イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

臨海学校! 夏合宿R!

リアクション公開中!

臨海学校! 夏合宿R!

リアクション

 
4.宝はあるのか

「手伝ってもらって助かったぜ。二人じゃいつできるか分からなかったからな」
「いえいえ。こういうことは、女の子の方が得意だから」
 ルイーナ・フュリューゲルが、藤宮隼人に答えた。
「さあ、さっさと作っちまおうぜ」
 ジン・クロスフィールドが、二人を急かした。
 三人は、魔物を捕まえる網を作っているのだった。材料の蔦は、テント設営班から分けてもらった物だ。
「イカだ。海の魔物といったら、イカデビルしかありえない!」
 ひときわ大きな叫び声は、神代正義だった。
「調べたら、先行した合宿の部隊は巨大クラゲに襲われたという話じゃないか。触手だ触手。触手といえば、イカしかありえない」
「タコは?」
 さりげなく、大神愛が突っ込む。
「イカだ!」
 正義が言い返した。
「絶対に、イカだ!」
 彼にとっては大事なことらしく、正義が繰り返して言った。
「はいはい。あたしは魚か何かだと思いますから、釣りでもして魔物を釣り上げることにします。水着に着替えに行ってきますから……のぞかないでくださいね」
 正義に釘をさすと、愛はさっさと着替えに行ってしまった。
「テンション高いですねえ。でも、こういうときこそ落ち着いて行動しないと」
 ピンクのワンピースの水着を着た櫻良ひよりは、そう言うと禁猟区を唱えた。こうやって、魔物の気配を逸早く察知しようという作戦だ。
「ふああ。魔物が現れたら教えてくださいませね。私がやっつけますから」
 寝そべって、ワンピースの水着の開いた背中を適当に日に焼きながら、レロシャン・カプティアティはひよりに言った。彼女が何度か禁猟区をかけなおしているような気配を感じながら、いつの間にかすやすやと寝入ってしまう。気持ちはよさそうだが、後で日焼けに苦しまなければいいのだが。
「それにしても、どんな魔物がいるというのでしょうかねえ」
「イルミンスールの図書館で調べたんだけれど、よく分からなかったんですよ」
 ひよりの素朴な疑問に、譲葉大和が答えた。
「ええと、とりあえずメモだけはしてきたんだよね」
 ラキシス・ファナティックが、胸の谷間から小さなメモ用紙を取り出して言った。
「ええと、虹色に光る変な法螺貝とか、阿魔之宝珠(あまのほうしゅ)とかいうよく分からない玉とか、大きな真珠があるとか、人魚の卵だとか、あまりに古い資料からうわさ話まであって、結局よく分からなかったんだよ。モンスターも、クラゲだかイカだかタコだか海老だかカニだか魚だか、みんないてもおかしくないという」
「まあ、結局出たとこ勝負ということですよ」
 そう言って、大和は肩をすくめた。
 肝心の海では、アクティブな者たちが素潜りを繰り返して魔物を探し求めていた。
「いたか?」
「ダメ。今のところ見あたらないわ」
 高月芳樹に聞かれて、パートナーのアメリア・ストークスが答えた。有翼種のヴァルキリーである彼女は、自慢の翼が濡れるのも構わず高月につき従って海に潜っている。
「もっと沖ってことか? あんまり岸から離れるのは危険だがな」
 八神夕が、二人に近づいて言った。
「とにかく、もう一度潜ってみようぜ」
 そう言って、高月はまた水中に姿を消した。
「さあ、待ってろ、イカ野郎!」
 準備体操が終わった正義が、ざんぶと海に飛び込む。
「いってらっしゃーい。さて、あたしはと……」
 パートナーを送り出すと、愛は釣り竿を片手に手頃な場所を物色しに歩きだした。
「確かに、正義が言っていたように、モンスターがいるとしたらイカだな」
 沖にむかって泳ぎながら、クルード・フォルスマイヤーが言った。
「ええー、触手系はちょっと嫌ですよー」
 ユニ・ウェスペルタティアは、自分の着ている青い水着をチラリと見て困った顔をした。微妙にサイズが小さくて、豊かなユニの胸を隠すのに全力で頑張っていますと言いかねない水着だったのだ。夏のイベントで特需でもあったのか、買えた水着はこれだけだった。
「でも、本当に魔物なんかいるんでしょうか。他の合宿の人たちは、なんだか魔物と遭遇してお宝も見つけたとか見つけなかったとか。もう、何も残ってないんじゃ……」
 頑張ってクルードに追いつくように必死に泳ぎながら、ユニが訊ねた。
「場所が違うし、ここはパラミタなんだから、お宝や魔物がいくついても不思議じゃないぜ。信じる者は救われるってな」
「魔物が出てきたら救われないですよー」
「そんときは、オレがユニを守ってやるさ」
 言ってしまってから、クルードは照れを隠すように水中に潜った。

