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chapter.8 3日目・7時〜19時 


「生徒諸君、おはよう。いよいよ残り半日だ。現在の生存者は14人、もう関羽タイムもないので、諸君らには頑張ってもらいたいところだ。では、夜にまた会おう」
 眩しい朝日の中、ロイテホーンのアナウンスが流れる。あと12時間で、ゲームが終わる。残った生徒たちは最後の力を振り絞り、戦いへと身を投じていった。

 【残り 14人】

 森を抜けたところの坂道を駆けているのは、梓とカデシュ、そしてまなかだった。後ろから追いかけてくるのは、京と唯のコンビだ。
 京は唯の背中におぶさり、「もっと早く走るのだわ! いっそ飛ぶのだわ!」と騒いでいる。唯は疲れを見せていた京に優しさを覗かせたことを軽く後悔していた。
「京を乗せて、この坂上るって決めたんだよね唯? なら、さっさと上るのだわ!」
「……そんなこと決めてない」
 ただ一時的に背中を貸そうとしただけである。
次第に疲れを見せる唯。しかしそれは、前を走る梓らも同じだった。やがて5人は坂の途中で立ち止まり、互いに向き合う。
「あー、あのさ、足止めしとくから、逃げなよー」
 梓がまなかを逃がそうとする。が、まなかは逃げなかった。
「私、1日目の時にも助けてもらったのに、また私だけ助けてもらうなんて出来ないよ! それに……」
 まなかは懐からアイテムの梅干しパックを取り出すと、氷術で凍らせカチカチにした。そしてそれを持ち、唯に投げつけた。
「私だって、護れるもん!」
 ていうか氷術で直接攻撃しろよという話だが、今までこの島では輪ゴムや木の実、巨峰などが散々活躍してきたのだ。このロウンチ島においてそんな発言は野暮というものかもしれない。唯は梅干しを手で弾くと、京を背中から降ろし、七味唐辛子を取り出した。そして素早くまなかの近くに駆け寄ると、梅干しを奪い、唐辛子をかけ、神速でまなかの口に放り込んだ。
「っっ!!!」
 まなかが喉を押さえる。その隙に、唯はまなかのプレートを叩いた。
「ごめんね、勝負の世界は非情なんだよ」
 変色していくまなかのプレートを見て、悲しそうに言う唯。と、まなかが口を手で塞いだまま、唯のプレートを指差す。
「ん……? なっ、こ、これは……!?」
 唯のプレートが、赤くなっていた。
「まさか、一投目の梅干しの時すでに……!」
 がくっと崩れ落ちる唯。そしてまなかもここで力尽きた。
「唯、よくやったのだわ! 後は京に任せるのだわ!」
 京が雷術を唱える。梓はとっさにビニール傘で防ごうとするが、雷に傘とは逆効果の極みだった。梓はプレートもろとも衝撃を受け、倒れた。
「アズサ……!」
 カデシュは珈琲豆を京に投げる。しかしそれは火術で燃やされ、飛び火によりカデシュのプレートは変色した。梓は薄れ行く意識の中で思った。
 ずるくない? と。今なんか皆でアイテムを駆使して戦おう的な流れだったじゃん、と。しかし京は若干そういう空気読まないとこがあったので、仕方なかった。 
 唯、まなか、梓、カデシュ脱落。

