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【裂空の弾丸】Knights of the Sky

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【裂空の弾丸】Knights of the Sky

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第1章 生ける者たちの決戦 5

 キュウウウウゥゥゥン……――シュパァァァァンッ!

 空中に現れた光が弾け飛んだとき、そこに現れたのは飛空艇であった。
 無論、ホープ・シーカーである。
「いっ……つつ……もう、なんていう衝撃よ……」
 ブリッジに転がっていたベルネッサが起き上がった。
「仕方ありませんです。チャージ後の急速なワープでしたので」
 淡々と彼女に言ったのは、アルマだ。
 彼女はどうやらコントロールユニットに座っているせいか、ほとんど衝撃に干渉されずに済んだようだった。
 にしても、あまりにそっけない物言いではないか。
「……あなたってもう少し愛想良くしたほうが良いと思うわよ。世の中の男性のためにも」
「愛想……ですか?」
 アルマはきょとんとして小首をかしげた。
(ま、そういう仕草をしてると、カワイイことはカワイイんだけど……)
 思いながらベルネッサは機関室にいるはずの少年のことを思い出す。
 彼らの仲が進展するのには随分と時間がかかりそうだった。
「それよりも……ここはどこ?」
「ベルネッサ、見てみなさい」
 いつの間にかスクリーンを見つめていたイブが、そうベルネッサに言った。
 同じように視線を動かしたベルネッサは、次の瞬間、目を見開く。
「まさか……これが……」
「そう、天空城――かつて浮遊大陸を守るべくクォーリアの騎士たちが存在していたときの、本部よ」
 スクリーンには空に浮かぶ巨大な城の姿があった。
 地球の西欧中世的な造形をしているが、それを支えている浮島の下は無数のコンピュータ群で埋め尽くされている。
 高度な科学・魔法技術を有している証拠であった。
「天空城より敵機晶反応! 空中生物、飛行機晶兵が来ます!」
 オペレーターが緊迫した声で叫んだ。
 見ればスクリーンに映る天空城からは、小粒の敵影が次々と現れているではないか。
 その様子を見たイブはすぐにベルネッサを促した。
「ベル、急ぎましょう」
 ベルネッサがそれに動き出す。
「アルマ……任せたわよ」
「…………」
 こくっと、アルマは静かにうなずいた。
「さ、行きましょう」
 二人はブリッジを出て、ミルバスの保管されている格納庫へと向かった。



 ゴオゥッ!

 空を駆る炎水龍イラプションブレードドラゴンが、翼をはためかせて空中に止まった。
 騎乗しているのは魔法少女姿のコスプレに身を包んだ遠野 歌菜(とおの・かな)である。
 隣には同じように聖邪龍ケイオスブレードドラゴンに乗る月崎 羽純(つきざき・はすみ)の姿もある。
 彼女たちは、ちょうど飛空艇と天空城との合間にとどまり、近づいてくる空中生物と飛行機晶兵の群れを見つめていた。
「うぅっ……だ、大丈夫かなぁ? ちゃんと届くかなぁ……」
 歌菜は不安げな顔をしてそんなことをつぶやいた。
「大丈夫だ。自分を信じろ。そのためにここまで来たんだろう?」
「う、うん……」
 羽純にはげまされて、歌菜はうなずく。
 彼女は息を吸うと、その両手に握った二つの槍をクロスしてかかげた。

 空に響け 空気に溶けよ 光の飛礫となって 音色よ 我らの敵を射抜け

 紡がれたのは歌であった。

 キュオオオオォォォン……――

 歌は光となり、光は矢となる。
 言の葉が紡ぎ出す波紋と矢の奔流が、彼女の声に従って広がった。

 ズゴオオオオオォォォォ!

 歌の魔力が次々と空中生物や飛行機晶兵たちを撃破していった。
 その姿はまさしく戦場の歌姫たる雄々しさと悠大さがある。
(さて……俺は俺の仕事をするか)
 羽純は彼女を見守りながら、そう思った。
「ブレードドラゴン! 行くぞ!」

 ギャオオオオォォォ!

