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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

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フォーマルハウトの装備は完了したぞ」
 ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が、トラックへの消火用装備の搭載が終わったことをカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)に告げた。消火用の冷凍ビームを装備し、瓦礫撤去用のドーザーブレード、移動用の浮遊機晶石を取りつけてある。
「ようし、すぐに出発だよ。現地に着いたら、フォーマルハウトはジュレに任せるから、お願いだよ」
「任せておくのだ。では出発するぞ」
 そう小さな胸を自信満々に叩くと、ジュレール・リーヴェンディはフォーマルハウトを発車させた。
 
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「消火剤をもらえたのはいいが、搭載量はお世辞にも多いとは言えないな」
 ライゼンデ・コメートを飛ばせながら、新風 燕馬(にいかぜ・えんま)がぼやいた。とはいえ、機体下部にコンテナを二つ装備したので、それなりの搭載量は確保している。そのせいで多少スピードが落ちるのは致し方ないといったところか。それでも、S−01の機動力を生かして現場との往復を繰り返せば、かなり有効だろう。
「飛び交っている通信では、防火帯を作ってそこを防衛ラインとしようとしている人が多いようですね。それに同調するのであれば、補給物資として消火剤を届けるか、防火帯を回り込もうとする炎を集中的に消火するかですね」
 珍しくサブパイロット席におさまったサツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)が答えた。たまさかイルミンスール魔法学校の大図書室にまた調べ物で来ていただけなので、搭乗時間を稼ぐためにも新風燕馬にメインパイロットを譲っているのだった。戦闘がないこのような場面では、このままの配置でも問題は無いだろうと考えて愛機を任せている。
「とりあえずは、現場を把握して、必要な方に消火剤を使うというところだな。それはそうと、一つ気きがかりがあるんだが……」
「なんですか?」
「ほら、以前霧が出たとき、森で昔のサツキと俺に出会っただろ」
「ええ」
 あまり昔のことはと、サツキ・シャルフリヒターがちょっと言葉を濁した。
「あのとき、最初に見かけた人影はサツキだったんだろうか。来るなと言っていたみたいだけど、どこに来るなって言っていたんだ?」
「あれは私ではありませんね。本人が言うのですから確かです」
 きっぱりとサツキ・シャルフリヒターが新風燕馬に答えた。
「だとしたら、誰だったんだ?」
「それが気になるので、私も大図書室に足繁く通っているわけですけれど……」
「七不思議に関係のある人なのかなあ」
「それらしい物はなかったですね。しいて言えば、イルミンスールの森には茨で覆われたドームがあって、その中には美しい眠り姫が、運命の人の訪れを待ってずっと眠り続けているという伝説があっただけです。まあ、時代と共に何度もお話が変化して、今では都市伝説扱いになっているようですが」
「その娘が、森を徘徊して警告しているというわけか」
「それは違うと思いますが。伝説の娘は、ずっと眠り続けていることになっていますから。それに、目覚めさせてくれる人を待っているのでしたら、来てほしくないという台詞は矛盾していません?」
「それはそうだが、いつの間にかお話が逆になって伝わったとも考えられるし……。いずれにしろ、あの霧が作りだしたサツキの偽物と同じだとしたら、あの警告は真実の気がするんがだが……」
「どっちにしても、それは、火事を鎮火してからですね。もしかしたら、噂のその茨ドームという物を見つけられるかもしれませんから。――そろそろ火災現場に着きますよ。消火の準備をしてください」
 ちょっと考え込んでから、すぐに現在の状況を思い出してサツキ・シャルフリヒターが新風燕馬に告げた。
 
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「さあ、ハーティオン、今こそ合体のときよ」
 ここが活躍のときとばかりに、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)の先生を自称するラブ・リトル(らぶ・りとる)が、叫んだ。
「任せるのだよ。さあ、来るのだ、竜心咆哮! 龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)!!」
 コア・ハーティオンが、自らの半身としている龍心機ドラゴランダーを呼んだ。
『ガオオオオオオオン!!』
 ドラゴニュート型の巨大な魔鎧が、コア・ハーティオンにむかって走ってくる。そのサイズはイコン級だ。事実、本当かどうかを分からないが、イコンを取り込んでいるとも言われている。
『ガオオオオオオオン!!』
 その龍心機ドラゴランダーが、変形を始めた。ドラゴニュート型から、人形へと変わっていく。魔鎧らしく、その変形はある意味形状を無視したちょっと理不尽なものである。変形完了した姿は、巨大なコア・ハーティオンと言うところだった。
「龍心合体!!」
 開かれた龍心機ドラゴランダーの胸部ハッチとでも呼ぶ所に、ジャンプしたコア・ハーティオンが飛び込んだ。身体が内部機構によって固定され、複雑な複層装甲が次々に閉じて分厚い胸部となる。
『蒼空勇者ドラゴ・ハーティオン!!』
 両肩のイーグリット・アサルトから流用したと思われるフロートシステムから青白い光を一瞬翼のようにのばして、コア・ハーティオンが決めポーズをとった。
「よくできました」
 ふわりと、ラブ・リトルがその肩に舞い降りた。
「さあ、行くわよ、蒼空勇者ドラゴ・ハーティオン、助けを求める人々の許へ!!」
『おう!』
 力強く答えると、消火用水の入ったコンテナをつかんで、蒼空勇者ドラゴ・ハーティオンが空に舞いあがった。
 