 【残り 10人】


 木々が生い茂る中で、頭上から沙幸を狙っていたのは、ミルディアだった。ミルディアは昨日の夜と同じように、樹上からの奇襲を狙っていた。そして、獲物である沙幸を見つけると、その運動神経と軍手を活かし、木々の間を飛び移りながら機を伺う。やがて、沙幸の足が止まった。
「今だっ! いっくよー!!」
 勢い良く木から飛び降り、沙幸目がけて急降下するミルディア。しかし、その動きが空中で止まる。
「!?」
 よく見ると、ミルディアの体を空中で受け止めていたのは、沙幸のビニール紐だった。
「見事にひっかかったね!」
 勝ち誇った表情で上を見上げる沙幸。そう、彼女はあらかじめこの場所に罠を仕掛け、そこに向かって誘導していたのだ。獲物は、ミルディアの方だったのだ。
「う、動けないよ〜っ!」
 もがくミルディアだったが、そこはローグの設置した罠。たとえビニール紐と言えども、そう簡単には脱出できない。沙幸はその手をゆっくりとミルディアに近付け、プレートを弾いた。
「私の勝ちね! これで残り何人かなあ」
 そう言って沙幸が罠を解除しようとしたその時、突如ひとりの男がその場に姿を現した。
「ああっ、何ですかそのプレイは!! 私にも、私にもぜひやっていただきたい!」
 珠輝だ。突然登場した変態に沙幸はたじろぎ、あとずさった。
「さあ、その紐で縛り上げていただこうっ! そしてこのストッキングで思いっきりぶっていただこう!!」
 ストッキングを振り回し、沙幸に迫る珠輝。沙幸は身の危険を感じ、とっさに自らのプレートを叩いた。すぐさま沙幸、そしてミルディアは収容所へ連れていかれ、珠輝はその場にひとり残された。
「また私だけが生き残ってしまった……しかし、ここまで来たからには優勝しなければ。そしてご褒美をいただくのです。ふふ、ふふふ……」
 珠輝は湧き上がる興奮を抑えきれず、妖しい笑みを浮かべながらその場を去っていった。
 ミルディア、沙幸脱落。

 【残り 8人】

 その頃、ヒーローコンビ、武とサレンは出来るだけ他者との遭遇、戦闘を避けようと逃げ回っていた。しかしここで、同じように「逃げ」を主戦術としていた伽羅と鉢合わせてしまった。
「伽羅! 君も生き残っていたのか」
「武さんこそ、まだ収容所の外にいるのですぅ」
「……知り合いッスか?」
 サレンは初対面だったが、どうやらこのふたりは面識があるらしい。
「知り合いの人とはあまり闘いたくないですけど、こうなったらやるしかないですぅ」
 伽羅がデリンジャーを構えた。彼女は、自分のパートナーがまさか目の前のふたりにやられたとは夢にも思っていなかった。
「仕方ない……変身だ!」
「変身ッス!」
 どこからともなく「パラミアント!」「ラヴピース!」と渋い男性の声が響き渡り、ふたりは変装……いや、変身した。
「喰らうッス! アクセルパンチ!」
「パラミアントキック!」
 次々と必殺技を繰り出すふたりに劣勢になる伽羅。ふたりはやがて伽羅を追い詰め、とどめを刺そうとする。が、伽羅のプレートを見てサレンの表情が変わった。伽羅が取り出したのは、アイテム「ゴミ袋」に幾重にも包まれたプレートだった。
「ふっふっふ、これで大抵の衝撃には耐えられますぅ」
 それは悪あがきにも似た行為だったが、思いもよらぬ事態にサレンは戸惑いを隠せない。しかし、武は動じなかった。なぜなら、彼の所持アイテムが「ライター」だったからだ。
「っ!」
「分かったみたいだな! そう、いくら衝撃に強くても、燃やしちまえば関係ねえぜ!」
 武のライターから小さい炎が生まれ、その炎は伽羅のゴミ袋を燃やし始めた。一応言っておくが、くれぐれも良い子は真似しないようにしよう!
「ま、まさかその手があったとは……不覚ですぅ」
 伽羅脱落。