 羽純の呼び声に従って、ブレードドラゴンがうなりをあげて天空城前の市街地に降り立った。
「はあああぁぁぁ!」
 ドラゴンから降り立った羽純は、両の手に握る槍を振るった。

 ズシャアアッ! ドゴオォォッ!

 空中生物の機晶石を切り裂き、機晶兵を粉砕していく。
 同時にブレードドラゴンも火を吐き、歌菜に近づこうとした敵を蹴散らしていった。
「やるな」
「ぎゃおっ!」
 ニヤリと笑った羽純の声にドラゴンは答える。
 彼もまた生き物だ。主人の期待に応えることは喜びである。
 と、羽純は空からミルバスを装着した人影が市街地に降りたのを見た。
 ベルネッサやイブが着けているミルバスだ。他にも、彼女をサポートするべく、ミルバスや小型飛空艇に乗って天空城へ向かう契約者たちの姿が次々に見える。
(さあ……頼んだぞ、ベルネッサ!)
 羽純は心の中でそう告げて、槍を猛然と振るった。



「そこを、どきなさい!」
「そこを、おどき!」
 ベルネッサとホーティたちが市街地を強引に突っ切っていた。
 ホーティは無転砲を止めるため、ベルネッサはアダムを倒すため。
 それぞれの目的のため、眼前の敵には目もくれずただひたすらに天空城へと駆ける。
「……あー、ベルネッサ」
 走っている最中、何か言いづらそうにしながらホーティがベルネッサに話しかける。
「なによ」
「そのー、なにさ。……悪かったね」
 ホーティからの突然の謝罪に、ベルネッサのまんまるとした大きな瞳が更に大きくなる。
「……具合でも悪いの? 何か拾い食いしたとか、それともどこか打ったとか」
「な、なんだい! 人がせっかく謝ってるのにその言い草は!」
「あはは! 冗談よ冗談。……じゃ、そうね。私はアダムをぶっ飛ばす。ホーティは無転砲をぶっ壊す。これ、約束してくれたら許してあげる」
 ベルネッサが悪戯心溢れる笑顔で手を上げる。
「……上等だよ。無転砲なんざ、一瞬でスクラップさ」
 ホーティも手を上げ、ぱちんっという音が響く。
「うん、よろしく」

「それでは、ここは私たちが引き受けます」
「ワタシもがんばるよー!」
 ベルネッサやホーティと併走していた御神楽 舞花(みかぐら・まいか)ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が立ち止まる。
「アダムと、無転砲をよろしくお願いします。……吉報を、お待ちしていますね」
「わかった。必ず」
「任しときな!」
 その場を二人に任せてベルネッサとホーティは天空城へと走っていった。
「飛行機晶兵は左翼に、信頼の空賊は右翼、特戦隊は中央を死守してください」
 その指示に即座に従い、左翼・右翼・中央に並ばせる。これによりベルネッサたちを追うのを阻止する防衛ラインを形成。
「数が足りない部分は建物や障害物を使ってフォローをお願いします」
「ワタシも全力でサポートするから! 絶対にここを守り抜こう!」
 声をかけると同時に『シュトゥルム・ウント・ドラング』を使い、舞花やその従者たちを心身ともに激励する。
「……来ましたね」
 ベルネッサたちを追ってきた敵の一団が二人の視界に入る。
 それでもまだ攻撃はしない。十分に引き付けて、引き付けて、引き付けた後。

 パーンッ!

 市街地に木霊した突然の銃声に敵の注意が逸れる。
「今です」
「やっちゃえー!」
 舞花の陽動射撃から生じた敵の隙を生かし、全ての部隊が一斉に攻撃を開始。
 不意をつかれた敵一団は多大なダメージを被ることになる。
 しかし、倒したそばからすぐに次の敵やってきて戦闘に参加。それが続き、舞花たちは徐々に徐々に押され始める。
「がんばれー!」
 傷を負った者たちをノーンが【蒼き涙の秘石】を使用して、その傷を癒す。
 敵の本拠地前ということもあり、その攻勢は苛烈を極まりない。
「伏せてください!」
 舞花の声に機敏に反応し、しゃがみこむ従者たち。
 その頭上を弾丸の群れが縦横無尽に行きかい、敵の体へとめり込み戦闘不能にしていく。
「わー! さっすが舞花だよ!」
「まだ、切り札を使うほどではありませんね」
 自身の切り札をとっておきながら、善戦する二人。しかし、その数は増していくばかり。
 だからといって諦める理由にはならない。二人は懸命に戦いを続ける

