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夜更けのゴーストバスターズ

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3.音楽室

 ……さて、話は少しさかのぼる。
 
 【護衛隊】と別れた【音楽室担当者】達は、中へ入るなりすぐに調査を開始した。
 彼らは休むことなく手を進める。
 その多くは真面目に「幽霊」の情報を集めるべく奮闘していた。
 が、中にはそうでない者もいるようで。
 
 例えば後者の1人――雪華は鍵盤を叩いてササっと隠れ、シイナ達と別れて入ってきたばかりの【音楽室調査担当者】達を怖がらせていた。
「超感覚」でタイミングは合わせてあるため、怖さも倍増だ。 
「え? 幽霊、いないんでしょ?」
「イタズラじゃなかったの?」
 キョロキョロしている【音楽室担当者】達の足元に、桜井 雪華(さくらい・せつか)の姿。
 彼女はピアノの下に潜り込んで、忍び笑いをもらしている。
「ああああああああっ! 幽霊があっ!」
 パートナーのヘルゲイトが台詞を、めちゃくちゃな棒読みで叫ぶ。
 彼女が注意をそらしている隙をついて、雪華はピアノから抜け出す。
 ゆうゆうと次の目的地図書室へと向かうのだった。
 
 そのピアノを誰もいなくなった後で、霧雨 透乃(きりさめ・とうの)にせがまれた緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が弾くこととなった。
「だって! ピアノ弾くとこ、イッペン見たかったんだもん!」
 本当はその演奏に合わせて、宴会したいだけなのだったが。
「ね? 陽子ちゃん。一生のお願い!」
「あ、はい。そ、そこまで頼まれたら……仕方がないですね……」
 それが目的で来たんだしね、と陽子は大人しく鍵盤の前に座る。
(大丈夫! 曲は手が覚えているはず……)
 けれど彼女の得意な曲は「かごめかごめ」にはじまる、重苦しい曲ばかりだ。
 透乃はピアノの陰の見えにくい位置に陣取り、陽子の顔を光条兵器で下から淡く浮かび上がらせる。
 陽子の表情は演奏が進むにつれ、険しさを増す。
 そして暫し透乃は周囲ばかりでなく、自分をも震え上がらせるのだった。
(うわっ、やっぱ 弾かせるんじゃなかった!)
 
 しかしそのノリを強引に変えてくる輩もいる。
 
「わ、わたしも、頑張らなくっちゃ!」
 そう言ったのは、元気娘の如月 空(きさらぎ・そら)だ。
 彼女は陽子の顔辛そう(本当は集中しているだけなのだが)なのがひどく気になっていた。
「きっと、誰も歌ってくれないからだよ! そうだよね?」
 こんな沈んだ曲ばかり奏でるのも、1人で演奏するからに違いない。
 鉄砲玉な彼女は、思ったことは即実行! 「演奏」のスキルで、彼女のリズムに見事合わせて行く。
 それを見ていたレティス・ヴィルギニス(れてぃす・う゛ぃるぎにす)がやはり「演奏」を使って、連弾を試みる。
 場を明るく変えてくれそうな、ノリの良い曲にシフトチェンジ!
 10分ほどで、リサイタルは終わった。
 場は明らかに変わり、ちょっとした高級バーの雰囲気だ。 
 素晴らしい演奏と歌に一同から喝采が起こる。
 出るに出られなくなった透乃は、けれど上機嫌で酒瓶を掲げた。
「ふうーん、やるじゃないの!
 こうなったら、3人とも酒の肴にしちゃおっかな?」
 
 演奏の終わった空は陽子達と少し話し込んだ後、レティスとシリウス・レインシーク(しりうす・れいんしーく)と共に図書室へと向かった。
「あーあ、演奏すれば何か起こるのかな? て思ったんだけど」
 レティスが空の無邪気さに、笑みをこぼす。
「幽霊が現れるとでも? ふふっ、可愛いんだね、空は」
「でも、これ以上いても、しーちゃんが大変そうでしょ? お・ば・け」
 シリウスは空の背に隠れながら言った。
「な、なな何を言ってるんだ! 空。こ、この俺に怖いものなどない!」
 
 その頃、アーク・トライガン(あーく・とらいがん)は音楽室のクラシックギターを手に取っていた。
「そう言えば、俺もイッペン思い切り弾いてみたかったんだよな。こいつ」
 ピアノが弾いてOKなら、ギターだっていいだろうよ、と。
 だが――。

