First |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
■第29章
「まさか本当にきさまか」
肆ノ島太守クク・ノ・チは、通された部屋にいるヒノ・コを見て、わずかに目を眇めた。
ヒノ・コが来たと聞いていたはずだが、直に見るまでは本人であると信用できなかったのだろう。
「ひさしぶりだねえ、クク・ノ・チ」
暇つぶしに見ていた壁の絵画から目をはずし、そちらを向くと、ヒノ・コはにこやかに笑った。
「こうして会うのは14、5年ぶりかな? ちょっと老けたね。覚えてるかな? あのときわたしたちは親子に間違われたものだけど、今じゃあきっとだれもそうは思わないだろうねえ」
彼にとってそれは何でもない、ただのあいさつのつもりだったのかもしれない。ちょっとした、軽い笑いを誘う共通の思い出話だ。しかしクク・ノ・チの記憶はヒノ・コのものとは少し違っていたようで、面白くもなさそうに小さく鼻を鳴らした。
「あのときわたしの提案を断り、以後逃げ続けていたきさまの方から出向いてくるとは。一体何の企みだ」
「かわいい孫娘のあんな姿を見せられて、何もしないではいられないからね」
「ほう? ずい分殊勝なことを口にする。ではわたしはあの小僧でなくきさまに提案すればよかったというわけか?
きさまを知らねば、本当にここにいるきさまはあのヒノ・コか問うところだ」
小さな光が瞳にちらつく。その程度の嫌味にヒノ・コの笑みは揺らがなかった。
「きさまの関心を引いたのは、あの部屋にあった柱とわたしの術式だろう」
「ひどい言われようだなあ。まあそれも否定はしないけどねえ。でも、これでもちゃんと家族に対する愛情もあるんだよ?」
ただどうしても、それが一番とは思えないだけで。
(みんなの言うとおり、7000年前のあの日、わたしは本当に壊れてしまったんだろうね)
妻が去ったのも当然だ――もう、顔も名前も思い出せないひとだけど。
最後に投げつけられた言葉も思い出せず、そしてそのことを悲しいとすら思えない。
ヒノ・コはふっと自嘲っぽく笑うと、気持ちを切り替えるように床に置いてあったカバンからオキツカガミと起動キーを取り出した。
「はい。きみがお望みの2つだよ。わたしがいれば起動キーは作れるからいらないかもだけど、やっぱりある方が手間も時間もはぶけるよね。
あ、尋ねられる前に答えとくけど、マフツは置いてきたよ。きみがあんな放送を流したせいで、向こうはかなり深刻な状態になっちゃってるからねえ。わたしがいなくてマフツもないとなったら、かわいそうすぎるでしょ」
どうせ彼らにはキ・サカに返却するという手段しか残されていない。キ・サカにはマフツノカガミが地上人から返却されれば肆ノ島の屋敷にいるクク・ノ・チの元へ送ってくるよう言いくるめてあった。問題ない。
クク・ノ・チはヒノ・コの差し出すオキツカガミと起動キーを受け取った。側面を撫でるようなクク・ノ・チの指の動きにカチリとかすかな音がして、オキツカガミが元の姿(サイズ)に戻る。
「本物だな。残るはこの起動キーだが」
「本物だよ。そんな、すぐばれる嘘なんかつかないよ」
にこにこと笑うばかりのヒノ・コの面のその裏に隠された真意を探ろうとした、そのときだった。
「フハハハハハハ!!」
笑声が広い部屋じゅうに高く響く。その直前、バッとひるがえる白衣の動きでクク・ノ・チの目を引いたのは、ドクター・ハデス(どくたー・はです)だった。
「おまえは?」
てっきりヒノ・コの従者とばかり思って気にもしていなかったクク・ノ・チは、少し驚いた表情をヒノ・コへと向ける。
「あー、えーと。彼はねえ、ここまで連れてきてくれた地上の人で――」
「我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス!」
