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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

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「先遣隊、発進しろ」
 隊長が、自機の中から専用通信回線を通じて各機に告げた。
 隠密作戦とはいえ、明確な敵部隊が周囲に展開しているわけではない。それに、イコン同士の通信にはスクランブルをかけてあるので、今回の作戦では通信封鎖はしていなかった。
 隊長機はフルカスタムなので、ベース機体がなんであるかははっきりしていない。ミキストリというコード名で味方に識別されたその機体は、他のイコンよりも頭一つ大きな射撃タイプの重イコンである。両肩に、推進器と一体化した大型のバインダーキャノンを有し、背部にも可動式の大型レーザーキャノンを格納している。他にも、胸部ガトリングガン2門、腰部マイクロミサイルポッド2基、脚部アウトリガーなどがあり、重厚な全体装甲と相まってかなりがっしりとしたシルエットを持っている。
 隊長機の命令を受けて、先遣隊の各機が次々に出発していった。
「みんな、がんばってねー」
 見送り組のココナ・ココナッツ(ここな・ここなっつ)が、上昇していくアルヴィトルにむかって手を振った。
 今回傭兵として参加しているイコンの中では、唯一の第二世代機であるレイヴンTYPE―Eをベースとした機体であるが、それと分からないように四瑞霊亀がダミー装甲を取りつけてシルエットを別物に変えている。まだ第二世代機は数が少なく、見た目だけでイコンを特定されないための配慮だ。
 背部に装着されたフギンとニムンの二機のイコンホースは半分だけ翼を展開し、二機合わせてマント状の一つのフライトユニットのように見せかけている。頭部アンテナは羽根冠のように後頭部へとのびるプレート群で隠し、脚部も地上型イコンのようなボリュームのある装甲で覆い隠している。
「シンクロ率40%」
「オッケー、安定してるよ。無駄に上げても、危ないだけだしね」
 出力を絞るシフ・リンクスクロウに、ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)が各部の負荷を確認しながら言った。
「アルヴィトル、発進します!」
 シフ・リンクスクロウが出力レバーを上げた。大気が震え、アルヴィトルが一条の光を残して飛び去る。
『未知のイコン、気になりますね』
「ええ。遺跡に眠っているということは、おそらくは太古の物でしょうか……」
 コート状の魔鎧となって自分の身体をつつんでいる四瑞霊亀のつぶやきに、シフ・リンクスクロウが答えた。
「どっちにしても、レイブンの敵じゃないよね」
 余裕綽々で、ミネシア・スィンセラフィが言った。
「そうだといいですけれど……。いずれにしろ、誰がそのイコンを欲しているかですね。場合によっては、阻止するなりの行動は覚悟しなければなりません」
 いくら仕事として請け負っているとはいえ、パラミタ全体の安全を脅かすものであれば、放ってはおけない。判断とは自分で下すものだ。ただし、それと分かるまでは、命令系統は維持されなければならない。
 なんとも歯がゆい思いをいだきながら、シフ・リンクスクロウはレイブンならではの高速で部隊の先陣を切っていった。
 だが、その横に並ぶ機体がある。
 佐野和輝のグレイゴーストだ。
 S−01飛行形態の高速性能をさらに高めたマットメタルグレイの機体は、第二世代機と同等の高速性能を発揮していた。カナード翼を有する平たい機首と、イコンホースを改造したBWS(バックウェポンシステム)のFSW(フォワード・スウェプト・ウイング=前進翼)が特徴的なシルエットを有している。
 ちかちかと、主翼左のナビゲーションライトを点滅させると、グレイコーストが一気に上昇していった。
 中途半端な高度では地上から発見されやすいため、イコンは低空から敵地に潜入することが多い。地形を遮蔽物に利用できるからだ。ただし、レイブンのような高速機体では、ソニックウェーブによって地上に影響を及ぼしてしまうため高度をとらざるを得ない。グレイゴーストはさらに高度をとり、高高度からポイントに侵入するつもりのようだった。
「うきゅう。和輝のお膝じゃないからつらいのー」
 加速によるG加重に耐えながら、サブパイロット席のアニス・パラス(あにす・ぱらす)が呻いた。もちろん、契約者の身体は通常の人間より強化されるので問題は無い。一般人であれば、今ごろはブラックアウトして気を失っていることだろう。
 先行する二機を追うようにして、同じS−01のシュツルム・フリューゲFが追従する。
「正体不明のイコン。イルミンスールの近くで開発されたというのであればアルマイン系ということになるが……」
「でも、イルミンスールで開発されたというわけではなさそうですよね」
 今回の依頼の一番はっきりしない部分を考え続けている閃崎 静麻(せんざき・しずま)に、レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が聞き返した。
