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第7章 バンパイア執事・猫耳メイド喫茶


「鍋カラスの恨みを晴らす時が来たぜ」
 キラーンと目を輝かせながら、緋桜 ケイ(ひおう・けい)は入口の扉を潜った。
「お帰りなさいま……」
 とびっきりの笑顔を向けてきたメイドの顔が固まった。
「……ミ、ミクルさん!?」
 ケイと一緒に訪れた、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)はピンクと白の可愛らしいメイド服に、白くてふわふわな猫耳を付けた知り合いの姿に、目を丸くした。
 直後に。
「ファビオさんとミクルさんがいるとお聞きして、寄ってみたんですけれど……執事じゃなくてメイドの方だったんですねー……びっくりしました。すっごく可愛いです!」
 そう絶賛した。
「ホント、すっげぇ可愛い、やっぱ似合ってるぜ」
 ぽんぽんとケイはミクル・フレイバディ(みくる・ふれいばでぃ)の肩を叩いた。
「あ、ありがとうございます。で、でもお嬢様お2人の可愛らしさには全く適いません。お嬢様お2人の!
「どうして、2人を強調するんだ。ミクルちゃ〜ん?」
 ケイが悪戯気な目でそう言うと。
「いえ、ケイお嬢様は可愛らしい衣装をまとわなくても、とっても可愛らしいですから! さあ、こちらへどうぞ〜」
 ミクルも悪戯全開の言葉を返してくる。
「ほほう、今日は楽しませてもらうぜ」
 にこにこ笑いながら、ケイはソアと共に案内された席についた。

 ケイはオムライスを。
 ソアは日本から取り寄せたという、抹茶フルーツケーキと緑茶を頼んだ。
「お、お名前を書かせてもらいます、お嬢様」
「だからお嬢様じゃないって」
 ケイはオムライスを持ってきたミクルにケチャップで名前を書いてもらう。
「ああーもう、うううっ」
 小さく声を上げながら、ミクルはケチャップで可愛らしくケイの名を書き、ハートで囲んだ。
「流石に上手いな。可愛い娘に用意してもらったオムライス、このまま食べるのはもったいないぜ〜」
 とにやにや笑うと、ミクルは赤くなって「うー」と唸りながらケイを咎めるような目で見る。
「ファビオさんは厨房にいらっしゃるのですか? 接客――お迎えはされてないようですけれど」
 ソアの問いにミクルは首を縦に振った。
「ファビオはこういった仕事に従事したことがないため、お嬢様方に失礼のないよう、スイーツやお飲物の準備を担当しています」
 料理はゼスタの友人でもある薔薇の学舎の生徒達が担当しているようだ。
「出てくればいいのにな。ミクルと並んだところ見てみたい。いや、見るつもりだけど」
 ケイがからかい口調で言うと、ミクルはまたちょっと赤くなる。
「複雑な心境かもしれませんが……やっぱり、可愛いことは良いことだと思います! その表情も、とっても可愛いですよ」
「あ、ありがとう。うーん、ありがとぉーーーございますっ」
 ミクルは開き直ると、ぺこりと頭を下げて「にゃん☆」と言葉を付けて、招き猫のように拳をひょこんと上げた。
「完璧な可愛らしさだな、オイ」
 ケイが言うと、ミクルはちょっと目を逸らして「慣れてますから……」と言う。
「ふふ。……そう言えば」
 ソアは訪れている客や、給仕をしているメイド、執事達を見回しながら言う。
「このバンパイア執事と猫耳メイドな喫茶店も、日本文化なんですよね。メイド喫茶とかのことは知っていましたけど、日本文化なのは知らなかったです!」
「そうみたいです。日本に4年くらい留学していたゼスタさんがそう言ってますし」
 ミクルの返事にこくんと首を縦に振って、ソアは目を輝かせながらこう続けた。
「私、地球にいた頃はお父さんと一緒によく日本に来ていたので、日本の文化はそれなりに詳しいつもりだったんですけど、まだまだ知らないことがたくさんありますね。勉強になりますっ!」
 執事&メイド喫茶――は日本文化ではないとは言えない。
 だけど、ソアは日本に間違ったイメージを持ちつつあった。
「はい、楽しんでいってくださいね! それでは、御用の際にはこちらのボタンを押してお呼びくださいませ。お嬢様♪」
 ミクルはにこっと笑みを返し、2人にぺこんと頭を下げるとそそくさ仕事に戻っていく。