「闇雲に敵を探しても、効率はよくないのだがな。アルゲオ、準備はできたか」
「はい、できました」
 イーオン・アルカヌムに言われて、アルゲオ・メルムが血まみれの袋を手に現れた。先ほど、森で倒されたイノシシの内臓や頭を、ジェニファー・グリーンから貰ってきて詰めた物だ。
「よし、海に投げ入れたまえ」
 イーオンに言われて、アルゲオが岬からその袋を海へと投げ込んだ。もし、魔物がいたら、この血の臭いに惹かれて姿を現すだろう。後は、イーオンたちが密かに持ち込んだ花火を爆弾代わりにして止めをさすだけだ。
「みんな頑張ってますねえ」
 岬近くの岩場で釣り糸を垂れながら、愛がのんびりと言った。
「あわててもしかたないからねえ」
 隣で同じように釣り糸を垂れる黒脛巾にゃん丸が言った。なんにしても、飛空艇のカラオケ大会で消耗してしまったので、今はあまり体力を使いたくない。
「釣りは、いいねえ。うまくいけば、おかずも釣れるし」
「そうですねえ。なごみます」
「おや、筏なんか作って、沖でのんびり釣りをしている者もいるみたいだねえ」
 にゃん丸の言う通り、沖には三つの筏が浮いていた。一つには小鳥遊美羽とベアトリーチェ・アイブリンガーが、別の筏には蓮見朱里とアイン・ブラウが、最後の一つには姫宮和希が乗っていた。
「釣れるかな♪ 早く出てきやがれ魔物さんっと」
 鼻歌交じりに、姫宮が釣り糸を垂れている。一応、水着のトランクス姿で、小さいながらも胸はちゃんとサラシを巻いて隠してはいる。パラ実のステイタスである学ランと学帽を着ているので、他のパラ実の女生徒たちのように間違った方向でセクシーになってはいなかった。もっとも、彼女は泳げないので筏から水に入るつもりは毛頭なかったということもある。
 筏に縛りつけた釣り竿から釣り糸を垂れてしばらく静かにしていると、突然近くで水柱が立って何かが飛び出してきた。
「出やがったか……って、お前は、森を破壊していた褌男!」
 突然筏に乗り込んできた光臣翔一朗を指さして、姫宮は叫んだ。
「こんな所で何ちんたらしてるんじゃい。沖へ行くぞ、沖じゃあ!」
 言うなり、すごい勢いで筏をこぎ出す。
「やめてー。俺は泳げないんだー。きゃー、やめてー」
 筏にしがみつきながら姫宮が叫んだ。恐怖のあまりか、素の女の子言葉になってしまっている。
 そのとき、筏にくくりつけていた釣り竿がぐんと大きくしなった。
「何かかかった?」
 姫宮の言葉に、さすがに光臣が筏を漕ぐ手を止める。いや、違う、筏自体がすごい力で反対方向に引っぱられたのだ。
「いるのう」
 光臣が身構えた。
 筏がさらに強い力で引っぱられる。だが、それに釣り竿が耐えきれず、砕けて折れた。撥ね飛んだ竿の部分が、姫宮のサラシをかすめる。間一髪怪我はなかったが、引っかけられたサラシがみごとに千切れ飛んだ。
「いやー!」
 あわてて胸を隠す姫宮の後ろで、光臣がひっくり返った。案外純情な男のようである。
「来るわ……。みんな、来るわよ!!」
 ちりちりとした不快さを感じて、禁猟区を唱えていた櫻良ひよりがすっくと立ちあがって大声で叫んだ。その足下では、レロシャン・カプティアティがすやすやと眠り続けていた。
 ひよりの声に呼応したかのように、海面に水柱があがって、何かが飛び出してきた。
「イカじゃねえー!!」
 水中から空高くに弾き飛ばされた神代正義が、ひゅるひゅると砂浜まで吹っ飛ばされて落ちてくる。
