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【四州島記 完結編 三】妄執の果て

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【四州島記 完結編 三】妄執の果て

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第二章  技術者達の苦闘

 アメリカ海軍が撤退した後の海軍基地では、廃棄処分となった大型飛空艇の機晶エンジンを利用した人工要石の製造が、急ピッチで進められていた。
 「要石そのものを大型化する」というアイデアによって、必要数を十分の一程度に抑えられたとは言え、かなりの量の要石が必要なのは変わりが無い。しかも、魔神が着々と再生を遂げ、大沼沢地が溶岩の海へと変わっているとあっては、一分一秒でも早く全ての要石を配置し、魔神を再び封印出来るようにしなければならない。

 機晶エンジンを要石へと加工する作業は、緒方 コタロー(おがた・こたろう)高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)、それに
クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)の3人が中心となって行われた。
 コタローが試作1号機を完成させた時のノウハウがあるので、決して困難な作業ではないが、《機晶技術》や《R&D》、《イノベーション》といった技術が、要石の作製には必須となる。
 また、それよりも問題なのが、石を作るのにかかる時間である。
 普通に作業した場合、一人一日一個作るのがやっとだが、それでは全部の要石が揃うのに、あと3日も必要になってしまう。
 しかしこの問題の克服のために、多くの技術者が、要石の製造に協力してくれる事になった。
 南濘藩の飛空艇の運用に携わっていた者や、急を聞いて東野の海兵隊基地キャンプ・コートニーから駆けつけた者、そして中には、四州島の危機を見捨てる事が出来ず、軍の命令に背いてまでここに残る事を決心した、海軍の技術者もいる。
 皆、四州島を、そして島に住む人々を救いたいという『想い』は一緒だ。
 

 こうして作られた要石を設置するのは、忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)をリーダーとする、3グループ計6人の仕事である。
 ポチの助が座るテーブルの上には、四州島の大きな地図が広げられており、さらに彼の前には、【イヌプロコンピューター】、【ノートパソコン−POCHI−】、【首輪型HC犬式】と3台のコンピューターがズラリと並んでいる。
 地図には、鈿女が《ユビキタス》で教導団のコンピューターにアクセスし解析した、要石を設置すべき場所と向き、そして深さとが書き込まれており、3台のコンピューターには、各グループの現在位置が表示されている。
 ポチの助は、実際に現地にいる各グループと連絡を取りながら、要石が正しく設置されるように、石の位置や向き、埋め込む深度などついて、指示を出し、設置に間違いが無いか、最終チェックを行うのだ。


 最も多くの要石が破壊された東野(とうや)には、及川 翠(おいかわ・みどり)たち4人が派遣されていた。
 翠の持つ大型飛空艇ならば、複数の要石を運搬する事が可能だし、2人ずつ2グループで設置作業が行えるから、単純に言って倍のスピードで設置を行う事が出来る。
 
「これで……よしっと。翠ちゃん、穴が空いたですぅ〜」

 額の汗を拭いながら、スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)がケータイで翠に呼びかける。
 その足元には、海軍基地で手に入れたモノを改造した、専用の掘削機械によって開けられた穴が、ポッカリと口を開けている。

「了解なのっ!ドラゴンさん、ついてくるのっ!」

 【聖邪龍ケイオスブレードドラゴン】は、一声高く鳴くと、《空飛ぶ魔法↑↑》で降下していく、翠の後を追った。
 その背には、大型飛空艇で運んできた人工要石がある。 
 ドラゴンが地上に降りると、今度は背中から要石を下ろし、首から下げたネットの中に移し替える。
 要するに、ドラゴンの首をクレーン代わりにして、要石を穴の中に降ろそうと言う訳だ。

「いいですよぉ〜、その調子ですぅ〜。ゆっくり、ゆっくりですよぉ〜」
「ドラゴンさん、後もう少し、頑張るの!!」
『スノゥちゃん、要石を、もう60度右に回転させて下さい』

 無線越しに、ポチの助の指示が飛ぶ。

「60度ですねぇ〜。えっとぉ〜……この位ですかぁ〜」
『いいですね、オッケーです!そのまま降ろして下さい』
「ハァイ、わかりましたぁ〜」
「ドラゴンさん、もう降ろしていいの!でも、そっとなの、そっと!」

 翠に言われるままに、そろそろと首を降ろすケイオスブレードドラゴン。
 要石が、着底した。

『お疲れ様です!まずは一つ、終了ですよ!』
「わぁ〜!上手く行きましたねぇ〜」
「やったのっ!ドラゴンさん、上手なのっ!」

 スノゥはパチパチと手を叩き、翠は飛び上がって喜びを表現する。
 翠に頭を撫でられ、ドラゴンも嬉しそうだ。


「さて、こっちはコレで終わり、と。それで次は――」
『次は、私達でいいかしら?』
「あ、ミリアちゃんも現場に着きましたか」

 ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)の声に、慌てて違うモニターを覗き込むポチの助。
 ミリア達は、【召喚獣:バハムート】で要石を運搬している。

