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古代魔法書逃亡劇

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古代魔法書逃亡劇

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 森の中程、ソウガ・エイル(そうが・えいる)は携帯電話の通話を終えボタンを押した。土の地面に矢印を書き終えたアリア・エイル(ありあ・えいる)が近づく。
「【深き森を行く者】の皆さんの状況は?」
「ああ。ササジは森の北、社は森の東にいる。鞘人は……草原にいるそうだ」
「? 草原?」
 やや後ろを歩くルディエール・トランス(るでぃえーる・とらんす)が首を傾げる。
「草原を通った時、ページを見つけてそっちに行ったらしい。鞘人の分まで俺達で頑張ろう」
「そうだな! よし、どんどん探そうぜ」
 ルディエール・トランスが張り切って茂みを探る。ソウガ・エイルも木の穴を覗く。
「二人共頑張って」
 アリア・エイルは二人の間で忙しく動く。木にリボンをつけ地面に矢印を書き顔を上げ――。
「あ! あそこ!」
 アリア・エイルが示す先に紙リスザルがいた。木の上で跳ねている。
「捕まえるぞ!」
 拳を構え、睨みつけると紙リスザル達は気づきさらに木を上った。
「待て!」
 追おうとルディエール・トランスが木に手をかけたその時頭上から木の実や枝が降り注いだ。慌てて下りる。直後小石が彼のいた場所に落ち紙リスザルはからかうように尾を枝に引っ掛けて揺れた。
「ルディ、挟み打ちだ」
 ソウガ・エイルとルディエール・トランスは【バーストダッシュ】。紙リスザルに迫る。二人で拳を繰り出し飛びかかるがリスザルは軽々と木の上へ。
「身軽だね……大丈夫、ルディ?」
「心配無用だ。ソウガ、次はどうすればいい?」
「うまくこっちに追い込んでくれ」
 しっかりと頷いたルディエール・トランスは【バーストダッシュ】で飛翔。木から木へ飛び回る。
「ソウガ!」
 頷き【バーストダッシュ】。姿を現した紙リスザル二匹に拳を叩きこむ。技の勢いも相まって紙リスザルはクシャリと打ち崩れる。
「やったな、ソウガ!」
「お猿さん、捕まえておいたよ」
 喜ぶパートナー達に笑みを向け、歩みを再開する。
「よし、次に行こう」
 休む間もなく進む。遅れてパートナー二人も歩きだした。

 ソウガ・エイルとの電話を終えてしばらく後、日下部 社(くさかべ・やしろ)は、木々の間を通り抜けた。と傍に見知った顔を見つけ声を上げる。
「おっ、ササササやーん! こんな所で何してるんや?」
 そこにいたのは笹島 ササジ(ささじま・ささじ)。上下茶色い服を着ている。
「罠を仕掛けて、木に紛れているんです」
「おぉ、その髪の緑色と服でなぁ」
「……やっぱり、無理がありますよね」
「いやいや、よく似合ってるで!」
「そうですか?」
「そうそう。んで、俺はここに罠を仕掛けるで!」
 言って日下部社は籠と紐のついた棒、眼鏡を取り出した。
「これでページは捕まったも同然や!」
【光学迷彩】を発動して餌の眼鏡を仕掛け、紐を握り、籠の傍で待つ。早速動物の影が見えた。
「……なんや、本物の鳥やないか」
 ふう、と息をつく。見ていると鳥は眼鏡をくわえた。
「あ、あかんそれは!」
 止める間もなく鳥は眼鏡を持ち去った。呆然とその姿を見送る。
「あれ、日下部さんそれ……」
 笹島ササジの言葉に籠を改めて見る。籠に興味を持った紙の動物が二匹、中にすっぽり入った。慌てて紐を引き捕獲。
「紙イタチ、捕まえたで!」
 と、その傍らの石に仕掛けられたトリモチにうごめく物が。
「ん? タヌキ……?」
 笹島ササジが近づくと、紙のタヌキがトリモチに引っ掛かりバタバタ動いていた。
「大物やん! ササササが木になったから捕まえたんやで!」
「そうでしょうか……」
 はにかむ笹島ササジに日下部社が笑みを向けた。
「そうや。この調子で頑張ろな!」