「さあな。アルマインだって、エリザベートが作ったと言っているが、鬼鎧のような物かもしれないだろ。遺跡に眠っているならなおさらだ。いずれにしろ、イーグレット系列のイコンとは別物だろうな」
「喪悲漢やアンズー……とも違うのでしょうね。まさか、ただのドラゴンだったりして……」
 いや、古代のドラゴンであれば、イコン以上に強力な存在の可能性は充分にあるだろう。ニーズヘッグクラスのドラゴンであれば充分に脅威だ。
「あー、分かんねー。とにかく、現物見ないことにはなんにも言えねえぜ。それまでは、傭兵らしくおとなしくお仕事をするとしますか。まあ、クライアントが裏切らなければの話だがな」
 軽く頭をかきむしって思考を中断すると、閃崎静麻がレイナ・ライトフィードの方を振り返って意味ありげにニッと笑った。
「何か仕掛けましたね」
「さあな。半蔵次第ってとこだ。さあ、俺たちも高度をとるぞ」
「了解しました」
 グレイゴーストとアルヴィトルの中間あたりに高度をとると、シュツルム・フリーゲFはオベリスクへとむかった。
 先行する三機から少し離れて、後続の三機が続いていた。
「おっしゃ、出入りだ出入り。いっちょかますぜえい!」
「待ってましたあ、兄貴! これで、やっと白いおまんまにありつけるだよね」
「もっちろんよぉ」
 ゲブー・オブインが、軽く両手でお腹を押さえるバーバーモヒカン シャンバラ大荒野店(ばーばーもひかん・しゃんばらだいこうやてん)に自信満々で言った。
 なにせ、さっき食べたカロリーフレンドが最後の食料である。略奪せぬ者は食うに値せずのパラ実のことわざに則って、これからオベリスクを破壊して、ついでに食料があればそれをいただいてしまおうという算段だ。まあ、目標の建物に食い物の備蓄がなくても、傭兵としての報酬が出るのだから、食いっぱぐれることだけはないだろう。だったら、後は思いっきり暴れるだけである。
「突っ走りやがれ、宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢!!」
 ゲブー・オブインの雄叫びで、宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢がズンという震動を大地に与えて飛翔した。
 見た目機完全な喪悲漢タイプであるが、そのベースとなった機体はなんとイーグリットだ。戦闘で破壊されたイーグリットを回収した物なのだが、ひ弱に見えるだの、モヒカンがないだの、パラ実的に美しくないと言うことで、無理矢理喪悲漢のパーツやらなんやらをくっつけて外観を喪悲漢に仕立て上げていた。金色――に見えなくもない黄色のボディは、モヒカンの外装ですっぽりと本来のボディを被ってしまったため、まったくイーグリットには見えない。頭部には、壊れかけたビームサーベルによってモヒカン状に不定型にビームが広がっていた。ほとんどハリボテの外装を纏ったイコンのコスプレのような物なのだが、ジャンクからのスクラッチイコンなのでゲブー・オブイン的にはまったく問題なかった。
『行くぜ、行くぜ、行くぜぇぃ!!』
 気合いを入れたゲブー・オブインの声が、ソニックブラスターのスピーカーから思いっきり外にもれる。
「あれじゃあ、オベリスクに到達する前にどうぞ見つけてくださいと言っているようなもんだぜ」
 作戦に支障をきたさないだろうなと、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)がメインモニターに映った宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢を見てつぶやいた。
「まあ、隊長が即座に撃墜しないところを見ると、問題ないんだろうが……」
「そうですね。あの隊長は何を考えているのやら……。真司はどう思います?」
 いろいろと腑に落ちないのですがと、ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が柊真司に訊ねた。
「その通りだが、新型のイコンって言うのには俺も興味がある。ここで隊長の不審を買って作戦から外されるのも得策じゃないだろう。今のところは、おとなしく命令に従っておくさ」
 そう言うと、柊真司はけたたましい宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢から離れて距離をとった。
 同じイーグリットを素体としてはいても、柊真司の乗るイクスシュラウドは真反対のようなコンセプトデザインだ。燻し銀の機体は、推進器を強化した重装甲によってインダストリアルデザインとしては均整のとれた美しい機体でもある。一見するとごてごてしているようではあるが、宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢のような無駄は一切ない。まあ、ゲブー・オブインに言わせたら遊び心のないつまらない機体と言われるのであろうが。