イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

五精霊と守護龍~出現、『炎龍レンファス』~

リアクション公開中!

五精霊と守護龍~出現、『炎龍レンファス』~

リアクション



『ベースキャンプにて』

「状況は一刻を争う。だが焦って行動しても得られるものは少ない。
 まずはこの場に居る者たちで、状況の整理を行おう」
 『煉獄の牢』入り口付近に設置されたベースキャンプにて、集まった者たちを前にレン・オズワルド(れん・おずわるど)が入ってきた情報をまとめ、今後の対策を彼らと共に検討し合う。
「既に内部では『炎龍レンファス』が出現、こちらの呼びかけに応じることなく戦闘に発展している。出現の衝撃で入り口は崩落し、一時的に内部の者達は閉じ込められた状態に陥っている。
 炎龍については内部の者達が解決してくれると信じよう。俺達は彼らの脱出を支援するため、新たに出来た入り口を調査、内部との道を繋がなくてはならない」
 一息ついたレンが、額に浮かんだ汗を拭う。既に日は落ちていたが、『炎龍レンファス』の出現により付近の温度は上昇を続けていた。アーデルハイトの魔法薬により暑さへの耐性は出来ているものの、長丁場になればなるほど負担は増すと予想される。行動は迅速に行う必要がある、レンも集まった者たちも、その点は一致していた。
「新たな入り口の調査は、私と団員が行こう」
 アメイア・アマイアが進み出、レンに告げる。顔に僅かの、気遣いの色を浮かべてレンが答える。
「崩落の結果で出来た道だ、分かっているとは思うが、危険だぞ」
 それでも行ってくれるか? と言外の言葉に、無論だ、という意思を込めた頷きをアメイアが見せる。
「……これを持って行ってくれ。内部は暑い、炎に対する耐性はあって困らないだろう」
 そう言い、レンが身に着けていた七色に光るタリスマンを外し、アメイアに持たせる。
「気遣い、感謝する。必ず返すことを誓おう。
 ……騎士団員、集合! 準備が完了次第、即座に行動を開始する!」
 一瞬だけ微笑を見せ、振り返ったアメイアは完全に騎士団長として、団員を率い該当の場所へ向かう準備をしに行く。
「ニーズヘッグ、おまえに是非、協力してほしいことがある」
 次にニーズヘッグに向き直ったレンは、塞がった入り口について話を始める。
「塞がれてしまった入り口だが、1つ疑問が残る。それは瓦礫の隙間が溶岩で埋められている点だ。
 おまえが指摘したように、『ご丁寧に』な」
「あぁ、そうだな。溶岩がまるで意思を持ってやったみてぇだ。んな事ができんのはこの場にはアイツしかいねぇだろうな」
 答えるニーズヘッグの顔には、何をするつもりかという興味の色が浮かんでいた。
「元々俺たちは校長から、炎龍を刺激する真似は控えるよう指示を受けている。無闇に攻撃などは仕掛けてはいない、それは徹底されていたはずだ。
 三人の精霊長も同行している、それなのに戦闘に発展したのは相手側に意識がないから……だと思っていた。が、あの入口を見た瞬間にその考えが揺らいだ。
 これは意識して行ったものだ。意識して「閉じ込めた」ものだ。つまりは何者かが炎龍を操っている可能性が高い、とな」
「可能性としちゃあ十分あり得るセンだな。テメェはその『何者か』の目的は分かるか?」
 ニーズヘッグの問いに、レンは軽く首を横に振る。
「そこまでは判らない。だが、そいつは俺たちを誘き出し、炎龍と戦わせようとしている。
 俺はその思惑に乗りたくはないし、炎龍も救ってやりたい。……言いたいことは判るか?」
 試すような言葉に、ニーズヘッグは口の端を歪ませ、答える。
「ま、あんだけガチガチに固められた入り口、オレ以外に開けんのは無理だろな」
 その言葉に、レンも微笑を以って答える。
「アメイア達が進む道だけを唯一の脱出路とするのはリスクが高い。だから時間を掛けてでもこの穴を開けることで相手にプレッシャーを与え、皆の脱出路とするのが望ましい」
「よし、テメェの話、乗ったぜ。……あぁ、ただ一つだけ、もし中にいるオレの契約者がヤベェ事になった時は、そいつの救出を優先させてくれ」
「判った。その件も含めて、内部の者へは俺が伝えておこう」
 満足気に頷いたニーズヘッグが、塞がった入り口へ向かう。

