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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)

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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)
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リアクション

 

前哨線

 
 
「はっはっはー。じきにアトラスの傷跡だ。あそこにある宇宙港は、我々オリュンポスの物とする!」
「いや、あれはサイクロトロンという噂ですが」
 機動城塞オリュンポス・パレスのコントロールルームで高笑いするドクター・ハデス(どくたー・はです)天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)が突っ込んだ。
「えー、新しくできたジェットコースターじゃなかったんですかあ」
 もの凄く残念そうな顔で、アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)が顔を見合わせた。
「ええい、お前たちは何を見ているんだ。あれは、このオリュンポス・パレスを月軌道まで運ぶマスドライバーに決まっているではないか」
 これだから、マッドな科学知識のない者はと、ドクター・ハデスが頭をかかえた。
「ですが、この質量は、さすがに大気圏外まで運べないと思いますが」
 ちょっと残念そうに、天樹十六凪が言った。サイクロトロンだったら、中性子砲とかポジトロンキャノンとかに応用できるものを……。
「運べないなら、運べるように改造するまで。さあ、いざいかん。占領だ!」
 ドクター・ハデスが気勢をあげたときだった。
「ハデス様、何やら近くに砂嵐が……?」
 外部モニターを見ていたアルテミス・カリストが、ドクター・ハデスに報告した。
「んー、レーダーが乱れていてよく分からないな。よし、とりあえず撃て」
「ちょっと待ってください、今分析を……」
 機動城塞オリュンポス・パレスのメインコンピュータでもある天樹十六凪が、あわててドクター・ハデスを止めようとした。
「撃っていいんのか? 撃っていいんじゃな? よーし、発射じゃあ」
 しっかりとその声を聞いた鵜飼 衛(うかい・まもる)が、メイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)に命令を発した。
「ちょ、ちょっと待て!」
「なあに、わたくしと衛様が改造したグラビティ・キャノンです。あんな砂嵐、一撃ですわ」
 止める天樹十六凪に、ルドウィク・プリン著 『妖蛆の秘密』(るどうぃくぷりんちょ・ようしゅのひみつ)が自信満々で答えた。
「ようし、いてまえー!」
 遠慮なく、メイスン・ドットハックが機動城塞オリュンポス・パレスの主砲であるグラビティ・キャノンをぶっ放した。
 重力波の奔流が、砂嵐にむかって放たれた。漆黒の波動が周囲の空間を歪めながらのびていく。
 命中した砂嵐が歪み、着弾点で空間が圧縮された後に、捻れ、歪み、元に戻る力で空間が爆縮した。反動で、凄まじい爆発が起こり、砂嵐を吹き飛ばす。
 だが、吹き飛んだはずの砂嵐が、なぜかチラチラと瞬いて消えていく。
「なんだ、あれは。ホログラフなのか?」
 機動城塞オリュンポスに随行していた黄金の招き猫型大型飛空艇ゴールデン・キャッツの艦橋で、マネキ・ング(まねき・んぐ)が耳の裏を掻いた。
「何か、出てきたぞ」
 セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)が、注意をうながした。
 波が引くように砂が消えていくと、その中から赤黒い大型飛空艇が現れた。ドクター・ハデスたちは気づいてはいなかったが、偶然にもフリングホルニの艦隊よりも先にスキッドブラッドと遭遇してしまったのである。
 スキッドブラッドはフリングホルニの先行艦であるため、基本的なデザイン配置はフリングホルニと同じである。二本の滑走路を有しているが、フィールドカタパルトは装備されておらず、滑走路は上甲板から浮き出す形となっている。船尾の方にはブリッジがあり、その真下がイコンリフトだ。フリングホルニのようなフローターウイングはついておらず、その代わりに船体下部に当たる機関部はかなり大型となっている。船体も、曲面を基本とした優雅なフリングホルニとは対照的に、直線で構成された角張ったものとなっていた。まさに、無骨な試作艦といった感じである。