『もう、要石の設置まで終わったんだけど、これで合ってる?』
「もう設置まで!早いですね――……。いいですよ、バッチリです。誘導無しに一発クリアなんて、流石ですね」

 モニターで要石に問題がない事を確認したポチの助が、感嘆の声を上げる。

「良かったわね、瑠璃。バッチリですって!」
「ホントですか、良かったです!」

 ポチの助が翠達の相手をしている間に、ミリアは、徳永 瑠璃(とくなが・るり)の【銃型HC】内の図面データを元に、設置を済ませていたのだ。ほとんどミリアが一人でやったようなものだが、図面を元に向きや深度を指示したのは瑠璃である――もちろん、ミリアもダブルチェックしたのだが。

 翠達のグループは作業量こそ多いものの、これといった問題もなく、順調に作業をこなしていった。その一方――。



『こちら戦部!ようやく現地についた!現在位置に間違いないか!』
「あと3メートル東です、小次郎君」
『東ぃ!?東ってどっちだ!?』

 相変わらずの猛吹雪の中、北嶺(ほくれい)白峰(しらみね)の担当になった戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は、激しい吹雪に苦しめられていた。
 白峰で破壊された要石は、3合目と5合目の二つ。しかし要石の大型化によって、埋め直す要石は五合目の一個で済んだのだが、生憎五合目には猛吹雪が吹き荒れており、コンパスを見ることすら満足に出来ない状態だった。
 寒さは《エンデュア》で何とかなるが、風と雪による視界の悪化と、動きづらさはどうにもならない。

『ええい!取り敢えず、こっちはどうだ!』

 やけくそ気味に、一歩踏み出す小次郎。
 モニター上のマーカーが、微妙に動く。

「合ってます!合ってますよ小次郎君!その方向に、あと10歩……いや12歩!」
『12歩だな!』

 吹雪に負けじと大声を出す小次郎。

「ああ〜、小次郎君、行き過ぎ!あと半歩戻って!」
『何だとぉ!!』

 吹雪で降り積もった、氷のように硬い雪を掻き分け、さらにその下にある岩盤を掘削し、要石を正しい位置に設置して――。
 小次郎はこの後さらに半日、吹雪の中で悪戦苦闘を繰り返したのだった。
 


 こうして、幾つかの困難に見舞われながらも、比較的順調に推移していた要石の設置だったが、南濘(なんねい)に至って、大きな障害に突き当たってしまった。
 南濘の大沼沢地に設置されていた要石が全て、溶岩に呑み込まれてしまっていたのである。

「何とかなりませんか、クリストファー君!」

 現地にいるクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)に向かって、ポチの助は悲壮な声を上げる。

『辺り一面溶岩だらけで、物凄い熱だ。この熱に要石が耐えられるとはとても思えない』

 さんぜんねこスーツ水戦特化仕様に身を包み、【サラマンダー】で耐熱性能を上げているにもかかわらず、溶岩の発する熱は耐え難い。

『それに、溶岩が常に対流を繰り返している上に、そもそも要石を固定出来る地面がない。要石を正確に設置するなんて、とても無理だ!』

 その言葉に、愕然とするポチの助。
 太湖(たいこ)の東岸にある水分(みくまり)神社から、湖の底を通り、川を抜けて大沼沢地へと至る『道』。
 この道上に設置された要石は、全て無傷だった。ここまでは良かったのだが、大沼沢地が溶岩の海と化している事実を忘れていた。
 何とかして、炎の魔神まで『道』を繋げる方法を考えなければ、魔神を封印する事は出来ない。 

「……わかりました。それでは一度、帰還して下さい。改めて方策を考えます」
『了解だ』

 無線を切ったポチの助は、糸が切れた人形のように、椅子に背中から倒れこんだ。

(どうしよう、このままじゃ……。何とかしないと――……)

 1分程も、そうしていただろうか。ポチの助は覚悟を決めると、勢い良く立ち上がった。

「みんな、ちょっと聞いてください!重大な問題が発生したんです!」

 作業場中に響き渡るような、大きな声。
 ポチの助の呼びかけで始まった緊急会議は、その日の夜遅くまで続いた。
 そして――。


「どうやら、これしか無いようね」
「これが、最善の方法だと思います」

 高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)博士の言葉に頷くポチの助。皆からも、異論は出ない。

「それじゃみんな、てわけして、さぎょーにとりかかるれす!」
「魔神がいつまた活動を始めるかわからないわ。一分一秒たりとも、無駄にしないで!」

 一斉に、作業に取り掛かるメンバー達。
 彼等はこれから、魔神封印のための『秘密兵器』を、作ろうというのだ。
 まさに、乾坤一擲の大作戦であった。