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夏風邪は魔女がひく

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夏風邪は魔女がひく

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 鼻歌交じりで図書館前を通りかかったのは何を間違ったのか、蒼空学園に入学しようとしてイルミンスール魔法学校に入ってしまった名無野 権兵衛(ななしの・ごんべゑ)
「ん〜? なんだか五月蠅いなぁ……はっ?」
 目を何度もこすり、見間違いではないことを確認するが夢ではなかった。
 丁度、唯乃とエラノールが連携して戦っている。が、巨大蚊は唯乃の攻撃を見ることなくひらりとかわしていく。エラノールが必死に声で指示を出すが、軽くあしらわれている。
「……あんなの放っておけないじゃん! 退治するぞ、退治!」
 そして、権兵衛はランスを持ってハエ叩きならぬ蚊叩きを開始した。


 そろそろパートナーの様子を見に行こうとしていた深見 ミキ(ふかみ・みき)。放っておくと周りの人間に吸血の許可を取り付けようとしてしまうからだ。
 廊下を歩いているとそのパートナーから電話。
「図書館中に空気感染する奇病が蔓延しているのだ。我の看病しに……はっくしょんウッキー」
 アーチボルド・ディーヴァー(あーちぼるど・でぃーう゛ぁー)に詳しく聞いたあと、駆け足で購買へと向かうのだった。
 図書館にいるアーチボルドの方は、薬に必要な蚊を捕えようと動こうとするのだが、いかんせん図書館の中では火術が使えないし、熱も相当上がって来ているようで思うようなスピードが出ない。巨大蚊への攻撃は諦めて、これ以上の蔓延を防ぐ為に感染している人達を一か所に誘導しようと動き出した。
「ボクも手伝うよ!」
 誘導行為に申し出て来たのはMカップもある胸を持つ峰谷 恵(みねたに・けい)
「その前に貴公……我に食べ物を捧げるが良いぃっくしょいウッキー」
「いやぁ、ごめんね。血吸われるのは遠慮しとくよ」
 アーチボルドの流し目も空しく恵に血を吸う許可は得られなかった。
「ほら落ち込んでないで、感染者の誘導頑張ろう?」
「そうだな」
「私も手伝おう」
 ぬっと登場したのは天生目 茉莉(あまなめ・まつり)。いつ出て行こうかとタイミングを図っていたようだ。
「うん、宜しくね! えっと……始めましてだよね? ボク、峰谷 恵!」
「宜しく、天生目 茉莉だ」
「我はアーチボルド・ディーヴァーであるっくしょいウッキー」
 お互いの挨拶でほのぼのしかけたが、アーチボルドのクシャミによって誘導を早くやろうという意識が芽生えた。
「じゃあ、あっちの椅子が沢山あるところに誘導で。あそこなら広いから看病も感染者がいっぱい居ても大丈夫だよね」
 恵が言うと、アーチボルドも茉莉も頷き、行動を開始した。


「こ、こんなカッコ悪いクシャミしてらんなっへくしゅウッキー!」
 ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)は必死に病気の事を調べていたホイップに対し変なクシャミをしていても可愛いと見惚れていたら見事に感染してしまったようだ。大元の側にいたのだから当然と言えば当然の結果だろう。
「俺の華麗なる雷術で木端微塵にしてやるわぁ!」
「ちょっと! 火術も厳禁ですが、雷術も禁止ですからね! そこから火事になったらどうしてくれるんですか!」
 神出鬼没な司書さんが鬼の形相で言葉の雷を落とす。
「ううぅ、このカッコ可愛らしいオレがこんなクシャミとかっくしゅウッキー……許せねー! 何が何でもぶっ潰ーす!! ハエ取り紙持ってこいやぁ!」
「いやいやいや、どんだけデカイはえ取り紙やねん! それに邪魔にしかならいから!」
 熱で理性が無くなっているウィルネストは調合班の社から声だけのツッコミが入り、さっき決まったばかりの感染者隔離スペースに茉莉によって無理矢理連行されていったのは言うまでもない。


 ある程度感染者が集まったところで、ミキが到着。アーチボルドはそろそろ体力的に限界だったのか、ミキの顔を見て安心したのか座り込んでしまった。
「もう少し待っていて下さいませ」
 アーチボルドはミキの言葉に力なく笑って反応する。
「とにかく、このマスクを配布ですわね」
 さっき電話をもらってから急いで大量に買い込んできたマスクを配りにかかる。


