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臨海学校! 夏合宿R!

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臨海学校! 夏合宿R!

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 お宝について多少もめたにせよ、夕食も終わって、生徒たちお楽しみのキャンプファイヤーの時間となった。
 砂浜には、倉田由香が苦労して組みあげたキャンプファイヤー用の薪が綺麗に積みあげられていた。なにしろ、この人数だ。キャンプファイヤーもかなりの大きさになる。エリオット・グライアスたち【F班】の共同作業で、なんとか完成したというところだ。さすがに、力仕事でみんなへとへとではある。
「それじゃ、るーくん、お願いね」
「任せとき。点火!!」
 由香に言われて、ルーク・クライドが薪の山に火術で炎を吹きかけた。他にも、何人かの魔法使いが一斉に炎を放射する。四方八方から放たれた炎が、中心で一つとなって大きく燃えあがるファイヤーストームとなった。
「さあ、みんなで踊っちゃおうよ!」
 そう言って、風滝穂波がオクラホマミキサーを歌いだした。せっかくラジカセを用意していたのだが、キャンプ場に着くまでの飛空艇のカラオケ大会ですっかり電池を使われてしまったのだ。こうなれば、もう歌うしかない。
 穂波の声が響き始めたとき、それにギターの音が合わさった。驚いて振り返ると、薔薇の学舎のガイドであるスチュワートが、穂波にあわせてオクラホマミキサーを生演奏してくれていた。
「いつの間にギターを……」
「少し前に、必要になるかと思いまして、余っていた木材で手作りいたしました」
 さも自然にスチュワートが穂波に答えた。
「手作りですって」
「スチュワートとしてのたしなみでございます。さあ、皆様で踊りましょう」
 あたりまえのように言うと、スチュワートが曲を始めから弾きなおした。
「面白いよね」
 電池を使い切ってしまった張本人の愛沢ミサが、穂波にあわせて歌いだした。
「これはもう歌うしかないですぅ」
 メイベル・ポーターが加わり、パトリシアーナ・ヒルベルトも途中から加わっていった。
 ギターの調べに乗って、みごとな合唱のハーモニーがキャンプファイヤーの炎をゆらめかせる。
「諒瑛、我らも踊ろう」
 サイカ・アンラックは、天津諒瑛の手をとってキャンプファイヤーのそばへといざなった。
「踊りましょうか」
「ええと……。まあいいかな」
 カナン・アルベリオスに手をとられて、クロス・クロノスがおずおずとキャンプファイヤーの周りで踊る生徒たちの輪に加わっていった。薔薇の学舎の生徒のちょっと優雅なステップに、シャンバラ教導団仕込みの無骨なステップがちょくちょく足を踏みそうになる。そのたびに、カナンが巧みにそれを避けてみせた。
「睡蓮、自分とでは装甲が邪魔で踊りにくくないか」
 遠慮がちに、鉄九頭切丸が言った。確かに、周りで踊っている生徒たちは、九頭切丸の装甲に殴り倒されないように少し距離をとっている。
「ううん、そんなことはないよ。これもりっぱな思い出だし。そうだ、ちゃんと写真を撮っておいてね」
「おう、任せとけ」
 睡蓮の言葉に、九頭切丸は力強く答えた。

「さあ、そろそろ僕たちの出番だよ!」
 菅野葉月が、待機している【F班】の面々を見回して言った。持ち込めた花火の量は多くはないが、足りない分は魔法でなんとかするつもりだ。
「いよいよ、地球の花火っていうのが、見られるんだよね」
 ミーナ・コーミアが葉月にだきつきながら、興味津々で打ち上げ花火用の筒をのぞき込もうとした。
