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【裂空の弾丸】Knights of the Sky

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【裂空の弾丸】Knights of the Sky

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第1章 生ける者たちの決戦 3

「いそげーっ! 敵の攻撃が来るぞ―っ!」
 飛空艇ホープ・シーカーは甲板の上。
 叫んだのは、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)なる少年だった。
 まだまだ若き軍人の少年である。しかしながら歳にしては大尉という階級を抱くことから、彼の実力は物語られよう。
 そのトマスの指示を受けて、飛空艇の装甲に張りついていた整備工たちが慌てて逃げ出した。

 ズガアアァァァァンッ!

 戦闘員たちが小型飛空艇からビーム砲を放ってくる。
 が、それらを弾いたのは、トマスの指示で整備工がなにやら改造をしていた装甲だった。

 ガイイィンッ!

「なにぃっ!?」
 驚きの声を放ったのは、ハデスだった。
「へへんっ! 船の装甲には特殊コーティングを施してあるんですよ! そんじょそこらの光粒子攻撃じゃ、びくともしません!」
 瑞樹が強気に言い放つ。

 ギュオオオォォンッ!

「ならっ! あなたを堕とせば少しは! ハデス先生のお役に立ちます!」
 瑞樹へ向けて高機動で迫ったのは、言うまでもない。
 機晶合体したオリュンピアだった。
〈させませんっ!〉

 ガシャッ! グォンッ!

 紅葉の声とともに、瑞樹の背中から四枚の機械翼が一斉に開く。
 脚部のバーニアも噴きだし、オリュンピアの攻撃は避けられた。
 が、オリュンピアは諦めない。
「このぉ……ッ!」

 ズガァンッ! ガンッ! ドォンッ!

 二機の合体機晶姫がぶつかり合う様を、船に乗るトマスたちが見ていた。
「流れ弾に気をつけろ! 敵も実弾を使ってくるぞ!」
「ふんっ! そのようなもの……」

 ガッ!

 なぜか、ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)はどこぞから取り出した箸で飛んできた銃弾を掴んでいた。
「無茶苦茶だな…………って、トマス!? 的を書くなー! 船が汚れるじゃないかー!」
 叫んだのは、テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)である。
 彼が視界に収めたのは、敵が狙いやすいようにと船の装甲に赤い筆で丸い的を描くトマスだった。
 トマスはきょとんとしながら振り返った。
「だってっ! そっちのほうが狙いやすいじゃんっ!」
「そういう問題じゃねーっ! 大体、敵がんなもん素直に狙ってくるかーっ!」
 と、叫ぶやいなや、

 ズガアァァァァァンッ!

「しまったっ! つい本能的に!?」
「…………」
 ビーム砲を放ったハデスが頭を抱えているのを見て、テノーリオは呆然とした。
「人が逃れることのできない人間の本能を突くとは……いやはや、トマス坊ちゃんも成長なされた」
 それを、なぜか感心した顔で見つめる魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が賞賛する。
「そういう問題か……?」
 テノーリオは頭が痛くなりそうだった。
 が、まあ結果オーライである。
(敵が馬鹿で良かった……)
 と、テノーリオは安堵するのであった。

 ドゴォォォッ! チュドオォォォンッ!

「だあぁぁ、しまったっ!? またやってしまった!」
「…………」
「敵は科学者ですのに……学習しませんな」
「言うな。戦ってる側ながら情けないんだから」
 テノーリオが言うと、子敬はどこぞから取り出した湯飲みを傾ける。

 ズズ……

「お茶が美味い……」

 ドゴオォォォンッ! チュドオオォォォンッ!

 激戦の最中、彼ののんびりした声がつぶやかれたのだった。



「そろそろ時間の筈ですが……」
 つぶやいたのは、本名 渉(ほんな・わたる)だった。
 彼は神崎 輝(かんざき・ひかる)の乗る小型飛空艇に一緒に乗っており、銃型HCのモニタに映る画面を見つめていた。
 そこで、輝が声をかけた。
「時間って?」
「実はハデスさんが従えてる飛行機晶兵には、ある仕掛けが施されてるんですよ」
「仕掛け?」
「ええ、そうです。なんでもハデスさんに飛行機晶兵の強化データを売った恭也さんからの情報なんですが……そろそろ……」
 と、渉がつぶやいたそのときだった。

 ピピピピピ……――ズガァァァァァァァァァン!

