イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

【十二の星の華】日陰に咲く華

リアクション公開中!

【十二の星の華】日陰に咲く華

リアクション


第5章 滅びた村

「百合園の白百合団の者です。ぐ、偶然通りかかって……お手伝いしにきました……っ」
 アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)は、走って走って、合成獣の群れと戦う者達の元に駆けつけた。鬘と眼鏡は外して、百合園の生徒会執行部『白百合団』のメンバーとして。
「邪魔だ!」
 戦闘に加わろうとしたアレナを、神楽崎分校の番長である竜司が後方に弾き飛ばす。
「オレの女のパートナーは危ねぇから下がっとけや!」
 言って、竜司は血煙爪で合成獣に攻撃を加える。
「は、はい?」
 ぺたんと転んだアレナは竜司の言葉に訝しげな顔をしながら、体内にしまってあった光条兵器の弓を取り出した。
「アレナさんは援護をお願いします。怪我をしている方も沢山いますので、回復も!」
 白百合団の班長であるロザリンドに「はい」と返事をして、アレナは彼女の後方に立った。
 ロザリンド自身もかなり負傷している。
「こいつの殻や毛皮削いだから攻撃ぶちかましてやー!」
 破壊工作に小人の小鞄など、スキルを駆使して敵の能力を下げたテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)が大声を上げる。
「行きます!」
 ロザリンドが暴れる合成獣の元に駆ける。
「偶然だね。私ら少しはどつき合い訓練してきたし、勝てる勝てる」
 テレサはアレナの隣まで下がり、微笑んだ。その顔も体も傷だらけだった。
 アレナは首を縦に振って、光の矢を放つ。
 光の矢が合成獣に突き刺ささる。
 続いて光の矢に重ねるように放ったロザリンドの一撃は硬い合成獣の体を真っ二つに切り裂き、絶命させる。
「回復を、回復、お願い、します……」
 いちごが幼子を抱きかかえて歩み寄ってくる。
 背後から近づく合成獣に、矢を打ち込んでアレナは彼女に近づいた。
「この子に回復、を……」
 そう言うと、いちごは崩れ落ちた。
「しっかりして下さい」
 アレナの精神力は殆ど残っておらず、一度だけヒールをいちごが守った子供にかけるだけで精一杯だった。
「てめぇら、全員まとめてぶっとばしてやる!」
 学友の傷ついていく姿に耐え切れず森猫 まや(もりねこ・まや)が飛び出そうとする。
「お待ち下さい」
 城ヶ崎 瑠璃音(じょうがさき・るりね)が、まやの服を掴んだ。
「わたくしが行きます!」
 強い意志を込めて言い、瑠璃音が仕込み竹箒を手に、合成獣に向かっていく。
 まやは、瑠璃音に何か考えがあると察し、歯軋りしながら彼女をアサルトカービンで援護する。
 瑠璃音も既に大怪我を負っていた。
 だけれど、怯むことなく、合成獣に挑んで刀を繰り出し、爪で体を引き裂かれ、肩に噛み付かれて血が吹き出て、目がかすみ始めても刃をひたすら合成獣に打ち込んでいった。
「退いて下さい、退いて!」
 アレナの叫ぶ声が聞こえる。
「命を捨てる気ですか……!」
 ロザリンドが駆けつけて、合成獣に剣を叩き込んだ。
「番長の歌程じゃないが、オレの歌だって中々だぜ。メイドによる冥土の土産の子守歌だ。心して聞けよ!!」
  武尊が子守歌を歌いだす。
「永久に眠りやがれ!」
 朦朧とした合成獣に竜司が血煙爪で切り裂いて止めを刺した。
「こんな、無茶すんなよ……!」
 パートナーのまやが瑠璃音に駆け寄って、涙を流した。
「あたいに、もっと力があれば……」
「しっかり、して下さい」
 アレナが駆け寄って、応急手当を施していく。その顔は瑠璃音と同じくらい青ざめていた。
「ここは任せて百合女はガッコに戻れ」
 そう言い放つと、竜司は武尊や分校生達を引き連れて、最後の戦いへと向かう。
 合成獣はあと3匹にまで減っていた。
「ここは任せましょう。ヴァイシャリーに戻りながら、精神力が回復し次第、回復魔法をかけましょう」
 ロザリンドの指示に、アレナはいちごに肩を貸して立ち上がる。
「子供は私が安全なところに避難させておくから。先に帰ってて」
 幼子はテレサが引き受け、抱き上げて森の中へと走っていった。

 ロザリンドが小型飛空艇で近くの集落に向かって馬車を借り、いちごと瑠璃音、それからアレナの3人を乗せて、ヴァイシャリーに急いだ。
 まやは瑠璃音の傍らで彼女の身を案じてすがり付いて、辛そうにずっと泣いていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
 アレナは謝罪の言葉を何度も何度も呟いて、まやと一緒に泣いていた。
「私、は……白百合、団員で……一般の生徒、危険なことさせたら、ダメなのに……怪我させたら、ダメなのに……私が、守らなきゃダメ……なのに」
 苦しげに、まやとアレナはずっと泣いていた……。
 いちごと瑠璃音が回復魔法を受けて、少し回復し「大丈夫」と2人に淡い微笑みを見せても、2人の涙は止まりはしなかった。