もたもたのろのろ。マイペースで紹介しようとしていたヒノ・コの言葉をさえぎって、威勢よくハデスは自己紹介を始めた。
クク・ノ・チは、まず間違いなく数千年前まで遡れる系図を持っているのだろう。代々続く血筋の与える自信ゆえか、特権を肌につける香水のようにまとってきたからか、クク・ノ・チという男は、その立ち姿、話す声、わずかな仕草で、近くにいる者にある種の警報のようなものを感じさせる。
生まれついての支配者、それを疑わぬ者だけが持つ、ある意味傲慢とも取れるクク・ノ・チの醸し出す重厚な雰囲気に圧倒されることなく――あるいはそういった諸々の空気を無意識的に感じ取って対抗しているのか――ハデスは腰に手をあて胸を張り、真正面からビシッと指をつきつけた。
「ククク、肆ノ島太守クク・ノ・チよ! きさまの目論見は、すでに分かっている! きさまは集めた神器を使いオオワタツミを支配下に置き、その力をもってこの浮遊島群のみならず、シャンバラにまで勢力を広げるつもりだな!」そしてハデスの表情が、唐突に和らいだ。「クク・ノ・チよ! なんというすばらしい計画だ! それが成功すれば、浮遊島の民がオオワタツミにおびえる必要もなくなり、さらに世界征服も実現できるではないか!
というわけで、われらオリュンポスは、クク・ノ・チに協力するとしよう!
ヒノ・コよ、おまえもともにクク・ノ・チに協力しないか? オオワタツミを制御下に置くことは、おまえの目的にも合致するだろう!」
単純明快。それ以外ないといったふうに意気揚々と言われて、ヒノ・コはちょっと苦笑する。
「うーん。それ、ちょっと違うねえ。惜しいけど」
「神器で今のオオワタツミを制御下に置くことはできないし、それに、彼が助けるのは肆ノ島の島民だけだよ。選民って言ってたねえ、たしか。あれって、そういうことなんでしょ?」
「……全員が助かる道などない」
あれば7000年も無駄に手をこまねいてきていたはずがないのだ。
「そう。15年前のきみもそう言った。そこがわたしたちの相容れない、決定的な違いだった」
15年前。ほかの島の太守たちにしてきたように、代替わりした肆ノ島太守に橋とカガミについての話をつけるために、ヒノ・コはひそかにクク・ノ・チを訪ねた。そこでヒノ・コの話を聞いたクク・ノ・チは、むしろ自分の計画にこそその力を貸せと言った。
『国家神も世界樹もない今の浮遊島群で、全島を救うのは無理だ。贄(にえ)がいる』
オオワタツミに5のうち3ないし4の島を与え、それで残りの島の目こぼしを願う。オオワタツミとて何の進展もない日々がこれからも何百年何千年と続くよりはとそちらを選ぶだろう。もちろん魔物のする約束など信用できない。念願の浮遊島群が破壊できることに狂喜し、われを忘れたオオワタツミから肆ノ島を守るためにはヘヅノカガミと法術使いたちの法力だけでは弱すぎる――そう考えたクク・ノ・チは、ヒノ・コの橋システムに目をつけた。それを肆ノ島に配置し、5種の神器の力で肆ノ島を完璧に守るのだと。
『きさまの話では、肝心のシステムを起動・維持させるだけのエネルギーが不足している。それだけのエネルギーを生み出す機晶石はもはやどの島にも埋蔵されていない。全島をオオワタツミから完全に防御するなどという話は机上の空論だ』
「――きみは、肆ノ島だけを救うと言った」
「自島民を第一に考えるのは太守として当然だ」
ためらいの間もおかず、クク・ノ・チは言い切った。その声にも表情にも悪びれた様子は一切ない。ここに来るまでにもしやと期待していた、15年という年月が彼にもたらしたもの――その計画や思考にほころびやひびを生じさせた様子はなく、むしろ年月は彼をますます頑迷にさせているようだった。
このことについて、彼はもはや何の余地も入る隙間もないほど考えを決めてしまっているのだった。
