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【戦国マホロバ】壱の巻 葦原の戦神子と鬼の血脈

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【戦国マホロバ】壱の巻 葦原の戦神子と鬼の血脈

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第七章 御筆先


【マホロバ暦2682年(西暦2022年) 3月22日】
 葦原島 葦原城――



「房姫様、『時の月をくぐり……未来から過去へ向かうものあり』とは、私たちのこと?」
 東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)葦原 房姫(あしはらの・ふさひめ)の書いたという『御筆先』についてたずねていた。
 秋日子のパートナー要・ハーヴェンス(かなめ・はーべんす)も顎に手を当てて考え込んでいる。
「御筆先をちゃんと確認したほうがいい。迂闊に行動してマホロバを窮地に追い込むようなことがあってはならないと思うんです。マホロバの方々の命がかかっているんですから」
 房姫も二人の話はもっともだと思った。
「ええ、これがそうなのですけれど、私も『御筆先』の最中は何も覚えていないのです。まるで……心が空っぽのような……ですから、本当に自分が書いたものなのかもわからないんです」
「うーん、房姫さん。もっとよく御筆先を見てみよう。何か、答えが隠されているかもしれない」
麻篭 由紀也(あさかご・ゆきや)は、『御筆先』に書かれた年表と、これまで正史とされてきた年表を比べてみようといった。
「……確かに、年代はあっているようだけど記述が違ってるね。とくにマホロバの初代将軍となった鬼城 貞康(きじょう・さだやす)は、幕府を開いてから大往生を遂げているし……それも、天下分け目の合戦で勝利したからこそだよな」
「そうでありんす。だから、わっちも誰かのイタズラかと思ったでありんす。房姫がそんな悪ふざけをするはずもなし……さっきから、嫌な感じしかしないでありんす」
 葦原明倫館総奉行ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)が腕組をして唸っているのを、瀬田 沙耶(せた・さや)はじーっと見つめていた。
「……? わっちの顔に何かついてるでありんすか?」
「いいえ、私はハイナさんをこんなお傍でみれて十分ですわ」
 微笑む沙耶に「ただのファンなんで、この娘のことは気にしないで!」と、由紀也はあわてて付け加えた。
「それなんだけど……一度書かれた御筆先って、もう変わることはないのかなあ? 例えば、過去が変えられたら……御筆先も変わるとか」
 秋日子の疑問を要は要約した。
「それはつまり……『時空の月』で過去に行った人の働きで、御筆先の内容が変わるということですか。ここに書かれてあることも……あるいは変わる可能性があると」
 要は房姫を見つめる。
 彼女は頭を振った。
「葦原の御筆先がころころ変わってしまっては、本当の危機をどうやって伝えるというのでしょうか」
「それなんだけど、これ本当に房姫が書いたものなの? 誰か書いたところを、見た人がいるのかしら? 他人がでっちあげたってことも考えられなくはないでしょ?」
 マホロバ大奥を取り締まっている葛葉 明(くずのは・めい)は、つかつかと房姫たちの前にやってきた。
「お久しぶり、房姫。あたしね、今日からここにいて貴女を一日中見てるから。いつ御筆先はじめても大丈夫よ」
「……え?」
「だってしょうがないじゃない。あたしも必死なのよ。このまま鬼城 白継(きじょう・しろつぐ)将軍様が行方不明だと、あたしの可愛い}明継(あきつぐ)ちゃんを次の将軍にしようとする動きが出るに決まっているわ。そんな面倒なこと、明継ちゃんにさせるわけにはいかないわ!」
 明は、また将軍継嗣問題で大奥が荒れるのではないかと考えていた。
 大奥の局として実務を扱う七瀬 歩(ななせ・あゆむ)も、気がかりなことであった。
 歩は消えた将軍を追っていた。
「もし、消えたのが白継様だけならば、それ以外の理由があるのかも? 他のお子様方はどうしてるんでしょうね?」
 歩は、もし白継のみが消えたのであれば、彼自身に関わることが原因なのではと考えた。
「もし……同じ時間と場所に、二人として存在できないなら、白継様と同じ人がその場にいたから……と考えてしまって。例えば、葦原の戦神子とか?」
 誰も歩の推測を否定できる情報を持ち合わせてはいなかった。
 目の前にあるのはただ書れた文字。
 その意味をを裏付けるものさえないのだ。
 皆が御筆先を前に考え込んでいると、急な知らせが入った。
 瑞穂睦姫(みずほの・ちかひめ)の子も行方不明になったというのである。
「えーと、それじゃあ鬼城家に関係ある人が消えちゃうの? 葦原の戦神子は、その間違った過去を正しい姿にしようとしてるのかな?」と、歩。
「葦原の戦神子……どこかで聞いたことがあるような……?」
 房姫はおぼろげながら、かつてそのあだ名で呼ばれていた葦原の姫君がいたのではと思い出しつつあった。
 侍女に家系図を持ってこさせ、巻物をほどく。
「確かこのあたりに……あ!」
 そこには『行方知れず』とだけ書かれた姫君の名があった。
 歩は覗き込む。
「……あしはらの……おりひめ? これが戦神子さん?」
 そのときだった。
 急なめまいが房姫を襲った。
 目の前が真っ暗になり、意識が遠のく。
 指先が宙を這い、筆を求めた。
「房姫!? 御筆先がはじまったんだわ! 紙を、筆を持ってきてちょうだい!!」
 明の指示のもと、早急に墨が用意される。
 房姫は筆を取るやいなや、もくもくと紙に向かった。