 ケイとソアは店の雰囲気を楽しみながら食事をして、備え付けられていたアンケート用紙に記入をすると、ボタンを押して、ミクル、それからファビオ・ヴィベルディ(ふぁびお・う゛ぃべるでぃ)のこともテーブルに呼んだ。
「というわけで、写真を撮ろう!」
 別料金だがメニューに記念写真もあるのだ。
「ミクルちゃん、ポーズ、ポーズ」
 撮影を担当するゼスタがそう言うと、ミクルはケイの隣で、「にゃんにゃん」と恥ずかしげに言いながらポーズを。
 ファビオはソアの後ろに立ち、牙をのぞかせる。
 そんな4人の可愛らしい姿が、写真に収められ、ケイとソアにプレゼントされた。

 会計を済ませた後には、アンケートを渡し「がんばれよ」とミクルたちを励まして、ケイ達は執事・メイド喫茶を後にするのだった。

○     ○     ○


「お帰りなさいませ、お嬢様」
「……ただいま、レイラン」
 出迎えたゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)に、リン・リーファ(りん・りーふぁ)は、目を細めて微笑んだ。
「……なんかいつもと雰囲気が違うな」
「どうしたのレイラン。これに合うスイーツをお願いできる?」
 リンはシャンパンとヴァイシャリー・グラスが入った袋をゼスタに差し出した。
「それから、あなたのおすすめのスイーツとそれに合う紅茶も」
「畏まりました。お嬢様、お部屋の準備は出来ております」
「ありがとう、レイラン」
 恭しくゼスタはリンをカーテンで仕切られた個室へと案内する。
 部屋の中は少し薄暗かった。
 天井を見上げると、豪華なシャンデリアがあり、壁には素敵な風景がが飾られていた。
 ゼスタが引いた椅子に腰かけて座ると、彼が身を寄せてナプキンを膝にかけてくれた。
「他にも何か、お召し上がりになりますか?」
 ゼスタがメニューを開いて、リンに見せる。
「そうね。一通り、順番に持ってきてちょうだい。今日はこの部屋でゆっくりしていくわ。カーテンは開けておいて、外の様子も楽しみたいの」
 以前、チェスの勝負で勝利した時の約束により、今日は好きなだけ食べていいと言われている。代金は全て彼もちだ。
「畏まりました。では、しばらくお待ちくださいませ」
 そう頭を下げた後、ゼスタは「お腹壊すなよっ」と、リンにウィンクをする。
 いつもの彼の表情だった。
(ぜすたん、執事を演ってるけど、見かけはそのまんまだよね)
 ふふふっと笑みを浮かべながら、リンはスイーツと飲み物を待った。

「苺の花姫ケーキでございます」
 シャンパンと共に現れたのは、スポンジや生クリームよりも飾られた苺や果物の多い、フルーツに囲まれた苺のケーキだった。
「ありがとう。わっ、甘いシャンパンの味と、フルーツの酸味が良く合うー」
 上品に食べるつもりだったけれど、次第にいつもの調子に戻っていく。
「ん? はい、あーん?」
 側に控えているゼスタと目が合った途端。
 リンはケーキをフォークで刺して、彼へと差し出した。
「いただきます、お嬢様〜」
 嬉しそうに微笑んで、ゼスタはぱくりとケーキを食べて。
 美味い! と言いながら、リンの頭を撫でる。
「お嬢様が可愛くて可愛くて、食べたくなっちゃうぜ」
「こら、執事はそういうこと言わないの」
「はーい。ところで、お嬢様。隣に座ってもいい?」
「ん? ぜす……レイラン、それは執事じゃなくてホストの仕事な気がするよ」
 それもいいけど、仕事しているレイランの姿がみたいなと、リンが微笑むと。
 ちょっと残念そうに。それじゃ、後程、と。
 ゼスタはお辞儀をして、リンの部屋を後にした。
 彼を見送った後は。
(ん? 男の子なのにメイドさんな子もいるのかな? 可愛いけどちょっと恥ずかしそう)
 ゼスタや知り合い達が働く姿を微笑ましげに見ながら、リンは次々に運ばれてくるスイーツを楽しんでいく。