○    ○    ○    ○


「……わかりました。仕方ありませんわ。……ええ、今後ともよろしくお願いいたします、環菜さん」
 ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)は携帯電話を切ると、百合園女学院の校長室から窓の外を眺めた。
 敷地内を巡回している白百合団、副団長の神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)の姿が目に映る。
 彼女の傍らに、誰もが目に留めないほど控えめに、だけれどいつも存在しているはずの少女の姿は今日はない――。

 ティセラは契約者達を星剣で払い飛ばした後、十二星華を探すために村から去っていき、合成獣はクイーン・ヴァンガードと加勢に現れた契約者達に全て倒された。
 今回の襲撃において、ティセラ自身に殺された者はいなかったらしい。村長も重傷ではあったが懸命な手当てにより、命は取り留めた。
 ただ、ティセラが連れていた合成獣は1匹1匹が非常に強く、クイーン・ヴァンガードが援護に訪れてからも村人達の多くを死に至らしめていた。
 ティセラ自身に合成獣を止めさせることができていたら。もしくは、合成獣の討伐を第一に考えていたら、もう少し多くの人を救えたかもしれない。
 隊を率いていたクイーン・ヴァンガードの分隊長は、サジタリウスの説得に失敗し、多くの犠牲者を出してしまった責任を取りたいと自ら辞任を申し出たが、環菜に止められ訓戒処分となった。

 ティセラが再び村を狙う可能性も否めないため、村人達はしばらくの間別の土地で暮らすことになり、ツァンダとヴァイシャリーで、村人の受け入れが行われた。
 もしかしたら、もう村人達は、あの村に戻らず……あの村のあった場所は獣人のいない、狼だけの村になっていくのかもしれない。

 ブリジットがリュックに入れて背負っていた聖像は、そのままブリジットが背負って百合園に帰還し、百合園の生徒会で預かることになった。十二星華の問題が多く発生しているツァンダで保管するより百合園の方が安全ではないかと村人達が望んだのだ。また、この像は五獣の女王器ではなかったので、ティセラも像の行方のわからなくなった今、そこまで真剣に追い求めはしないだろう。
 ちなみに、道中ブリジットは『こんな厄介なもの、預かりたくない!』と、何度も誰かにパスしようとしていたという。

担当マスターより

▼担当マスター

川岸満里亜

▼マスターコメント

ご参加ありがとうございました。川岸満里亜です。
こちらは十二星華の一人、サジタリウスのお話でした。
ええっと、星剣の封印を解く話のつもりでしたが、そ、そうなりませんでした……(きゃー)。
クイーン・ヴァンガードに対しての皆様の捉え方を私が把握できていなかったことも大きな原因かと思います。

クイーン・ヴァンガードは女王候補の親衛隊であり、単なる冒険者達の集団というわけではないので、上官の命令には従わなければなりません……。
とはいえ、現場の判断で従えないこともあるでしょう。自己責任において、反発することはゲームとして禁止行為ではありませんし、行っていただいて構いません。ただ、PL的には禁止行為ではなくてもPC的には命令違反行為であることはご承知の上でお願いします。

今回はクイーン・ヴァンガードとして参加した方は、他の方より重大な情報を得ての参加となりました。これは大きな特典です。
ただ、組織に所属するということは、こういった組織の一員としての立場、使命、命令などに縛られることでもあります。

クイーン・ヴァンガード以外の参加者に関しては、アレナであると気付いていること前提のアクション、サジタリウスが十二星華であることを知っているとしてのアクションについては、気付けない、知らないとしてリアクションを書かせていただきました。
百合園生であっても、眼鏡と鬘で変装したクラスメイトでもない目立たない子を、ひと目みただけで誰だか分かってしまうという設定には無理があると感じました。
これまでに白百合団員としてアレナと作戦を共にしたことのある方、アレナのパートナーとリアクションで直接会話をしたことがある方については、気付けるレベルの変装と判断しました。

クイーン・ヴァンガードとして参加された方でも、サジタリウスが百合園のアレナであるという情報は今回手に入りませんでした(リアクションで個人的に気付いた方除く)。

ただ、今回のリアクション内でサジタリウス(変装したアレナ)と直接会話を行っている方は、今後どこかのシナリオで変装していないアレナと『間近で会話をする』機会があった場合、『サジタリウス=アレナだと気付ける』とさせていただきます。

サジタリウスというあの少女が十二星華だという情報は、今作戦に参加したクイーン・ヴァンガードの誰かが(PC含む)情報を漏らさなければ、一般的に知られていない情報となります。
十二星華だという情報を掴んでいる人物が、村人達に「この娘は十二星華だー!」などとバラすアクションがあれば、全く違う状況になっていたかと思います(良いか悪いかはともかくとして!)。

このシナリオの結果により、サジタリウスはパートナーの元にこれまで通りの状態で戻ることになりました。
スポットライトを浴びるかどうかは分かりませんが、サジタリウスはキャンペーン『嘆きの邂逅〜離宮編〜』に登場予定です。
またお会いした際にも、どうぞよろしくお願いいたします。