 【残り 7人】

 英希のパートナー、ジゼルは唯一、LCのみで生き残っているという珍しい状況にあった。しかし、その命も最早風前の灯だ。ジゼルの前後にはすいかとイーヴィが立ち塞がり、挟み撃ち状態だ。
「そろそろ観念するのです」
「あんたも大変だったでしょ? ひとりでここまで生き抜くのは。だから、もう楽にしてあげる」
「……これまでか」
 ジゼルはその存在感の薄さを利用してあわよくば最後まで生き残ろうとしていたが、どうやらそれは叶わぬ願いらしい。
 それもこれも、パートナーの英希が無茶苦茶なことするからだ! なんで私がこんな目に……!
 だが文句を並べても仕方ない。覚悟を決めたジゼルは、大根を手にイーヴィに突進する。それを持っていた卵を投げつけ応戦するイーヴィだったが、べちゃべちゃと顔面にかかる卵をものともせずジゼルは突っ込んだ。その気迫に押されたイーヴィは一瞬反応が遅れる。それをジゼルは見逃さなかった。ジゼルの大根が、イーヴィのプレートを変色させる。
「やる……じゃない。それがあんたの覚悟ってやつね。じゃあ次は、私の覚悟を見せてあげる」
 いつの間にか、イーヴィは両手に魔力を集中させていた。やがてそれは炎となり、ふたりを包み込む。
「なっ、まさか自爆を……!」
「あはははっ、私の魔法がどのくらいの威力か、試す時よ!」
 ぼうっ、と強く炎が燃える。炎の跡には、倒れているイーヴィとジゼルの姿があった。
「……イーヴィちゃんの犠牲は無駄にしません」
 すいかは燃え残った卵の殻を手に取り、歩き出した。が、数歩歩いたところで手がベタつくからやっぱり要らないです、との理由で殻を捨てた。ちゃんとゴミ箱に。
 イーヴィ、ジゼル脱落。

 【残り 5人】

 夕日が島を染め上げていく。
 燃えるような赤い景色の中、京、珠輝、武、サレン、すいかが島の中央に集い始めた。彼らはこの3日間、過酷な生存競争を勝ち進んできた。その道のりはやはり険しかったらしく、皆どこか疲弊の色を浮かべている。ついに5万字の大台に突入したマスター・ハギとてそれは同様だ。だが、もう少しで終わりだ! 彼らはそう自分に言い聞かせ、最後の力を振り絞った。
 まず先制攻撃を仕掛けたのはサレンだった。
「最後に残るのは私ッス!」
 攻撃を繰り出したサレンの胸が揺れ、それに珠輝が食いついた。
「ふふ、なかなかのエロスですね。しかし、私も負けてはいませんよっ!」
 珠輝は下半身を脱ぎだした。争いどころが完全に間違っている。急に脱ぎだした珠輝にあせるサレン。その隙を突いたのは、京だった。
「油断大敵なのだわ!」
 ここは流れ的に京にもぜひ1枚脱いでほしかったところだが、この子はそういうキャラじゃない上に空気を読まないタイプの子なので仕方ない。
 サレンが倒れ、近くにいた武が京に迫る。
「うおおっ、パラミアントキックだ!!」
 お前はそれしか必殺技がないのかとお思いの方もいるだろう。そんな方のために説明しよう! 彼は技を繰り出す度に、微妙にイントネーションを変えているのだ! この国際化社会で生きていくには、そういうささいな努力も必要だ!
 しかし別に技の威力が変わるわけではないので、武のキックは京にかわされ、後ろから攻撃してきたすいかに普通にやられた。
 サレン、武脱落。

 残った3人は、それぞれの思いを言葉にした。
「お宝は、私のものなのです。誰にも渡さないのです」
「優勝して誰よりも目立つのは京なのだわ!」
「いいえ、関羽さんからのたくましいご褒美は私がこのお尻にいただきます!」
 ろくなやつが残ってなかった。
 そんなことを気にも留めず、すいか、京、珠輝らは決意を固め各々の武器を持つ。