「誰だイカって言ったのはー」
 一拍遅れて、八神も海中から弾き飛ばされた。
「きゃー、正義ちゃん、死んじゃだめー!」
 大神愛は、釣り竿を投げ出すと真っ青になってパートナーを治療するために走りだした。
 再び水飛沫があがる。ついに魔物がその姿を現した。
 全長八メートルはありそうな巨大な魚だ。
「あれは、バラクーダ! 和名だと、カマスだ。急ごうぜ」
 完成した網をつかむと、藤宮はジンとルイーナをうながした。
 海上高くジャンプした化け物カマスの身体には、剣を突き立てたアメリア・ストークスと彼女の身体に必死でしがみついている高月芳樹の姿があった。
「燃え散れ、爆炎波!」
 バラクーダがジャンプの頂点に達したときに、アメリアが魔物の身体に突き立てたままの剣に力を込めた。刀身が炎につつまれて爆炎が広がる。魔物の肉片の一部が飛び散ったが、その攻撃のおかげで二人の身体がバラクーダから離れてしまった。先に水面に落ちた魔物が、姫宮と光臣の乗る筏ごと海面を尾鰭で打って急反転する。筏は、あっけなく木っ端微塵になった。
 突き出た下顎にならんだ鋭い歯の列が、高月とアメリアに迫る。
「しまった……」
 バーストダッシュで逃げようとしたアメリアだったが、彼女の技量では先ほどの爆炎波ですべての力を使い果たしてしまっていた。自らの濡れた翼を広げて、高月と一緒に海に落ちないようにするのが精一杯だ。
 やられると思わずアメリアは思い、せめてパートナーだけはと、高月の身体を突き放そうとした。だが、その瞬間、小柄な身体を長身の高月に逆に強くだきしめられる。
「バーストダッシュ!」
 高月が叫んだ。光の翼と同じ虹色のスペクトルが二人をつつむ。その身体が、急加速した。すぐ後ろで、バラクーダの歯がぶつかり合うカチンという固く不気味な音が確かに響いた。
 水中に没するバラクーダを尻目に、海面すれすれを水飛沫をあげながら高月とアメリアは飛んでいった。
「君の力は、僕の力でもある」
 高月の言葉を聞いて、アメリアはニッコリと微笑んだ。
「どうやら今回も、女神は僕に微笑んでくれたようだ」
 高月も笑ったが、よかったのはそこまでだ。
「きゃー、こないでー。避けてくださーい」
 砂浜で立ちすくんだ櫻良ひよりが叫んだ。
「避けられるわけないだろ、逃げろ!」
 叫ぶ高月たちが、一直線にひよりに突っ込んでいく。このまま両者が激突すると思われたとき、アーレイ・アンヴィルが間に飛び込んできた。禁猟区を駆使しつつ、我が身を呈してひよりを守る。
 両者が激突した。禁猟区の守護結界が働いたとはいえ、四人とも弾き飛ばされるようにして砂浜に投げ出された。
「大丈夫ですか」
 六本木優希が、Aラインワンピース水着のスカートの裾と豊かな胸をゆらしながら駆けつけてくる。
「そっちは任せたぜ!」
 アレクセイ・ヴァングライドは、波打ち際まで走りながらバラクーダにむかって火球を放った。素早く水中を移動するバラクーダの軌跡を追うようにして水蒸気と水柱が連続して起こった。
「速い!」
 手強い魔物に、アレクセイが舌打ちした。
「くっくっくっ、計画通りだ。せいぜい、奴を弱らせてくれ。おっと、お前たちも共倒れだがな」
 物陰に身を潜めながら、ザックハート・ストレイジングはつぶやいた。彼の計画通り、筏の一つはバラバラとなった。
 彼からほど遠くない場所には、落ちてきた筏の木材が、柱の列のように砂浜に突き刺さっていた。

