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レベル・コンダクト(第1回/全3回)

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レベル・コンダクト(第1回/全3回)

リアクション


【十三 Rebel Conduct】

 アウリンノール・イエスイ(あうりんのーる・いえすい)アプトム・ネルドリック(あぷとむ・ねるどりっく)は、バランガンから僅かに南へと外れた遺跡内に呼び出され、ある人物と会うことになっていた。
 過日、バランガンがパニッシュ・コープスに占拠された際、ふたりはパニッシュ・コープスに協力すべく、行動を起こそうとしていた。
 が、ザレスマンの真意を見誤っていた為に、結果的に行動そのものは不発に終わってしまった。
 ところが、である。
 今度はザレスマンの方から秘密裏に、アウリンノールに対して連絡を入れてきたのである。
 アウリンノールとしても、断る理由は無かった為に、面会したいとの申し出をうけることにした。
 そして約束の時刻になり――ザレスマン当人が、ふたりの前に姿を現した。
「パニッシュ・コープスに、興味がおありのようですな」
「えぇ、まぁ」
 アウリンノールは本心からいえば、今すぐにでも入団したい気持ちはあったのだが、しかしザレスマンという男が何を考えているのか、分からない部分が多い為に、敢えて即答は避けた。
 実際、パニッシュ・コープスは既に形の上では、教導団第八旅団に全面降伏し、武装解除までしてしまっているのである。
 今後、ザレスマンがどのように動くのかについては、不明瞭な点が多過ぎた。慎重になるのも、当然であったろう。
 そんなアウリンノールの不安を知ってか知らずか、ザレスマンはどこかおかしそうな笑みを湛えて、やれやれと小さくかぶりを振った。
「いや、何ともはや、タイミングが悪かったですなぁ。といいますのも、実はもう、パニッシュ・コープスは名実共に消滅しましてね……今後は傭兵ビジネスを展開しようと考えておるのですよ」
 曰く、今どきテロリズムだの鏖殺寺院だのは、もう時代遅れだというのが、ザレスマンの本音らしい。
 かといって、鏖殺寺院本隊を怒らせてしまうと何かと厄介なので、教導団に叩かれて全面降伏したという形にすれば、後腐れなく次のビジネスに移行出来る、と考えたらしい。
 それと並行して彼は、数週間前にイルミンスールの森に於いて、レイビーズS3βの原料となり得る特殊魔導溶剤の探索を進め、巨大な魔物の妨害に遭いつつも、何とか完了させた、というのである。
「当面は、スティーブンス准将閣下の下で実績を積み上げつつ、営業母体の足固めを進めていく予定です。もし我が社にご興味がおありなら、こちらに電話を」
 いいながらザレスマンは名刺を一枚取り出し、アウリンノールに手渡した。
 何となく肩透かしを食ったような気分のアウリンノールだったが、対するザレスマンは最後まで慇懃な態度を崩そうとはせず、去り際も非常に丁寧なビジネスマン然とした調子で、別れの挨拶を述べて去っていった。
 残されたアウリンノールとアプトムは、どうしたものかと顔を見合わせた。
 魅力が無い訳でもなかったが、かといって、即決する程の決定打も無かった。


     * * *


 アウリンノールとザレスマンの面会の様子を、源次郎と綾瀬が少し離れた位置から、遠巻きに眺めていた。
「ここまでは全て、源次郎様の予測した通りという訳でございますね」
 綾瀬の言葉を、源次郎はぼんやりとした表情で聞いている。
 別段、綾瀬の声を無視しているという訳ではなく、全てが予想通りに運んでしまった為に、考えるのも馬鹿馬鹿しくなっていたというだけの話であった。
「スティーブンス准将とは、お知り合いなんですの?」
「あぁー、スティーブンスな。あいつとは、デルタ時代の同僚やってん」
 デルタとは、米国陸軍第一特殊部隊デルタ作戦分遣隊の通称である、デルタフォースのことを指す。
 綾瀬は内心で、皮肉な話だと呟いた。
 対テロ作戦のスペシャリストである源次郎とスティーブンス准将が、今やそのテロに加担する勢力に属している、或いはテロ組織と手を結ぶという変遷を迎えているのである。
 恐らく当の本人達も、デルタフォース在籍時にはこのような人生を辿ることになろうとは、全く予想していなかったことだろう。
「まぁ、長いこと生きとったら、色んなことあるわいな」


