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【戦国マホロバ】四の巻 マホロバ幕府開府 決戦、冬の陣!

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【戦国マホロバ】四の巻 マホロバ幕府開府 決戦、冬の陣!

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第六章 輪廻1

【????年 ?月??日 ??時??分】
 トキノ ハザマ ――


 ここは暗くてさびしくて、何もない。
 問いかけても何も帰っては来ない。
 自分の存在、意識さえもなくなってしまいそうだ。
 ただ、辛うじて保っていられるのは、想い出だけ。
 桜の花びらが運んできてくれる、記憶だけ。


{center}卍卍卍{/center}


「それだ……そいつで叩き切れ!」

 鬼鎧ダイリュウオーに乗り込んだ武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、無我夢中で叫んでいた。
 声に反応したアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が、背中の刀『宗近』を振りまわした
 絡み付く黒い髪を引きちぎるように切る。
 宗近は輝きを増し、月の輪に突き刺さった。
 輪の中に一直線に亀裂が入る。
 『時』が一気になだれ込んできた。
 時のハザマの入り口が開いたのだ。
 牙竜はパートナーの龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)とともに、現代から月の輪へ――鬼子母帝のもとへと突っ込む。
「ここでやらなきゃ、扶桑もマホロバも守れない!」
 牙竜は時のハザマへ吸い込まれていく。
鬼子母帝(きしもてい)もういいだろ! 鬼は姿を変え、形を変え……現代に系譜は続いている。それ以上、何を望む?」
 牙竜は、鬼は今でも世界樹扶桑を守り続けているといった。
「鬼は扶桑を、マホロバを守っている。それを鬼の母であるアンタは、なぜ認めてあげないんだ。見守ろうとしないんだ!」

「我の心は、この暗闇の中でとっくに凍り付いてしもうたわ。何千年もの間、我は幾度も鬼城 貞康(きじょう・さだやす)に繰り返し殺される。桜の花びらが、何千回何万回と繰り返してみせる。繰り返し、繰り返し……」


 時空のハザマに閉じ込められていた鬼子母帝は、同じ『時』を何度も繰り返していた。
 壊れた音盤と折れた針のように、途切れ途切れ音の記憶を拾っては、ある一定のことろまでいくと、また最初に飛ばされる。
 そこで必ずといって彼女は殺され、鬼一族は滅び、人もマホロバも滅びる結末だった。
 こぼれた記憶から唯一、鬼子母帝の意思を入り込ませることができたのは、神子としての力を失い空っぽの器となっていた葦原 房姫(あしはらの・ふさひめ)だった。
 鬼子母帝(きしもてい)は房姫に狙いを定めていた。


「我がこの時のハザマから抜け出てよみがえるのは、時空を開く神子と我を受け入れ器となる神子が必要……! お前だよ!!」


「させるかよ……!」
 鬼鎧魂剛に乗り込んでいる紫月 唯斗(しづき・ゆいと)エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は、鬼子母帝の地の果てまでも続いていそうな長い髪をつかんだ。
「房姫に御筆先(おふでさき)を書かせたのは、アンタだったんだな!?」
 鬼子母帝は不気味に笑っている。
 唯斗はその髪をぐいと引っ張った。
「ちょっと荒っぽいが、勘弁してくれ! あんたに見せたいものがある」
 魂剛は時空に漂う桜の花びらの間をぬうように飛ぶ。
「これが今のマホロバだ。その目でよく見ろ!!」
 そこは、美しい田園風景が連なっている。
 人が日の出とともに起き、働き、遊び、生き、生活していた。
 大きな時の流れにしてみれば、ちっぽけで、いてもいなくてもどうということはない、取るに足らない存在かもしれない。
 しかし、この時代は唯斗の誇りだった。
「この時代は、鬼城 貞康(きじょう・さだやす)や貞継(さだつぐ)、正識(せしる)、そして瑞穂 睦姫(みずほの・ちかひめ)達が心血賭けて築いた今だ! それを、何も知らない奴にただ、否定させてたまるか!」
 鬼子母帝は顔を手で覆った。