そんなクク・ノ・チのかたくなさを、ヒノ・コは孤高な壁のようだと思った。そびえ立つ鉄壁は巨大で、分厚く、何をしても、どんな言葉を投げつけても、ほんのわずかも揺るがない。
彼のこの考えに賛同する法術使い、外法使いも少なくないに違いない。説得されるまでもなく、彼に言われれば信じてしまう。
だが。
(……ああ。それが真実きみの本心だったなら、まだどんなにか救われることだろう)
そっと目を閉じて息を吐き出し、ヒノ・コは静かに首を振る。先までと少し意味合いの違う笑みを口元に刷いて。
ハデスは2人の、2人だけに通じる会話に「うむむむむ」と首をひねったのち。フッと笑った。
「ククク。なるほど。計画に修正が少し必要かもしれないな。だが問題はない! きさまの望みが世界征服なのは間違いないのだからな!」
「世界征服?」
クク・ノ・チはわずかに眉を寄せるが、その程度の機微に気づくハデスではなかった。
「そうとも! もしエネルギーに関する問題があるなら、弐ノ島で出たという機晶鉱脈をねらうのが良いだろうな。
機晶石の扱いには、俺の知る限りのシャンバラの技術も提供しようではないか!」
「……ほう。そんなことが」ちらとヒノ・コに視線を這わせる。「現在エネルギーについての問題は解決しているが、先々を考えればそれも必要になってくるだろう。考えに入れておこう」
「あーあ。いいように扱われちゃって」
離れて様子をうかがっていたデメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)は、お茶請けのねりきりをもぐもぐさせながらつぶやく。
輪の外から見ていれば丸分かりだ。ハデスの口にする世界征服とクク・ノ・チの考えている地上支配はきっと意味合いが違っている。それがどう違うかまでは分からないけれど。
もぐもぐ。もぐもぐ。…………もぐ。
(んー。やっぱ、視線みたいなの感じるなあ)
どこかから、何者かがこっちを視ている。その感覚はこの屋敷に入ったときから感じていた。なんといってもここは今度の事態を引き起こしている張本人の縄張りだ。ハデスの立場が確立するまでは危険だと、警戒にあたっていたデメテールだったが、それは同時にここに巣食う魔物の巨大さも計り知れることになっていた。
(殺気看破使うまでもないわね。ここの人たち、よくこんなゾッとする場所でいられるもんだわ)
知ってるのか知らないのか……大半は知らなさそう。鈍感なのってある意味すばらしいことね。
(まあでも、これだけ巨大なら網の目も相当でかそうだし。いざというとき、運が良ければデメテールたちくらいなら抜け出せるかも)
「スク・ナは、危ないからデメテールの近くから離れちゃダメだよ。
あ、それと、ハデスの分も食べちゃいなさい。もったいないから」
となりに座って、同じようにお茶を飲んでねりきりを食べているはずのスク・ナ(すく・な)に言う。てっきり大喜びするものとばかり思っていたのに
「……うん」
という生返事が返ってきたことに「おや?」となってそちらを見ると、スク・ナはねりきりを口にふくんでほっぺたを膨らませたまま、どこか心ここにあらずといった様子で動きを止めていた。
視線は宙をぼんやりと見ていて、何かを凝視しているというわけでもない。
このときスク・ナの頭のなかにはスク・ナでない、別の者の声が響いていて、その声の主をスク・ナは知っていた。
『スク・ナさん、どこにいるんですか!?』
千返 ナオ(ちがえ・なお)だ。ナオは混乱に少し切羽詰った声でスク・ナに呼びかけていた。
テレパシーを受けとったのはこれが初めてだったが、この声が本物のナオで、自分の空想のナオでないことは分かる。
『答えてください、スク・ナさん! ナ・ムチさんもものすごく心配して――』
……もぐ。
「肆ノ島だよ。クク・ノ・チんとこ」
『よかった! 聞こえてたんですね――って、なんでそんな所にいるんです!?』