○     ○     ○


「いらっしゃいませ、ご主人さま。……あっ」
 微笑んで出迎えたアレナは、僅かな戸惑いを見せた。
「コーヒーを飲みに来た。……いや、ここでは『ただいま、コーヒーを淹れてくれ』というのが正しいのか」
「はい、すぐにお持ちいたします。こちらのソファーでおくつろぎになってお待ちください」
 アレナはその人物――レン・オズワルド(れん・おずわるど)とパートナー達を、席へ案内をし、頭を下げると、飲み物を取りにカウンターに向かっていく。
 レンは最近、コーヒーを嗜んでいる。
 旨いコーヒーとの条件とは何か?
 豆の種類や淹れ方、バリスタのスキルと知識。
 どれも大切なことだ。
 だがその彼の追求に、とある老齢のバリスタが、こう言ったのだ。
『客との会話こそが大事』であると。
 料理と同じで、大切なのは何を食べるかではなく、どんな風に食べるかということ。
 客の求める環境をどう用意するかが鍵なんだと。
 今日、レンがこの店を選んだのは、知り合いがいると聞いたからだ。
 なんでも、仮想衣装に身を包んで接客をしてくれるとか。
 しかし、知り合いといってもアレナやゼスタと面と向かて話をするのは……初めてだ。
(戦ってばかりで、こうして腰を落ち着かせて話をする機会を今まで持たなかった。馬鹿な話だ)
 と、レンは一人苦笑をする。
 そう、彼はラズィーヤや優子と接触を持ったことがあるが、アレナや白百合団役員からの印象は……どちらかといえば悪い。
 過去に百合園で行われた会議で百合園を侮辱した言動の印象が、彼女達に根付いてしまっているからだ。例え、真意がどうであっても、その真意があっても多分白百合団側としては、今のままでは彼のことを好きにはなれない。
 ただ、個人的な親交は別だ。
 守ろうとしてきた者、一緒に守ってきた『仲間』を知ろうとしていなかったことに、レンは気付いた。
 それでは当然希薄にもなる。
 今回はそのことを踏まえ、ここにいる者達の――特に、アレナの様子を確認するために、訪れたのだった。
「こうしてゆっくりと休日を過ごすのは随分と久しぶりな気がします」
 メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)はソファにゆったり腰かけて、息をついたあとで。
 ゆっくりメニューを開いた。
「今日はこの店で一日過ごすのですよね。時間は沢山ありますから……では」
 メニューを捲りもせずに、即決する。
「一番上から順に各種スイーツを制覇していきましょう」
「え? 一番上って、ホールのケーキですよ!?」
 ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)が驚きの声を上げる。
「問題はありません。デザートは別腹と昔から言いますから!」
 キリッとした顔つきでメティスは言い切った。
「メティスさんのお腹には、本当に別腹あるかもしれませんね」
 メティスは機晶姫なので、あってもおかしくないとノアはとりあえず納得しておく。

「コーヒー淹れてきました……、ご主人さま」
 アレナが淹れたてのコーヒーを持って現れ、3人に配る。
「ありがとうございます、アレナさん」
「はい……っ。ゆっくりしていって……あっ、ゆっくりおくつろぎください、お嬢様」
 ノアにアレナがちょっと赤くなりながらそう微笑むと。
「か……可愛いです! アレナさん可愛いです!」
 突如ノアはアレナにぎゅっと抱き着いた。
「持って帰りたいです!! 否! 持って帰りましょう!!」
 途端。
 ベシン!
 気持ちの良い音が響いた。
「アイタッ!」
 レンにパンフレットで叩かれたのだ。
「頭を叩かないでくださいよ〜」
 涙目になって抗議するノア。
 解放されたアレナは、レンと目を合わせて淡い笑みを浮かべた。
「少し話をしようか」
「は、はい……」
「このコーヒーは君が淹れたのか?」
「いえ、ファビオさんが淹れました」
「そうか」
「はい……」
「……」
 緊張しているのか、なかなかアレナとレンの話は続かない。
「ところで、アレナさんは料理を作られるのでしょうか?」
「たまに作ります。忙しくない時は優子さんと一緒に作ったりしていました」
「そうですか、実は私も最近になって料理の勉強を始めたんです。好きな人が出来たから……」
 メティスはコーヒーを飲みながら、世間話をしていく。
 好きな人に何かしてあげたい。
 そう思えるようになてから、今までしたことのないことをするようになったり、色々な道が自分の前で開けた気がすること。
 そんな自分のことを自然とアレナに話していく。
 穏やかな雰囲気の彼女には、そういった話もとても話しやすかった。
「喜んで食べてもらえると、嬉しいですよね。好きな物作ってあげたいって気持ち、わかります。私も優子さんに……」
 アレナの言葉には優子の名が、とにかく沢山出てくる。
 時々、皆の会話に相槌を打ったり、言葉を挟んだりしながら、レンも穏やかな表情で見守っていた。