「危ないからダメよ」
 あわてて葉月が注意する。
「では、そろそろ刻限だ。打ち上げるとしよう」
 エリオット・グライアスが一同をうながすと、マッチに火をつけた。五人がそれに倣う。ミーナは、目をキラキラさせてそれを見つめた。
「ファイエル!」
 六人が一斉に導火線に火をつける。
 一瞬の静寂があって、それぞれが担当した筒から花火が打ち上げられた。
 ひゅるるるる……と空気を切り裂く音とともに火花の尾がのびる。それが消えたと思った次の瞬間、空に大輪の火花が一斉に花開いた。
「たーまーやー」
「かーぎーやー」
 日本出身の生徒たちの間から、歓声が起きる。
「オー、花火が丸いデース」
 レベッカが、珍しそうに夜空を見あげた。
「わあ、綺麗。これが花火なんだ」
 ミーナが、きゃっきゃと喜んで小さく拍手した。
「それそれ〜! どんどんいっくよ〜!」
 メリエル・ウェインレイドの言葉に合わせて、一同は次々に打ち上げ花火に点火していった。それに合わせて、夜空にいくつもの色とりどりの花火が花開く。ドーンという音が、キャンプファイヤーの炎すらゆらして、生徒たちの身体に響いていった。
「あら、もうなくなっちゃった?」
 あっという間に全弾が尽きてしまった花火を見て、ミーナが残念そうに言った。とは言っても、大小三十発は打ち上げただろうか。
「まだまだこれからでっせ。葉月はん、ミーナはん、ギャザリングヘクスの準備よろしくおま」
 日下部社が、やっと出番だとばかりに腕まくりした。エリオット、ルーク、ルーシー・トランブルらとともに、ドリンク剤よろしくギャザリングヘクスで作られた魔法強化薬を一気にあおる。
「それ!」
 日下部とエリオットが、赤と青の火球を同時に空にはなった。螺旋を絡ませるような尾を引いて、火球が夜空へと上っていく。遙か高みへと達したところで、二人は火球を爆発させた。それが消える瞬間のタイミングに合わせて、ルークとルーシーが雷術で細かなスパークを火花が散ったあたりに輝かせた。
 その連携のみごとさに魔法使いたちから歓声と拍手がわき起こる。
「意外とうまく再現できるものですねぇ。さあ、次いきますよぉ」
「SPリチャージは、可能な限りやりますので、頑張ってください」
 満足気なルーシーたちを、メリエルが応援した。
 魔法はある程度自由に動きがコントロールできるため、本物とはまた違ったいろいろな火の花や雷光が夜空に花開いた。
「ようし、俺も」
 我慢できなくなった魔法使いたちが次々に加わっていって、夜空はスターマインもかくやというほど華やかになった。
「わしも参加するのじゃ。一番大きいのを出すのじゃー」
 ビュリまで出てきて、大技を披露する。時間をかけて力をためたファイヤーストームが、大空の高みで銀河さながらの美しい炎の渦を広げた。それにしても、夜空一面を埋めてしまいそうな、すごく大きな炎の嵐だ。遙か彼方の上空だからいいが、地上近くで炸裂したらしゃれにならない。
「ちょっとあれ、まさか、この間の事件の時に私が止めさせた魔法じゃ……」
 水橋エリスは、顔を引きつらせながら言った。
「ああ。あんなのが発動してたら、町一つ吹っ飛んでたかもな」
 高月芳樹が、ブルンと肩をふるわせた。
「止めてよかった」
 エリスは心底思った。威力が半端ない。そして、その威力を本人がまったく自覚していないのが大問題だった。
「やはり弟子入り計画を本気で考えるか……」
 高月はつぶやいたが、彼はまだビュリに覚えられてはいない。
 やがて、調子に乗った魔法使いたちのSPも尽きて、夜空はまた暗くなった。
「まだ終わりじゃないですよぉ。日本の花火にはたくさんの種類があるのですぅ。こんな素敵な物もねっ」