 状況の整理と今後の対策を終えたレンが天幕を出た所で、ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)からの通信が飛んでくる。
『レンさん、トラブルが発生しました。手が空いていましたらこちらへ来てもらえますか』
「判った、今丁度空いた所だ、急いで向かう。応援が必要か?」
『そうですね、来てもらった方が安心できるかもしれません』
 通信を切ったレンが表情を引き締め、動くことが出来る者を連れて該当の場所へ向かうと、周囲の警戒を行なっているメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)と、ノアに治療を受けていると思しきリィナ・コールマン(りぃな・こーるまん)の姿があった。
「何があった?」
 尋ねるレンに、メティスが説明する。三人でベースキャンプから格闘式飛空艇 アガートラームへ水や食料、医療品の移送を行なっていた所、契約者と思しき者たちの襲撃を受けたのだという。
「どうやら、アーデルハイトから教えてもらった魔法薬を狙ったようだ。不覚を取った……」
 悔し気な表情を見せるリィナ、襲撃の際に怪我をしたらしく、あちこちに斬られた痕があった。治療を受ければ完治する程度の傷に見えるが、今後の活動には支障が残るだろうと思われた。
「団員の皆は、彼女達の護衛を頼む。船に着いた後も力になってくれないか」
「了解です! 我らが必ず、彼女達を船までお届けいたします!」
 リーダー格の団員が頷き、進み出した彼女たちの護衛に付く。
(俺達の邪魔を企てる契約者……いくつか心当たりはあるが……)
 心に思いながら、レンはベースキャンプへ戻り、不審な者への警戒を強化するように指示を飛ばす――。

(炎龍が出現したって聞いたけど、どうせまた鎮めるかしようってんでしょう?
 けど、今度はあたしも邪魔させてもらおうかしら。そう簡単に物事が進むと思ってもらっちゃ困るわ……!)
 同じ頃、人気のない一角にて、メニエス・レイン(めにえす・れいん)ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が魔法薬を取りに行かせたロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)の帰りを待っていた。心ではそんなことを思っていても、実際どう行動すればいいのかまでは検討がついていないのか、メニエスは我知らず「どうすれば……」としきりに呟いていた。
「大丈夫です。わたくしも付いておりますので、安心してください。ロザも戻って来たようです」
 ミストラルに声をかけられ、ハッとしたメニエスの前に、袋を手にしたロザリアスが現れる。
「おねーちゃんただいまー! 情報は得られなかったけど、薬ならほら! こーんなに持ってきたよー」
 笑顔で魔法薬を見せるロザリアス、その顔や身体に血痕が付いているのを認めたミストラルが、何があったのかを尋ねる。
「うーんとね、ベースキャンプには人がたくさんいて、とても忍び込める感じじゃなかったの。離れた所で様子見てたら、薬とか色々運んでる人がいたから、もらうついでに傷めつけといた!」
 えへん、と胸を張るロザリアスに、「それでは警戒が強化されてしまうでしょう……」とミストラルが呆れる。どの道魔法薬を奪い取るしか手段がなかった以上、発覚するのは確定路線だったことを鑑みれば、魔法薬の精製を妨害することで多少なりとも行動に支障を与えた事にはなったのだが。
「後は、どうやって内部に潜入するかね……。少し前に大きな地震があったそうだし、他にも亀裂とかありそうだわ。
 まずはそこから当たってみましょう。危険を犯すのは、なるべく最後で」
「はい、メニエス様」
「はーい!」
 魔法薬を口にし、いつでも内部に入れる状態を作った上で、一行は内部への入り口を探すべく行動を開始する。
 果たして内部へ潜入することが出来るのか――。