     * * *


 パニッシュ・コープス消滅を受けて、最後の報酬を誰から受領すれば良いのかが分からなくなった刹那だが、幸いにも、御鏡中佐がわざわざ刹那の消息を探し当て、バランガンの第八旅団本部を訪ねてくるようにとの連絡を送ってきてくれた。
 変装を施した刹那が第八旅団本部を訪ねると、刹那自身が驚いたことに、今やトップに君臨するスティーブンス准将の室へと通されたのである。
 案内係に連れられて刹那が訪れたその部屋には、スティーブンス准将と御鏡中佐の両名が待ち受けていた。
「ザレスマン師がここのところ、不在がちでね。君のことは彼からお願いされていたから、何とか見つけ出すことが出来て良かったよ」
 スティーブンス准将は執務デスクの引き出しから報酬の詰まった茶封筒を取り出し、御鏡中佐経由で刹那に渡した。
 刹那は内容を確認せず、そのまま懐へと仕舞い込む。
「今後、仕事はもう無いという認識で宜しいか?」
 この問いに対し、スティーブンス准将と御鏡中佐はどうしたものかと困ったような表情で、互いの顔を見合わせた。
「いや、まぁ、仕事自体はあるんだよ」
「准将……エルゼル駐屯部隊への攻撃に、手を貸して貰いますか?」
 エルゼルとは、ヒラニプラ第四の規模を誇る都市であり、ここに駐屯している部隊は金団長肝煎りの精鋭部隊でもある。
 これを攻める、というのである。
 受諾するしないは別にして、刹那は単純に興味本位だけで、どのような攻撃になるのかと聞いてみた。
「まずは、連中を悪の巣窟に仕立て上げないとな、世論がついてこない。戦争の勝敗を左右するのは、兵器でも兵員の数でもない……戦争で勝つ為に必要なのはね、政治なのだよ」
 例えば今回、南部ヒラニプラの人心を一手に引き受け、アジェン家を味方に取り込み、関羽将軍を失脚させたのは、全て政治の力だ、とスティーブンス准将は小さく笑う。
 これだけのお膳立てがあったからこそ、最後のバランガン市街攻防戦は、単なるデモンストレーションとして自身が英雄になるパフォーマンスを演ずることが出来た、という。
 そして次は、金団長の更なる権威失墜を目指す戦いが必要となってくる。それが、エルゼル攻撃らしい。
「確かエルゼルの隊には、ヘッドマッシャーに詳しい士官が近頃、原隊復帰したそうだな、確か名前は……」
「ジェニファー・デュベール中尉、ですね」
 御鏡中佐が、手にしていた資料をめくりながら素早く応じた。
 その名前には、刹那自身も聞き覚えがあった。
「ついでに、始末しておくか。生かしておくと何かと厄介だ」
「その方が宜しいかと」
 随分と、簡単にいうものである。
 刹那はスティーブンス准将の自信が、一体どこから湧いてくるのかと不思議に感じた。
「恐らく相当数のコントラクターが、デュベール中尉を助けようとするかと思われる……その場合は、どのように対処されるおつもりか?」
「いやいや、心配には及ばんよ。私のB.E.D.の前では、コントラクターが何百人居ようと、赤子の手を捻るようなものだからね」
 スティーブンス准将は、さらりといってのけた。
 次いで、御鏡中佐に面を向け直し、僅かに姿勢を正して表情を引き締めた。
「それはそうと、中佐。そろそろ私の隊に、コード:Rebel Conductの発動指令を出しておいてくれたまえ」
 Rebel Conduct(反乱実行)とは、スティーブンス准将も中々皮肉好きな面があるものだな――刹那は内心で苦笑を漏らしつつ、室を去っていった。



『レベル・コンダクト(第1回)』 了

担当マスターより

▼担当マスター

革酎

▼マスターコメント

 当シナリオ担当の革酎です。

 まずは第1回終了時点での情勢を、以下にまとめますので、今後の参考にして頂ければ幸いです。

 ・関羽は権威の失墜が甚だしく、事実上、蟄居に近い状態。
 ・レオン・ダンドリオンは国軍指名手配となり、現在逃走中。
 ・南ヒラニプラは反・金鋭峰に傾きつつあり、スティーブンス准将の人気が急上昇中。
 ・パニッシュ・コープスは完全消滅し、第八旅団の外部傭兵部隊に組み込まれた。

 ざっくりと、こんな感じです。

 しかし今回は、予想以上に話が先に進んでしまいまして、とても驚きました。
 これはもう全て、皆様のアクションによる結果です。次回以降どうやって場繋ぎしたら良いのかと、本気で悩んでおります。
 尚、第2回のガイドはこれから作成しますが、具体的な時期はまだ決まっておりません。

 それでは皆様、ごきげんよう。