 そう言って、ルーシーが周りの者たちに線香花火を配った。日本人にはなじみの深い物だが、初めて見る者も多かった。
「ちまちましてるけど、これはこれで綺麗かな……あっ」
 物珍しそうに飛び散る火花を見つめていたルークの火の玉が落ちた。
「ふふふ、私の勝ち。はい、私のをちょこっとだけるーくんにも分けてあげるね」
 由香はルークの紙縒(こより)に、自分の線香花火の火の玉をくっつけて二つに分けてあげた。

「さあ、線香花火がほしい奴は、わしらの【岩国のシロヘビ班】に入るのじゃあ。今なら、この酒も飲ませてやるけん」
 こりずに、シルヴェスター・ウィッカーがまだ変な班の勧誘を行っている。
「あー、【ナイスボート班】の人だー」
 ミーナが指をさす。
「その名で呼ぶなあ!」
 ガートルード・ハーレックが笑いながら逃げるミーナを追いかけた。
「親分、待ってくれんかのう」
 手に持っていた酒の入った小瓶をテーブルの上におくと、シルヴェスターはあわててガートルードの後を追っていった。
「はあ、踊り疲れたのだ。おお、ちょうどいい飲み物が。いただくとするか」
 フォークダンスを踊り疲れたサイカ・アンラックが、あろうことかシルヴェスターの忘れていった酒を一気飲みしてしまった。
「サイカ? ああ、こんな所にいた……。どうした、サイカ、顔が赤いぞ」
 天津諒瑛がパートナーを見つけたのは、酒瓶が空になった後であった。
「足りぬ……」
「えっ?」
 うつむいたままつぶやくサイカに、諒瑛は嫌な予感に襲われた。
「炎が足らぬ! 我が足してくれようぞ!」
 言うなり、サイカがファイヤーストームの炎を火術で一気にパワーアップした。
「あちちちちち、何やってんだ、おい」
 ファイヤーストームのそばにいた生徒たちが、あわてて避難する。
「こら、サイカ、やめろよ」
 あわてて、諒瑛がサイカを取り押さえようとする。
「なにぃ、汝(なれ)は、我の酒が飲めぬと言うのかぁ」
「お酒なんかないだろう。というか、どこでお酒なんか飲んだんだよ」
 暴れるサイカをなんとか取り押さえようとして、諒瑛はあっけなく払いのけられてしまった。酔っぱらいの力は侮れない。
「嫌なのだ、嫌なのだ、嫌なのだ」
 何が嫌なのか分からないが、サイカがポニーテールを振り回しながら叫んだ。プラチナブロンドの長い尾っぽに、燃えさかるファイヤーストームの炎が映って美しいオレンジ色に輝いて見える。というか、炎に近すぎて、今にも髪の毛に燃え移りそうだ。
「うああぁぁぁ、僕のポニーテールがぁ!!」
 諒瑛が取り乱して叫んだ。酔っぱらいのサイカの力を上回る力で彼女をだきしめる。
「諒瑛?」
「撤収!」
 サイカがきょとんとした一瞬の隙を突いて、諒瑛は彼女を小脇にかかえて火から離れた場所へと走りだした。
「うっ、諒瑛、ゆらすでない。うぐぐぐぐ……」
 その後、暗闇の中で諒瑛の悲鳴が響きわたった。
「ふはははは、燃えとる。燃えとるけん。漢たる者、ここは飛び込んで漢をみがくのじゃ」
 燃えさかるファイヤーストームを見て、褌姿の光臣翔一朗が高らかに言った。そのまま、あろうことかファイヤーストームに突っ込んでいく。
「うおおおお、燃える!」
 サイカの魔法で一気に燃やされた薪は、光臣の突入で踏み散らされてあっけなく燃え尽きてしまった。
「ああ、せっかくのキャンプファイヤーを……。なんてことしてくれるのよ!」
 倉田由香が泣きそうな声で叫んだ。
「ははははは……」
 光臣は、火が燃え移った褌を靡かせて、一目散に海の方へと逃走していった。遠くから、水に飛び込む音とジュッという小さな音が微かに聞こえた。
 こうしてファイヤーストームが燃え尽き、キャンプファイヤーはお開きとなったのである。