 突如、ハデスの部下の飛行機晶兵たちが爆発を開始した。
「なにっ!? いったい、なぜ機晶兵がっ!?」
 当然のことながら驚いているのはハデスである。
 それを遠目から眺めやりながら、渉が「やっぱり……」とつぶやいた。
「これが仕掛け?」
 たずねたのは輝である。
「ええ。なんでも恭也さんはデータの中に一定時間が経ったら爆発するよう細工を施していたそうですよ」
「へー……やりますね。なんだか、意地の悪い恭也さんっぽい」
 輝はそう言って、くすっと笑った。
 同じように渉もつられて笑う。
「そうかもしれませんね」
 裏ルートを通じてハデスと接触しながらも、決してこちらの味方というスタンスを取ったりはしない。
 あくまで恭也は個人で動いている。恐らくは、だが、今回もどこぞから天空城に潜入したのではないかと思われた。
(僕も……僕の仕事を一生懸命しないといけませんね……)
 恭也には負けていられないと、渉は続けざまに銃型HCで敵データの解析を始めた。
 しかし、である。
(それにしても、悠乃……大丈夫だろうか……)
 思ったように作業が進まなかった。
 原因はひとえに悠乃への心配にある。
 彼女は先日からなぜか戦いに積極的だ。理由は予想がつくが、恐らくは戦いに身を投じることで、自分との距離を縮めようとしているのだと思う。渉の本心としてはそれは出来れば避けたかったことであった。しかし、彼女の意思は強い。それを無慈悲に退けることなど出来そうになかった。
(まるで人間と一緒だな、悠乃は……ううん、機晶姫は人間と変わらない……だから僕も、瑞樹さんと……)
 いつのまにか銃型HCを操る手は止まっていた。
 代わりに彼の心を占めたのは、恋人である瑞樹との今後であった。下世話なことかもしれないが、渉は瑞樹と結ばれたいと思っている。それは心だけではない。身体、としてもだ。しかしそこには人間と機晶機械という大きな隔たりがある。
 もちろん、そんなもので瑞樹を嫌いになるようなことは決してない。
 しかし、もしも瑞樹と本当の意味で身体と身体で結ばれるときがくるなら、どれだけ良いものか。
(……っ、僕は、何を考えているんだ……っ)
 渉は慌てて頭を振った。
 と、そのときである。
「渉さん? 大丈夫ですか?」
 輝が彼の顔をのぞきこんだのだった。
「わわっ!? ひ、輝さんっ!? わっ、とっ……うわぁっ!?」
「えっ? きゃああぁぁっ!」
 それは渉を心配してのことだったが、渉にとっては急に彼女の顔が視界に現れたと一緒だった。
 思わずのけぞった渉は、足を踏み外して輝の側に倒れてしまった。
 結果――二人の顔がかなりの距離まで近づく。
「…………え、ええっと……」
「………………」
 お互いに顔を真っ赤にして、二人は互いを見つめあった。
(こうしてみると……輝さんって……)
 同姓ではあるが、見た目だけなら輝は完全に女の子である。
 そのあまりの可愛らしさと匂いに、思わず渉はドキッとする。
「………………」
「あ、あの……渉さん……」
「…………えっ!? は、はいっ!」
「あのー、その……ちょっとこの格好は……」
「えっ!?」
 そこでようやく渉は、自分が輝を押し倒すような格好をしていることに気づいた。
「わあああぁぁぁぁぁっ!?」
 慌てて起き上がった彼は、何度も頭をさげた。
「すみませんっ! すみませんっ! すみませんっ! わざとじゃないんですっ!」
 輝も顔を真っ赤にしている。
 が、彼女は多少は落ち着きを取りもどしているのか、あるいは取り繕っているのか。
 ぎこちない笑みで言った。
「だ、大丈夫ですよっ! もちろん、分かってますから!」
「そ、それなら……えっと……い、いいんですけど……」
「は、はい……」
「………………」
「………………」
 二人の沈黙が支配する、気まずい時間が流れる。
 やがて渉は、銃型HCを再び操作して言った。
「そっ、そうだっ! 調べものの続きをしてたんだったっ! 早くやらないとな〜!」
「ぼ、僕も、運転っ! 運転っ!」
 二人とも、いかにもわざとらしかった。
 それでもなんとかそれぞれの作業に戻ることは出来たらしい。
 渉はHCを適当に操作しながら、頭の中は別のことを考えていた。
 先ほどの輝の匂い。顔。恐ろしくカワイイ小さな顔つき――
 なぜか、渉の脳内で輝は一糸まとわぬ姿でいた。
(ぼっ、僕は何を考えているんだっ! 瑞樹さんっていう恋人がいるっていうのに!)
 仕方ないのだ、渉。それが男の性(さが)なのだ。
「はぁー…………」
 渉の罪悪感は、ここしばらくはぬぐえそうになかった。



 飛空艇ホープ・シーカーの動力室では、核となる機晶石にいくつかのケーブルが接続されていた。
 ケーブルの接続先にいるのは、二十四名におよぶ飛行機晶兵だ。
 その所有者は天貴 彩羽(あまむち・あやは)

 ウォン、ウォン、ウォン、ウォン……――

「…………」
 彼女は機晶兵から送り込まれるエネルギーの数値が徐々に高まっていくのを見つめていた。
「首尾はどう?」
 話しかけたのは、隣にいるホログラムの女性である。
 飛空艇の心臓部でもある機晶石の分身とも言える彼女は、目の前に開いている各種空中モニタの画面を見つめながら言った。
『エネルギーの上昇率は8%以上の増加を見せています。この様子なら、もうすぐチャージも完了するかと』
「そう、それなら良かった……」
 彩羽は安堵の息をついた。
 機晶兵のエネルギーを送り込んで、ワープエネルギーのチャージを促進させる試みは成功したようだ。
『チャージ完了まで残り二十分を切りました。――連絡は?』
「私がするわ。あなたはエネルギー管理を引き続きお願い」
『了解です』
 ホログラムはうなずいた。
 彼女もずいぶんと丸くなったものだ。
 ベルネッサの指示であるが、彼女の仲間である契約者には一定の理解を示すよう命令されているのである。
 彩羽はホログラムに残りを任せ、自らは銃型HC・Sという通信機を取り出した。
 コール先はもちろん言うまでもなく、ブリッジだ。
「ブリッジ、こちら動力室の彩羽。聞こえる? ワープエネルギーのチャージ完了まで残り二十分を切ったわ。すぐに仲間を帰還させて。以上」
 簡潔な言い回しと報告。
 が、それが逆に艦内に緊張感をもたらす。
 もとより、彩羽は実際に急を要すると思っていた。
(ワープに間に合わなかった仲間は、取り残されてしまう……)
 そうなった場合、残された者は数少ない仲間で空中生物たちと戦わなくてはならない。
「…………」
 彩羽はいやな予感を感じて、きゅっと唇を引き締めた。