「ふふふふふ。さあ、こちらに来なさい!」
 自分たちの方にむかってくるバラクーダを見据えて、小鳥遊は瓶底眼鏡の位置をなおすと筏の上で不敵に微笑んだ。
「美羽さん、はい」
 ベアトリーチェ・アイブリンガーが両手を前に突き出して、小鳥遊の方にさしだした。その両手の間の空間を、小鳥遊がつかむ。それを引き出すと、光り輝く大剣がその全貌を現した。ブンとそれを軽く一振りしてから、小鳥遊は筏の上で身構えた。
「さあ、来い!」
 小鳥遊の挑発に気づいたのか、バラクーダが次の獲物を小鳥遊の筏に定めた。水面に半身を出すと、水を蹴立てて飛沫をあげながら迫ってくる。
「おかしい」
 姫宮たちの筏の不自然な壊れ方に疑問をいだいたアイン・ブラウは、自分たちの乗っている筏をあらためて確認した。木材を縛っている蔦に、明らかに人為的な切れ込みが入っている。こんなことをする者は、おそらく一人しかいない。
「いけない! おそらく、あちらの筏も……」
 アインは叫んだが、すでに小鳥遊はバラクーダとの戦闘に入っていた。
 小鳥遊が大剣を突き出してバラクーダの眉間を叩き割ろうとしたとき、バラクーダがふいに海中に潜った。
「しまった……」
 タイミングを外されたと小鳥遊が舌打ちをした瞬間、彼女の足下の筏が不自然に盛り上がった。バラクーダが、筏を真下から突き上げたのだ。
 筏を結んでいた蔦がザックハートのつけた切れ目から簡単に切れて、あっという間に筏が空中分解する。
「まだだもん!」
 足下から迫ってくるバラクーダの眉間にむかって、小鳥遊は大剣を振り下ろした。眉間に一撃を加えた瞬間に爆炎波でバーストさせて致命傷にしようともくろんだのだ。だが、なにぶんにも足場のない空中では分が悪すぎる。激しく身をくねらせるバラクーダによって、小鳥遊の一撃は脆くも弾かれた。逆に、タイミングを逸して放った爆炎波の反動で、彼女の身体はバラクーダの前面から遠くへと吹っ飛ばされてしまった。もっとも、そのおかげで全身を噛み砕かれることだけはまぬがれたのだが。
 それでも、ある程度の傷は負わせたと思われたのだが、あろうことか、バラクーダの傷の一部がみるみるうちに回復していく。
「何が起きたんだ」
 予想外の出来事に驚いて、ザックハートが隠れていた場所から身を現した。そこへ、先ほどバラクーダによってバラバラにされた筏の部品が雨霰と降り注ぐ。
「うぐあ」
 直撃を受けて、ザックハートが倒れる。
「きゃあ、ザックハート様!」
 彼のパートナーのルアナが、悲鳴をあげて助けに走った。
 その様子に、遠目でもアインが気づく。
「因果応報というところか」
 笑いたいところだが、こちらもそんな余裕はない。
「おう、こいつらなんとかしてやってくれんかのう」
 突然海中から現れて筏の縁に手をかけた光臣が、筏の上にぐったりとした姫宮を投げ上げた。そしてすぐ潜ると、今度は小鳥遊をかかえたベアトリーチェを筏の上へと押しあげる。
「美羽ちゃん、大丈夫なの」
 同じ【あおぞら隊】の蓮見朱里が、心配して小鳥遊に駆けよった。
「無事ですから、今は魔物の方を」
 ヒールで小鳥遊と姫宮を治しながら、ベアトリーチェが言った。アインがSPリチャージで補佐をする。
「とにかく、ここは危険だよね。いったん陸に避難しましょ」
「だったら、俺に任せとけい」
 蓮見の言葉に、光臣が猛烈なスピードで筏を押して泳ぎ始めた。つくづくタフな男だ。

