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第3章 徘徊する人を欺きし者

「えっへへー、このモンスターの着ぐるみで皆さんを脅かしてやります」
自作の牛鬼の着ぐるみを着た鷹野 栗(たかの・まろん)は、通行者の死角となる角で待機している。
「おっとようやく出番のようですね」
光条兵器の明かりを頼りに道を進む人影を発見すると、ゆっくり深呼吸をして気合を入れた。
「がぉおおー!モンスターの登場なのですー!」
栗は声を低くして呻り声を上げ、ユニに飛びかかった。
「きゃあっ、怪物が出ましたた!」
捕まりそうになったユニはとっさに避け、クルードの懐に飛び込む。
「―…人だろ?」
クルードは冷静な口調で言い、顔を伏せているユニを見下ろす。
「ひっ…人じゃありません、私はモンスターですよー!」
一瞬で見破られながらも、栗は必死に演じる。
両腕を上げた瞬間に、壁にぶつかってしまった栗が罠を発動させてしまう。
突然出現した頭上へ降り注ぐ無数の毒針を、低い体勢からクルードは月閃華の剣風で叩き落す。
「まったくさっきからこんな罠ばかりだな。さっさと終わらせて帰るぞ」
深いため息を1つつくとユニの手をとって先を進む。
「―…あっ!くっ…悔しいですー!」
遠く離れていった2人、もといまったく怖がらないクルードに対して、栗は地団駄を踏んだ。



ピエロ衣装を着たナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)は、資材室から勝手に借りたチェンソーを片手に驚かすターゲットを探して廊下を徘徊している。
さらに恐怖感を演出するためにピエロメイクまでしていた。
「餌食なるのはどいつだ」
暗い通路を見ながら不適な笑みを浮かべてた。
姫神 司(ひめがみ・つかさ)は肝試しというものを知らないパートナーのグレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)を連れて、危険人物のいる区域に足を踏み入れてしまう。
「そこに誰かいますね」
グレッグが指で指し示した先には近づいてはならない存在、ナガンが通せんぼするように通路のど真ん中に立ちはだかっていた。
「彼は明らかに、これからわたくしたちを脅かすという雰囲気であろう」
司は落ち着いた口調で確定的に言い、逃げ出せる間合いをとる。
「―…あれはもしかして、怪談で言い伝えられているジェイソンでは!」
声を震わせ、グレッグは1歩後ずさった
怪談に現れる怪物と思われたナガンは何のことかと首を傾げる。
「こちらから逆に驚かそうにも、すでに発見されてまった……であろう!」
力を込めて司はナガンへハリセンを叩きつけようとする。
「へっ、そんなもん木っ端だぜ!」
ナガンはチェンソーを起動させてハリセンを真っ二つにしてしまう。
「あわわ私たち微塵にされてしまいますよ!」
パニック状態になってしまったグレッグの手をとり、司は止むを得なくその場から逃れた。
彼らから気づかれにくい位置から、天良 高志(てんら・たかし)が携帯のカメラで写真をとっていた。
きんと撮れたことを携帯を捜査して確認すると、ゴールして帰ろうと地図を見る。
蒼空学園のインターネットなどを活用して持ってきた地図だったが、このイベントのためにエリザベートがいいかげんな情報が流したため、偽の地図を掴まされていた。
「さっきから地図にない道ばかりだね。ニセモノ…だよね、これ。はぁ…僕としたことがまさかニセモノを掴まされてしまうなんて」
疲れたため息をつき、人と遭遇せずに罠のなさそうな道を慎重にたどっていく。
数分歩いたところで、明らかに怪しそうな近道と書かれた紙が貼られたドアを見つけた。
もしかしたら本当に近道かもしれないと、そっとドアを開けると部屋の中には誰も居なかった。
ドアを閉めると部屋の隅で何かが蠢いている。
腕の4本生えて頭部に2つの口を持ち、全身に不気味な目玉が無数についている化け物が、霊道から進入してきたようだ。
悲鳴を上げそうな声を飲みこみ、高志は人がやっと1人通れそうな通気口に入り道を進むこと1階へ向かう階段にたどりつけた。