 こちらは先ほど囮役を引き受けた4人。
 蚊は体温が高く、汗の匂いがする人に寄ってくるらしいので、そのどちらも当てはまるように『おしくらまんじゅう』をしようと周が提唱。
 歌菜は、提言を聞きながらおもむろに制服を脱ぐ。わー、きゃー、言いつつも目を反らすことなくその様子を凝視する野郎3人。
「ふぅ、よし!」
 制服を脱ぎ終わるとそこには素敵な白いビキニ水着姿の歌菜がいた。男3人から歓声が上がる。
「これから泳ぎに行く予定だったんだよね」
「カナさん、全てが片付いたら私と一緒に海に行きませんか?」
 笑顔の歌菜に早速ナンパにかかるエドワード。
「カナ! 俺と共に海辺で愛を語り合わないかっ!?」
 負けじと周も声をかける。囮はどうした。
 そんな2人にあまり動く事が出来ないブラッドレイがじと目で睨む。
「な、な〜んちゃって」
「俺も冗談だからな!」
 凄まじい気迫に押された両者ははぐらかしにかかった。
「やだなぁ、解ってるよ! 囮頑張ろうね!」
 純粋な微笑みにしょっとばかし罪悪感を覚える二人であった。 
「お、俺も手伝う……いっくしょいウッキー」
 提案のあった『おしくらまんじゅう』をやろうとした時、ふらふらなブラッドレイが上着を脱ごうとすると歌菜が押しとどめる。
「ダメ、レイはもう寝ていなさい!」
 そう言うと近くで誘導していた茉莉にブラッドレイの回収をお願いした。こうして無事に発汗運動が始まった。


 マスクの配布・感染者の誘導が終わった。感染者隔離スペースでは図書館中のカーテンを借りて、本棚等の間に仕切りを作り看病出来る環境が整っていた。介抱してくれる人達にはミキがマスクと一緒に買ってきていたタオルを渡す。濡らして汗を拭いたり少しでも熱を下げて楽にしようという事らしい。
 勿論、熱があるのだからと大人しくしている……ばかりでもなかった。
「どうせだったら可愛い女の子にお世話されたいぜウッキー!」
 欲望ダダ漏れ発言しているのは、顔は良いのに服のセンス派手で最悪なエル・ウィンド(える・うぃんど)。うきうきしながら女性陣の看病を待っているが、来るのは何故かむさい男性ばかり。
「勘弁してくれよ、冗談じゃないウッキー!」
 とうとう切れて隔離スペースを飛びだそうとするもマッチョな男性にずるずると元の位置に戻され、縛り付けられてしまった。
「あぁー……ついてねぇ……っくしょんウッキー!」
 こちらは大人しく看病を受けているレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)
「うふふ、厄介な事に巻き込まれてしまいましたねぇ〜……」
 と、その看病をしているシャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)
「拙者、一生の不覚、このような病にかかってしまうとはっくしょいウッキー」
 忍者に憧れているツルツル頭の椿 薫(つばき・かおる)も運悪く感染し、介抱を受けることになってしまった。
 それを看病するのは無崎 みつな(なしざき・みつな)
「大丈夫ですか? 苦しくないですか?」
 優しく薫の額や頭の汗を拭きとる。というか、どこから額で、どこから頭なのか区別がつかないだけかもしれないが。
「かたじけないでござる。このご恩は忘れないでござるよ……っくしょいウッキー」
 タオルを持ったみつなの手を必死と握って告げると気を失った。
「さっきのプスッと痛かったなぁー、いーっくしょいウッキー」
 額をさすりながらブチブチ言っているのは佐伯 梓(さえき・あずさ)。図書館の涼しい場所で昼寝していたのをパートナーであるカデシュ・ラダトス(かでしゅ・らだとす)にシャーペンで額をプスッと刺されて異変を知らされたのだ。起きたら見事に『くっしゃみサルーン』にかかっていたという。
「やる気が無さすぎだからですよ」
 ミキからもらったタオルで汗を拭きとってやる。
「そういえばさぁ、感染した人に禁猟区って有効なの? ひっくしょいウッキー」
「無効ですよ。禁猟区で一体何を防ごうとしたんですか?」
「いやあ、感染拡大を防いだりとか出来るのかなぁってっしょいウッキー」
「無理です。禁猟区にそんな効果なんてありません。空間を隔離したり出来るわけではありませんから」
 そうなんだぁ、と満足すると大人しくカデシュの看病を受ける梓であった。