故、それらはどちらが勝つこともなく、釣り合った状態のままエネルギーだけを増大させていった。
 それを撃ち破るには、一方がもう一方のエネルギーが増大する速さより、速くなればいい。
『これが、「新世界」への鍵だよ。全てをなかったことにして、再構築するための』
 ノヴァの言葉が聞こえてくる。
  ノヴァが初めから知っていたとは思えない。ループしていた別の人物が教えたのだろう。だが、巻き戻るだけだと分かっていながらなぜ?
 疑問は出てくるが、今はこれを止めなければならない。
『こんなものは断じて違う!』
 綺雲 菜織が完全覚醒を起動させた。
『真の完全覚醒……それを直に知った者として、その想いに――応える!』
 久我 浩一は、ブルースロートで、トリニティ・システムを完全同調させようとしている【ナイチンゲール】のサポートをする。
 自分達の干渉機能も使い、各機のシステムが発生させるエネルギーを、「女神の祝福」を起動中の【ナイチンゲール】に送り込む。
 ブルースロート同士で連携し、機体と機体を『繋いで』いく。
『全てを飲みこもうとしたって……俺達の内側にある欲望までは飲み込めやしないさ。【デザイア】、飲み込むのは――俺達の方だ!』
 要が叫ぶ。
 ジェファルコンの機体から、それまでとは比べ物にならないほどの「光」が溢れ出てくる。
 完全同調を達しようとしているのだ。
『ありがとう、みんな』
 ヴェロニカの声が、この場にいる全員の耳に届いた。
 【ジズ】と同様に、三対六枚の翼を展開した【ナイチンゲール】の姿がある。それこそが、白金の【ナイチンゲール】としての真の姿なのだろう。
 ――機械仕掛けの女神。
 その手の中に光が収束していき、一つの形を形成する。
 それは、槍。
 天御柱学院の生徒なら想起するであろう、天沼矛。
 創世の――世界を切り拓く力。

「みんなの世界は、未来は、私達が守る!」

 それは闇の中心に向かって放たれた。
 直後、そこから光が広がり、

 ――その奔流が溢れ出した。

* * *


 光が収容していき、周囲の状況が見渡せるようになる。
『終わった……のか?』
 和泉 直哉は呟いた。
 さっきまであった、世界を巻き戻すものは消滅している。
『【ジズ】と【ナイチンゲール】は?』
 どちらの姿も、どこにも見当たらない。
『ヴェロニカ、ニュクス、応答してくれ!』
 だが、反応は返ってこない。
『……罪の調律者は、こんなことを言っていた』
 浩一が、それを告げた。
 「真の完全覚醒」を遂げたとき、代理の聖像は『本物の神』と同じ領域へと辿り着く、と。
 だとすれば、それを一身に受けた彼女達は――。
『……そんなの、納得いくかよ。戻って来い、ヴェロニカ、ニュクス!』