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「なんだって、準備ができないって?」
 久我 浩一(くが・こういち)が困り切って叫んだ。イルミンスールの森の一大事に大型飛空艇で出ようとしたのだが、準備ができていないと言われたのだった。
「仕方がありません、手持ちの機材でなんとかするしかないでしょう」
 希龍 千里(きりゅう・ちさと)は、臨機応変にたちふるまっていった。
 とりあえず今動かせるのは彼女の小型飛空艇だけだ。
「小型飛空艇でも使えるタンクを持ってきたぞ」
 緋山 政敏(ひやま・まさとし)が、なんとか調達してきた消火用水入りのタンクを二つ、イコン陽炎の地上モードで運んできて小型飛空艇の左右においた。
「緋山、こちらのコンテナも準備オッケーだそうよ」
 カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)が、こちらも急ぎなさいと緋山政敏を呼ぶ。
「了解だ」
 緋山政敏が、陽炎を用意されたコンテナの上に移動させた。機体を下げてハードポイントにコンテナを接続する。イルミンスールではカタパルトという概念がないので、基本的にすべてのイコンは垂直離着陸か、フローティングした上で幹や枝の発着場から発進していくことになる。
 カチェア・ニムロッドを後部サブパイロット席に収容すると、緋山政敏はS−01を上昇させて空中にホバリング静止した。やや高度をとってから、空中変形を開始する。同時に、浮力を失った機体が落下を始めた。両腕が翼の下に折りたたんで収納され、機首がゆっくりと下をむく。地面が迫った。折り下がっていた機首が復元し、胴部と一体化する。エレベーターが動き、機首が上をむいた。機体が空気を全体に受けて不安定になるところをエルロンが補正する。直後、脚部エンジンが折りたたまれて後部をむいた。メインエンジンが一気に全開となった。深呼吸するようにインテークから新鮮なエアーを吸い込んだエンジンが咆哮する。地面の土をエンジン噴射で軽く吹き飛ばし、一気に陽炎が上昇した。
「さあ、急ぐぞ」
 世界樹よりも高く舞いあがると、緋山政敏が遠方に見える炎を目指した。
「こちらも出発するとしよう」
 イーグリットタイプの不知火に乗った綺雲 菜織(あやくも・なおり)が、久我浩一たちをうながした。
 青みを帯びたパールホワイトの、均整のとれた機体だ。強化された装甲と推進力を高めるためにスラスターを追加した肩のフローターが全体的に美しい曲線を描いている。
「分かった、先行してくれ」
 不知火に先導を頼むと、久我浩一は希龍千里の後ろに乗った。
『それでは、先行します。ついてきてください』
 有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)が、ソニックブラスターで久我浩一に告げた。
 
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 クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が火災を知ったのは、世界樹ではなく、雪だるま王国であった。
「森林火災ですって、それはいけません!」
 雪だるま王国にとって、イルミンスールの森は最重要の食料や資材の供給源でもある。ここが失われれば、雪だるま王国は極端に自給率が下がってしまうだろう。これは王国存亡の危機であった。
「騎士団長として命令します、総員、すぐに消火にむかいます! さあ、憂国の騎士クロセル・ラインツァート、勇断です!」
 すぐさま自身の資産を放出して、クロセル・ラインツァートは動員した武官たちに消火剤を用意させた。ジェットドラゴンに武官と消火剤のコンテナを配備して急ごしらえの消火小隊を作ると、自らは巨大マナ様に飛び乗り、部隊を先導して火災現場へとむかった。
「騎士団地用、いえ、団長、火です、火が燃えてますぅ!」
「誰が分譲住宅ですか、火事なんですからあたりまえです。さあ、勇気ある雪だるま王国武官たちよ、消火剤と共に華々しく散ってきなさい! でないと、給料は半額です!」
「そ、そんなあ〜」
 へっぴり腰の武官たちをクロセル・ラインツァートが鼓舞した。というか、もうこれは脅迫に近いのではないだろうか。
 もともと寒い地方の王国兵たちは、暑さにめっぽう弱い。主力である雪だるま兵など、暑さでとろけてしまうほどだ。
 だが、おまんまの食い上げでは、のんびりしたことも言ってはいられない。
「ここは、お国に命を捧げるのです。さあ、突撃〜!」