「あれは……。ええい、アトラスの傷跡方向にむかっていると言うことはライバルに違いない」
「ライバルならどうするんですか?」
 なんだか、自分のアイディアを盗まれたようでむっとしているドクター・ハデスに、天樹十六凪が聞いた。
「もちろん、ライバルは潰せ。この秘密結社オリュンポス以外の者が悪事を働くことなど我慢ができん。悪の秘密結社は、俺の称号だ!!」
 ドきっぱりとドクター・ハデスが言った。
「殲滅命令でたぞぉ」
「撃っていいんじゃな。なあに、ボッコボッコにしてやるけん」
 拡大解釈した鵜飼衛が、メイスン・ドットハックに言った。
「要塞砲もグラビティ・キャノンも、限界以上に強化してありますわよ。さあ、遠慮なく」
 ルドウィク・プリン著『妖蛆の秘密』が、メイスン・ドットハックをあおった。その言葉に、メイスン・ドットハックが遠慮なく要塞砲をぶっ放す。
 打ち出された巨大な砲弾が、スキッドブラッドの手前で爆発する。
 ステルスが解除されて、スキッドブラッドの手前に別の大型戦艦が現れた。前面にビームシールドを展開して要塞砲を防いだようだが、さすがにダメージは受けたようで、各部から煙を吐きながらやや傾いている。
「防いだじゃと。許せん! 最大出力じゃ!」
 改造弾を防がれて、鵜飼衛が怒りの声をあげた。
「リミッター、解除ですわよ」
 ルドウィク・プリン著『妖蛆の秘密』が、勝手に機動城塞オリュンポス内のエネルギーバイパスを切り替えた。
 機動城塞オリュンポスが傾き始める。
「うお、なんだ、急に安定性が落ちたぞ!?」
「強制的に、砲塔に全エネルギーを取られています。安定しません」
 転げ落ちた椅子にしがみつくドクター・ハデスに、天樹十六凪が説明した。
「敵から、イコンが発進しているようです」
 敵をモニタしていた天樹十六凪が告げた。スキッドブラッドから、赤いヴァラヌス・フライヤーと漆黒のフィーニクスが次々と発進していく。
「急いで魔装騎士アテナで出ます。行きますよ、ヘスティア様」
「はい」
 ヘスティア・ウルカヌスを伴って、アルテミス・カリストがイコン格納庫に急いだ。魔装騎士アテナは、以前、茨ドームでの戦闘で、地面に落ちていたリーフェルハルニッシュの装甲をプラヴァー・ステルスに貼りつけたものだ。エネルギー吸収機能は失われているものの、追加重装甲は重甲騎士のシルエットを作りだしている。それへ、イコンホースを改造したバックウエポンシステムを合体させることにより、遠距離砲撃仕様への改造を完成させていた。
『ようし、ハッチ開いたぞ。ドーンといってこい』
「かしこまりました、御主人様……じゃなかったハデス博士。パレスに接近する敵機を殲滅します」
 イコンハッチから外に出ると、要塞上部に機体を固定した魔装騎士アテナが、敵イコンにむかって砲撃を開始した。
 全エネルギーをショルダーキャノンに回して敵ヴァラヌス・フライヤーを狙撃する。
 機動城塞オリュンポス・パレスにむかってきたヴァラヌス・フライヤーが、直撃を受けて四散した。即座に、周囲にいたアーテル・フィーニクスが散開して射線を回避する。
「ミサイル来ます」
 アーテル・フィーニクスのブースターパックから、マイクロミサイルの群れが発射されるのを見てヘスティア・ウルカヌスが回避行動に移りつつミサイルポッドからミサイルを発射した。近接信管で、接近したミサイルが爆発して敵ミサイルを迎撃する。
 だが、その間に一気にヴァラヌス・フライヤーが機動城塞オリュンポス・パレスに取りつく。
「対空防御、何をやってる!」
 天樹十六凪が叫んだ。
「ああん、こっちは主砲担当じゃあ。構わねえから、戦艦ぶちかますのじゃ!」
「もちろんじゃけん!」
 ヴァラヌス・フライヤーに対空用のレーザーマシンガン砲台が潰されていくのを無視して、鵜飼衛がメイスン・ドットハックに命じた。
 チャージの終わったグラビティ・キャノンが発射される。
 射線上のヴァラヌス・フライヤーを吸い込むようにして巻き込みながら、グラビティ・キャノンが敵戦艦に命中した。
 船体が奇妙な角度に折れ曲がり、爆炎をあげながら地上に墜落する。
「はははは、さすがは、わたくしたちの施したオーバースペック改造ですわ」
 禁じられた言葉の書かれた護符をべたべたとグラビティ・キャノンのコントロールパネルに貼っていきながら、ルドウィク・プリン著『妖蛆の秘密』が嬉々として喜んだ。だが、そんな変な物を貼られたグラビティ・キャノンの調子はなんだかおかしい。ちょっと呪われているような気もする。
「どんどん、撃つのですわ」
 システムの冷却タイムを無視して、ルドウィク・プリン著『妖蛆の秘密』がメイスン・ドットハックに言った。