スク・ナは簡潔に、起動キーを持ってナ・ムチ(な・むち)の部屋から出てきたヒノ・コを目撃してからのいきさつをざっと話して聞かせた。
『……そうですか。
でも、ならどうしてだれにも相談せず、1人で行ってしまったりしたんです』
「だって、だれもオレに本当のこと、教えてくれないじゃん。言ったって、どうせまた……。
だったら、自分で動くしかないだろっ」
あきらかに機嫌を損ねていると分かる、拗ねたような声を最後に、スク・ナは以後ナオのテレパシーに答えるのをやめた。
「スク・ナ?」
「なんでもないよ、おねーちゃん。これ、おいしーね!」
手のつけられていないハデスの分の茶菓子にフォークを立て、ぱくつくスク・ナの様子にデメテールは見入る。そしておもむろに告げた。
「ハデスからはあんたのこと、いざとなったら人質に使えって言われてるけど……。もし何か起きたら、デメテールが食い止めてる間に逃げなさい」
デメテールがどんな事態を想定しているか、事の深刻さが分かっているのかどうなのか。きょとっとした顔でデメテールを見上げたスク・ナはにかっと笑って答えた。
「オレさ、こう見えても強いんだよ。パチンコは百発百中なんだ。オレの方こそ、おねーちゃんを守ってあげるよ!」
「……あんたねぇ」
デメテールが何か言わんとしたとき、その耳にヒノ・コの言葉が入った。
「それで、あの子に会わせてくれるの?」
再びそちらを振り返ると、クク・ノ・チが応じるように、ついて来いと身をひるがえしたところだった。ヒノ・コとハデスが歩き出すのを見て、デメテールも立ち上がる。
「行くよ、スク・ナ」
「うんっ」
踏めばぎしりと軽くきしむ、年代を感じさせるつやつやと黒光りするうす暗い廊下は、曲がり角を曲がるたび、変わり映えしない似た景色が続いていた。一本道で迷うことはないが、まるでどうどう巡りをしているような気分になる。しかし着実に前に進んでいたようで、やがて突き当たりの真正面に戸襖(とぶすま)で閉じられた部屋が現れた。
そちらへ踏み出した一歩が廊下に触れる瞬間、何か、奇妙なものを感じる。周囲がひずんだような、あきらかに空気が変質したような感覚。行灯のあかりが届かない暗がりの闇がさらに深まったような。
『……、……』
だれか、どこかで自分たちを見てふくみ笑っているような気がして、スク・ナはきょろきょろと左右を見渡した。
「スク・ナ?」
「ううん。なんでもない」
でもやっぱり産毛が逆立つようなその感覚は消えなくて、スク・ナはデメテールの手に自分の手を差し入れて手をつなぐ。ぎゅっと握って、ぎゅっと応えてもらえたことに安心したように、それからのスク・ナはいつもの調子をとり戻してあめ玉を口に放り込んだ。
「ここだ」
からりと戸襖が内側から引き開けられた。目立たないように左右に上半面をおおう仮面をつけた男たちがいて、5人が室内に入ったあと、またからりと閉める。
そこはこれまでの廊下と打って変わったように明るい光に満ちて、中央にツク・ヨ・ミ(つく・よみ)を封じた魔法陣と柱があった。
ツク・ヨ・ミは歩き疲れてしまったのか、暗い魔法陣の中央で、体を小さく丸めて眠っている。
「ツク・ヨ・ミ」
「こちらの声はあちらには聞こえない。あの陣のなかはそれで1つの世界となっている。
一応ことわっておくが、きさまたちも不用意に踏み込むな。入ることはできるが出る道は1本しかない。陰陽の心得のない者は八門を模した物がどれかすら見破ることはできず、二度と戻ってくることはできないだろう」
遁甲八陣をクク・ノ・チが独流にアレンジしたものだった。
「うん、分かった」
ヒノ・コはうなずき、今度は柱へと向き直った。柱といってもただ円柱形をしているというだけで、本物の柱というわけではない。直径は大人の人間が抱き着いてようやく指先を触れ合わせることができる程度。丈は3メートル弱といったところか。金属でできたそれは、この和風で雅な屋敷にあって――表面上はそう見えるようにしているだけにしても――ひどく違和感を生じさせていた。
