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リアクション
第2章
図書館入口少し前。楽しげな2人の声が聞こえる。
「エル〜、今日も読書にいい場所探しに行くわよー」
少し前を歩く四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)と。
「ゆ、唯乃ッ……! 待って欲しいのですよーぅ……」
その後ろを歩くパートナーのエラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)。
図書館に足を踏み入れた唯乃がいきなり立ち止まる。
「うぷ……唯乃?」
背中にぶつかって顔が当たってしまった。
目の前の光景はまるでパニック映画。1mほどもある不気味な蚊が男性ばかりを追いかけまわし、サルのような語尾を付けたクシャミがあちらこちらで聞こえる。
「神聖な図書館でこの騒ぎ……、元凶はアレね……仕留めるッ!」
「唯乃……性格変わってるですよ……」
2人は事の中心地へと向かう。
「は〜はっはっ! 良い子の皆、オニーサンが来たからもう大丈夫ですよ! くしょいウッキー!」
本棚の上から登場したのは自称ヒーローのクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)、20歳。みな、一時的には手を止めてクロセルを見るものの、“またか”という表情で顔を背ける。
「お茶の間のヒーローがこんな語尾は格好悪過ぎです……ぶちぶち……ひっくしょいウッキー。熱でふらふらしますし……」
みんなの反応に少々傷つきながら分厚い本を片手にスキルの準備をする。
「これでも食らいなさい……うひーっくしょいウッキー!」
ドラゴンアーツを発動させて、手にしていた本を動き回る蚊に標準を合わせ投擲。もう少しでヒットというところでクルリと反転しかわす。ジャイアント・モスキートは投げられた方向を向き……鼻で笑って去って行った。
「なんですとー!」
悲痛な叫びは図書館に、ほんのちょっとだけ響いて消えた。
ホイップの側できょろきょろと周りを見回しているのは、ホイップの看病をしているカッチン 和子(かっちん・かずこ)。
「ど、どうしました……? ぜぇ、はぁ、くしょんウッキー」
その様子を不思議に思い、ホイップが質問する。
「あ、他にも蚊がいるんじゃないかと思ってぇくしょんウッキー」
「見かけた方が居ないみたいだし、大丈夫だと……へっくしょんウッキー」
「そっかぁ、じゃあ平気だね! くしょんウッキー」
「そういえば、パートナーのボビンはぁっくしょいウッキー?」
「あれ? どこいったんだろう?」
再び周りに目を向けると本棚の上で何やらスタンバイしているボビン・セイ(ぼびん・せい)を発見。
「巨大蚊に乗ったまま光学迷彩を使うとどうなるのかな? これは試してみる価値あるよね!」
わくわくしながら蚊を待つゆる族。
それにタイミングを合わせた様にやって来る巨大蚊。しっかりと狙いを定めて飛び降りた。背中に乗る直前――首だけこちらに向けてノコギリ状の尖った口を向けてくる。
「ぎゃー! 食われる!!」
涙目になりながら無意味に手をバタバタさせる。寸前、巨大蚊は口を前に戻し去っていく。
『ぷぷっ』
……何故だか反応を笑われた気がしたボビンだった。
何事もなく着地してから半泣き状態でパートナーの和子の元に戻るのだった。
パラミタ植物大図鑑を開いてハンカチを口に当てているのは朱宮 満夜(あけみや・まよ)。
「鼻がむずむずしてきたぁっくしょいウッキー。ミハエルどこ〜?」
ところ変わって離れた館内では箒に乗って「蚊〜チェイス」をやらかそうとしている満夜の相棒ミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)。
どこから聞きつけたのか蚊が薬の材料になることを知り、他の人に加勢をしようと自ら囮になろうとしているらしい。
そこに現れるは仮面にマントの自称ヒーロー、クロセル。
「待ちなさい。ここはオニーサンに任せて君は急いで満夜さんのところに戻ってあげなさい。さっきクシャミと鼻水と熱でぐしゃぐしゃになりながら君の事を探していたよ。風邪ひいてるときは心細いからね」
歯を煌めかせ、そう告げる。
「ふむ……我輩も手伝って一刻も早く満夜の薬作製を手伝おうと思ったのだが、それなら戻ってやるか」
「それが良いよ」
自分の事を探していたと聞いて満更でもなさそうで満夜の事を探しに行く。
それを見て満足そうにポーズをとっている自称ヒーロー。
図書館奥の倉庫の中から声がする。
「……面倒くさい」
ぼやいているのはリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)。そう言いつつもちゃんと手を動かして本の整理をしている。自分にかかった呪いを調べる為に持ち出し禁止の本を手に外に出ようとしていたのが見つかり、その罰で司書さんに倉庫整理を命じられてしまったのだった。
「まぁまぁ。頑張りましょう」
ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)はパートナーであるリリに付き合って整理をしている。リリよりも良く動いているのだが、さっきから転んだりして本棚から本を落としたり、揃えておいた本の山を崩したりして余計な仕事を増やしているようにしか見えない。