 【残り 3人】

 下半身を露出させている珠輝を見た京、そしてすいかの思惑は同じだった。
 ――まずは、この男から倒そう。
 最後にこの男と残ってしまったら、何されるか分かったもんじゃないからだ。
「ふふ……そんな目で見つめないでくださいよ……興奮してしまうじゃないですか」
 珠輝は何やら勘違いをしていた。しかしその一方で、彼は下を脱いだことをちょっと後悔していた。「チラリズムの秋だ」などと言っておきながら、これではチラリズムを達成出来ていない。どうにか露出を抑えねば。が、京とすいかは着衣の隙を与えない。ふたりがかりの攻撃にさすがの珠輝も劣勢に立たされていた。そして。
「これでおしまいなのです」
 すいかのダガーが珠輝に向けられ、とっさにのけぞってかわした珠輝はバランスを崩す。その背後はちょうど都合よく斜面になっていて、珠輝は転がり落ちていった。どうにか下をはき直しながら。
「ごっ、ご褒美がっ……!」
 珠輝はふたりの前から消えた。そして残った京とすいかが向かい合う。ふたりは同じくらいの身長で、どちらもちっこくてとても可愛い。こんな可愛らしい最終決戦を、誰が予想しただろうか。
「……こんな小さいやつには負けないのだわ」
「それは私のセリフです」
 騙し合い、関羽タイム、パートナーの犠牲……その全てを乗り越えたふたりは決着を着けるため、赤ペンとおろし金を取り出した。まるで合図があったかのように、同時に飛び掛かる京とすいか。
 ああ、変人のいない勝負とはこんなに真剣な感じになるものなのか。
 京もすいかも決して平凡な性格ではなかったが、インパクトの強い変態がのさばっていたため、今がとても真面目に感じるのだ。持ってる武器が赤ペンとおろし金だとしても。
「これで落書きしてあげます」
「何枚かにおろしてあげるのだわ!」
 やっぱりあまり真面目ではなかった。が、一応真剣に闘ってもいた。少し距離を置いた後、再び同じタイミングで攻撃を仕掛けるふたり。
「待ちたまえっ!」
 その時ふたりを止めたのは、ついさっきまで耳に残っていた声だった。ふたりが声の方を見ると、そこには転がり落ちたはずの珠輝が立っていた。
「……さっき落ちていったはずです。なのになぜ」
「ふふ……私も驚きました。斜面の途中にある枝に服が引っかかってくれるとは」
 何というありがちなパターン! しかし、ここから彼の変態性が露になる。もう充分なってるけど。
「さらに、その枝のお陰で、私は究極のチラリズムを手に入れました! さあご覧なさい! さあ!!」
 興奮気味に珠輝がマントを宙に投げる。そして珠輝の服がふたりの視界に映る。そこには奇跡的に乳首と急所だけが布で隠れている、珠輝の姿があった。そう、彼はついに無我のエロスを手に入れたのだ。大自然によって与えられた究極のエロスは、これまでのような惜しげもなく急所を晒すような開放的なエロスではない。閉鎖的かつ想像力を掻き立てる、これぞまさにベストチラリストとしての姿だ!
「ふふ……ついに私は完全体となりました。さあ、あとはおふたりがこの布を取るだけです。上がいいですか? それとも下がいいですか? ふふ……ふふふふ……」
 不敵な笑みを浮かべながらふたりに近寄る珠輝。京とすいかは互いに顔を見合わせ、力強く頷いた。そして自らのプレートを叩くと、一目散に逃げ出した。これ以上この人に付き合ってたら、私たちは大事な何かを失う。そう、ふたりは大事なものを守るために、脱落を選んだのだ。
「どこへ行くのです? ストッキングもちゃんとここにありますよ?」
 珠輝の声だけが、虚しくロウンチ島に響いた。
 京、すいか脱落。



「優勝者が決まったようだが……まだこちらには来ないのか?」
 電話口から聞こえる関羽の声に、ロイテホーンが答えた。
「今向かっているところだ。3日間、よく動いてくれた。礼を言う」

 やがてロイテホーンの乗った船が島から見え、参加者たちはゲームの終了を知るのだった。
 辺りはもうすっかり暗くなっていた。

 【残り 1人 ゲーム終了】