「ああ、やっぱりこれ。わたしの設計したやつだ」
柱を見上げてヒノ・コは笑む。
「移設したの?」
「いや。それでは時間と手間がかかりすぎる。おまえが参ノ島に建てた物を解析して、新たに建てた物だ」
「なるほど」
柱のあちこちに触れて手を動かし、いろいろ探っているヒノ・コの近くへ歩み寄ったクク・ノ・チは、おもむろに自分の首から下げていたヘヅノカガミをはずすと、それを元の大きさへ戻し、柱の丸いくぼみにはめ込んだ。カチリと音がして固定されたカガミの縁に沿って白い光が灯るが、何も起こらない。
「ほかの柱は肆ノ島の各地に建ててある。それに残るカガミをはめ込み、起動して命令を書き換えれば完了だ」
太守、とそのとき、戸口から声がかかった。やはり仮面をつけた者がいて、ひざと手を床についている。
「参ノ島太守ミツ・ハさまより通信が入っております。今朝の太守の宣言に対することでとおっしゃっていますが、いかがいたしましょう」
「ミツ・ハか」
彼女が何を言うつもりなのか、クク・ノ・チには手に取るように分かった。おそらくこちらの弄した策もすでに看破しているだろう。
あの外見に見合った能なし女だったらまだ操りようもあったのだが。やはり間髪入れずヤタガラスを送り込み、弐ノ島で確実に殺しておくべきだったか。
地上人とつながりを持たせてしまった上、自領の参ノ島へ逃げ込まれてしまったのは少々厄介だ。
「出るとしよう」
戸口で待つ男の元へ向かったクク・ノ・チの足が部屋の敷居をまたいだ瞬間、敷居が強く発光した。部屋の外周に沿って白い光が立ち上がる。
「なんだ!?」
驚き、周囲を見渡すハデス。クク・ノ・チは振り返って、ヒノ・コを見据えた。
「きさまがなぜ来たか、その目的がわたしに分からぬと思ったか。お望みどおり、ヘヅノカガミと一緒にしてやろう。きさまはそこでカガミのエネルギー源となって消え去るがいい。本望だろう?」
「待て! それはわれわれも一緒ということではないのか!?」
血相を変え、あわてて手を伸ばすハデスの前、戸襖はぱちんと音を立てて閉まった。
廊下で、ひざまずいている式神に、もう1枚のカガミを渡す。
「オキツカガミだ。柱にはめ込んでこい」
「――は」
仰々しく両手で受け取った式神は、すぐにその場を離れる。
元来た廊下を戻っていくクク・ノ・チの姿を、彼のために創られた神域、その奥津城で手元の玉に映して見ていたタタリは体を揺すってくつくつと嗤う。
『残るは1枚か。これでようやく島の人間どもを食い殺してやれる』
数千年前、いまいましくも殺しきれなかった島民たちへ向かって吐いた呪詛の言霊(ことだま)は、オオワタツミ自身もこの地に縛りつける結果となってしまった。
ようやくそれを成就させることができる。まだ島1つ分を残すことになるが、それでもほとんどの者を片付けることができるし、いずれまた機会も巡ってくるだろう。なにしろ人の命はほんの数十年。オオワタツミにすればまばたきほどの時間しかもたない。クク・ノ・チは多少切れるようだが、代替わりしたときその者もまた優秀な治世者であるとは限らないのだ。また、カガミのエネルギーが枯渇しないとも限らない。
もちろんそんなことはクク・ノ・チも織り込みずみだろう。ただ、自分の死後には関心がないだけだ。
『あと少し……あと少しで、余は自由だ……!』
そのときが待ちきれないというように空気を震わせ、笑声を響かせる。
それは柱の間の4人のみならず、控えの間に座して静かに時を待つツ・バキの元までも届いていた。
First |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last