シャンバラ教導団

リアクション

　終幕


　戦闘中にキスを済ませた者、ディナー権を獲得して空京に向かう者はさっさと帰り、閑散とした会場の中では教導団員による列の整理が始まっていた。何の列かというと……ディープキス待ちの列である。関羽からは、何人たりとも逃れることは出来ない。関羽は、過去にキスを拒否していたことなどなかったかのように、抵抗なくキスをぶちかましていた。
その中で、藤原　優梨子（ふじわら・ゆりこ）に順番がまわってきた。関羽の舌が口に入った時点で、優梨子はそこに八重歯を立てる。酒と鉄の混じった血の味に恍惚とするのも束の間。
「ぬう！」
　彼女は関羽に張り倒された。
（素晴らしい味……やみつきになりそうですわ）
　一方、マツタケを堪能した【ロード・オブ・ナイツ】は外に出ていた。
「いい夜景だし、記念に写真でも撮ろうぜ」
　という強盗　ヘル（ごうとう・へる）の提案に賛同し、【団長ＬＯＶＥ】の４人、土御門　雲雀（つちみかど・ひばり）を含めた１４人で写真を撮りまくる。
　２０１９年もあと一週間。年の最後に良い思い出ができたね、と１４人ははしゃぎあった。

　そして、夜が訪れる。
　空京の三ツ星レストランで、ディナー権を獲得した長曽禰　虎徹（ながそね・こてつ）はアトロポス・オナー（あとろぽす・おなー）と普通に食事を楽しんでいた。ディナーのお誘いがかからなかった団長も着ぐるみを脱いでいつもの服装で同席している。
「良い剣ですね。これは、何年物ですか？」
「ああ、それは……」
　暁の剣を見せてもらった虎徹は、団長との刀談義に花を咲かせる。その様子を、アトロポスは呆れた顔で見ていた。
「まったく、色事のかけらもねえな……」

　橘ニーチェは館山　文治（たてやま・ぶんじ）}を誘い、フォアグラのテリーヌを食べる彼に万年筆を渡した。
「懐中時計のお礼ですー。渋い文治さんには似合うと思いますよー」
「おっ、サンキュー。でもニーチェ、俺としてはお前のどこにチャックがあるのか知りたいんだが……」
「だ、だから！　僕はゆる族じゃないですー！！」
　……この誤解が解ける日はくるのだろうか（笑）

　宇都宮　祥子（うつのみや・さちこ）は神倶鎚　エレン（かぐづち・えれん）の後ろに立つと、首にそっとペンダントをまわした。鎖を繋げて正面の椅子に座りなおして、微笑む。
「うん、似合ってるわ、エレン」
　褐色の肌に黒いドレスを纏ったエレンの胸で、白い百合の彫り物が輝く。
「また、大切なものが１つ増えましたわ」
　エレンはそう言って、ペンダントトップにキスをした。

　緑のサンタ衣装に身を包んだ李　梅琳（り・めいりん）は、宮坂　尤（みやさか・ゆう）に指名されてディナーの席にいた。
（おいしー！　ああ、いろいろあったけど、１日頑張ってよかった……）
　口の中で溶けていくステーキに舌鼓を打ちながら、梅琳はうっとりとする。そこで尤が、ステーキを切る手を止めて彼女に訊いた。
「ところで梅琳さん、今日の合コンで彼氏とかできました？」
　探りもなにも直球ストレートな質問に梅琳は固まる。
「な、何言ってるの！　私は仕事してたんだから、出会いなんかなかったわよ！」
　その顔は、真っ赤になっていた。

「マフラーです。よろしければどうぞ」
　志位　大地（しい・だいち）がプレゼントを渡すと、ティエリーティアは幸せそうな笑みを浮かべてマフラーに頬を埋めた。
「わー、あったかいです……もしかしてこれって、手編みですか？」
「恥ずかしながら……」
　照れて頭を掻く大地に、ティエリーティアは顔を近づけた。
「ありがとうございます。今日は、僕のためにがんばってくれて嬉しかったですー」
　そして、おでこにキスをした。
「えへへ、お礼ですよー」
　キスは、薔薇の学舎では結構ポピュラーなお礼である。

　その頃、シャンバラ教導団実習施設――
　大量に運ばれた負傷者がヒールとリカバリを受け、暗い保健室ですやすやと眠っている。星の綺麗な空の下でマラソンをする参加者の悲鳴をバックに、燦式鎮護機　ザイエンデ（さんしきちんごき・ざいえんで）が神野　永太（じんの・えいた）の枕元に座っていた。
　その上体が傾いで、寝息を立てる永太へと接近していく。彼女の口と唇が合わさろうとした瞬間。
　保健室の引き戸ががらりと開いた。
「ディープキスがまだであろう！」
　実は狸寝入りだった永太が悲鳴をあげた。