「我には眩しすぎる。何もかも……何も見えぬ」


 鬼子母帝は、恨み節を語った。

「おいおい、いい加減にしないと。俺様の美しい面も三度までってね!」
 南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)は持っていた紙をぴらぴら見せびらかしながら言った。
「アンタも五千年生きてて、かついい女ならこの血のにおい、わかるよな? これは鬼城の血で書かれた血判状だよ。よーく、読んでみ? 読めるよな? 俺様はこーみえてマホロバ幕府代官様だからね、文書の保存状態にはけっこーうるさいよ?」
 そこには、鬼城 貞継(きじょう・さだつぐ)によって書かれた『天鬼神の血』についてがある。
 これにより契約を交わしたものは、鬼城の血によって守られるのだ。
 光一郎さらに付け加えた。
「『大殿』の血は――心配しなくても、鬼の気性や力は、後世に確実に残って隔世遺伝した子孫があらわれるってことだ。鬼はそう簡単に滅びはしない。だうだ、少しは安心したか?」

「知らぬ。知らぬ……!」


 鬼子母帝は、うろたえたように言った。

「我がどんなに子を産み世を作ろうとしても、人間は……男どもは戦をはじめ、好み、ことごとく奪い、壊しては焼きつくしていく。いわば、これは女の戦じゃ。復讐じゃ!」


「あーあ、しょうがねえな。鬼子母帝がそうやって頑張っていると、扶桑の力が正しく働かないんだよ。これは俺様の推理だが、この時のハザマが邪魔して扶桑の花びら……つまり輪廻転生のことな。これが、きちんと廻っていかないんじゃねーか。俺様は、そのことも心配してるの!」
 光一郎のいう心配とは、葦原 総勝(あしはら・そうかつ)織由 信那(おだ・のぶなが)をのことだった。
 彼らは過去から現代へ連れてこようとされたが、月の輪をくぐることができず、時のハザマに飛ばされてしまった。
 総勝らは、元の時代へ戻ることはできないだろう。
 かといって、現代へは行くことはできない。
 オットー・ハーマン(おっとー・はーまん)は、はげしく動く扶桑の華の嵐で、取り乱す鬼子母帝を見つめた。
「このまま魔道へ堕ちるより、輪廻転生にのせてあげたほうがよい。それには扶桑の力が必要。鬼子母帝殿、わかってくださらぬか。貴殿もそれだけ長く生きてきたなら、扶桑の噴花を目の当たりにしたこともあっただろう。噴花で失われた子の末路が気にならないこともなかろう?」
 オットーは、この嵐は鬼子母帝の荒れ狂う心の中と同様なのだろうと思った。
「扶桑の力は……他の世界樹にはない力なのだよ。現代のマホロバで幕府を揺るがすユグドラシル信徒が大乱を起こしたときのように、扶桑が力を失えば、またマホロバも滅ぶ!」

「鬼子母帝様のその悲しみ、苦しみ……白姫も母ゆえ、理解ります」
 樹龍院 白姫(きりゅうりん・しろひめ)は一本の矢を携えていた。
「ですが、その悲しみを乗り越えて、つなげていく命もあるのです」
 白姫が鬼子母帝にむけて矢を放つ。
 矢には彼女の願いが込められていた。
「人である白姫たちに、鬼子母帝様の全てを受け止めてお心鎮めることは叶わぬことかもしれません。でしたらせめて、月の輪から繋がって、新しい生を……転生することはできないでしょうか。鬼の母である貴女様にどうか生きてほしいと願うばかりでございます」
 白姫の放った矢は孤を描き鬼子母帝の胸に刺さった。
 長い長い闇の中での一筋の光は、届いたのだろうか。

 南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)は、もはやかける言葉もなく、鬼子母帝を見守っている。
 なるほど、先ほどが鬼子母帝が言った通り、これは生存競争のための戦なのかもしれない。
 彼女はその戦に対抗すべく、鬼の繁栄を望み、またそうしてきたのだ。
 だとすれば、安っぽい憐憫や同情を示すほうが失礼だと考えた。