 森の中愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)は耳を澄ましていた。人がいないことを確認。咳払いをする。
「俺の歌声で集まってくれるかな」
 深呼吸し、歌い出す。
「遥かなる道 光を目指す 終わりなき 我が夢の旅路」
 木や茂みがざわめきだした。
「果てない行き先 思うたびに 蘇るは 愛しき故郷……」
 何かが近づいてくる気配。
「……何が 起こるとしても 旅の果てに 辿りつく我が家」
 歌を歌い終える頃には、多くの動物が集まっていた。
「可愛いなー。ほら、お食べー」
 パンを投げると動物達が近づいてくる。その中に紙の動物もいた。
「大人しくしててねー……えいっ!」
 手を伸ばすと、紙リスが抵抗せず手中に収まった。
「いい子だねー。一緒にくる?」
 こくりと頷いた。立ち上がると、他の紙動物も近寄ってくる。
「みんな本当は帰りたいんだね」
 にっこり笑って、紙動物達を引き連れ歩きだした。

 一方、森の入り口でウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)は双眼鏡で上を覗いていた。
「迷子の迷子の紙っペラちゃーん? 大人しく出てこないと……燃やすぜ?」
 その声に応じたのか、バサバサと紙の小鳥が飛び出した。
「丸見えなんだよ! 貫け、フレイムアロー!」
 矢状に引き絞った【火術】で射る。驚いて出てくる動物達に照準を向け――。
「何っ!?」
 目の前に、人影。
「やい! ウィル君! 魔法書を燃やすだなんて、そんな面白そうなこと校長が許しても俺が許しませんよ!」
 人影、譲葉 大和(ゆずりは・やまと)はびしりと言い放つ。
「それでも燃やすというのなら、俺を倒してからにしてください!」
「そんなに燃やされたいのか?」
 ウィルネスト・アーカイヴスは【火術】の矢を連射。譲葉大和は体を逸らし避ける。避けた矢は森に火をつけるが譲葉大和は得意げに微笑んだ。
「俺のターン! ウィル君の嫌いなGを召喚してジ・エンドだ!」
 言ってゴキブリのおもちゃを投げつけた。ウィルネスト・アーカイヴスは絶句。
「うぎゃあぁああ! 顔が足が死ぬ死ね!」
「ちょ、ウィル君、暴れな……んー!!」
 止めようとした譲葉大和が小石に躓き、ウィルネスト・アーカイヴスの唇に唇をぶつけた。ウィルネスト・アーカイヴスは戦意を喪失して倒れ込む。
「お、諦めましたね? いやあ俺の唇も捨てたもんじゃないですね」
 喜ぶ背後で、炎。
「! ウィル君?」
「……【禁書焼却組】は一人じゃないぜ?」
 ウィルネスト・アーカイヴスの見つめる先に、浮かぶ箒が一つ。
「で〜ミア? こんな所に何しに来たんですか?」
 軽く火術を放ってから箒に乗り上昇した羽瀬川 セト(はせがわ・せと)は背後のエレミア・ファフニール(えれみあ・ふぁふにーる)に問いかけた。
「何をするって? もちろんこうするのじゃ」
 詠唱し、【ギャザリングヘクス】使用後【火術】を発動。巨大すぎる火の玉を発現する。
「あの〜ミアサン? これはちょ〜っとやりすぎじゃないですか?」
 問いかけもむなしく巨大火の玉は空中で爆発。玉は細かくなり雨となって森に降り注ぐ。このままではここも危ない。
「逃げますよ。しっかりつかまってください!」
「かっかっか〜、逃げ惑え紙くず共〜」
 上昇する箒の上でエレミア・ファフニールは電話をかけた。
「ウィルネスト、わらわの働きはすごいじゃろ?」
『エレミア……やりすぎじゃね?』
「足りないくらいじゃ」
「間違いなくやりすぎですよ」
 羽瀬川セトのため息を残しつつ二人の箒は上昇を続けた。
「お、俺も逃げるぜ!」
 ウィルネスト・アーカイヴスは急いで箒にまたがった。譲葉大和がまとわりつく。
「置いてかないでくださいよー」

「急いでください!」
 アリア・エイルが先導する。炎に包まれつつある森から、動物もページ達も生徒達もなんとか抜け出した。
「ここまでくると消火は難しいねぇ……」
 清泉北都がため息を吐く。焼け落ちるのも時間の問題だ。
「? どうした?」 
 と、猫塚璃玖が肩に乗る紙モモンガの異変に気付いた。他の紙動物達も一斉に同じ方向を向き、森に来ていた面々を振り返る。
「あっちに何かあるのじゃな?」
 シェリス・クローネの問いに紙動物は頷く。
「行ってみましょう」
 フィル・アルジェントの言葉に全員で頷き、紙動物達の先導に続いた。