「あんたは、いったい何をしているんだ」
 藤宮隼人は、バラクーダをヒールしたパトリシアーナ・ヒルベルトにむかって言った。
「皆さんは、魔物だからといって、生き物を無下に殺していいと思っているのですか。それは、明白な生態系の破壊です。それに、宝物だって、魔物さんの大切な物かもしれないじゃないですか。それを奪っていいという法はありません」
「あんたの言いたいことは分かった」
 一通りパトリシアーナの言葉を聞いてから、藤宮は口を開いた。
「だがな、あんたは気づかなかったのか。この海に、他の魚がほとんどいなかったこととに。そう、奴のせいなんだよ。あのバラクーダが、他の魚を根こそぎ食べてしまっているか、あるいは近づけられないようにしているんだ。この入り江の生態系を破壊しているのが、あの魔物そのものなんだ」
「そんな……」
 呆然として、パトリシアーナはその場に座り込んでしまった。
「あんたの行動の是非は問うつもりはない。だが、俺はこの入り江のすべての生き物のためにあの魔物を退治する!」
 それだけ言うと、藤宮はジンたちの方へと走り去っていった。

「さて、そろそろであろう」
「そうですね」
 岬の上から状況を見ていたイーオン・アルカヌムとアルゲオ・メルムは、お互いにうなずきあった。その手には、このときのために持ち込んだ改造型花火爆弾が握られている。
「頼むぞ、アルゲオ」
「お任せください」
 アルゲオは、光の翼を広げると、バーストダッシュで一気に戦場の真上へと移動した。
 眼下では、崩れかけた筏を全員で必死に押さえている蓮見たちと、それを追いかけるバラクーダの姿があった。
「皆様、逃げてくださいねー」
「必死に逃げてるだろ。この状態で何を……」
 怒鳴り返す姫宮の目に、アルゲオが空中から何かをばらまく姿が見えた。
「ぐわー!」
 誰のものとも分からない悲鳴とともに、バラクーダと筏の周りで立て続けに爆発が起こった。
 盛り上がった海が突発的な津波となって、蓮見たちの筏を粉砕しながら彼女たちを海岸へと押しやっていく。
「ふぁーあ。おかえりー」
 やっと目を覚ましたレロシャン・カプティアティが、砂浜に無惨に転がる蓮見たちを見つけてのんびりとヒールをして回った。
 一方のバラクーダの方は、アルゲオの攻撃で浅瀬まで追いやられたものの、未だ健在であった。度重なる攻撃に怒り心頭で、浅瀬で水飛沫と砂を弾き飛ばしつつ、猛烈に暴れている。その巨体ゆえ、軽く飛ばされた水飛沫でさえ、直撃されたら小柄な人間なら簡単に吹っ飛ばされてしまう量と威力だった。
 初期に戦った者たちがぼろぼろになりつつあったのと入れ替わるように、他の場所に散らばっていた魔物討伐目的の者たちが集まってきた。
「そこの魔物、正々堂々と俺と戦え!」
 河口付近に仁王立ちになった守屋輝寛が、バラクーダをアサルトカービンで攻撃しつつ挑発した。スイカ割りをしていたメンバーは、幸いなことにもうどこかに移動してしまったようだ。
 怒りの炎に油を注がれたバラクーダが、守屋めざして突進してくる。
「無謀だぞ!」
 急いで藤宮隼人が禁猟区で守屋を守ろうとするが、はたして防ぎきれるかどうか。
「どいてどいて。その獲物は、わたくしがいただきますわ!」
 やっと駆けつけた東重城亜矢子は、遅れを取り戻すんだとばかりに、バラクーダに負けぬ勢いで突っ込んでいった。周囲の状況など、彼女にとってはどうでもいいことだった。魔物の撃破、それ以外、今の彼女は考えていない。
「閃光とともに灰とおなりなさいませ。轟雷閃!」
 亜矢子の細身の剣が雷光を纏って光り輝く。守屋の眼前で、亜矢子は雷光ごと剣をバラクーダに叩きつけた。編み目のように広がるスパークが、バラクーダを押しつつんだ。魚の肉が焦げたような、ちょっと美味しいような匂いが広がる。
