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リアクション
【極寒の大地にて:3】
監獄の中は、吹雪の無い分いくらかは寒さが和らいだものの、暖房など、快適さを与えてくれるものは無く、必要最低限のみで構成された無機質で殺風景な空間は、気持ちの方まで寒々とさせる。
そんな中を、気配を殺して侵入したのは、唯斗と刹那、そしてアルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)だ。少なくともキリアナの同類さんと合流するまでは、できるだけ目立たないようにするための斥候役である。
「何か変な感じ」
アルミナが言うのに、刹那も「そうじゃのう」と同意した。普段はどちらかと言えばテロリスト側につくことの多い自分達が、テロリストを警戒している、というのは確かに奇妙な感覚だろう。
「まぁわしらの仕事は、依頼主によるものだからのう」
こういうケースもあるだろう、と刹那は肩を竦めた。
そうして、そろそろと音もなく進んでいく中、差し掛かった分かれ道で、近付いてくる気配に三人は足を止めた。足音からすると、一人だ。心中でカウントを取る唯斗が、その音が角を曲がろうとする瞬間に飛び出した。が。
「待った」
アルミナが、それより早く声を上げたのに、ギリギリのところでその手を止めた唯斗は、突然の襲撃者に腰を抜かしかけている青年の腕に、黄色い布が巻きつけられているのに気付いた。トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)の案で、万が一間違って攻撃してしまわないように、目印としてつけてもらっていたのだ。唯斗がキリアナ達を呼に戻り、一同が合流したところで、キリアナが青年に向って深く頭を下げた。
「ウチの我がままに、巻き込んでしもて……すいません」
その言葉に、青年はいやいや、と首を振った。
「気にしないで良いよ。君も、セルウスも……ぼくたちのような存在にとっては希望、だからね」
そういって笑った青年は、その顔を苦笑に変えて肩を竦める。
「しかし、びっくりしたよ。君の言ってたテロリストかと思ったよ……外で随分暴れてるって言うし」
その言葉に、キリアナ達は顔を見合わせると、思わず苦笑が漏れた。
「それ多分、テロリストやあらへん。ウチの味方や」
「そうなのかい?」
青年は驚いたように目を瞬かせた。
「警備の人たちは大騒ぎで、外壁に向ってるみたいだけど」
その言葉に、今度はキリアナ達のほうが表情を変えた。
「……テロリストは、まだ現れてへんのやね」
「外の騒ぎが違うなら、そういうことになるね」
青年も厳しい顔で言い、「微妙なところね」とスカーレッドが呟いたのに、ディミトリアスも頷く。
「都合は良いが、それは相手にも同じな筈だ」
警備の混乱と、外部への集中は、内部で動くにはまたとないチャンスだが、それは侵入してきているテロリスト達にとっても同じことだ。動き出したのがこちらより早ければ、寧ろあちらが有利かもしれない。まだ侵入していない可能性もあるのでは、という声もあったが、何故かディミトリアスが首を振った。
「嫌な気配がある。テロリスト、とか言うものかは判らないが……酷く、不吉だ」
その言葉に、ニキータがどういうことか問おうとした、その時だ。
「いずれにせよ、のんびり話しながらってわけにもいかないみたいだ、ぜ!」
言うが早いか、飛び出したのはテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)だ。噂をすればなんとやら、まさに外壁の守りに向おうとしている所だったのか、警備兵たちが慌しく接近してきていたのだ。彼らがその角を曲がってくるよりも早く、テノーリオはミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)を伴って警備兵たちの先頭へ飛び込んだ。
「出来るだけ、怪我をさせないように気をつけてくださいよ」
魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)の言葉に「無茶言うぜ」とテノーリオはぼやいたが、彼らのパートナーであるトマスが不殺主義なのは良く知っている。「了解」と短く答えたミカエラと共に、テノーリオは警備兵を制圧に掛かった。そうやって先頭へ向けて躍り出た二人の後ろではその戦闘を半ば隠れ蓑にする形で、光学迷彩で姿を隠しながら同行していたチムチム・リー(ちむちむ・りー)は、キノコハット胞子をばら撒いて彼らを眠らせにかかり、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は朱の飛沫によってスプリンクラーを作動させた。襲い来る眠気に併せて、思いも寄らぬ水しぶきを浴びてパニックになった警備兵たちは、わりとあっけなく制圧されたのであった。
武装を解除させ、軽く拘束すると、申し訳無さそうにトマスは警備兵達に頭を下げた。
「君たちも職務だと思うけど、こちらにも事情があるんだ」
トマスの言葉に、反論しようとした警備兵に子敬がしい、と口に手を当てた。
「詳しく説明している事情がありませんが、帝国の未来に関わるのです。悪いようには致しませんから、見逃していただけますかな?」
ここで見逃すことによって、不利益は与えない。寧ろ、帝国の為に良いはずだ、と言う子敬の言葉は、妙な説得力があり、警備兵達は困惑しきりの表情ながら、抵抗無く腰を下ろした。
それを見やって、レキは同僚をこてんぱんにされたからなのか、ちょっと困った風の青年に「それで」と声をかけた。
「セルウスくんの場所はわかる?」
「あ……、ええ。今、ノヴゴルド様と面会されてるはずだから、応接間だと思うけど」
そう言って取り出した獄内地図を受け取りながら、レキはテレパシーをセルウスに送った。
(セルウスくん、今どこ?)
(え、と……どこって言われても、あ。おーせつま、だって!)
恐らく近くにいた誰かに聞きでもしたのだろう。セルウスらしい返答に少し笑いつつ、間違いない、と告げると同時。先にノヴゴルドに動かないよう伝えるためにと、刹那が廊下の向こうへ消えていったあと、レキはキリアナを振り返って頷いた。
「急ごう」
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