「ふぅ〜、こんなに埃っぽいと体に悪そうですね。ドア開けますね」
「ああ」
倉庫の中は閉め切っていたので大量に埃が舞っている。リリとユリもタオルを口に当ててやっていなかったら今頃クシャミが止まらなくなっていただろう。
ドアを開放すると図書館の空気が倉庫の中に入ってくる。
開けた事に満足して、ドアを背にするユリ。突如、ドアいっぱいの気色悪い蚊が倉庫に入ってこようとする。蚊の後ろからは、いつもと雰囲気の違う唯乃の声が聞こえる。どうやら追いかけ回されて、ここに逃げ込もうとしているらしい。しかし、こんな巨体がユリにぶつかれば、はたまた口に触れてしまえば怪我だけでは済まないだろう。
リリが急いで駆け寄り、ユリを後ろから抱き締める形で光条兵器を発動。背中から生えた翼のような兵器は蚊の顔をビンタし、強い光を放つ。ジャイアント・モスキートは慌ててこの場を離れた。
「大丈夫か!?」
「はい、有難うございます」
ふと、足元を見ると崩れた本の山から一冊の本が、あるページを開いている。
「い〜っくしょいウッキー! ホイップ君はまだ『くっしゃみサルーン』の薬調合に入れないみたいだね」
倉庫横で身を隠していた終夏がぽつりと呟くとリリの瞳は輝いた。
「っくしょんウッキー……あれぇ? 何このクシャミ」
『これでアナタも星の発見者!』なる本を読んでいたのは立川 るる(たちかわ・るる)。
このクシャミが気になり、隣でぜぇはぁ言ってる満夜に聞いてみた。
「ふ〜ん、『くっしゃみサルーン』かぁ。でも治療薬のためとはいえ、1mもある蚊なんて気味悪いし近寄りたくないなぁ……っくしょんウッキー。教えてくれて有難う、まーや……っくしょいウッキー」
「どういたしましてっくしょいウッキー」
るるは図書館内を良く見ながら何か考えていたが、いきなり立ち上がりのたまった。
「そうだ! 皆にうつせば必死になるよね! るる、まだ感染してない人にうつしてくる! それに風邪はうつせば治るっていうしね……っくしょんウッキー」
「ええぇ!?」
「行ってくるねぇ」
元気よく手を振って紙で作った紙縒り手に駆け出した。あまりの事に呆然としてしまった満夜。
「いたいた満夜……って、大丈夫か?」
ようやく発見した満夜を見て、風邪でない原因で呆然としているのを心配するミハエル。
「止められなかったぁくしょいウッキー」
こうして感染は更に拡大していく。
巨大蚊とそれを追いかける人達を見ながら何故か楽しそうな会話。
「……っぷしっウッキー。なんですかこのふざけた風邪は。人を馬鹿にしてるのですっぷしょっウッキー」
「あらあら〜エレノアちゃんてば、可愛いくしゃみねぇ〜」
「なんで下等生物はくしゃみしてないんですか……っぷしょんっウッキー」
「だって言うじゃない? 馬鹿は風邪を引かないって。私馬鹿ですもの〜ぅんふふふ〜」
「自分で馬鹿という当たり、流石下等生物なのです。褒めてやるのです」
病気にかかったのを可愛いとからかう巫丞 伊月(ふじょう・いつき)とエレノア・レイロード(えれのあ・れいろーど)の2人。
「やっぱり駄目でしたよ。ホイップさんは熱に浮かされてあまり覚えていないそうです」
ホイップに蚊に掛けた魔法を聞きに行っていたのはエドワード・ショウ(えどわーど・しょう)。
「うんうん、それにホイップのナンパもダメだった!」
鈴木 周(すずき・しゅう)はエドワードが質問したあとホイップにナンパをしたのだが、隣に控えていたベアに華麗なベアクローを決められて顔に傷をこしらえて帰ってきた。
「ここはやっぱり一致団結して闘う方が効果的だと思う。今まで、個人で攻撃しに行ってる人がいたけれど、みんな蚊に遊ばれてるもん。早くレイ治してあげたいし」
そう進言するのは遠野 歌菜(とおの・かな)。
「俺は何とかなるから……お前まで感染する前に逃げろ、バカ! うぃっくしょいウッキー」
まだ感染していない歌菜を心配しているのはブラッドレイ・チェンバース(ぶらっどれい・ちぇんばーす)。
「んもう! 何言ってるの! そんなにふらふらしてるのに!」
「カナ……」
2人の世界を作り、見つめあう歌菜とブラッドレイ。
「仲良いのねぇ〜んふふふ〜。とりあえず、事態を収拾してからイチャイチャしてちょうだいねぇ〜」
伊月の言葉に赤面して離れる。
「うおっほん! さて、共同で戦うのは良いですが、役割はどうします? どこかに追い込んで叩くのが良さそうだけど」
エドワードが言うとすぐに周が口を開く。
「囮役と何か、大きな網のようなもので袋小路を作製する役が必要なんじゃないか? 本棚は動かすと司書さんから雷をもらいそうだからな」
「それなら、私とエレノアちゃんが網を作って、待ち伏せするわぁ〜」
「下等生物の意見に賛同するのは癪ですが、構いません……っぷしょんっウッキー」
網を作るのは伊月とエレノアに決定した。
「私は囮役に志願しましょう。目立てばイルミンスールの美しいお嬢さん方にモテモテ……」
淡い期待を胸に囮役を買って出たのはエドワード。
「ちょっと待った! 俺も目立つ……じゃなくて、囮やるぜ!」
モテモテの言葉に釣られたのは周。
「はいは〜い、私も囮やるよ!」
そう元気に手を挙げたのは歌菜だった。
「それじゃあ、網のセッティングが出来たら本棚を5回叩いて知らせるわね〜」
伊月の言葉に頷いて、別れるのだった。
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