「あら、美味しそう……」
 一瞬気を抜いた亜矢子と守屋を、暴れるバラクーダが弾き飛ばした。
「うわ」
「しくじりましたわ……」
 そのまま大地に激突するかと思った亜矢子を、誰かが受けとめた。守屋の方は、そのままもんどり打って地面に激突したが、藤宮がかけてくれた禁猟区のおかけで大事にはいたらなかったようだ。
「私がいなければ、あなたは死んでいましたよ」
 機晶姫のバルバラ・ハワードが、パートナーである亜矢子をお姫様だっこしたまま素っ気なく言った。
 バラクーダの方は、全身から煙をあげながらもまだ生きている。だが、さすがにかなり弱ってきたようだった。
 周囲に漂う匂いをかいで、月城優葵はちょっと考え込む仕草をした。
「確か、カマスは食えたはずだ」
 その言葉に、何人かの目の色が変わった。
「こ、これは、今夜のメインディッシュ!!」
 傷ついた者たちも、残った力を振り絞って集まってくる。
「このまま川に誘い込むんだ。動きを封じる!!」
 藤宮が叫んだ。
「ようし、俺に任せなさい。ラキシス!」
「はあい」
 名乗りをあげた譲葉大和に呼ばれて、ラキシス・ファナティックが駆けてくる。
 銃も持たずに両手を身体の前にのばして構える大和を、ラキシスが後ろからだきしめた。のばされ大和の両手に自分の両手を重ねるようにしてのばすと、二人の手の中に光が集まっていった。ラキシスが、腕全体を優しくなでるようにして後ろへと身を引く。彼女が離れたとき、大和の手には、銃剣のついた拳銃型の光条兵器が握られていた。鈍く光る漆黒のそれを、大和は葬炎と名づけている。
「そうれ、俺についてきなさい」
 連続してトリガーを引きながら、大和は川上にむかって走った。光条兵器を維持するために、けなげにも小さなラキシスが一緒に走る。
 だが、ナイトである大和は銃のスキルは持っていない。走りながらのこともあって狙いが絞られず、バラクーダにむけて放たれた光弾はバラバラに飛んでいくだけであった。それでも、敵が巨体ゆえに光弾はどこかに命中し、バラクーダの身体から固い鱗を弾き飛ばした。怒りに狂ったバラクーダが、大和たちを追って川を遡行していく。
「ちょっと、危ないですわよ」
 あたり構わず飛んでくる手裏剣のような鱗に、亜矢子が悲鳴をあげた。そんな彼女の前にすっくと立ったバルバラが、大剣を盾にして飛んできた鱗を弾き返す。
「これで、二度死んでた」
「そ、そんなに死にませんわよ」
 淡々とバルバラに言われて、亜矢子はなんとかそれだけ言い返した。
「よし、今だ、網をかけろ!」
 満を持して、藤宮が叫んだ。
 手伝える者たちが蔓で作られた網をバラクーダに投げかけた。
 バラクーダはこの異物に暴れて抵抗したが、それは逆効果となり、網に絡みつかれる結果となった。細い川に侵入したことも相まって、完全に身動きがとれなくなる。
「今だ!」
 動ける者たちが、一斉に武器をバラクーダに突き立てた。
 さしもの怪魚も、今度ばかりは完全にその動きを止める。
「てい」
 クルード・フォルスマイヤーが、動かなくなったバラクーダに止めとばかりに剣を突き立てた。
「やったぜ、止めはさしたぞ」
「いやいや。クルード、それはもう死んでますから」
 ユニ・ウェスペルタティアが、それは無理があると顔の前で手を横に振った。
「やったあ、夕飯ゲットだぜ!」
 その場に居合わせた者たちが、一斉に叫んだ。
「あらあ、何かあったのかしらあ」
 浮き輪に乗ってプカプカと海を漂いながら、緒方碧衣は聞こえてきた歓声にちょっと小首をかしげた。

