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リアクション
●Lost
玄武の喪失をきっかけに、目に見えて敵勢は弱体化した。
親となる魔剣の力が必要だったのだろうか。もはや骸骨兵は増えない。そればかりか天地人の三人も追いつめられている。
「逆境に弱いんやな、もしかして?」
飄然とそう言い放ち、瀬山裕輝は足をかけ『人』こと鉄爪使いを転ばせた。それも背後から。
「おのれ卑怯な!」
仮面の少女はいきり立つが、
「うん、それ俺にとっちゃ褒め言葉やから」
裕輝は『人』の背にのしかかると、彼女を抱きかかえるようにして両腕を回した。
「な、何をする!」
「なにって……?」
彼が触りたいのは彼女ではなくその武器だ。両腕で鉄の爪を握り、力を込める。
パキッ、と音がして両方の爪が折れた。
すると糸の切れた操り人形さながらに、青い髪の少女は地面に座り込んでしまったのだった。
「ふぅ」
立ち上がって裕輝は周囲を見回した。
そういえば、パートナーの鬼久保偲はどこに行ったのだろうか。
乱戦の途中で見失ってしまった。まさか死んではいないだろうが。
蛇腹剣が風を切って伸びたが、もうコハクはとうにその軌道を読み切っている。
「勢いが減じれば、鍛錬の浅さばかりが目立つね。その剣術」
彼はほとんど体躯を動かすことなく連続攻撃をかわすと、雷光を帯びた槍を突きだし、蛇腹剣を『地』の手から叩き落とした。
落ちるや否や、剣は粉々に砕けてしまう。
操られていた少女が無力化されたのは『人』と同じだ。
逃げようとする『天』の体に、鋼の蛇がぐるぐると巻き付いた。
榊朝斗の伸ばしたワイヤーだった。
「ぐぬっ、これは!」
逃れようとする『天』だがもう不可能だ。
「女の子が『ぐぬっ』なんて言うもんじゃないでしょ」
と言い放ったルシェンが、ブリザードで彼女の体を氷結させてしまったから。
「……動かないでね。その武器だけ壊すから」
アイビスはそう告げて、『天』の戟を銃弾で砕いた。
これで終わりだ。すべて。
あれほどいた骸骨が、乾燥しきった干物のように倒れていく。そして彼らは、あっという間に土に還ってしまった。
「ロー、よく戻って……」
桂輔と連れだって現れたローラにパティは駆けようとしたが、
「ちょーっと待った」
朝霧が首を振って、かわりにローラの前に立った。
「ローラ、ちょっとだけいいか」
「うん」
このあたりの作法はどこで習ったのか、ローラは自主的に正座した。
「お前たちがどんな理由で敵側に回る事になったとしても、俺たちは決して諦めず絶対に連れ戻してみせる……それを信用して行動するのは嬉しいけど、今後、今回みたいな無茶は絶対にするなよ?」
うなだれる彼女に、垂は続けた。
「あとローラ、お前『自分は恋人がいないから死んでも大丈夫』って言ったんだって? 誰に向かってだ?? ……お前の事を一番大切に思ってる『姉妹』向かって言う言葉じゃないだろうが!!」
垂が声を荒げたので、ローラのみならずパティまでびくりと身を強張らせた。
「パティだけじゃない、お前を失ったら悲しむ奴はお前が想像している以上に大勢いるんだよ……大切な仲間なんだからな」
「ごめんなさい」
大きな体を小さくして、ローラは深く頭を下げた。
「わかったらよろしい」
垂が笑みを見せると、
「そうですよ」
と言って山葉加夜がローラの怪我を治療した。
「ローラちゃん、死んでも大丈夫なんて言わないで下さい。あなたは、あなたが大切だと思っている人たちから、同じように大切だと思われているんですよ」
ちょっときつめの口調だが、それは加夜もローラを心配していた証拠だ。
加夜は今、涼司の代理の気持ちになっている。涼司ならこう言うだろう、と思いながら諭したのである。そして最後に、加夜はこう付け加えるのを忘れなかった。
「無茶は良くないですけど、いつも頑張ってくれてありがとう……」
ローラから詳細を聞き、切は顔を上げた。
「あとは彼、グラキエスか……」
グラキエスは剣に支配されたというより、剣を支配した様子だったという。
いずれにせよ追わねばなるまい。
そのとき彼らは一つの影……戦部小次郎が既にグラキエスたちを追っていることは知らなかった。