イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

リアクション公開中!

聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost― 聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost― 聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost― 聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

リアクション

「戦争は終わりましたけれど、やらなくてはいけないことは山積ですね」
 オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)は学院の敷地内を歩きながら、五月田教官長と話していた。
 まだクーデターの跡がところどころに残っている。完全に元通りになるのは、もう少し先だろう。
「五月田教官長も、きっと、お忙しくなりますよね」
「学院の運営に回ってるイズミ……サトー科長のフォローがあるからな。とはいえ、パイロット科自体はそうでもない。整備科と超能力科はてんやわんやだけどな」
 また、科長のこと名前で……。
 少しだけムッとなったが、それ以上に胸の高鳴りの方が強い。
「まあ、そうは言っても人手はあるに越したことはない」
 足を止め、唾を飲み込む。
 教官長の右腕――義手を見つめた後、拳を握り締めた。
「それでですね、私、五月田教官長の右腕になりたいのです」
「お手伝い希望か。そいつはありがたい」
 首を横に振る。
「そうではなく、いつも側にいたいのです。貴方が私たちのために失ったものを埋めたいのですわ。病める時も健やかな時も一緒に笑ったり悲しんだりしたいのです」
 五月田が目を見開いた。
「貴方の右手のかわりに包丁を握って料理も作りたいんです。今はへたっぴですけど、練習しますわ。だから――お付き合いしてください」
 彼の顔が赤くなっていった。
「ま、参ったな。何の話かと思えば……。ああ、すまない。どうにも慣れてなくてな。自衛官のときも外人部隊にいたときも、色恋沙汰というのに縁がなかったから……」
 深呼吸し、落ち着きを取り戻したようだ。
「いいのか。こんな三十路のおっさんで」
「はい!」
 教官長が微笑を浮かべた。この人はこうやって笑うのか、と改めて思う。あまり彼が感情を見せたことはなかったからだ。
 それは、自分の告白を受け入れてくれたということだろう。嬉しさのあまり、涙がこぼれる。
 指先で目元をぬぐい、もう一度、教官長を見上げた。
「ただし」
 と、教官長が元の表情に戻って続けた。
「お前、確か来年卒業だよな? そうなれば、生徒と教官じゃなくなる。正式に付き合うのは、それまで待ってくれないか?」
「あと半年……ですか?」
「待ってくれるか、オリガ」
 初めて五月田が彼女の名前を呼んだ。
「はい……真治さん」
 どうしてもさん付けになってしまったが、自分も名前で呼び返す。

(想いは通じたようね)
 そんな様子を、エカチェリーナ・アレクセーエヴナ(えかちぇりーな・あれくせーえうな)は物陰から見つめていた。
(あの人、本当に鈍感ですから)
 教官長のパートナーのケイティ・ノアが言う。
(ま、とりあえず行きましょうか)
 ふと、そこを去ろうとすると、呆然と口を開けて佇んでいる一人の男がいた。
 パイロット科教官、野川 恭輔である。
「せ、先輩に、か、彼女が……。うう、これで防衛大時代の仲間内で交際経験なしなの、俺だけじゃないですか……」
 なんだか物凄くショックを受けていた。
「……とりあえず、彼の自棄酒にでも付き合ってあげましょうか」
「ええ」
 適当に野川教官を慰めながら、その場を後にした。

* * *


 空京。
「不思議ですわ。あれから、以前のような『何となく分かってしまう』ことがなくなりましたの」
 『MARY SANGLANT』のVIPルームで、桐生 景勝(きりゅう・かげかつ)リンドセイ・ニーバー(りんどせい・にーばー)は、メアリーに会っていた。
 PASDのロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)とアレンの協力もあり、彼女の正体が元F.R.A.G.第二特務のミス・アンブレラだということは公にならずに済んだ。
「よかったじゃんか。それなら、もう前みたいに悩まなないで済みそうだし」
「ええ。でも、思ったよりも強引な方ですのね」
 微笑を浮かべる。
「メアリーちゃんが強すぎるからだって。今だから言うが、俺マジで死ぬかと思ったぜぇ、あんとき」
 冗談めかしてメアリーに景勝が言った。
「それで、メアリーさん」
 そこで、一旦メアリーが真剣な表情になる。
「これから、どうするんですか?」
 ニーバーが問う。
「そうですわね……わたくしも、褒められたものではない行いをしてきましたわ。こうして、公にならずに済んではいますが……」
 一呼吸し、声を発した。
「この世界を……色々見て回ろうと思いますわ。ブランドの運営は他の人に任せて、まだわたくしの知らない世界が、どんな風なのかを確かめに」
 そこで、時間になった。
「では、最後に――」
 唐突のことに、景勝の頭が真っ白になった。
「め、め、メアリーさん!!」
 景勝にそっと口付けをするメアリー。
「ふふ、アスモデウスが司る『七つの大罪』は、色欲。ですわよ」
 くすくすとからかうように微笑む。
「また、お会いしましょうね」