「それで、宝はどうなったんだ」
 藤宮隼人は、納得がいかないという顔で言った。負傷者たちは、渋るジン・クロスフィールドにちゃんと治療するように言いつけてある。ラキシスも、大和以外を献身的にヒールして回っていた。
「正直、イカでもなかった」
 神代正義が、すごく残念そうに言った。
「いや、イカはもういいから。それよりも、宝はまだきっとあるはずだ」
 そう言うと、月城優葵は宝を探すために海に潜りに行った。何人かが、それに競うように海に飛び込んでいく。
「とりあえず、もう日も暮れてきたから、こいつを夕食で食べようじゃないか」
 守屋輝寛が、生焼けのバラクーダを前にして言った。その腹の部分が微かに光っていることに気づく者は、まだ誰もいなかった。
「それがいいですね。でも、一応安全のために解毒しておきましょう」
 ベアトリーチェ・アイブリンガーは、バラクーダにキュアポイゾンをかけた。
「ようし、じゃあみんなで運ぶぞ!」
 サラシを巻きなおした姫宮が、みんなに号令をかけた。

「みんな、大物を釣り上げたようだねえ。こっちも何かかからない……おっと」
 のんびりと釣りを続けていた黒脛巾にゃん丸の釣り竿が、大きくしなった。
 バラクーダがいなくなったため、魚が戻ってきたのだろう。
「負けないぞぉ」
 両足をふんばって、にゃん丸が獲物と格闘した。ぐいと釣り竿を引くと、獲物が跳ねてその姿を現した。全長二メートルはありそうな巨大カレイだ。
「大物だあ……ああぁぁぁ」
 叫んだとたん、にゃん丸は海の中に引きずり込まれた。
「だ、誰か助けて……」

「なんだか、急に魚が増えたような気がするぞ」
 バシッと、水中の鮭をはたいて岸に弾き飛ばしながら雪国 ベアが言った。
「似合ってるわよ、ベア」
 鮭を捕るベアの姿に、ソア・ウェンボリスは思わず笑いがこみあげてきた。
「いいか御主人、俺はシロクマだ。鮭はとらねえ」
 むすりとした後にかっと口を開いてから、ベアはまた一匹鮭を川の中から殴り飛ばした。

「急に魚が捕れるようになったな。何かあったのか?」
 手製の銛で岩場の魚を突きながら、永夷零は不思議だと首をかしげた。ついさっきまではまったく魚が捕れなかったのに。おかげで、こんな離れた場所まで移動してきてしまっていたのだから。
「潮が変わったのではないでしょうか」
 近くで火を焚きながら、海水から塩を抽出しているルナ・テュリンが答えた。調味料、特に塩は焼き魚には必要不可欠な物だ。
「まあ、捕れないよりはましだからよしとするか」