マホロバ暦一一八五年 鬼城貞康 四方ヶ原にて武菱軍を退ける。翌年、武菱氏滅亡
 マホロバ暦一一八七年 本納寺の変
  マホロバ暦一一八八年 葦原城攻め 葦原総勝、自刃
   マホロバ暦一一九0年 鬼城一族率いる鬼の軍勢 崎ヶ原の合戦にて葦原・瑞穂の連合軍に敗れる
    マホロバ暦一一九二年 扶桑の噴花 花枯を観測
     マホロバ暦一一九三年 鬼の反乱がマホロバ各地で相次ぐ
      マホロバ暦二六八二年 マホロバ滅亡__


「……え、さっきの御筆先と違う……変わったよね!?」
 秋日子が声を上げて指摘した。
 要が変更された箇所を読み上げる。
「これをみるかぎりでは、1185年の鬼城 貞康(きじょう・さだやす)は生き延びたんですね。だけど……?」
 他にも大きく変わっている。
 しかし、肝心のマホロバ滅亡の項目は変わってはいなかった。
「房姫さん、どうした?」
 由紀也が房姫を見たとき、その一変した様子に背筋が凍った。
 房姫の美しい顔がまるで鬼のような般若の『仮面』に変わっていたのである。
「房姫!? あなた、誰……?」
 明はこのような房姫をかつて見たことがなかった。
 ハイナの額にも汗がにじむ。

『ひとーつ、ふたーつ、歴史がかわる世がかわる……人は所詮、つくられた箱の中でしか生きられぬ……くくく……ははは……!』

 房姫の不気味な笑いが、葦原城内に響き渡っていた。



 時を越え一つの役割を終えた人々は、ひとりまたひとりと月をくぐって自分の時代へと戻っていった。
 しかし、これままだはじまりに過ぎなかった。
 戦国の世と現代の世、果たしてどこに向かおうというのか――。




担当マスターより

▼担当マスター

かの

▼マスターコメント

 こんにちは、ゲームマスターのかのです。
 ご参加いただきまことにありがとうございます。
 公開日を延長させていただき申し訳ありませんでした。


 この【戦国マホロバ】シリーズは、一話完結の数話構成となっています。
 (※予定は変更される場合もあります)
 次回予定が変更されています。

【戦国マホロバ】第壱巻 マホロバ暦1185年頃のシナリオ
【戦国マホロバ】第弐巻 マホロバ暦1187年と1188年頃のシナリオ
【戦国マホロバ】第参巻 マホロバ暦1190年頃のシナリオ
【戦国マホロバ】第四巻 マホロバ暦1192年頃のシナリオ


 また、アクション結果を受けて、葦原房姫の御筆先が変化しています。
 後日、四方ヶ原合戦報告書とマホロバ暦1187年ごろの勢力図を作成して、マスターページにアップする予定です。
 あわせてご確認いただけると幸いです。

 今回、個別のコメントがほとんど書けませんでした。すみません。
 いただいた私信コメントなどはちゃんと読んでますよ。
 ありがとうございます。

 次回、弐の巻のスケジュールは決まり次第、マスターページにて告知させていただきます。
 それではまたお会いいたしましょう。


【NPC一覧】

(マホロバ暦1185年)
鬼城貞康(きじょう・さだやす)……鬼城家当主。鬼の血脈を受け継ぐもの。正史ではマホロバ幕府の初代将軍となったが……?

葦原の戦神子(あしはらの・いくさみこ)……本名:葦原祈姫(あしはらの・おりひめ) 西暦2022年のマホロバに突如現れた少女

葦原総勝(あしはら・そうかつ)……葦原国国主。祈姫の祖父
葦原鉄生(あしはら・てっしょう)……からくりオタク。祈姫の父


瑞穂魁正(みずほ・かいせい)……別称:瑞穂の軍神。瑞穂国国主
日数谷現示(ひかずや・げんじ)……瑞穂藩士。瑞穂藩の侍大将


鬼子母帝(きしもてい)……鬼城貞康の実母

朱天童子(しゅてんどうじ)……金品を奪うなどして都を荒らしている鬼一族の棟梁


織由上総丞信那(おだ・かずさのすけ・のぶなが)……於張国の豪傑
木之上十吉郎秀古(きのうえ・とうきちろう・ひでこ)……信那の腹心


武菱大虎(たけびし・おおとら)……戦国を代表する名将、武人。病に倒れ巨星落つ。
武菱軍騎馬隊(たけびしぐん・きばたい)……戦国最強ともいわれた騎馬軍団


雪うさ……貞康が合戦場で助けた童女


(西暦2022年)
鬼城貞継(きじょう・さだつぐ)……マホロバ前将軍

鬼城白継(きじょう・しろつぐ)……マホロバ将軍。貞継と(SFM0033439) 樹龍院 白姫の子。行方不明
明継(あきつぐ)……貞継と(SFM0015871)葛葉 明の子

葦原房姫(あしはらの・ふさひめ)……葦原藩姫。『御筆先』が復活
ハイナ・ウィルソン……葦原明倫館総奉行(=校長)。房姫のパートナー


■戦国時代の主なマホロバ勢力

【鬼州国(きしゅうのくに)】(鬼城家)
マホロバの東地方を勢力にもつ

【葦原国(あしはらのくに)】
マホロバの北東地方を勢力にもつ

【瑞穂国(みずほのくに)】
マホロバの西地方を勢力に持つ

於張国(おわりのくに)
扶桑の都近郊に勢力にもつ



【付記】
マホロバ暦1185年 2月 『四方ヶ原の戦い』
四方ヶ原にて鬼城貞康は、騎馬隊含む武菱軍三万の兵に追撃されるが、
家臣らの働きによって命からがら逃げおおせ、九死に一生を得る。
貞康はこの時の大敗を生涯肝に命じ、自らへの戒めにしたという。

(出典『まほろば史記』「新紀」巻92 著者不明)