「―――――」
 市街地に向けて敵味方構わず砲弾を発射する対空砲台。
 そこへ忍び寄るはこの世に還ってきた男。
「はいはい邪魔邪魔」
「―――!!」
 いきなり敵が現れたことに驚き、更にその相手の体が触手が蠢いてることに驚く砲撃主。
 驚愕している相手をどかすことなど造作もない。男は触手を使って砲撃主を市街地へ投げ捨てる。
「いやぁ復活後も絶好調だな、こいつは。……あんまいい思い出ねぇけど」
 ぼそりと呟くはハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)。彼は市街地に設置された対空砲台を奪いに来たのだ。
「他のやつはーっと。……ばっちりだな」
 他の対空砲台も、信頼の空賊たちが奪っているようで全員砲撃席についていた。
「うし、それじゃ復活祝いの祝砲をあげるとするか!」

 ドーン! ドーン! ドドーン!

「たーまやー!! ってかぁ!」
 続いて、信頼の空賊たちも「かーぎやー!」と叫びながら、市街地にいる機晶兵部隊を蹴散らしていく。
「これでちったぁ役にたてたかねぇ……?」
 言いつつ、ハイコドは市街地を見下ろして、仲間たちのことを思うのだった。

「……少し、数が多いですね」
「アリさんみたいにいっぱいくるよー!」
 敵の数の多さに、遂にはノーンも戦闘に参加する。それでも尚、舞花たちは劣勢を強いられていた。
「……朱鷺も手伝いましょう。ここで立ち止まらせるわけにもいきませんし」
 姿を現したのは東 朱鷺(あずま・とき)。二人の劣勢を見て駆けつけたのだ。
 その身には『超越の波動』により、ただならぬオーラが立ち上り、絶大な威圧感をもたせる。
「ほら、どうした。君たちは尖兵なのだろう? なれば、死を覚悟して来なくてはならない。そうでは、ないでしょうか?」
 相手の心を揺さぶる朱鷺。対し、いまだ動けぬ敵。
「今なら……切り札を!」
 融合機晶石と【機晶アシストデバイス】併用し、広範囲に電気を放射する『放電実験』を使用。
 動きの止まった敵一団の全てがその攻撃を受け、電撃に焼かれ次々と伏していく。
「やったー! これでおにーちゃんにいいお話ができるね!」
「そうですね。本当に、いろいろありましたから」
 おにーちゃんこと、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)への特大のお土産話を手に入れてうれしそうにするノーン。
「でもまだまだ敵が……」
「そうですね。ですが、聞いてください」
 焦る舞花に、朱鷺は対空砲台の方を指差して見るように促す。

 ―――ドーン! ドーン! ドドーン!
 ―――たーまやー! かーぎやー!

 そこにはハイコドたちが砲台を敵へと向けて放つ姿があった。
「あれは……」
「恐らく、仲間の誰かが砲台の奪取に成功したのでしょう。戦闘も、これで大分楽になるはずです」
 朱鷺の推察に頷き、へたりかけていた戦う意志が再燃する舞花。
「ベルたちは、きっとアダムも、無転砲も何とかしてくれる。だから、私たちはここで戦わなければならない。だから、力を貸してくれませんか?」
「もちろんです。そのために、朱鷺はここにきたのですから」
「ありがとうございます。とりあえず、移動しましょう。同じ場所で戦うのは得策ではありません。……あちらへ」
 朱鷺、そして対空砲台からハイコドの力を借り、市街地での戦闘を盛り立てていく舞花。
 その目には、必ず勝つという意志が灯っていた。