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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

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    ★    ★    ★
 
 ――ティー・ティー、ティー・ティー!?
 突然聞こえたティー・ティーの悲鳴に、源 鉄心(みなもと・てっしん)は必死にテレパシーで呼びかけたが、断片的な呻き声が弱々しく返ってくるだけであった。
 心配して捜しに来た源鉄心であったが、なんだかティー・ティーがいるはずのところに近づくにつれて森が酷い有様になっている。
「きっと、前にこの森で暴れたっていう玉露(ぎょくろ)にやられたに決まっているですの。当然、黒幕は緑茶さんしかいないですの」
「いや、玉露って、お茶じゃないんだが。もしかして、玉霞(たまがすみ)のことか?」
 ちょっと混乱しながら、源鉄心がイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)に聞き返した。ちなみに、緑茶とはティー・ティーのことである。
 ただでさえ、ティー・ティー探索のために意識を集中しているというのに、この天然ボケは精神に堪える……。
「うむむむ……、そろそろこのあたりのはずなんだが……」
 酷く森が荒らされた場所に辿り着いて、源鉄心が言った。
 二人で乗ってきたワイルドペガサスを降りて、積み重なっている木の山を調べる。
 ――無事か、ティー・ティー?
 ――た〜す〜け〜て〜。
 木の下から、弱々しいティー・ティーの意識が返ってくる。
「よし、これを蹴飛ばせ」
「ええっ」
 ちょっとイコナ・ユア・クックブックが焦るのを無視して、源鉄心がワイルドペガサスに命じた。
「だって、魔道銃で撃つわけにはいかないだろ。こいつならうまくやってくれるさ」
 ペットを信頼しているのか、大胆なのかはよく分からないが、源鉄心の命令を受けて、ワイルドペガサスが人の手で動かせないような大木を蹴って宙に吹っ飛ばした。
「ひ、ひどい〜」
 木の下から、ティー・ティーの弱々しい声が聞こえてきた。ワイルドペガサスがその付近の枝をバキバキと噛み砕いて、なんとか脱出口を作る。
「大丈夫か、ティー・ティー」
「わ、私は大丈夫です。けど、レガートさんが…」
 龍鱗化でなんとか耐え抜いたティー・ティーが、自分が守ったレガートさんを心配して泣きそうな声で言った。圧死はまぬがれたものの、レガートさんは翼を撃ち抜かれている。
「大丈夫ですわよ」
 イコナ・ユア・クックブックが、持っていたルシュドの薬箱でレガートさんを手当てした。すぐには飛べないが、歩くことは可能だろう。
「どこか、落ち着けるところを探そう。それにしても、この跡はなんだ!?」
 森を突き抜けるようにして、木々を薙ぎ倒した道があるのを見て源鉄心が言った。いや、道にしてはおかしいが、なんだかまっすぐに森が切り開かれている。どう見ても、これは人工的なものだろう。
「この先に何かあるのかもしれないな、行ってみよう」
「イコンに気をつけて。私は、謎のイコンにやられたんです」
 レガートさんを気遣って地面を歩きながら、ティー・ティーが行った。
 そのまま、ミキストリの砲撃跡を辿っていくと、やがて源鉄心たちは破壊されたオベリスクに辿り着いた。
「いったい、ここで何があったのですの?」
 途中からぽっきりと折れて倒れているオベリスクを見て、イコナ・ユア・クックブックが呆然と言った。
「とにかく、調べようぜ。ティー・ティーは、そのポンコツを修理しておけ」
「レガートさんはポンコツじゃありません!!」
 言い捨てる源鉄心に、ティー・ティーが真顔で言い返した。
 源鉄心としては、ティー・ティーを危険な目に遭わせたレガートさんに嫌みの一つも言いたい気分なのだろうが、ティー・ティーとしてはどんな理由があろうともそんな言い方はしてほしくない。
「イコンだ。人もいるな。奴らがティー・ティーを……じゃなさそうだなあ」
 崩れたオベリスクの前に集まっているソア・ウェンボリスたちを見つけて、源鉄心がちょっと拍子抜けしたように肩をすくめた。
「いったい、何があったんだ?」
「ケイたちが、下敷きに……」
「なむなむなむ……」
「りっぱに成仏しろよな」
 源鉄心に訊ねられて、両手を地面について泣き崩れるソア・ウェンボリスのそばで、揃って手を合わせながら『空中庭園』ソラと雪国ベアが変な祈りを捧げていた。
『か、簡単に、殺す……な』
 突然オベリスクからイコンの手が突き出たかと思うと、中からぼろぼろになったアルマイン・マギウスが這い出てきた。
 なんとか、オベリスクの破壊された光条砲の部分から抜け出してくると、そのまま倒れ込むようにして擱坐する。
 開かれたハッチから、緋桜ケイたちが転がり落ちてきた。
「運がよかったようだな、こんなでかい穴にちょうど填まるなんて」
 ちょっと呆れたように、源鉄心が言う。
 ちょうど光条砲が吹っ飛んでできた穴に填まって、アルマイン・マギウスが潰されずに助かったらしい。
「よかった、生きてて」
「それよりも、メイちゃんたちは……」
 喜ぶソア・ウェンボリスに、緋桜ケイが訊ねた。