「一寸光陰!」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)はあきらめてはいなかった。
 わずかな隙をつき、渾身の一撃を加える。
 ダイリュウオーに減速した形跡はない。
「アンタの怨念だけは、時のハザマへ連れて行かなきゃならない! ……怨念だけ……トドメを刺す、その怨念、断ち切ってみせる!!」
 龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)は、囁くように牙竜に言った。
「この戦いが終わったら、孤児院の育ての親に感謝の言葉を届けてはどうでしょうか?」
 牙竜の仮面から一滴の涙が流れる。
 返事はないが、彼の答えは聞かずとも灯にはわかっていた。



【マホロバ暦1192年(西暦523年)2月11日 新月】
 桜の世界樹 扶桑(過去)――


「……ああ!」
 時のハザマが映された月の輪を見た葦原 祈姫(あしはらの・おりひめ)が悲鳴を上げた。
 
「そんなことをすれば……扶桑が……!」
 鬼子母帝(きしもてい)を包むかのように、桜の花びらが集まっている。
 と、同時に、この時代の扶桑に異変が起こった。
 もともと噴花の兆候はあった。
 しかし、扶桑の化身である天子(てんし)不在のまま、それが起ころうとは考えられていなかった。

 桜の樹はざわざわと揺れ、枝が伸び、蕾が芽吹く。
 地面は波打ち、どんという激しい音と共に衝撃波が扶桑の都を襲った。

「噴花だ!」
 風祭 隼人(かざまつり・はやと)が見上げると、桜の花弁が空から降ってきた。
 それを見た封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)は覚悟を決め、樹月 刀真(きづき・とうま)から離れる。
「この状態で噴花したら、扶桑は間違いなく枯れてしまいます。そうなればマホロバは終わりです。同時に、他の世界樹にも影響が出るでしょう……」
 白花は顔を上げ、扶桑へと手を伸ばした。
「私が天子様のお傍へ参ります」
「祈姫!」
 セルマ・アリス(せるま・ありす)葦原 祈姫(あしはらの・おりひめ)の手を取った。
「やっぱりあの月は、祈姫の力が必要だ。時のハザマにいる人たちを助けて、月の輪を閉じよう!」
「そんな……私……また」
 祈姫は茫然としていた。
 男性のセルマに手を逃げられているのも気が付いてないようだった。
「また噴花を止められなかった」
「祈姫、鬼子母帝(きしもてい)と会ってみようよ」
 東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)がも片方の祈姫の手を握る。
「私は難しいことはわからないけど、『過去』と『未来』ために『今』があるんだと思うよ。今、祈姫はひとりじゃないし、私たちもいるよ」
 祈姫はためらっていたが、意を決すると巨大な筆を握りしめた。
 ジグザグに線を引いていく。
 線は、月の輪へ続く階段となった。
 彼らは駆け足で登っていく。

「鉄生さんはいかれないのですか」
 一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)葦原 鉄生(あしはら・てっしょう)の横顔を見ていった。
「僕があんなところへいったって、何の役にもたちゃしないさ」
「あら、そうでしょうか」
 悲哀は鉄生を見つめた。
「あの祈姫さんも変わりませんよ。貴方の娘です。少し……年をとっただけの、貴方の愛した娘です。貴方は、自分の娘が貴方の為に行った行為を否定するのですか?」
「僕の?」
「祈姫さんは二度と父親の貴方を失いたくなかったのでしょう。だから、禁忌とわかっていても時空を超え、扶桑の墳花を止めたかった。……これは私の憶測ですが、噴花で犠牲になった葦原の民の中に、貴方がいたのではないでしょうか」
「……」
 鉄生は黙り込んだ。
 黒い蜘蛛型ギフトカン陀多 酸塊(かんだた・すぐり)が目を光らせながらやってくる。
「おんぶ、おんぶ! え、このにーさん助けるの? ちがう? さっきの女の子? あー、いいぜーいいぜー。準備はいいぜー、さあ行こう!」
 もそもそと悲哀の肩に乗る酸塊。
 悲哀は聞こえるか聞こえないかのような小さな声で言った。
「子を思わない親なんて居ないと、私は思いたいのです」