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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第3回/全4回)

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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第3回/全4回)

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【カンテミール 最後の衝突】






「あっちも順調みたいだよ」
 買い物から帰ってきた屍鬼乃が、佐那のCDを手渡すのに、理王はふうと息をついた。
「こっちも大体の情報は手に入れたよ」
 まあ凡そ、結果は予想通りだったけど、と呟いた理王の下に揃ったのは、ティアラのファンサイトに流れた資金や武器の流れ、かなり強引な宣伝活動とその背景。中には武器売買プロモーションの企画らしきものまで、後ろ暗いデータがごろごろだ。
「後はこの武器をどう使うかって所かな」
 直接ラヴェルデへの武器として使うことも出来るかもしれないが、別の手……例えばティアラを味方につける一手にもなりそうだし、と、道満の提案で構築された情報集約体勢を利用し、経緯報告もかねて白竜へデータを送って、理王はようやくひとごこちついてきしりと椅子を鳴らした。
「CMの効果も上々。水面下での勢力は確保できつつある……あとはお手並み拝見ってところかな」
 今の所は、エカテリーナの目論みは、概ね順調に推移しているようだ。
 彼女の目的は、カンテミールのシブヤ化遅滞、そしてセルウス支持への方向転換だ。認めるのは随分と癪だった様子だが、ティアラが世間知らずのお馬鹿アイドルではないのはエカテリーナも良く判っている。だから、土地の意見を集めて反発心と反抗意思を示せば、アイドルであるが故に民意を無視できないティアラは、立場の計画を遅滞させざるを得ない。ネットの普及によって意見の伝達と統一の易いカンテミールならではの草の根運動だ。
『ティアラの内心の優先度はアイドル>選帝神っぽいのはわかってるし、セルウスにつく方がメリットがあると判れば、手の平を返すに決まってるのだぜ』
 皮肉交じりではあるが、ティアラがそういう機運を見る目があるのは認めてはいるだしい。
「まぁ気は抜かないでいこう。まだ時間もかかりそうだし、後で差し入れ持って行くね」
 珍しい屍鬼乃の言葉に、理王のほうが驚いたように瞬いていると「このままじゃいけない気がして……」とぼそりと屍鬼乃が言うのに、何か妙な空気になった……その時だ。
 ビーーーッっと、エカテリーナのモニターから、警告音の上がったのが聞こえた。


『外部からの接触を確認』
『ちっ、とうとう特定されたか』
 四天王たちが声を上げた。ネットでの佐那達がネガキャンを始めてからこちら、ずっと彩羽からのネット攻撃を受けていたのだがとうとうその発進経路の一端をかぎつけられたのだ。
「防壁を確認〜パターンはぁ、えーっとよっつでぇ……こう、こう、こう、っとこんなもんかなぁ〜」
「了解じゃ。突破は任せるでござるよ!」
 眠そうな夜愚 素十素(よぐ・そとうす)が分析した結果を受けて、バトンタッチしたスベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)が、対応してくる四天王の防壁を次々に突破をし始めた。ネットに強いとは言え、彼らの本領はゲームである。素十素のサポートを受けるスベシアの攻撃を防ぐだけで手一杯になっている間に、龍砲 天羽々矢(りゅうほう・あめのはばや)のサポートで潜在能力を解放した彩羽が、一気にエカテリーナの喉元まで切り込んできた。
「『勝負……!』」
 激突。それは激戦だった。
 迂回、防壁、ダミーにウイルスと、あの手この手で繰り広げられるネット上での戦いに、エカテリーナも彩羽も、瞬きの瞬間すらも惜しむような脅威の集中力を発揮し続けること、どの位か。ついた決着は、僅差だった。
「『―――ち……ッ!』」
 舌打ちが上がったのは同時。エカテリーナが追撃を断ち切ったのが、彩羽が回線を掌握するよりも一歩速かった。しかし、一方で、回線の経路によって場所が特定されるのは防げなかったのだ。
「位置は特定したわよ」
「灯台下暗し、とはよく言ったものでござるな」
 そのポイントが、カンテミールから離れるどころか都市の真下にあることに、呆れたようにスベシアが言ったが、ティアラは「なるほどですねぇ」と笑った。
「逃げてないってことは、まだ何か目的があるんでしょうねぇ……面白いじゃないですかぁ」


 そんなティアラを通じて、位置情報を得たブルタ達ディオニノスの面々は、坑道への侵攻を開始していた。
「キュベリエからの連絡は途絶えてる。注意した方が良いぜ」
 こちらの動きに気付かれているかもしれない、という和馬の言葉に頷き、ブルタ達は慎重に狭い坑道の中を進んでいった。強襲を警戒してだろうか、どんどんと狭くなる坑道を進みながら「この辺りだな」と和馬は声を潜めながら速度を落とした。
「この辺りから、罠が張られているはずだ」
 途絶える前に、キュベリエが送ってきたテレパシーによる情報だ。ブルタが念のために確認したところ、確かにそのポイントには罠の張られている痕跡が見える。ブルタ達は頷くと、それらを避けて一気に距離を詰めに突撃した。
「―――来た!」
 シリウスの合図に、エカテリーナ陣に緊張が走った。
 見通しの悪い坑道の、暗がりからの急襲である。姿のしっかり確認できぬままに、ステンノーラの投石器から石が投げ込まれてきた。咄嗟に問いだしたザビクが直撃を防いだが、一撃で終わるはずも無い。2撃、3撃と攻撃が続くのに、敬一もパワードスーツで前線を維持するも、耐え切れず後ろへ下がったが、それを見逃すはすが無い。ブルタ達は見計らったように飛び掛った、が、次の瞬間。
 ドンッ! と爆発音がしたかと思うと、天井の岩が突然両者の頭上から降って来たのだ。咄嗟に飛び退いて直撃は避けたものの、落下してきた岩は坑道を塞いでしまっている。
「そう簡単にはいかねーぜ」
 岩の向こうから、光一郎が言った。カンテミールでのイコン戦での折りだ。天音が、ファトラとキュベリエが打ち合わせのように言葉を交わしていたのを目撃しており、ドミトリエを通じて警戒していた面々は、キュベリエが罠の位置を味方にテレパシーで伝えるのを待って、オットーの呪詛によって行動を奪うと、敬一の調査結果を元に準備を整えていたのだ。
「こんな時に、手の汚さなんて、言ってらんねーからな」
 そう言った光一郎に、グンツは息をついた。
「こんなことをしても、ただの時間稼ぎにしかならんぞ」
 ティアラの選帝神の座はそう簡単に揺らぐものではないし、行動を塞ぐ岩も、時間はかかるが撤去できないわけではない。それに、ティアラの得た権力を駆使すれば、逃亡したとしても捕縛にさほど時間はかからないだろう。だが。
『時間稼ぎで十分だから、こんな手を使ったに決まってるだろjk』
 逆に不敵な声で笑んだのはエカテリーナだ。

『時間はボクの味方、アキバの味方。ボクが何故カンテミールで神と呼ばれてるか、思い知ると良いんだぜ!』