 ジャアアアアアアアアアアアアアーン……。
 
 とギターをかき鳴らした拍子に弦が切れた。
 卒業生からの寄贈品が多いと聞く。
 長い間手入れがされていなかったようだ。
 
 その後ろで、闇咲 阿童(やみさき・あどう)は焼きそばパンを食い散らかしていた。
「おい、いつになったら『幽霊』出てくんだよ!」
 彼は非常に不機嫌だった。
 なぜ自分は何もない田舎キャンパスくんだりまで来て、焼きそばパンを食わなくちゃいけないんだか……。
「おまけに暗れーしよー。明りでもつけるとするか」
 スチャッと取り出したのは光条兵器だが、紅く光る、しかも十字架の剣である。
 闇にぼうっと静かに浮かび上がる、鮮血で染まったかの様な十字架の剣。
 はっきり言って、お化け屋敷以外の何物でもない。
「これで『人体模型』でもあったら、完璧なんだがな」
「お呼びでござるか?」
 と、そこに。闇から「人体模型」の手がぬうっと現れた。
 しかもそいつは、生き物のごとく滑らかに動くではないか。
「ここにおるでござるよ」
「おわああああああああああああああああああっ!」
 出たあー! 阿童の絶叫は音楽室中に響き渡る。

 かくして、騒動の主――ボディペインティングを施し、首から下を「人体模型」に仮装した椿 薫(つばき・かおる)は、悲鳴を聞きつけた【護衛隊】の面々に取り抑えられてしまった。
 が――。
「ああああああああああああ、あれはっ! ゆ、ゆゆゆゆ……」
 天井を指さす。
 んっ? とつられて天井を見上げる【護衛隊】一同。
 その隙をついて、薫はスルンッと抜け出し脱出に成功した。
「幽霊殿と友達になるまでは、拙者捕まらない所存にござる!」
 幽霊さん、いませんかあー、という声が人気のない廊下にこだます。
 その後、彼のこの行為は「野原キャンパスの七不思議」の1つとして、後々まで語り継がれていくこととなる。
 
「ん? 何だこれ?」
 諦めきれずに変えの弦を捜していたアークは、ふとギターに目を止める。
 持ち手の部分に何か文字がある。相棒が作った光条兵器の明りで照らし出してみる。
「『勇気』? 何だ、そりゃ?」
「ここの卒業生が彫ったのさ。在校生達がヘタレないようにってね」
「へえー、そいつはご苦労なこった」
「と言う訳で、君は『勇気』を試されなくちゃいけないらしいな! ウフフフ……」
「ん? て、てめえ、誰だよ?」
 嫌な気配に気がついて天井を見上げる。
 そう、声は確かに……上方から降ってくるのだ。
 そろそろと……そして、アークはそこに真っ白なのっぺらぼうの姿を見たのだった。
「の、のわっ! ゆ、ゆゆゆゆゆゆ、幽霊っ!?」

「幽霊ですってえっ!」
 真っ先に反応したのは、霧島 春美(きりしま・はるみ)
 万一に備えてディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)が後方に控える。
「では、1番! 春美、交渉に行きます! 【マジカルホームズ】の名にかけて!」
「皆さんは、安全な場所へ」
 ディオネアが手の動きで一同を下がらせる。
 春美は臆することなく、幽霊に向かって手を差し伸べた。
「生きていようが死んでいようが、自分達の力で何とかしてあげられることなら、助けてあげるべきですよ。
 きっとホームズさんもそうする筈」
「いやだ、ぶうううううううううううっ!」
 春美の好意に、幽霊はアッカンベーをしてみせる。
 どうやら可愛くない性格らしい。
「俺様はね、そのギターが欲しいの。だからあ、その子を血祭りにあげちゃうんだからね! OK?」
「う、ううう、で、でも!」
「交渉決裂うっ!」
 幽霊は歌うように叫んで、強引に交渉を打ち切ると。
「いざ、テイク・オフッ!」
 天井からムササビのように滑空し始める。

 ブウンッ!

 そのまま春美達を襲い、あっけにとられるアークの手からギターを奪い去ると、そのままいずこかへ消え去った。
 次に狙われるのは図書室だみょーん、というノー天気な伝言だけを残して。
 異変を察したシイナ達【護衛隊】が駆けつけた頃には、あとのまつり。
 ディオネアが春美にヒールを施して、傷を癒しているところだったいるところだった。
「うう、こんなことってないよね。春美はただ、話し合おうとしただけなのに!」
「そうだね、ディオネア。問答無用なんて……やっぱり悪霊だったのかな?」
 春美は考え込む動作をしたが、一同の空気は「悪霊退治」の方向へ向かう。
 【護衛隊】と合流して、幽霊を追って図書室へ向かうことになった。
 ナナに手をひかれた、シイナが先導する。
「そうだな。手掛かりを奪われた以上、ここには何もないだろう。図書室へ急ぐぞ!」