 急いでオベリスクのかろうじて残っている基部にむかう。
 崩れて開け放しとなっている扉からは、崩壊して半ば潰されている内部施設しか見えなかった。
「こ、こいつは……」
 雪国ベアが、床に落ちている折れたランスと棍とメイスを見つけて唸った。
「ああ、メイちゃんたちが、無残な姿に……」
 『空中庭園』ソラが、パンパンと手を叩いて合わせる。
「それは、インテリアです、早く助けて〜」
「たしけて〜」
「出してー」
 瓦礫の中から、ちょっとくぐもったメイちゃんたちの声がした。
「よかった。生きておるのだな」
 さあ、早く助けてこいと、悠久ノカナタが雪国ベアを押し出した。
 男たちが協力して瓦礫を取り除いていくと、オベリスクの中央部付近で、カプセルのような物の中に入ったメイちゃんたちが見つかった。十文字状に配置されたカプセルのおかげでメイちゃんたちは助かったらしい。その中央には柱状の機械があったが、オベリスク倒壊のときに壊れてしまったようだ。
「ふう、助かった。ありがとうございました」
「よかっ……いてっ!」
 カプセルから出てきたメイちゃんにいきなり頭突きをかまされて、源鉄心がふらついた。それを見た『地底迷宮』ミファが、あわてて緋桜ケイの後ろに隠れる。
「あっ、マスターは!」
 外に出たコンちゃんが、あわてて中央の崩れた柱に駆け寄った。
「マスター?」
 ソア・ウェンボリスたちが不思議そうに見守っていると、コンちゃんたちが瓦礫の下からいくつかの宝石を見つけだしてきた。
「それは?」
 メイちゃん、コンちゃん、ランちゃんがそれぞれに両手で握り締めた宝石を見て、緋桜ケイが訊ねた。
「それは、もしかして、封印の魔石ですの?」
 イコナ・ユア・クックブックの言葉に、メイちゃんたちがうなずいた。
「私たちと共に、茨ドームの結界を管理していたマスターです」
「ああ、あのとき一緒だった」
 以前、霧の事件のときにここで遭遇した騎士たちのことを思い出して、緋桜ケイが言った。
「そなたらは霧のおかげでその身体を手に入れたのに、そのマスターとやらはそうはならなかったのか?」
 悠久ノカナタが、当然とも思える疑問を口にした。
「ええ。私たちもマスターが復活してくれたと喜んだのですが、あれは霧の作った、ただの残滓でした」
「私たちは、あの霧と同じ、遺跡の力で記憶をとどめていたから、相性がよかったのかな。マスターたちは、違う力で魔石の中で眠っているから」
「えっとね、古王国の時代から、ここで遺跡が目覚めないように守ってたんだよ。なんでも、遺跡が動きだしたら世界樹が大変なことになるんだって」
 口々にメイちゃんたちが言うので、ちょっと源鉄心たちが混乱する。
「ちょっと、その魔石を見せてもらえるかな?」
 悠久ノカナタが、メイちゃんの持っている魔石を借りて見た。横から、イコナ・ユア・クックブックもどれどれとのぞき込む。
「中に、あのときの騎士が眠っておるな」
 悠久ノカナタの言葉に、一同が魔石をのぞき込んだ。そこには、膝をかかえて丸くなった小さな人の姿が、魔石の中に朧に浮かびあがっていた。
「これが封印の魔石でしたら、壊してしまえば元に戻せるのですわ」
 魔石の中の時間は凍結されている。中にいる者は、眠っているようなものだ。
「壊せばいいんだな」
 雪国ベアが、悠久ノカナタの手から魔石をひったくると、そばの地面において、いきなり必殺拳を叩き込んでいった。
シャイニングベアクロー! ダークネスベアクロー! あたたたたたた!!」
 ところが、魔石はびくともしない。
「マスターに何をしますかあ!!」
 メイちゃんたちが、本来の武器の姿に変身すると、雪国ベアをボコボコに叩き始めた。メイちゃんたちの本体が武器であることを知らなかった源鉄心たちが目を丸くする。
「なんと頑強な。ただの魔石ではあるまい。無理に壊すと、中の者も無事では済みそうにないな」
 迂闊なことはできないと、悠久ノカナタが決定づけた。イコナ・ユア・クックブックもそれにうなずく。
「その遺跡ってのが、世界樹に何をするんだって?」
 緋桜ケイが訊ねた。ここを襲った者たちの狙いは、それに違いない。
「オプシディアンたちでしょうか」
 なんとかメイちゃんたちをなだめて、雪国ベアをヒールしていたソア・ウェンボリスが言う。
「さあ、細かいことは分かんないよ。そういうのは、マスターがちゃんとやっていてくれたから」
「マスターたちは、ずっと遺跡を見守るために魔石の中に入って、この魔法塔を動かしていたんだよ」
 どうやら、メイちゃんたちが入っていた装置が、このオベリスクのコントロール装置だったらしい。おそらく、魔石のおかれていた中央の台で、この三人の騎士たちは5000年以上もの間、ずっと役目を果たしていたのだろう。
「どうして、その人たちは、そんな役目を負ったのでしょうか」
 『地底迷宮』ミファが、そう言いつつオベリスクの中の装置を振り返った。そういえば、メイちゃんたちも、そのマスターたちも三人しかいないのに、装置のカプセルは四つある。単に、四面をもつオベリスクのデザインに即したものであるのか、それとも、本来は四人で管理するものであったのか。そのため、防御が一面足りなかったことが、傭兵たちに攻撃の糸口を与えたのは確かだ。
「いずれにしろ、その遺跡とやらを調べないと分からないだろう」
 源鉄心が、皆の思いを代表するように言った